Case1 ファーストコンタクト(3)
だが、翌日の放課後……。
「――ああ! あなた、入学式の日の……そっかあ。あなたが上敷くんだったんだあ……それで、話って何?」
「あ、いや、その……なんというか……ゴクン…よ、よかったら、俺とつきあってやってください!」
あれほど友人達に忠告されたにも関わらず、俺はラブレターなんぞという古風なツールで呼び出した校舎の屋上において、天音乙波に愛の告白をしてしまっていた。
彼女が極度のトンデモ系であることはすでにわかっている……伴野や後合が言うように、彼女との恋愛が困難であることも充分理解しているつもりだ……。
だが、最早、手遅れだった。それよりも先に一目惚れしてしまったのだから、もうどうしようもない。
恋とは、そうした理屈ではどうにもならないものなのだ。彼女の超絶的なカワイらしさもさることながら、その上、あの神々しいまでの美しいロケーションの中で出会ってしまったことがさらに追い打ちをかけている。
そして、昨日の後合の言葉だ。
〝しばらくはそんなアホウにも騙される被害者が続出することと思うよ?〟
そんなアホウどもに先を越され、彼女を他の誰かに取られるかと思うと、俺は居ても立ってもいられなくなった……あの言葉は、俺ののぼせ上った頭を冷やすどころか、むしろ逆に背中を後押しして、ご親切にも最後の一歩を踏み出す手助けをしてくれた。
そして、若気の過ちな熱に浮かされた俺は、今、こうしてここに到るというわけだ。
「………………」
俺はガチガチに固まった身体を斜め45°に折り曲げたまま、夕陽に染まるコンクリートの床にえらく細長い奇妙な影を引いて、じっと彼女の返事を待つ。
「……うん。いいよ。デートはわたしの行きたい所へ連れてってくれるんだったらね」
すると、僅かの間の後、彼女は屋上を吹き抜ける春風にも似たとても穏やかな調子の声で、そんな色良い返事を口にする。
……え? ……それって、YES……ってことでいいんだよな?
思いを抑えきれずに突っ走ってしまったものの、勉強・スポーツ・容姿etc.…どれを取ってもパッとしないところへ持ってきて、あの日、ほんの二言三言、言葉を交わしたきりで(しかも、あんなトンデモトーク…)、ほぼ完全に見ず知らずな、ただの同級生なだけの男の告白なんて、まずもって確実に断られるだろうなと覚悟を決めていた俺は、その拍子抜けすらする良い答えを聞くと、思わず上げた顔をポカンと呆けさせてしまう。
「……あ、ああ、もちろんだよ! 例え火の中水の中、どこだって君の好きな所へ連れてってあげるよ!」
そして、時間の経過とともに彼女の言葉の意味をよく噛みしめると、その返事がこの〝夕陽に染まる放課後の屋上での告白〟という、いかにもなシチュエーションに絆された、恋に恋する乙女なお年頃の一時の気の迷いではないのか? という強い不安が頭をもたげ始め、彼女の気が変らない内にと慌ててそう大見得を切って宣言してみせる。
「なら決まりだね。それじゃ、さっそく今週の土曜、
だが、それは要らぬ心配だったのか? そんな俺の大仰な台詞に彼女は切り揃えた前髪を微かに揺らし、ドキリとするような満面の笑みを浮かべて俺をデートに誘った。
「ああ! そりゃあもう、よろこんで!」
無論、俺が一も二もなく頷いたのは言うまでもない。
……しかし、後になってひどく後悔することとなるのであるが、どうやら彼女の出したこの交換条件を、俺は少々甘く見過ぎていたらしい……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます