Case18 トンデモと現実の狭間で(2)
ああ、そうそう。火のない所に…といえば、この一週間で新たにわかった新事実が他にもあったのだ。
あの目之頭公園の蓬莱池で目撃されたホッシー。あれは2、3日前に、市民の通報を受けた地元交番巡査と市の公園管理課職員の手で無事捕獲された。
といっても、無論、首長竜の生き残りなどではない。
ぢつはあれ、飼い主がうっかり逃がしてしまった海イグアナを、ただ単に見間違えたものらしい……。
んなもん、どうすりゃ見間違えるんだ? とも思ったが、まあ、あの背中のトゲトゲを水面に出てして泳いでる姿を遠目から見れば、確かにノコギリ状のヒレがある怪物に見えなくもないか……蓋を開けてみればなんのことはない。「幽霊見たり枯れ尾花」というやつだ。
しかも、ホッシーに関しての話はそれだけで終わらない。ぢつはそのイグアナが、あの側溝で目撃されたというワニの正体でもあるらしいのだ。
なんでも最初、その逃げたイグアナは住宅街の側溝に迷い込んだみたいなのだが、それが流れ流れてあの公園の池まで辿り着き、それぞれの場所での目撃譚から一方は〝側溝のワニ〟伝説に、もう一方は〝蓬莱池のホッシー〟伝説になったということのようだ……。
つまり、ホッシーと側溝のワニとは同一のものだったということである。
まったく、人騒がせにもほどがある。見間違えた方も見間違えた方だが、飼い主も一旦飼うと決めたんだったら、ちゃんと責任を持って最後まで面倒を見てほしいものだ。
ま、そんなオッチョコチョイさん達への文句はともかくとして、そう言われると確かに辻褄が合うし、なるほどお…って感じではあるが……しかし、これにはさらに後日談があったりなんかもする。
すったもんだの大捕り物の末、イグアナを捕まえた巡査と市の職員が名乗り出た飼い主にそれを返してやったところまではよかった。
ところがその翌日、今度は飼い主の部屋に泥棒が侵入し、せっかく返って来たのも束の間、そのイグアナは何者かによって盗まれてしまったのである。
ほんとに、なんともツイてないとしかいいようのない飼い主であるが、もしかしたら、そんな単純なことでもないのかもしれない……。
その飼い主が被害届を出す際、警察に語った話によると、そもそもその海イグアナは赤毛山へハイキングに行った時に草むらで動かなくなっているのを見付け、爬虫類好きだった彼が拾って来てペットにしたものなのだそうな。
だが、その撮影した写真を馴染みのペットショップ店員に一目見せたところ、爬虫類に詳しいその店員は「なんか、イグアナとはちょっと違うような…」と、訝しげな表情でコメントしたらしいのだ。
しかも、嘘か真か飼い主の言うには、そのイグアナは時々、後ろ脚二本だけで立って歩くこともあったとかなんとか……。
イグアナのようだけどイグアナじゃない、二足歩行もする爬虫類……背中のトゲトゲ……拾った場所は赤毛山……もしや、それこそが乙波が現在捜索中の〝チュパカブラ〟であり、宇宙人が生み出したという人工生命体だったりとか……。
それが、何かの拍子に赤毛山の秘密基地より脱走し、彼らが必死になって探していたところ、ホッシー騒ぎでその所在が掴めたために飼い主のもとより回収したのだとしたら……あ、いや、乙波ならそう考えるかもしれないと、ちょっと思っただけのことだ。別に俺がそんな風に思っているわけではない。
ま、とりあえず、そんなありえない妄想は置いといてもう一つ。
ここ赤毛山に眠るとされる徳川埋蔵金についても、それに関わる奇妙な事件がやはりこの週の頭に発覚した。
堂室さんの逮捕後、当然、そのニュースは全国的に話題となり、居住さんの遺体捜索をする警察や事件の取材に来たマスコミ連中によって、静かな山中は再び喧騒に巻き込まれることとなった。
俺と乙波もそんなわけで、しばらくはマスコミから逃れるのに大変だったのであるが、それよりもそんな騒ぎの最中、あの俺達が発掘を行った洞窟の方へなんとなく廻ってみた記者の一人が、その入口が崩れて埋まっているのを偶然発見したのである。
その様子を俺もテレビで見てみたが、確かに崩れた岩が入口を塞ぎ、俺と乙波が行った時とはまるで違う姿になり果てていた。
その後の調べによると、どうやら俺達が訪れたその翌週の日曜にそんな無惨な有り様になってしまったらしい。
まあ、それだけならば、「ああ、よかった。一週遅れて行ってたら危ないところだったよ」と冷や汗をかくだけですんだ話かもしれない……。
ところが、崩落原因を調べた地質の専門家の話によると、どうもそれがただの自然崩落ではないようなのだ。
崩れ方を見るに、なんだか爆破されたような痕跡が認められるらしいし、実際、それを発見した記者も微かに火薬の臭いが残っているように感じたと証言している。
いや、そればかりか、おそらく崩落が起きたと思われるその日の夜、ドーン、ドーンと間隔を開けて二度、何かの爆発するような音が山の方でするのを近隣住民が聞いていたりもするのである。
あたかも、誰かがあの礫で埋まった洞窟の奥壁に発破を仕掛け、
間近で乙波のデンパを浴びまくっている内に感化されてしまったのかもしれないが、こうしていろいろなことが重なってくると、さすがに穿った見方もしてみたくなるというものだ。
巷で云われている噂や伝説、あの一週間あまりの間に起こったことの時系列などを複合して考えてみるに、ある一つの筋書きが見えてきたりもする……。
即ち、洞窟を爆破して埋蔵金を掘り出したのは市の経団連の連中であり、あの週の火曜に開いていた月例会議は、実は埋蔵金発掘の計画を密かに練っていたものなのかもしれない……。
では、なぜ彼らが埋蔵金の在処を知っていたのかといえば、かつて、あの洞窟を掘ったという資産家有志達の一団こそが、現在、経団連となっている組織を立ち上げた者達なのではないだろうか?
発見したのに公表していないのは、もしそうと知れれば、所有権の問題でほとんど国に持って行かれてしまうからだろう。
そして、近々手に入るその莫大な資金があったが故に、彼らは昨今の不景気で冷え込んだ市の経済活性化のため、自分達の経営するフライドチキンやハンバーガーの店で半額セールを開催することにしたのだとしたら……。
それと、奇しくも埋蔵金が掘り出されたと思しき日曜の夜、うちの高校で目撃されたという〝廊下を行進する兵隊〟の幽霊だ。
その幽霊の一団が向かった先には校長室がある……もしも、その発掘した大量の金塊を隠すのに、あの校長室の大鏡の裏にあった金庫の中へ運び込んだのだとしたら……。
いや、校長室だけじゃない。あのベートーベンの裏や階段の下、それにかつてプールの底にあったという謎の扉の中も、ぢつは経団連が密かに作った、こうした時のための隠し金庫だったんじゃないだろうか?
ってことは俺達がこの前見た時、あの扉の向こう側には時価4千億円にも上るかの有名な徳川埋蔵金が……。
あの校舎は五十一銀行の寄付で建てられたという話だが、その銀行の頭取も代々経団連の中心的メンバーになっている。
世間の目を欺くために、高校の隠し金庫を使おうと考えることだって当然……。
……いや。そんなわけないか。ちょっと妄想が過ぎたみたいだ。
俺も自分の気付かぬ内に、そうとう乙波の影響を受けてしまっているらしい……。
こりゃ、しばらくトンデモなデンパを遮断して、まともな論理的思考を取り戻さねばならんな。
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