第三章 oztusa(外へ)
1 ya:ya.eto dewdalg(そうよ。あなたは半alg)
朝まで一睡もできなかった。
アーガロスの悪霊がなにをしかけてくるかわからなかったし、今後のことでヴァルサと議論になったからだ。
口論、あるいは口喧嘩、といったほうが正しいかもしれない。
お互い、いらだち、恐怖しているのはわかるがこんなことは初めてだ。
モルグズはこの塔から出ることを主張した。
なにしろここは、本来はアーガロスのものなのである。
まったく対抗手段がないのに、敵の本拠地で生活を続けるなど正気とも思えない。
しかし、ヴァルサは頑なに反対した。
問題は、その理由がわからない、ということなのだ。
実はアーガロスには、かなりの蓄えがあるらしい。
どうやって稼いだかは知らないが、相当の金額の硬貨を溜め込んでいたようなのだ。
当分、ひょっとすると十年ほどは生活に困らないかもれしないとヴァルサは言っていた。
ならばその金をもってとにかく外に出たほうがいいはずなのだがヴァルサは拒絶する。
だが、しだいになぜ彼女が外に逃げることを嫌がるか、薄々、わかってきた。
彼女はモルグズが「外に出よう」というたびにこちらの口元をちらちらと盗み見るのだ。
牙を見ている、としか思えない。
つまり、モルグズが半algであることが関係しているのだろう。
朝日を浴びながら、モルグズはしばらく考え込んでいた。
ことは自分たちの命に関わる。
このまま、アーガロスの悪霊になぶり殺しにされるということもありうるのだ。
幸い、昼間の間は悪霊の力はかなり弱まり、ほとんど無力になるという。
とはいえ今夜あたりから、さっそく悪霊がいろいろと仕掛けてくるだろう。
相手はこちらを憎悪している。
死者が悪霊になるというのは、相当に珍しいことらしい。
そのため、人々の中には霊などか実在しない、迷信のなかの存在だと考える者すらいるというのだ。
やはり直接、目に見えないというのも大きいのだろう。
魔術師の魔術や神々に使える僧侶の力……zertigaと呼ばれている……は、ひと目で効果がわかるものが大半だという。
たとえば神の性質によりzertigaはいろいろ違うらしいが、怪我を治すものが多いのは共通しているらしい。
まさにゲームの世界といった感じだが、神々のzertigaでなぜ負傷を癒やすものが主流なのかは、容易に想像がついた。
医学の発達していない世界では、怪我は現代の地球に比べ遥かに深刻な問題となりうる。
たとえば近代になるまで、戦争での死者は戦場で直接、死ぬ者より、その後に負傷が原因による感染症の悪化で落命するものが圧倒的に多かったのだ。
つまり軽い怪我でも油断は出来ない、ということになる。
そうした世界で傷を治す……おそらくは殺菌もする……力を僧侶たちが持っていれば、当然、誰もが信者になることを望むだろう。
あくまでヴァルサの話でしか外のことはわからないが、この世界の宗教は、非常に現世利益的なものなのだと考えられた。
zertigaの力を求めて信者となる者も少なくはないに違いない。
ただ、ヴァルサは神々の寺院にあまり好意は抱いてないようだった。
特にネルサティア系の神々を祀る寺院は、魔術師を忌み嫌っているという。
理由を訊ねたが、教えてくれなかった。
しかし今は魔術師が特に僧侶に嫌われる理由を考えている場合ではない。
varsa,wam nedito fog ned cod fo+sefpo cu?(ヴァルサ、なんでお前はこの塔から出たくないんだ?)
nediva fog ned teg.(出たくないから)
無茶苦茶だ。
sxulv li nedito ned fog miznutzo.(俺はお前が出たくない理由を知っている)
はっとしたように、ヴァルサが顔をあげた。
jen mevte vim gxutzo.(いま、お前は俺を口を見たな)
ヴァルサの緑の瞳がモルグズの口元からそらされた。
mevte vim morguzuzo.(お前は俺の牙を見たんだ)
ers ned.va...(違う。私は……)
nedito fog ned cod fo+sefzo erv dewdalg teg.(俺が半algだからお前は塔を出たくないんだよ)
ne+do!(違うっ)
だが、多感な少女の目はすでに潤みだしていた。
もともと嘘が下手なのかもしれない。
yujute dewdalguma ye:ni era narha.gow ers o:zura.(お前は半algは馬鹿って意味だと言った。だがそれは嘘だ)
ヴァルサの肩が小さく震えていた。
なにかをこらえるように。
dewdalg era ned reys.ers soltans reysuma asuy nxoziga alguma asuycho.ta reysi rxobis dewdalguzo.(半algは人間じゃない。人間の血とalgの血が混じった生き物だ。そして人々は半algを恐れている)
深々と、少女がため息をついた。
sor sxelte cu?(いつ知ったの?)
jen ers.(今だよ)
ヴァルサの口から、低い声が漏れた。
teminum eto yurin.now erav narhan,(あなたは本当に賢い。でも私は馬鹿ね)
自虐的な笑い声が聞こえてきた。
こんなヴァルサは、正直に言って見たくなかった。
ya:ya.eto dewdalg.unfum kap rxobigav tuz.(そうよ。あなたは半alg.初めは私もあなたが怖かった)
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