【緊急補足】みんなの大疑問「なぜロシア経済はいまなお崩壊していないのか?」の謎を解く(後編) ←ルーブル買い支えのカネ尽きたら多分死亡

○それでも「既にルーブルは紙くず」という現実は変わらない


現在、ロシアにはまだ欧州を中心にエネルギー売買取引があり、数兆円規模の入金があります。このカネでルーブルを買い支えているのですが、今後、エネルギー関係にも制裁が加わり資金流入が先細ればルーブルを買い支える資金が無くなります。支える資金がなくなれば、今まで「嵩上げ」していた部分が消滅するので一瞬でストンと暴落してTheEndの可能性が出てきます。履かせていた「ゲタ」がなくなるわけで、元の分相応の「背の高さ」に縮むということです。


確かにロシアの原油などが密輸されているのは事実です。例えば黒海からロシアのタンカーに積まれた原油などの天然資源はスペイン沖でギリシア船籍の船に「背取り」され、そのままインドへ直行。その後、インドで加工されて欧州に輸出されているわけで、これだと「インドから輸入した」になるために制裁逃れ出来ます。とはいえパイプラインで送る量に比べれば遥かに少なく以前の貿易総額全額を賄うことは出来ていません。要するにルーブル買い支えが今後も可能な額面なのか疑問であり、資金的に先細っているということです。


一応の数字を並べてみます。インド商工省によれば2021年4~12月に約65.8億ドル(約8,875億円)だったロシアからの輸入額は、22年の同じ期間でほぼ5倍の約328億ドルに急増。特に石油関連の輸入額は約10倍になったそうです(朝日新聞)。なおロイター外電によればこの間、ロシアからの輸入総額は463.3億ドルと4倍近く増加したとの事です(これらの数字には背取りが含まれてるのか否かは不明)。

とはいえ、戦前の20年ロシアの黒字およそ10-12兆円の内、八割はエネルギー系天然資源による収益。この内、原油の50%、天然ガスの73%がヨーロッパに輸出されていたわけで、脱炭素化ふくめて欧州からの収益が完全に止まった時にどこまでインドで代替出来るかは不明です。


また中国との貿易がロシアを支えているということはよく言われていますが、中国自体がゼロコロナ政策と国際的な対中貿易圧力、また長年の累積債務による負担+近年の激しい世界的なインフレにより経済力の回復が全く思うように進んでいません。このため中国がロシアを全力支援しているとは言い難く、輸入に関しても「中国の必要なものだけ。しかもメインは民間がやる」に徹しているようです。ロシアが欲しがっている武器兵器の供給は行われておらず、ハイテク製品等の輸出も限られているようです。これらは中国共産党の意向と考えられ、既に習近平さんはプーチンを見限っているのかもしれず「屍体と付き合って欧米にこれ以上睨まれて、道連れで死ぬつもりはない」という現実的な判断があるのでしょう。事実、ロシアの武器のメンテを請け負うと言い出した「日米豪州の仲間のはずのインド」などに比べれば「遥かに人道的」と言えます。実際、石油などの輸入量ではインドの方が遥かに大きく、


中国人「なぜインドよりワイら中国の方が悪者扱いアルか?!(ꐦ°᷄д°᷅)💢」 


…の中国人の激怒は「全く正当」です。インドの方が遥かにタチが悪く、中国は「よく自制している」程です。ワイからみても「中国が気の毒」と思えるほどです。とはいえ日経によれば2022年の中ロ貿易額は1,903億ドル(約24兆円)と前年比で30%も増え、2年連続で最高だったそうですが…(๑¯ω¯๑)



もう一つは世界的な景気後退懸念で、今年に入って中国経済の減速および世界的な景気後退懸念から原油およびエネルギー価格は先物市場で下落を続け、またロシアは稼ぎを増やすために原油などのダンピングをしている事から考えてもロシアの収益増は厳しく、また世界的な高インフレにより輸入物品の価格は上昇の一途です。よく「原油などの鉱物資源だってインフレで価格が上がるからロシア有利ではないか?」と言われますが、現在においてインフレの主因は「人件費」「不動産(含む家賃)」の方で、これら二つは下方硬直性があり一旦上がるとなかなか下がらないものです。よって不必要に物価は上昇し、これをロシアは輸入しなければならないなら「余計にルーブルを支払わねばならない」のです。


