第8話 出番の遅いもう一人の主人公

出番の遅い主人公は、紅葉と呼ばれる少女に怒られていても意に介していなかった。


「そろそろお金が尽きて、雑草の雑草和えを食べることになりますよ!」

「うん、それは雑草だね。でも、まだ大丈夫だろ」

「なんの根拠があるんですか!残高、後十一円ですよ!小学校低学年でももうちょっと持ってますよ!」

「最近の小学生は金持ちだな。融資して貰おうか」

「小学生に集らないでください!」


ゼロ課と呼ばれる部屋はあの後、新しいエレベーターに乗り込み最下層まで降りてから一番奥の部屋にある。そして、そこは、上の近代的な部屋とは雲泥の差であり、生活感が溢れまさに家と形容しても差し支えない場所であった。と言うか一般庶民の家庭である。


「あの、ゼロ課に配属されたんだけど・・・」

「ん?ついに借金取りがここまで来たのか・・・?クッ、やられた」

「誰が借金取りだ!同じクラスよ!失礼ね、ここに配属されたの!」

「桜空神無さんですよね?」


結人の尻拭いをするかのように紅葉がフォローに入った。


「神崎さん、覚えててくくれたの?」

「当たり前ですよ。それと、紅葉で良いですよ」

「じゃあ、私は神無で良いわよ」


同級生なのに敬語と言う不自然は、同じクラスで理解している為特に気に留めない。そして、神無は本分を取り戻す。


「そうです、働いて下さい!生活費が足りないんです!」

「そう言われてもなぁ、最近、平和だろ?」

「平和じゃないですよ!仕事はいくらでもありますよ!」

「ねぇ、ここは何の仕事をするの?」


仕事、仕事と連呼しているが内容が分らない神無は蚊帳の外である。そして、それを尋ねると神無は思い出したように向き直った。


「あ、すいません。忘れていました。どこまで聞きました?」


神無は氷室から聞いたことを掻い摘んで話す。すると、結人が突如笑い出した。


「何よ?」

「いや、ラッキーだなって思ったんだよ。氷室以外の人事担当は須らくゼロが嫌いだ。だから、氷室じゃなければその場で帰らされてたぞ」

「少しでも印象を良くしようと働かないからダメなんですよ!だから結人さんの事を皆ゼロって呼んで、ここがゼロ課って呼ばれるんです」

「そうかもな、紅葉はそう信じていてくれ」

「何ですか!その自分だけ全てを理解している主人公見たいな言い方!」

「俺は良いんだよ、桜空に教えてやれ」


何か不満そうな顔だが、神無の方を向き説明する。


「まず、異能力者たちは基本的に派閥と呼ばれるコミュニティを自分達で作ります。その派閥内で、国の動き等を共有して、リスクを避けます。リスクとは、聞いたと思いますが、政府は稀に強引な方法を取って来ます。それの対処や、情報共有が大きいですね」

「ここも派閥の一つなの?」

「いえ、ここは完全に中立組織です。問題を起こした事を、政府ではなく我々、SSUが処理をします。その為に作られた秘密結社です。ちなみにSSUとは、秘密結社連合の略で、役割としたら国連の権限を大きくしたような感じです」


大きな枠の説明を終えると紅葉は少し深刻そうな顔をする。それは、現実的にはそうなのだが、紅葉の性格上認めたくはなく、語りたくないと言う意思があるからだ。それを見た結人は無言で立ち上がり口を開く。


「人間は未知に恐怖を覚える。それは、異能力者も例外ではない。そして、派閥を組んだところで隣にいる人間の能力は自分とは違い、未知に溢れる。それは無意識に、潜在的に恐怖と言う物を覚え、ストレスが溜まる。だが、異能力者たちはそれを解消出来ない。だから、問題が確実に起きる。面白い事に、派閥を組んでいる異能力者たちの方が、問題を起こしてるんだぜ、個人でだけどな」


その目は一切笑って等いなかった。


「だから、俺達がその問題を事前に解決するんだ。だがな、表向きには解決だが、結局は延長に過ぎない」

「どういう事?」


真っすぐと神無が結人の目を見つめる。そして、聞きたくないのか、認めたくないのか紅葉は顔を俯かせた。そして、数瞬の間が生まれると、結人は口を開いた。



「ハッピーエンドは有り得ない。絶対に誰も幸せにならない。俺達の仕事はそんな仕事だ」



「結人さんはその仕事すらしてないですけどね」

「決まったのに茶化すなよ」

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