6 bomoba qu+sin algzo.(あだしはぷつうのアルグをぼぞむよ)
しばらくアースラがこちらの体にしがみついていたが、やがて言った。
do:baldea.mabi:r ned!(ドーバルデア、びるなっ)
さきほどから月明かりのなかで愛し合っていても、どうにも落ち着かない。
闇の中から、ノーヴァルデアの視線を感じるのだ。
相手は子供の姿をしているとはいえ、もう子供ではない。
理屈ではそうわかっていても、子供のような少女にじろじろといろいろ見られていては、モルグスとしても正直、勘弁して欲しいところだった。
cod ers mxuln la:ka ko:rad.(これは奇妙な愛し方だ)
と文句を言っているわりには、ノーヴァルデアは興味津々といった様子である。
さすがに子供のような相手に見られながらすると興奮する、というほどにモルグスは変態じみた性的嗜好は持ち合わせていなかった。
アースラも同様のようだ。
もっともモルグズの場合は「前の世界」で連続殺人鬼だったので、偉そうなことを言えた義理でもないのだが。
それにしても、ノーヴァルデアを正直、もてあまし始めている。
まったく、彼女は好奇心の塊のようになってしまっていた。
いままであれほど、他者に興味がない、といった感じなのにまるで別人だ。
jod ers sa+gxan wogno.(それは汚い行為である)
wam wenato tijtse cu?(なぜ指でするのだ?)
tom ped eto ned e+tefe cu?(お前の舌は痛くないのか?)
真顔で十歳ていどの外見の少女に、いろいろとアースラとしている最中に、やたらと丁寧な言葉でそう言われていると、さすがに萎えてくる。
haaa.do:baldea era gxapsa.(はあー。ドーバルデアはきょどもだ)
くわえてアースラの頭痛のするようなグルディア訛りを聞くと、もう限界だった。
自分が道化芝居の役者にでもなったような気分になってくる。
なにしろここにいるのは、ゼムナリアやクーファーの信者や尼僧、それに闇魔術師といった世間から見れば恐怖の対象となる者ばかりなのだ。
しかも、いま野営しているのは魔の森、アスヴィン大森林の只中なのである。
いまも粗朶が燃えているが、月光から届かぬ森の闇の奥をより濃密にしているようで、不気味極まりない光景である。
そこで、アースラやノーヴァルデアと、こんな喜劇めいたことをしている。
幸い、いまはラクレィスの術が効いているのか、魔獣が近寄ってくる様子はない。
彼は闇魔術とともに、水魔術も使えるという。
水魔術はyuridbem、すなわち魔術界に直接、作用するような呪文も多いため、魔術師のなかでも汎用性が高いらしい。
相手の魔術を打ち消したりもできるようだ。
だから、魔獣が近づきにくくなるように、yuridbemに結界をはることもできるのだ。
それならばなぜあの小屋にいたときに使わなかったのかといえば「いざとなれば倒せるから」という身も蓋もない答えが返ってきた。
いまは小屋の外、つまりは屋外なので一応、用心はしているのだという。
ただ、森のなかをただ歩くだけでも疲労はするので、ラクレィスの言い分も理解できなくはない。
小屋にいた頃はみな、すぐに魔術や法力を使えたが、心身ともに消耗していると、そうしたものに乱れが出る恐れがある。
そうした意味ではアースラと一戦、交えるのはまずいのだが、体が女を求めている。
より正確にいえば、ヴァルサの幻影を振り払うため、かもしれない。
自分が彼女の代理だとわかっているのに、平然とそれを受け入れるのは、アースラが娼婦だった過去とも関係しているのだろうか。
わからない。
これから先、どうなるのか。
不安、というのとは違う。
あのときヴァルサと一緒に死ぬべきだった。
またぞろ、自殺願望めいたものにとらわれたそのとき、遥か遠くからなにかの咆哮が聞こえてきた。
この世界ではまだ狼に出会ったことはないが、地球の狼の遠吠えとは明らかに違う。
裸のまま、アースラが身を起こした。
ers jabce.(危ないね)
赤銅色の美しい裸身が炎に照らされているが、それを鑑賞しているどころではなかった。
wob ers cu?(なんだ?)
モルグズの問いに、アースラが低い声で言った。
algi era poy.(アルグどもかもしれにゃい)
すっと背筋に冷たい感触が走った。
耳を澄ませると、あちこちから獣と人間の混じったような、耳障りな咆哮が聞こえてくる。
アースラの言葉に、ノーヴァルデアが言った。
va mifakova a:slama yurjile.(私はアースラの意見に同意する)
一ヶ月ほど小屋で堅苦しいノーヴァルデアの言葉を聞いていたため、そうした語彙もずいぶん増えていることに今更ながらモルグズは気づいた。
異世界に叩き込まれ二ヶ月でこの語彙力ならば、かなりのものだろう。
だが、と再び背骨のあたりを戦慄が駆け抜けていく。
いままで、アルグに遭遇したことはない。
アスヴィンの森には無数のアルグが棲んでいることは知っていても、いままではあくまでそれは知識のなかでの話だった。
誰も焚き火を消す様子がないのは、明かりが必要になるからだろう。
まだ銀の月は満月に近いが、それでも森の底だとやはり暗い。
alg ma+va ci jarnxe ot set.(アルグは夜でも目が見える)
相当に視力がいいのか、あるいは人類には見えない波長の赤外線あたりまで捉えられるのかもしれない。
bomoba qu+sin algzo.(あだしはぷつうのアルグをぼぞむよ)
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