第9話 

「まぁ、これは飽くまでも結人さんの意見なので、気にしないでください。それに、信じるかどうかは現地で共に体験していきましょう!」


紅葉が言うと同時に、ガッツポーズの様に手を挙げているとノックもなしに部屋の扉が開かれた。

開かれた扉からは何度も染め直されたと様にわかるほど深い黒色のダークスーツをベスト共に着こなしている中性的な白い髪の人間であった。そして、その人物は今朝、神無の家に訪れた男であった。


「今日は来客が多いな、それに一人は呼んでない」

「僕の事は気にしなくて良いよ。僕だって好き好んでここに来るような事はしないから」

「だったらお前専用のマグカップを売り飛ばすぞ」

「一個、四十万位するからお勧めはしないよ。壊さないでね」

「紅葉、棚の一番奥に入れといてくれ」

「わ、分かりました」


慌てている様子で紅葉が棚を漁っていると、結人は男の方を見てまじめな口調で語りかけた。


「用はなんだ?毎日来てた癖に最近は来なくなって、またこんな時間に現れる。何をしていた?」

「え?結人君ツンデレに挑戦でもしているの?でも、経済的状況から見ると詰んデレだよね」

「ねぇ、東条と話してるのはゼロ課の職員なの?確か、今日家に来たんだけど」


二人が話しているのを聞いて棚を漁っている紅葉に神無は尋ねた。そして、神無は首を横に振る。


「いいえ、SSUの職員ですらないですね。最高セキュリティの最下層にあるこの部屋に裏ボスが来てる感じです。名前が一切わからなくて、名乗りもしないので私達は零さんとお呼びしてます」

「何で?」

「こいつは基本的に諸悪の根源、悪の擬人化、全ての元凶と言う二つ名が付くほど、大体の悪事にかかわっていると言うか起こしているんだ。だから、その悪の起源として零と呼ぶんだ。不本意にも俺と近くにいると言う事も大きいらしいけどな」


二人の会話に割って入り、説明をすると神無は男を警戒し始めた。


「大丈夫だよ。僕が直接何かするって事は殆どないし、したとしても何の記録も残らない」

「ねぇ紅葉。それも能力の一つなの?」

「そうですね、言っても意味はないですが零さんの能力は月曜日の午前零時になると

記憶媒体から強制的に無条件で零さんに関することが全て削除されるんですよ。人の記憶も防犯カメラとかの電子的記録も」

能力の幅広さを実感すると、一つの矛盾に気付いた。

「だったら、なんで二人は覚えているの?」

「私は異能力で、結人さんは謎ですね」

「それは良いんだ、零、お前は何しているんだ?」

「僕がその問いに答えたことが無いことは分かっていると思うけど、君達にも用があるからね、教えるよ」


一瞬、言葉にならない違和感が神無を駆け巡る。そして、二人は答えるという事が予想外だったのか目を見開いた。


「桜空神無、君はこの仕事をしない方がいい。辞めさせるためにここに来た」

「どういう風の吹き回しだ?人の不幸とクソゲーにしか興味のないお前らしくない」

「総額一億三千万の借金をチャラにしてやるから静かにしていてくれ」

「結人さん!何敵の中の敵に借金しているんですか!」


黙秘を貫く結人を置いておいて、零は神無に向き直った。


「辞めるんだ。異能力者は絶対に不幸になる。それも、それが集団になれば更に酷くなる」

「あなたは、一体、誰なの・・・?」


頭痛を覚える。それに、上下左右の感覚が分らなくなり、立っているのもやっという感じだ。そして、それは零と居る時間と比例して酷くなる。


「どこかで出会った・・・?」

「会ってない」

「じゃあ!なんで今日、内に来たの?!」

「お前・・・、女子高生の家に上がり込むとか事案だぞ」


完全に分が悪くなった。零、自身も想定外の事が多いのだろう。

一人、見当違いな事を考えているが、それ以外の二人は真っすぐと見た。そして、普段は微笑を浮かべて常に上から物事を客観視している零に、紅葉は会ってから初めて動揺を見た。


「僕は・・・」


懐かしさをそこでなぜかふと神無は思った。過去にもこんな事が合った様な気がするからだ。しかし、思い出せない。

遠い昔の記憶が駆け巡る。

全く同じような状況。

そして、自分は少ない語彙で何かを必死に伝えていた。しかし、何を言っていたのか分からない。考えれば考えるほど、先程感じた気持ち悪さが体を強く、血流の勢いを強くしながら乗った。

だが、思い出すことが出来なかった。


「僕は帰るよ。紅葉君、次は良い珈琲豆でも持ってくるよ」

全く同じような事が起きている感じがした。音を立てて何かが壊れる感覚。このまま何もできなければ分からない過去と同じ道を辿るだろう。だが、神無は何もできなかった。

「分かりました。何時でも来てください」

「うん、それと、結人。君は早く金を返せ」

「気が向いたらな」

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