Case13 千里眼(1)
「ハァ……」
その翌朝も俺は深い溜息を吐きつつ、生徒で賑わう廊下を教室へと向かっていた。
だが、昨日と大きく異なるのは、最早、俺の心に迷いがないということである。俺はもう、乙波と別れることを固く心に決めているのだ。
あの後、家に帰ってからも眠れぬ夜をじっくり考えに考え抜いてみたが、結局のところ行き着く答えは、もうこれ以上、彼女とつきあい続けることが俺には不可能であるという、やはり同様の結論だった。
それに有尾から聞いた話では、案の定、乙波はクラス内で少し浮いた存在になっているらしい……もし、ここで俺と別れれば、昼も教室でクラスの女の子達とおしゃべりしながら一緒にお弁当を食べ、トンデモ以外のことへも目を向けて、真に女友達とも打ち解けられるようになるかもしれない。
そうだ。やっぱり俺達はお互いのために、この辺で別れた方がいいんだ……それが、俺達にとっての最良の選択なんだ……。
今日、彼女に会ったら、ちゃんとそのことを伝えよう……。
「あ、上敷くん! ちょっと来て。話したいことがあるんだ」
しかし、そんな俺の固い決心は、朝の挨拶もそっちのけで声をかけてきた乙波に出鼻を砕かれてしまう。
「え? あ、ああ、こっちも大事が話ある……」
いつものトンデモ話をしてる時以上に真面目な顔をして言う乙波に少々面食らいつつも、俺も真剣な表情になってそう答える。
「でも、ここじゃあれだな……他人に聞かれるとマズいから、どっか誰もいない所に行こ?」
「ああ、わかった。それじゃ、屋上にでも行こうか?」
すると、目だけを動かして周囲を気にする乙波に、俺はそう提案すると彼女とともに屋上へと向かった――。
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