Case6 トンデモなランチタイム

 今日もまたかと覚悟を決めていた俺の予想をいい意味で裏切り、意外にも「肉の出所を突き止めてくるから…」と金曜の放課後デートは取りやめとなって、その日一日明けての週末……。

 うっかりレクチャーなんぞしてしまったがために、俺は乙波とともに四つ足ニワトリが育てられている(?)養鶏場と、それと同じ発想でミミズバーガーの肉を卸している(?)精肉工場へ土日をかけて潜入調査することとなった。

 ようするに、某フライドチキンと某ハンバーガーのファストフード店がそれぞれ専属契約している所である。

 といっても、ほんとにこっそり忍び込んでは、ガチに不法侵入の容疑で捕まりかねない……そこで、「ここは正々堂々、正面から社会見学に偽装して…」と乙波をうまいこと言いくるめ、畜産や食品流通に興味のある大変勉強熱心な社会科大好き高校生の振りをして潜入する作戦になんとか誘導することにしたのだった。もう、この前の経団連会議の時みたく全力疾走で逃げるのはまっぴら御免である。

 それでも、こんなありえない見学希望者、最初は怪しまれるんじゃないかと心配していたが、何かあった時でも顔バレしないようにとかけて行った変装用の伊達メガネが功を奏してか? 養鶏場と正肉工場の人々は「近年稀に見る大変真面目で立派な高校生だ!」と感動すら覚えながら快く俺達を受け入れてくれた。

 なんか、騙したようで(いや、実際騙してるんだが…)少々気が退けなくもないが……うん。この伊達メガネの着用は我ながらいい考えだった。やはり古の昔よりメガネは知性の象徴なのだ。ただかけているだけで、どんなトンデモ思考のふざけた野郎でも真面目でまっとうな人間っぽく見えるらしい。

 それにそうした実益だけでなく、この作戦のおかげでメガネをかけた乙波の顔も拝むことができた。いや、別に俺はメガネ属性ではないし、普段の彼女ももちろんカワイイのであるが、いつもとは違うメガネっ娘の乙波もこれはこれでなかなか……。

 ……あ、い、いや、話が脱線した。それはまあ置いとくとして、そうして無事潜り込んだ養鶏場と精肉工場であるが、無論、四つ足ニワトリやミミズのミンチ肉はおろか、何一つ怪しいところなど見付からなかったのは言わずもがなである。乙波が暴走するような隙はどこにもなかったし、この土日の二日間はほんとにただの社会科見学をしただけで終わってしまった。

 だが、まあ、いつものようなトンデモ調査をしてるよりは遥かに有意義な休日の過ごし方だったかもしれない。なんか、ほんとに畜産と食品流通について勉強になってしまった……。

 そして、翌日の月曜、よく晴れた爽やかな春の青空の下、校舎の屋上で乙波と一緒に昼食をとっていた時のことである。

「――おお~! 今日もまた、相変わらずの凝ったデコレーションだな……」

 彼女が蓋を開けた弁当の中身を見て、俺は思わず感嘆の声を上げた。

 ファースト&セカンドデートの時にはあれほど食への関心が皆無だったにもかかわらず、意外や乙波のお昼は毎回、彼女手作りのデコ弁なのである。

「……でも、相変わらずのそっちネタ……なに? UFO?」

 ただし、葉巻型母艦UFO春巻だとか、タコさんウィンナーを変形させた火星人ウィンナーだとか、すべてトンデモ系のデコレーションなのではあるが……。

「今日はアダムスキー型UFOパンケーキサンドとハンバーグで、キャトミューをイメージしてみました♪」

「なるほど。ビーフハンバーグがキャトルなわけね……で、飲み物もそれに合わせて牛乳と……」

 で、本日のお弁当もそんな凝りに凝ったキャトミューパンケーキランチである。そうした乙波のデコ弁を見るに、食に無関心というわけでもないのだろうが、やはり食欲よりもトンデモ欲、食い気よりもトンデモ気なのだろう。

 そして、あのデートの時も「三度の飯よりトンデモ好き❤」な乙波としては、食事よりも調査の方を優先させたというわけだ……さらに俺と一緒に楽しく食事する時間などというものは、二の次三の次どころか、最早、彼女の眼中にすら入れてもらえていなかったらしい……(漢泣)。

「そういう上敷くんは今日も売店のパンか……しかも、焼きそばパンとか上位人気のものは売れちゃってたんだ……なんだか味気ないね」

「うっ……」

 あの日とは違う、彼女の色鮮やかな弁当箱にそんな悲しい過去を思い出して感傷に浸っていると、俺の手にしたサンドウィッチとコーヒー牛乳の紙パックを見て、乙波が屈託のない笑顔でさらに傷口をえぐるようなコメントを無邪気にしてくれる。

 それは、むしろこっちの台詞である。いや、あの時のゼリー状栄養補助食品よりは売店のパンの方がまだ味気あるぞ! ま、昨日、一昨日は見学先の皆さんの御好意で、たまご料理や各種肉料理をたらふく食べさせてもらえたがな……。

 そして、俺の貧相な昼食に対してそんな感想を抱くんだったら、そのトンデモデコ弁にかける情熱を少しでもこちらに傾けて、俺の分まで作ってくれたりなんかするとありがたいんだが……そうした世の恋人達が行うような心温まる行為はまるでしてくれそうにない。

 ま、それでもこうして先週ぐらいからは一応毎日、二人で一緒に昼飯を食うようにしているので多少は恋人同士っぽくなったということだろうか? ……ほんとに多少だけど。

「あ、そうそう! それより今日の放課後なんだけどさ」

手にするアダムスキー型パンケーキを宙に浮かせて止めたまま、思い出したかのように乙波が口を開く。

「ああ、放課後ね……で、今日はどこへ行きたいの?」

 俺はコーヒー牛乳をストローでチューチュー吸いながら、またいつものが始まったと、もういい加減慣れた口調でそう訊き返す。どうせ今日も学校が終わったら、どっかそこら辺の都市伝説調査へ出かけるつもりなんだろう……と、思い込んでいたのであるが。

「ううん。今日は外には行かないよ。学校の中のことを調査したいんだあ」

 と、彼女の口からは俺の固定概念を覆す言葉が返ってきた。

「学校の中?」

「うん。この衿野五十一えりやいそかず高校に伝わる怪談について調べてみようと思うんだ。いわゆる〝学校の怪談〟ってやつだよ。せっかくこのエリ高・・・の生徒になったからには、そのくらいの一般常識、知ってなきゃ恥をかくからね」

「学校の怪談……ねえ……」

 いや、別に一般常識じゃないし、特に知らなくても恥にはならない情報だと思うんだが……そうか。そう言われてみれば、そんな乙波の触手に引っかかりそうなトンデモ要素が学校の中にも確かにあったな。いうなれば、これも学校という限られたエリア内で発生した都市伝説のようなものだ。まあ、よく聞くのは小学校とかのだけど、別に高校にあってもおかしくはない。

 ああ、ちなみにこの〝衿野五十一〟などという長ったらしく変ちくりんなのが、伝統ある我が校の名称である。通称〝エリ高〟だ。

 〝衿野〟というのがここら辺の古い地名で、〝五十一〟というのは戦前、この高校の校舎を建てるのに際して資金を全額寄付してくれた地元の銀行〝五十一銀行〟から来てるのだそうだ。

 その銀行の名前からしても奇妙なものだが、聞くところによると、県内にあった五十一の金融機関が合併してできた銀行なので、そのようなおもしろい名前になったらしい……生徒手帳に書いてあった「エリ高豆知識」情報だ。

 そんなわけで補修工事はなされているものの、おおもとは戦前に建てられた木造の古い校舎なので、よく言えば趣がある――ストレートな物言いをするとボロっちい建物だったりもする。ま、そういういかにもな古めかしい建物であるから、きっと乙波の望むような話もそこらにいくつか転がっているに違いない。

「ということで、今週はこの高校にまつわる学校の怪談を調査するからね。今、クラスの女子達に聞いたりして情報を集めてるとこだから、放課後の報告を期待して待っててよ。とりあえず、授業終わったら上敷くんの教室でミーティングね」

 たまごサンドとともに乙波の言わんとしていることを咀嚼していた俺に、彼女は年相応の大きからず小さからずな胸を張って、今後の計画についてそう補足を加える。

 そんなこと同級生達に聞き回って、変な目で見られなければいいのだが……いや、この調子だと、もうすでに手遅れかもしれない……。

「学校の怪談……ねえ……」

 ……ま、外で都市伝説の調査をするよりは、その方がトラブル起きる可能性も少なくてまだマシといえばマシか……。

 俺はどこまでも澄み渡る青空を見上げ、そんなポジティブシンキングで思いを巡らしながら、もう一度自問するように呟く。

 だが、この希望的観測がまたしても甘い考えだったことに、俺は後々気付かされることとなるのだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます