11 la:met(歴史)

 月日がたつのは早い。

 あるいはこの世界の一日が地球より遥かに短いのかもしれないが、物凄い勢いで時が過ぎていった。

 正確に数えたわけではないが、半algのことを考えた日からすでに二十日は経過しているだろう。

 ここにきてから確実に三十日以上はたっているはずだ。

 その間に、モルグズの会話能力はどんどん上達していった。

 まずse+gxon yurfa,すなわち「正しい言葉」という書物の存在が大きい。

 日常で使う主要な動詞や名詞、形容詞といったものがうまくまとめられている。

 全体ではおそらく五百語をこえた程度だろうが、少なくとも日常生活を送る上では十分に役立つものだった。

 もちろん、ヴァルサと実際に会話をしていると、とてもこれだけでは語彙は足りないのだが。

 とはいえ、知らない言葉が出るたびにヴァルサがきちんと意味を教えてくれるので、だいぶ助かる。

 ただ、やはり抽象的な概念を意味するものはまだわからないものが多い。

 さらにいえば、ヴァルサはいままでと違い、細かい言葉遣いの間違いも容赦なく指摘してくるようになった。

 基本的な文法と、単語の意味を覚えればその言語を習得できると考えるのは、とんでもない誤解である。

 言語によって、それぞれ特有の語法、つまりは言い回しというものがあるのだ。

 文法的にはぎりぎり合格でも、母語話者が聞けば不自然きわまりない表現、ということもありうるのである。

 同じ言語から分かれた言語でもそうしたことはあるのだから、まったく未知の言葉ともなれば当然のことだった。

 それでも、最近はyurfaのことをある程度、客観的に考えられるようにはなってきた。

 この言語は、大雑把に言ってしまえばラテン語のようなインド・ヨーロッパ語族的な言語と、日本語のようなものが混じり合って出来た言葉だろう、と。

 ただし、それはこの世界の他の言語をまったく知らないので、あくまで地球のものになぞらえれば、という但し書きが必要となる。


 reysi uld tsisogo cod satnxe zertogo selinzo.(昔、この地には精霊を信仰する人たちが住んでいました)


 ヴァルサの語ったこの地の簡単な歴史を思い出す。

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