Case17 真実はトンデモより奇なり(2)
「なるほど。それでこんな迷彩服を着込んでいたわけか……ちょっと都市部での張り込みには向かんと思うがな」
俺がすべてを説明し終わると、古場刑事は乙波の方を一瞥し、そのあえてスルーしていた疑問についてようやく納得する。
「はい。俺もそう思います……」
「ええっ? そうかな? 身を隠すにはやっぱこれだと思ったんだけど」
古場刑事のその言葉に、心底同意する俺も苦笑いを浮かべて頷き、逆に乙波の方は首を傾げて不満を呈している。
「ま、それはそうと、これに懲りてこれからはもう、こんな事件に首を突っ込むような危険な真似はしないことだな。じゃ、大体の話は聞いたし、とりあえず今日のところは帰ってもらって構わない。誰かにパトカーで家まで送らせよう。また後日、警察署の方へ来てもらわないといけないがね」
乙波としては事件へ首を突っ込んでいるつもりは毛頭なかったのであるが、そんな俺達に古場刑事はそう忠告すると、長かった拘束からやっとのことで解放してくれる。
確か9時頃ここへ来たはずなのに、もう昼もとっくに回っている時刻である。
「あ、そうだ。今回はほんとにどうもありがとうございました。おかげで命拾いしましたよ。ちゃんと乙波…彼女の身辺警護をしてくれてたんですね」
別れ際、そういえば、まだお礼を言っていなかったことに気付いた俺は、畏まって威儀を正すと、改めて古場刑事に頭を下げる。
今、こうして俺達が無事でいられるのも、普通ならホラか冗談かと取りあってはくれないような俺の話を真摯に受け止め、乙波のことを見張っていてくれた警察の皆さんのおかげである。まさに命の恩人だ。
「ん? 身辺警護?」
だが、俺の感謝を込めたその言葉に、古場刑事はなぜだか眉間に皺を寄せて、訝しげに太い首を傾げる。
「俺の頼みを聞いて、この子のことを見張っててくれたんですよね? それで、犯人が俺達を連れ出したの見て、追いかけて来てくれたんですね」
「え? そうだったの?」
どうもうまく伝わらなかったらしいので、俺が改めてそう丁寧に言い直すと、今度はとなりで乙波が驚きの声を上げる。
「ああ、ごめん。言ってなかったっけ?」
そういえば、別に隠すつもりもなかったが、当の本人にはそのことを知らせていなかったことを今更ながらに思い出した。
「君からの頼み? ……いや、我々は以前から堂室を疑っていて、それで今朝も彼女のマンションを張っていたんだが、そうしたら君らを車に乗せてどこかへ出かけるじゃないか? そこで後をつけてみると、急にスピードを上げて山中へ逃げ込もうとする。いや、これはいかんと思い、慌てて追いかけて逮捕に踏み切ったという次第だが……なんだね、その頼みというのは?」
ところが、俺が乙波の方へ気を取られていると古場刑事はさらに怪訝な表情を浮かべ、そんな奇妙なことを口にし始める。いや、奇妙なことを言っているのは、むしろ俺の方だとでもいいたげな様子だ。
「えっ? あの刑事さん達から俺の話を聞いてたんじゃないんですか?」
「あの刑事達?」
「はい。ほら、黒いスーツに黒いハットかぶった、まるでメン・イン・ブラックみたいな二人組ですよ。サングラスなんかもかけてて、背の高い痩せた人と、もう一人は背の低いちょっとメタボの……」
今度は俺の方が眉根をひそめて、彼にあの二人の背格好を身振り手振り説明してみせる。
「いや、うちの県警にそんなやつはいないぞ? ……所轄にもそういった人間はいなかったと思うんだが……」
「え……?」
腕を組み、不思議そうに考え込む古場刑事の姿に、俺は表情を強張らせると、背中になんだか冷たいものを感じた……。
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