Case5 ファストフードの都市伝説(2)

 そして、乙波の放課後トンデモ調査はさらにその翌日も行われる……これで今週は月曜から木曜まで4日連続だ……いや、土日も入れれば、これで6日間、ほぼ1週間だ(泣)。


 ……グスン……失礼。ちょっと感情が高ぶってしまった……では、気を取り直して本日の行き先はであるが、フライドチキンを調べたとなれば、もう一つのファストフードにまつわる超有名な都市伝説の方も乙波が放っておくわけがない。


「いらっしゃいませー♪」


 昨日とはまた違った制服のお姉さんが、精神的に追い詰められた俺に対してカウンター越しに¥0のスマイルを投げかけてくれる。


 そう……今日も引き続きファストフードシリーズで、某ハンバーガーショップの〝ミミズバーガー〟伝説に関する調査である。


 ここも昨日行ったフライドチキンの店同様、派手で人を小バカにしたような黄色いピエロのいる某フランチャイズ店そのものではなく、そこと市内に本拠を置く企業との共同出資会社なのであるが、ここでもやはり時を同じくして昨日から半額セールをやっているのだ。


 その件に関しても乙波先生いわく――。


「やっぱり経団連に偽装した某秘密結社が宇宙人と密約を結んで、教えてもらった遺伝子操作技術により牛肉とまったく違わない味のミミズを養殖することに成功したんだよ!」


 ――とのことである……いや、牛肉と味変らないなら、将来、食糧不足が懸念されるこれからの世の中、それでも別にいいんじゃないのか? 食うものがなくなれば贅沢は言ってもいられない。原料そのままの姿を見なければ、消費者もたぶん納得してくれるだろう。


「ぜんぜんよくないよ! これは食品偽装だよ!? 食の安全が脅かされてるんだよ!?」


 俺がそんなことを何気に口にすると、乙波にそうお説教をされてしまった。まあ、言ってることは大変ごもっともだと思うのだが、今回の件に関しては彼女の完全なる難癖だ。


 しかし、乙波のそうした告発を尻目に、こちらの店も昨日と同じく大勢の客達でごった返していた。やはり客層は俺達同様の高校生か、会社帰りの勤め人が大半を占めている。


 ま、ミミズ肉ではないにしろ、「タダより高いものはない」の例えもある如く、値段が安いということにはそれ相応の裏がそこにはあるのだろうが、それを差し引いてもなお大衆は安さを一番に求めているということなのだろう。


「ご注文は何になさいますか?」


 そんな社会的視点に立って込み合う店内を眺めつつ、かく言う俺達もその客の列に並ぶこと数分。相変わらずのスマイルでお姉さんが尋ねる。


 女子大生だろうか? けっこうカワイイ、ショートカットのお姉さんだ……たとえ営業スマイルであっても、その笑顔がなんとも癒される。


「このビーフ100%って書いてあるハンバーガー……ほんとはミミズ肉100%なんですよね?」


「がっ…!?」


 しまったあっ! ついついお姉さんの笑顔に油断していた俺の隙を突き、メニュー表を眺める乙波が唐突にそんなストレートな質問をかましてくれた。


「……い、いえ、当店ではその表記の通りビーフ100%のパテを使用しております」


 その失礼にもほどがある質問に、お姉さんは眉間をピクピクと震わせながらもスマイルを維持したままそう否定する。


「なるほど……あくまでも店員にはそうシラをきるよう指導しているわけだ……じゃ、そのミミズ100%のビッグマ●ク、セットで一つください。ドリンクはアイスレモンティーのMサイズで」


 すると、乙波はまたしても勝手な決め付け著しいことをブツブツ呟きながら、あくまでもそのケンカ売ってるとしか思えないネーミングでお姉さんに注文をする。


 本人は聞こえないよう小声で呟いたつもりかもしれないが、もう完全にまる聞こえだし。


「は、はい……、100%のビッグマ●クセット、ドリンクはアイスレモンティーのMサイズですね?」


 注文を繰り返すお姉さんのカワイらしい顔には、不気味に引きつった¥0スマイルがぎこちなく浮かんでいる。きっとバイト店員なのだろうに、こんなふざけた客にも笑顔を絶やすまいと努力するその根性は見上げたものだ。


「ハァ……分岐点の選択、間違えたかな……」


 一方、そのふざけきった客の傍らで、俺は自分の注文をするのも忘れて、そんなエロゲ的後悔の言葉をぼそりと呟いていた……。

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