加えて戦費負担の激増があります。ロシアは今年になり財政赤字を月六兆円も出すようになっています。これはロシアの政府歳入つまり租税収入の20%にもなり、長く続けることは出来ないでしょう。これまでだったら戦費は欧州などから支払われるエネルギー代金を当てていたのですが、これをルーブル防衛に回さねばならず、今まで持っていた貯金を取り崩して戦争続けるしかなくなったために突然、戦費負担が目に見える形で出てきたと考えるべきかと思われます。この毎月六兆円の出費は流石に出し続けることは不可能と思われます。


例えば2010年代のアフガンを中心とした対テロ戦争を戦った米国は毎年10兆円程の戦費負担を強いられていますが、12ヶ月の合算値が10兆円であり、しかも租税収入でロシアの10倍、GDPならば15倍もありました。人的犠牲も二ケタ小さく「十分な余力の範囲内」で戦争した米国とは比較になりません。このためロシアのバフムト攻勢は長い割には成果が上がらす、カネと生命を過剰に消耗し続け国家への負担を増やすと共に、戦費負担の激増から継戦余力を失い、ますます戦争勝利の希望が薄くなる…の悪循環の繰り返しです。攻撃にも回すカネがなく、ダラダラと続けるしか失くなり、ますます戦費負担が増大していく無限地獄に陥っているということです。



資金の枯渇が見えてきた今、戦争続けたいのならば増税するか戦時国債を発行するしかないでしょう。不足する戦費とルーブル防衛の元ガネが必要だからです。しかし増税は国民の反発を招き、タダでさえ戦争勝利の希望のない国民の不満が高まる政治的リスクがあり、また2024年のロシア大統領選挙を考えても慎重にならざるを得ない選択肢です。他方、戦時国債発行は有効なはずです。戦時国債を発行してカネをゲットし、そのカネを国防などに投下するというやり方ならば理論上、その金額の上限は「戦時国債+金利=国民資産M2」となります。全国民資産を吸い尽くすという意味では第二の税金ですが、露のM2は150兆円程度しかありません。これは日本の2,100兆円、中国の推定3,600兆円などと比較して極めて少額であり、韓国M2の320兆円の半分程度しかありません(GDPは韓国と似たようなもの)。


それでも「150兆円は使える」と言われそうですが、この150兆円相当のルーブルは買い支えという為替操作介入によって維持されているルーブルの算定値であることに注意です。増税や戦時国債発行が間に合わずにルーブル防衛資金のほうが先に力尽きればルーブルは底抜けし、150兆円あったはずのルーブルが事実上、無一文になる事で戦費とロシアそのものが力尽きます。同時に国債を発行しても民間が購入してくれるかは不明で、強制的に購入させるのであればそれは事実上の第二の税金と変わらず、しかも金利+国債購入分のカネが市場に溢れて急激に悪性のインフレに見舞われます。財政ファイナンスと同じことです。タダでさえロシアのインフレ率は20%近くあったわけで、これがルーブル介入によって低く抑えられたにも関らず財政ファイナンス効果によってインフレが亢進こうしんすれば物価高という生活苦から、これまた政権が危うくなります。おまけに戦時国債を買ってもらうために高めの金利をつければ、金利分=事実上の通貨供給量増加分=インフレになるわけで、ますますインフレが亢進するという悪循環です。そしてインフレは「通貨の価値が下落すること」です。輸出が出来たり海外資産を回収できるならともかく、経済制裁でまともに取引が出来ないのならばルーブル安はリスクにしかなりません。


同様にルーブル介入にも相当の問題があります。介入によって不必要にルーブルが高くなれば資源販売時にルーブル高のために輸出額高騰を招き、またロシア人が海外に行きやすくなる・投資しやすくなる等のルーブル流出懸念が出てきます。本来は海外へのヒト・モノ・カネの流出を厳しく制限する必要があるのですが、どうもこれについてはやっていないようです(理由不明)。過度なルーブル高は逆にルーブル下落要因でありタダでさえ元金がない(中銀などへの制裁のため外貨準備高が少ない)ロシア経済にマイナス要因となります。また下がりすぎればインフレ懸念が悪化します。なにより市場を通さないので通貨の自立安定性がなく、ルーブルの適正値が判らず、また政府の買い支え策の資金が尽きた段階でルーブルは一気に下落の危険があります。

そもそも買い支えのための資金を海外への輸出に頼っている以上、経済制裁の悪影響から逃れることも出来す、また国内産業の自立化政策も進んでいません。資金源である原油などのエネルギー資源は主に中国と米国の景気後退懸念から需要減の下落が続き、これはロシアにとって資金的に苦境なだけでなく、輸出に際してはダンピングしていると言われているために益々利益は薄く、この状態でルーブル買い支えと戦費調達の二正面作戦を続ける…という実に苦しい状況でしょう。そもそも為替介入がよくない…ということです。


