第8話
「ふぅぅぅぅ、ふぅぅぅぅ」という息の長い呼吸を聞く。その呼吸音を聞くと、先ほどまで私を絡めていた不安がひとつひとつ切り離されていった。不安が一つ残らず消えてしまうことの不安さえ消えてしまいそうだった。大蛇の河は以前私にこう伝えた。「この大河の流れの先には恍惚に似た無の地帯が潜んでいる」。抜け穴に錨を降ろし私を結んでいた糸。無の地帯への入京を拒もうとしていた不安。不安はもうどこにも見つからないような気がした。拒む理由も初めからなかった。しかし私にはまだ先を知りたいと思わせる何かが存在した。その先は立ち戻ることが許されないと理解していても、そこから立ち戻り、その先を他に伝えたいという欲が残されていた。私はもう地がどこにあるのか分からないでいた。「ふぅぅぅぅ、ふぅぅぅぅ」その呼吸音が聞こえてくると、私の意識は遠のき夢見る心持ちになった。抜け穴の夢をみた。アシダカグモが顔を覗かせ、しおり糸を細長く私に垂らした。私はその糸を頼りに宙にぶら下がっていた。それは闇夜の空中ブランコで、この糸もいつかは切れると予感した。
流れ星のように糸を引くおぼつかない光が現れると、しおり糸が発光しているのだと思った。その光は至る所で流れ始め、私は夜空に輝く流星群を眺めていた。光の糸は次第に絡まり始め、それは光る蜘蛛の巣のようになった。光っては消え、光っては消え、その網は広がり絡まり続け光の
カフカスの虜 Wallace F. Coyote @wallacefcoyote
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