§8-4・教育バウチャー制度…イジメ、不登校、受験戦争など全ての問題を一気に解決した「義務教育を辞める」という偉大な選択

§8-4-1・死闘!神よ、古代進さんのために泣け!(前編)〜古代進というガミラス戦役の勝者にして義務教育の敗者

西暦2200年3月27日(木)、ガミラスは最期の時を迎えようとしていた…


偉大な先進文明を誇り、大マゼラン星雲を中心にその版図を広げていた帝星ガミラス帝国は、その勢力圏拡大に伴う多額の戦費と戦時債務、そして慢性的な戦争状態に伴う経済的・人的負担によって劣化し、一年前まではワープ一つできない超発展途上国・テロンの野蛮人に本星を劫略ごうりゃくされ、結構アッサリと潰滅する醜態を晒してしまう…。


とはいえ、こうした「奇跡の勝利」自体は実は歴史的にはよく見られたことだった。たとえば帝政末期のローマ帝国がまさにそうであり、ゲルマン系諸部族を始め野蛮人どもがローマ本土に頻繁に侵入し、これを効果的に撃退することも出来ずにやがて消滅していった歴史に重なる。イタリアのロンバルディア地方なんて、もともとはゲルマン系ランゴバルト族がローマ帝国劫略の末に居座ったことがその由来とされている。その意味ではガミラス帝国のよもやの敗北も「よくある事」の一つに過ぎない事柄だった。特に珍しくもないのだ。


なにより「チンピラ・ジャパン」こと宇宙戦艦ヤマトの諸君は強すぎた。イスカンダルの姐さんを抱きすくめて「宇宙一つ」丸々詰め込んだような波動エンジンをゲット。この「タナボタパワー庫」から放たれる無尽蔵のエネルギー(しかもタダ)は「波動砲」という常軌を逸した激烈な噴流となり、ガミラス本星を丸々焼いた。「波動砲射ったら、暫くはエネルギーチャージのために身動きできぬ」という前評判をも覆す強さを誇る不沈戦艦は、ガミラス乾坤一擲の本土決戦を無差別艦砲射撃で情け容赦なく叩き伏せ、市民を含めてほとんどのガミラス人を死滅させるほど徹底的に焼き払ったというのだから、明らかにやり過ぎだった。ヘタすれば戦後、人道に対する罪に問われかねない無敵の攻防力だった…


そのためだろうか? それとも野蛮人なりの心の優しさでもあったのだろうか? この本土決戦に勝ち残った無敵戦艦ヤマトの、とあるクルーの慚悔ざんかいが残されている。彼は、後に妻となる女性と共に涙しながら、こう言ったとされる…



俺達は小さいときから人と争って、勝つことを教えられて育ってきた…。

学校に入るときも社会に出てからも人と競争し、勝つことを要求される。しかし勝つものがいれば敗けるものもいるんだ…。

敗けた者はどうなる? 敗けたものは幸せになる権利は無いというのか?

今日まで俺はそれを考えたことがなかった。俺は悲しい、それが悔しい…



…要するに、こういうことだった。

古代進さんは超エリートであり、人生で敗けたことがなかったのだ。勝ち組だった。十代で士官学校に入り、学生の身分でありながら重要な火星基地に配属されてもいた。僅か20歳前後でありながら遣イスカンダル使節団の戦闘班長になり、高性能艦載機を自ら操っては航空戦隊を指揮。また決戦兵器たる波動砲の管理と運用の全権を委任されていたばかりか、使節団長を兼ねていた沖田提督病気に際しては、他のおっさんたちを差し置いて艦長代理にまで昇進するほどであった。いくらガミラス戦役による人的損失が大きかったとはいえ、普通ではありえない出世街道だ。18歳の子供に人類の未来を任せるなんてのは、ごく普通に考えたら自殺行為だ。しかし古代さんは任されたのだ。超エリートだったから「やらされた」のである。そして彼にはイスカンダルから帰国の後は洋々とした栄達の道が待っていたのだろう。なら喜び勇んで地球にコスモクリーナーを持って帰りたかったであろう。自分のために…だ。始めから彼は学閥エリートの権化だったのだ…


と同時に当時の厳しい学歴社会も垣間見える。

1970年代の日本は「一浪、人並み」と言われるほど厳しい受験競争を強いられていた。当時の日本はまだ貧しく、豊かになるには高学歴を取得し、高給取り(主に勤労所得で)を目指すしかなかった。よって当時のエリートは医者だったり一流企業だったり銀行だったりキャリア官僚だったが、当然、大変狭き門だった。これらに入るためには良い大学〜普通は旧帝大+ごく一部の国立大学か、さもなければ医歯薬理工系エリート校に入るしかなかった。そのため、良い大学に入るために幼い時から人と争って勝つことを要求された時代だった。敗けたものは出世の道が閉ざされ、安い労働賃金の職種に甘んじるしかなかった。敗北者のレッテルを貼られ、嘲笑と侮蔑と貧困から抜け出せず、幸せになる権利はないとされていたのだ。


古代氏の発言は、そうした「個人を抑圧し、優勝劣敗・適者生存、また人為淘汰による劣弱者の排除の正当性」を是とした、当時の冷酷で非人道的な日本の社会進化論的エリート主義を端的に言い表した重要な「生き証言」でもあったのだ。無論、他にも重要なこともある…



日本の教育問題なんて、いまは関係ないんじゃね…ಠ_ಠ;?

オマエの足元でガミ公ども丸焼けになってんだぞ…ಠ_ಠ;?


彼はTPOをも完全に間違えていたのである…

しかしこれも仕方がないことだった。


彼はまだ若く、しかも競争社会しか知らなかった。よって他の表現方法が判らなかったのだ。これこそが学歴偏重社会が人格に及ぼした重大な弊害だった。敗者への配慮、仲間への友愛、全人類的な普遍性を持つ「愛」を学校や社会が教えなかったために、古代氏は野獣のような獰猛さと傲慢さを自らの中に育てていたのだ。

時に友人と乱闘騒ぎを起こすような荒々しい彼の人格を形成したのは間違いなく当時のテロンの義務教育システムのせいであり、これを自ら矯正し「愛」の尊さを戦争の苦悩の中から感得していく「人間性の回復」こそが宇宙戦艦ヤマトの根源的テーマだった。一部の愚かな左翼がいうような「日本の愛国心まるだしの右翼アニメ」などという馬鹿げたタワゴトが、読解力の欠如と知能指数に欠けた左翼歴史修正主義の妄想に過ぎないことは明白だった。その意味では、ガミラス本星テリヤキ事件もまた確かに教育問題であり、教育の本来の目的でもあった「全人的な知性の形成」に失敗した時代の悲劇とも言えた。


勿論、でっかい石ころを先にブン投げてきたのはガミ公の方なんだけどね…(^_^;)





○暮れなずむ学校の、光と影のなか…

「金八先生」というドキュメンタリーフィルムについて

 

日本の教育現場は戦後、悲惨な「戦場」と化した。60年代までは貧困から抜け出すための唯一の方法として学閥エリート主義がはびこり、70年代は世界的な反戦平和・反権力的左翼暴力革命闘争の最前線になっていた。「学園紛争」というテロ行為だった。80年代は学力偏重主義・エリート優越思想という権力構造に対して、反権力暴力騒動が日常化するに至る。いわゆる「学級崩壊」という状況だった。本当に酷い状況だった。


筆者はこの世代だった。我らの時代、中学校で勉強したことはなかった。荒れ果てていて、まともに授業が出来なかったからである。不良が授業中、学校内を濶歩し大暴れしていた。警察が呼ばれることもあった。窓ガラスなどは割られ、教師が殴られたりもしていた。よって冬は外気が入り込んで寒くて授業はできなかった。不良どもいわく「タバコの煙が目に染みる」から窓を叩き割ったとのことだった。不良は「バカ」で、小学生の頃から勉強が出来ず、既に豊かで幸せな未来は存在していなかった。バカや不良の人生に希望はなかった。落ちこぼれには、それにふさわしい惨めな人生しか残っていなかった。そのルサンチマンのせいで彼らは学校で暴れた。普通の子どもたちも荒れた学校で暴力に怯えた。


なにより「学歴」という社会的圧力は凄まじく、全ての子供を圧殺するかのようなプレッシャーになっていた。学区内のどこかで毎年数人は自殺者が出ていたが、「特に気にもしてなかった」時代だった。どのクラスにも不登校児がいて、一度も顔を見たことのない「クラスメート」がいたものだった。現代につながる不登校の問題は、すでに80年代には我らの隣の席にあった。


イジメもまた酷いものがあった。大人の社会から理不尽に強制された学歴競争は、確実に子どもたちの心を蝕んでいた。心の弱者たちは、より弱者へと情け容赦のないイジメに走った。自らの恐怖とストレス、鬱積する不満を、より弱いとされていた友人にぶつけて「遊んでいた」。身体障害者や知的障害者は差別と侮蔑ぶべつの対象でしかなかった。それどころか「何処かが弱い」というだけでイジメられたり、仲間はずれにして遊んだ。

子どもたちサイドの「イジメられる側が悪い」という屁理屈と、教師を始めとした大人サイドの「自分の学校からイジメの被害者が出ることの社会的風評」への恐怖から、自殺者が出ても隠匿されるのが普通で、人格形成の場であるはずべき学校の中には、どこにも正義がなかった。理性や秩序がなかったのだから当然の結果だった。これでは不登校の子どもたちに「学校に出てこい」とは言えるはずはなかった。大日本帝国陸海軍の方が、まだ遥かにマシだったろう。帝国軍兵士なら数年後にはシャバに戻れるが、義務教育は都合12年も続く悪の徴兵制度だったからだ…


教師もまた苦悩し、しかも不良達が殴りかかってきた。同時に権威主義がはびこり、体罰は日常でもあった。不良を殴ることは出来なかった教師も、ごく普通の生徒には顔の形が変わるほど殴ることはよくあった。なにより子どもたちは学校でまともに授業できないほどだった。生徒による教師イジメも頻繁にあった。教師が袋だたきに合うこともあれば、レイプまがいのスカートめくりされて不登校起こした女性教師も結構いた。見た目がブサイクな教師はなお悲惨で、授業中に「ブス、あっちいけ」と教科書や筆箱、時には「ゴリラ女、エサやるぞ」とバナナの皮をぶん投げられて、ブサイクな女教師が泣き出すようなことも頻繁にあった。バナナはおやつではないし授業中に食べていいものでもなかった。そんなことも分からないほど、まともではなかった。


その結果、親はカネを払って子どもたちを私塾に通わせ、子どもたちはそこで初めてまともに勉強するのが通例だった。義務教育の現場のレベルは低く、教師の学力は低かった。これは「教師が自分の専門分野を深化発展させるための環境が、そもそもない」ことが原因だった。教師は日々の暴力や学級崩壊の後始末に追われた。自分の身に危険が降りかかることも多かった。バカ不良共がバットもって殴りかかってくるからだ。

同時に社会的な圧力も大きかった。「子どもたちを良い高校・よい大学にいかせろ!」という有形無形のプレッシャーだった。全ての責任を、無責任に教師に押し付け、教員は心と身体を病んで辞めていった…。実際、担任が突然いなくなるという「不登校」も一年のうちに何回も起きるほどだった。教師が不登校起こす時代になっていたのである。子供が不登校児になったとて全くおかしくはなかった。教室がおかしいだけだったのだ…


他方、私塾は秩序と充実した教育環境があり、講師は高い専門性を持っていた。予備校などに初めて通った子どもたちが「こんなに勉強は面白いものだったのか…」と愕然とすることも多かった。その時に初めて「教育に感動した」のである。普通の子どもたちだけではなかった。不良やバカどもでさえ、勉強ができれば「嬉しい」ものだった。しかし競争社会がその貴重な「嬉しさ」を踏み潰し、挫折しか産まない間違えた環境を生み出していた。


全ての子どもたちは本来、自分のペースで勉強がしたかっただけなのである。知ることは面白い。競争することが嫌なのだ。受験競争などという、自分の人生を賭けねばならないバクチにする必要など本来はないはずだし、受験戦争という戦争に参加したくもなかった。平和憲法がある国でなんで国内で戦争しなきゃならないのか? 同じ民族・同じ学年・同じクラスメート同士でバトルロイヤルするなんて狂っている。「やりたきゃ勝手に殺ってくれ。俺の分まで頑張ってくれ」…受験戦争なぞ、そんな無駄な戦争だ。競馬の勝ち馬にカネを賭けたいとは思っても、自分がウマ娘にはなりたくないのである。走るのが得意でないのなら、なおの事だった。同時に思い知った現実もあった…


「教育はタダではない」


子どもでさえ実感した厳然たる事実だった。

ある意味、私塾での勉強は充実していた。よって子どもたちは常に寝不足だった。義務教育という無駄な時間を昼間に使わねばならず、そのしわ寄せで深夜まで勉強しなければならなかったからだ。ただし、これも「カネのある家庭」に限られたことだった。貧乏人には不可能な贅沢であり、親ガチャの敗北者は生まれながらに下層階級に甘んじるしかなかった。教育格差とは所得格差でもあったのだ。肌で実感した、厳しい現実だった…


日本の義務教育は80年代に完全に崩壊していた。


当時の世相を反映したドラマが存在していた。「金八先生」という学園モノだった。中身は割愛するが「あれ、ワイの中学そのまんま」という内容だった(爆死)。ドラマではなく、単なるドキュメンタリーフィルムに過ぎない。


よって「80年代の教育現場って、どうだったの?」に関しては「金八、見ろ」で終了だ。ほぼ正確で、それどころか、どの学区でも一人二人は妊娠したり(中学生女子なのに)駆落ちしたりするヤツが出たほどで、ワイのクラスメートにも実際いたほどだった。頭の良いカワイイ女の子だったが、いい子を演じた末に家から飛び出し、家庭教師と京都くんだりまで家出してヤッていたというのだから、なんかよくある「薄い本」みたいな顛末だった。「クラスのマドンナ」の裏の顔が…という典型的なストーリーだったが、いま何ヤッてんのかは知らない。イチイチ気にしていてもしょうがない程度の、ありふれた日常だったからだ。当時の我々がそうで、「女は怖いね(笑)」「彼女はもうおしまい。ゲラゲラ( ^ω^ )」程度の認識しかなかったのだから、我らの心の荒廃も酷いものだった。


学校とは、高度経済成長を成し遂げた末の人間性の墓場だった。

「古代進」とは、当時の我々にとても近しい「親友」だったのである。彼を嘲笑うことなど、出来るはずもなかった…



       【 この内容、後編に続く… 】

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