Case3 赤毛山の徳川埋蔵金(1)

「――やあ、おはよう……というか、その格好は……」


 そんなわけで翌日の日曜、俺達は市郊外にそびえる赤毛山あかげやまを訪れることとなり、そこへと向かうバスの停留所に朝っぱらから集合することとなったのだが……。


「え? なんか変かな?」


「いや、変というかなんというか……」


 現れた乙波は、とてもハイキングに行くとは思えない格好をしていた。


 古き良き20世紀初頭の秘境探検隊を思わすような白の半袖シャツと短パン、ヘルメット型の帽子に、トレッキングシューズはまあいいとしても、背中にはなぜかショベルとつるはしの突き刺さった大きなリュックサックを背負っている。

 

 い、いったい何をしに行くつもりなんだ……。


 昨日〝ハイキング〟とは言っていたが、俺とて学習能力がないわけではない。おそらくはただのハイキングには終わらず、またしてもトンデモ系がらみのものになるのは必至と考え、家に帰ってから疲れた体に鞭打ってネットで赤毛山についてリサーチしてみたりしたのだ。


 赤毛山といえば、あの運命の出会いとなった入学式の日、乙波が見たというUFOの編隊が飛んで行った山である。


 無論、その目撃談はあくまで乙波一人の証言にすぎないが、それを別にしても、あの時、彼女の言っていた通り、この山の近辺では以前からUFOの目撃情報が多く、その筋ではかなり有名なスポットとして知れ渡っているらしい。


 また、山中には原始時代の祭祀遺構と思われる人工的に組まれた巨石群がそこここに点在しているのであるが、これについてもトンデモ系の間では、この山が超古代に宇宙人の基地として作られたピラミッドであり、巨石群はその名残りであるとされているようだ……って、ピラミッドって全部石造りじゃないのか?


 ま、そんな俺の素朴な疑問はともかくとして、そうした有名スポットということになれば、「今度のデート(?)の目的も、どうせUFOウォッチングかなんかだろう」と高をくくっていたのであるが……この、どう見ても探検する気満々の装備は一体なんなのだろうか?


「上敷くんこそ、そんな軽装備で行くつもりなの?」


「い、いや、ハイキングといったら普通、こんな格好だと思うんだけど……」


 だが、ガチに探検隊仕様の彼女は逆に俺の服装について、山歩きのインストラクターが如く真面目な顔で注意をしてくる。いや、普通にジーンズにモッズ風のフィールドコートという、いたって良識的なハイキングの格好だと思うのであるが……。


「ダメだよ。洞窟に入ったりするかもしれないんだから、もっと汚れてもいいような格好で来なくっちゃ。掘る道具はわたしが貸してあげるからいいけどさ」


「洞窟? ……あの、話が全然、見えてこないんですが……ハイキングに行くんじゃなかったっけ?」


「うん。ハイキングだよ。でも、やっぱり徳川埋蔵金探しは外せないでしょ?」


 ああ! そうか! そっちの方だったか! ……そうだった。そういえば忘れていた。赤毛山はUFO関連とは別にもう一つ、徳川埋蔵金の隠し場所としても有名な場所だったのだ。


 なるほど。今回はそう来たか……それならば、この彼女の装備も納得がいく……って、いや、デートに埋蔵金探しってのはどうなんだ?


「……上敷くん? 乗らないの? バス出ちゃうよ?」


 こちらの浅はかな予測など、いとも簡単に裏切ってくれる彼女のトンデモ思考パターンに感動すら覚え、思わず呆然自失とその場に立ち尽くしていると、いつの間にやら来ていたバスに乗り込み、彼女が乗降口から俺に声をかけている。


「あ! ああ、ちょ、ちょっと待って!」


 ドアが閉まる寸前、慌てて俺もバスに飛び乗り、こうして栄えある第二回目のデートは、赤毛山で徳川埋蔵金探しをすることとなったのであった。


 そういえば、昨日は記念すべき乙波とのうれし恥ずかし初デートだったはずなのであるが、あまりにも予想を上回るその非常識な展開に、すっかりそんなこと頭の中から吹っ飛んでしまっていた。


 いや、それ以前に昨日のあれも今日のこれも、果たして〝デート〟としてカウントしていいものなのだろうか?

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