居眠り青年の健忘録
ろむさん
第1話
「君は若さが足らないねぇ」
「覇気がないよ」
当時、 私は大学浪人中だった。そして高校の時の同期の半分が浪人中だった。自分達の高校のOBは、根性と財力が許す限り希望する大学に進めるまで粘るものが大半である。しかし、私はここにきて心が折れかけていた。この日は第二志望校の2次試験の面接練習を受けていた。第二とはいえ、遠くの目標設定である第一を除けば実質は最優候補だった。話は逸れたが先の言葉は面接官役をしてくれたおっさんのものである。(余談だがこの面接官役のおっさんは志望校に勤務しているか、もしくは関係者である。つまりは練習ではなく前哨戦ないしは1.5次試験だった)
(覇気はともかく若さってなんだよ)
(40か50かも分からんぐらいのおっさんがティーンエイジャーに対して若さが足りないとはどういう意味や)
「若さが足らないと指摘を受けましたがどうしたらいいのですか?」
もっと元気良くや声を張れなどと言われた内容を素直に私はメモしていた。しかし当時の私はその言葉の内容を理解はできていたが、いまいち腑には落ちていなかった。その後、何度か練習をさせてもらい、家に帰って練習してきますと言ってその日は終わった。
(なんで若さがいるのか分からんわぁ、集団の基幹となる人材を育成することを目的とした学校なのだから、求めるべきは冷静な判断能力とか人心掌握を持った人間とちゃうん?…まぁそんなもの持ってないが)
(どちらにせよ、採用される側の立場で文句は言えないか)
この日は件の試験の3日前だった。そして試験場は遠方のために前泊する必要があった。今思えば、私はいかにもティーンエイジャーらしいカラッとした地中海風少年像を求められていたのだろうと思う。実のところ覇気不足は現役生の時から指摘されていた。しかし当時の私は長く長く続いた落ちこぼれから脱却するための勉強と、頭の中のぐちゃぐちゃした将来に対する展望や自己PRをなんとか文章に落とし込むことに必死だった。要は客観的な視点を得るにはあまりにも余裕がなく、そしてきっと若かったのだろう。そして現役時代には間に合わなかった学力を上げている間に若さまでもが必要量を下回ってしまっていたらしい。
(覇気がないというのは歯切れが悪いとか将来の展望があやふやって意味だったのだろうが、若さ不足はよく分からないな)
(あぁあ、どっかで若さとか覇気とか買えたりしないかな)
スーツ入れた、革靴入れた、シャツは新しい方を入れた、受験票入れた、その他細々と…。出発は明後日の朝だったが足りない物のチェックのために、早めの荷造りをしている最中の心の中では他力本ですらない現実味のないことを考えていた。そして私が憂鬱になっていたのは何も試験だけの話ではないのだった。つまりは若年者全般にとっては身近な人間にから下される評価はとても重い。つまりはこの後の夕食で家族に今日のことを聞かれると思うと、気が重かった。
「オッサン、ご飯できたでぇ」
(あぁあ)
「オッサン、面接で何聞かれたん?」
案の定、今日の成果を聞かれた。芳しい結果はなかったから気分は重いが、晩飯が終わるまでは開放してくれないだろうといことは分かっていた。
「長所は何ですか?とか」
「なんて答えたん?」
「寮生活を送った経験から集団行動に自信があります、また…といつもどおり」
私は中学と高校の間、学校の寮に住んでいた。
居眠り青年の健忘録 ろむさん @kazup1229
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