もう一ついえば人民元やルピーでカネをもらっても「世界では通用しない」という厳しい現実もあります。確かにルピーや人民元の流通範囲内では使えます。しかしこれらの世界市場における流通量は限られたものがあり、保有分のルピーや人民元でドル(=この場合は無限通貨スワップで結ばれたユーロ・円・ポンドなど経済制裁参加主要国通貨全てと同義)に換金する場合はルピー・人民元の対ドルレートという事になり、ウワサされているようにインド・中国にかなりダンピングしてエネルギー資源を輸出し(資源価格下落+足元見られている)、もともとの収益が減っている時に通貨安通貨でドル購入する損買いになるだけでなく、多額のルピー・人民元売りが益々両国通貨の下げ基調を呼ぶ…というのも悪循環です。てか、そもそもロシア系金融機関による市場取引が禁止されているのならば、ルピーと人民元の領域でしか経済活動の余地がなく、ルピーと人民元流通範囲でどれだけロシアの必需品が購入できるかが不透明です。これらはロシアのインフレ圧力・物不足圧力となります。


てか、インドや中国、ルピーや人民元の支払いに関して「制裁の関係もあるから、売掛けで」と出し渋っているという話もよく聞こえてくるんですけどね…(爆死


相手が弱ってくると、すぐに足元みるよねー…(^m^)



  ※     ※     ※


これらを勘案すると現在のルーブル政策は弥縫策びほうさくに過ぎないと言えます。

たしかに新自由主義的なアプローチは死にかけた国家を救済する「魔法」なのですが、国家の健全な「身体」と「精神」は健全な経済を構築することから始まるのであり、これはカネだけで出来ることではありません。実際、ロシア中銀総裁ナビウリナは、自らの市場中心主義・新自由主義を捨て「ロシア国家主導による国内産業力の育成強化を!」と連呼しまくっています。ニューケインジアン的な総合国家経済対策を求めているのであり、産業力・自給力を高めなければ「カネだけ弄っても無駄」という事がよく判っているということです。


これは1985年のメキシコ通貨危機が念頭にあるのかも知れません。当時、メキシコは国力衰退による不景気から深刻なデフレに陥っていたのですが、ここで経済顧問だった新自由主義者の大家フリードマンは「通貨供給量増加によるインフレでデフレ脱却+経済成長を」と進言し、そのとおりにやったら、なんと逆にメキシコの通貨ペソ暴落→事実上の国家破綻に至りました。日本のアベノミクスで成功したやり方が、この時のメキシコには通用しなかったということです。

ペソの市場供給量増加がペソの価値を押し下げ、ペソ価格の下落を嫌った国内外の投資家がペソ売り・ドル買いによってペソ暴落→死亡…という経過を辿ったとされています。これは当時のメキシコのファンダメンタルが弱かったため、国内経済力不足懸念からペソ流出に至ったようです。破綻前のメキシコは産業バブル景気に湧いていた時期もあり「経済力は強い」と錯覚していたのかも知れません。このためメキシコは北米協定を結んで国内産業の滋養に努めているわけで、逆に言えばアベノミクスが全く同じ理屈で日本の国力を劇的に回復させることが出来たのは「日本の基礎産業力が強い」からということでした。


カネを救えば国家は救われるものの、カネだけ救っても国家は救われない…という厳しい現実です

新自由主義・マネタリズムにも限界があるのです…(๑¯ω¯๑)




○現在のルーブルの実際の価値は1/100-1/200以下と推定

 →ロシア、ハイパーインフレの可能性


では最後に、ルーブルがどのくらい嵩上げされているのか?…ということですが、為替介入をした段階で市場評価が狂うので正確な数字が分かりません。そこで国家破綻の指数とされるCDS〜クレジット・デフォルト・スワップから類推してみます。


5年モノロシア国債は大体、13800bps前後で固着しています。これ以上の取引が出来ないからかもしれません。物凄い酷い数字です。正直、ここ半世紀で見たこともない値です。

ちなこの数字の意味ですが、ロシア国債を証券会社に預けたり運用したりする際には、とりあえず持ってるロシア債権の金額の1.4倍くらい払え!…的な内容です。この他にも様々な費用負担が必要でずか、たとえば500億円くらい持ってるのなら、別途、700億円くらい支払わないとダメという感じです。この他にも様々な手数料などを支払う必要があり、もし支払わないor支払えないという場合には「ルーブル含めて貴様の資産、勝手に売り飛ばしてカネに変える!」というマージンコールくらうことになります。


