第2話 私の野心、母の本心
「逃げるとは、いつ、何からですか」
「
連行。帝国の礎であるデウシルメ制に対して、大宰相がそのような言葉を使うことに衝撃を受け、また、大宰相自身がそうして“連行”されてきた奴隷であることを忘れていた自分にも驚いた。しかし私は。
「逃げようなどと思ったことはございません」
「そうなのか?骨のある子なのかと思ったが、そのあたりは体制に従順なのだな」
体制に従順?デウシルメのとき、私は七歳だった。体制も何も、私にとっての世界とは、漁師である父と母と、イオニアの青い海の見える家だった。
オスマン帝国の体制の何が理解できよう。
それに、少々落胆したような大宰相は、私に一体何を期待しているのだ?
少々頭が混乱してきたが、大宰相に言い返した。
「逃げようなど、考えたこともございません。何故なら私は」
今もそう思っているだろうか。それはともかく、十歳の私はこう言った。
「イスタンブルで
大宰相は少し驚いたようにつぶやいた。
「野心家だな。何故徴用されたときからそんなことを考えるのだ。他の子たちは皆泣いていただろうに」
「はい…他の子は泣いていましたが、私は、母の言葉を支えに、泣きませんでした」
「母の言葉とは?」
「必ず、
私の幼い野心に対して、大宰相は苦笑して言った。
「その言葉の意味がわかるか?」
何故、そう問われるのかがわからなかった。
そのままの意味ではないのか。
今になればわかる。
徴用された少年の中で、
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