なお、年がら年中国家破産するとウワサされている日本ですが5年ものが23bps、安定銘柄とされるドイツは13bps、逆に欧州の劣等生といわれるイタリアが114bps、累積債務問題に加え対外的な政治的緊張+景気が一向に回復しない中国でも76bps。逆に恒常的な破綻国家のアルゼンチンが1030bpsです。ロシアの13,800というのは、これらに比較しての数字です(爆)。なおアルゼンチンはテクニカルデフォルトを含めれば10年に一回のペースで破綻しています…(死)。なので今のロシアが如何にとんでもなく異常なのか?…がわかります。そこでこの数字、ウクライナ侵攻以前と比較してみます。侵攻前が「本来のルーブルの安定度」と考えてみるということです。


ロシアがウクライナとの国境に兵力を集め始めた事が不安となり始める前の2021/10月の段階ではこの数字は大体80bpsでした。ロシアはこの値を中心にこの数年、60-120の間を揺れ動いています。新コロの悪影響や年平均10%を超えるインフレ率などが続いていたためで、要するに元々のファンダメンタルズが大変弱い国ということです。ということはこの両者の数字の差分、つまり本来のルーブルの価値はおよそ1/170くらいだろうと予想できるということです。

戦後直後の日本が1帝国円が360新円にまでなった(1/360)と比較しても相当の暴落といえ、しかもルーブルに関しては事実上の取引停止(売買が成立していない…などの理由)かと思われ、実際にはこの数倍酷くても全くおかしくないほどです。なら、ルーブル買い支え資金が尽きた場合には現在のルーブル価格が1/100〜/200くらいにまでストンと落ちてもおかしくないということです。その結果はハイパーインフレで、国家倒壊も十分にありえます。戦争によって破滅する国家は、実際にはインフレによって破綻するのが常で、経済制裁の悪影響はジワジワと強烈なボディブローのように効果があったということです。


  ※     ※     ※


こう考えるとプーチン・ロシアの将来はやはり希望のないものと言えます。特に敗色濃厚になった事もあり中国などの援助も期待ほどではなく(敗け組にワザワザ手を貸す国は少ない)、ロシアが助かる道は経済制裁解除しかないということになります。制裁解除が可能かどうかは今後の政治〜特に米国政治の動向にかかってくると思われます。インフレは全ての国の与党にとって逆風なので2024年の米国大統領選挙も順当に考えればバイデン政権敗北で共和党大統領誕生。現在、共和党大統領候補で最有力なのはトランプなので、普通に考えれば2024年以後、トランプが返り咲きます。トランプはプーチンとの関係改善を目論んでいるとウワサされているため単独で制裁解除の可能性もあり、おそらくプーチンも「バカなトランプを手玉に取って…」は期待してることでしょう。そうなった場合、奇跡のプーチン・ロシア復活…という事もありえなくはないということです。まるで七年戦争のプロイセン帝国およびフリードリヒ二世のような奇跡ですが、それでも経済制裁が完全に解除されなければ徐々にロシアが弱っていくことには代わりはないと思われます。


逆にウクライナとしても頭が痛いのはココで、バイデン民主党政権は「国内外で左翼過ぎ」て嫌われている+世界的な激烈インフレのせいで2024年の大統領選挙で大敗北。現状、政権交代は確実でしかも共和党は反ウクライナ的という事も判っているでしょうから、それまでの残り一年半でそれなりに大きな戦果を出す必要性があるという事で、これが純軍事的・経済的な効率を損なう可能性があります。ゼレンスキーにとっても困惑する事態です。


政治に関してはワイが何かいう事はありません。政治に興味がないからです。よってロシアの未来は(ワイではなく世界の指導者と、彼らを選ぶ貴方がたの選挙の結果の)今後の国際政治情勢および経済情勢次第ですが、ロシアは今のうちに仮初めの春を楽しんでおくことを奨めますね…。

経済制裁解除がロシアが生き延びる唯一の希望であることは変わりないのですから。


何にしてもインフレが決定要因…ということには変わりはなさそうですね


        【 この話、終了…m(_ _)m 】




  ※     ※     ※



【補足】

ロシアの2023年1月~4月の政府歳入と歳出の速報値が出ました。

ロシア連邦予算の歳入は7兆7800億ルーブル(約13兆3000億円)。

予算支出は11兆2100億ルーブル(約19兆2000億円)。

よって3兆4200億ルーブル(約5兆8000億円)の赤字。

露財務省によると年間計画では2兆925億ルーブル。すなわち1/3で既に赤字超過。


ロシアの非石油・ガス収入は1-4月で前年同期比52%減の2兆2,000億ルーブル。

非石油・ガス収入は期間中5%増加し5.5兆ルーブル。

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