§5-2-9・日銀によって砕かれたアベノミクス。必要だったのは「金利」その1〜貨幣乗数の死と預貸ギャップと…

○「HmV=PY」の時、貨幣乗数mと流通速度Vがやたらと死にまくっていた理由→「金利」


 前回、モノを購入するというカネの流れに関わる流通速度Vが停滞した理由から、政府財務省が個人消費向上策を採用することなく、僅かなカネを惜しんで増税しまくったからアベノミクスが財政政策的に失敗したという結論を得た。ケチの報いが破産という事になりかねないというリスクだった…m(_ _)m


 ※     ※     ※

 

 次に貨幣乗数mの考察を行う。こちらは「カネの効率性」に関わる問題だ。

 インフレ・デフレは「カネとモノ」との関係性で説明できた。前回は流通速度Vというモノに対するカネの流れを考えた。なので今回は「カネの効率性」…「カネがカネを生む」というカネのメカニズムを解釈し、金融政策上の悪影響について考えてみたい。前に述べたように、


貨幣乗数(信用乗数)m =マネーストック(マネーサプライ)M ÷ マネタリーベース(ハイパワードマネー)H


…貨幣乗数とは中央銀行がコントロールできるHに対して、どのくらいの国民現金資産が創造できるか?という意味だった。

 これは「日本円の支配領域」に日銀がどれだけ円という通貨の供給量を政策的に増やせるかということでもある。具体的には、日銀が撒いたカネの中で、民間金融機関がカネを貸し付けると何倍にもカネが生み出される「信用創造」というメカニズムによって国富が増強するという事だった。なので貸付の元ガネの「預金」が大事ということだ。

 

 日銀が公開市場操作の買いオペなどの金融操作でバラまいたカネのうち、どのくらいが「預金」に回って、その預金がどのくらい民間市場に流れて「信用創造」の効果でカネを倍加させたか?…という「カネがカネを生む」メカニズムであり、この割合を示すのが貨幣乗数だ。例えば日銀が10兆円撒いたら、国民資産と預金の総額が50兆円増えた場合には貨幣乗数は5ということになる。これらはまた、


マネーストックM =民間の総通貨供給量C +預金D

マネタリーベースH =民間の総通貨供給量C +法定準備預金R


…でもあるので、


貨幣乗数m =(民間の総通貨供給量C +預金D) ÷(民間の総通貨供給量C +法定準備預金R)


…となる。ただ単に展開しただけだ。とはいえ、これに実数で計算を始めるとデカくなりすぎて不便なのでパーセンテージで考えてみたい。すると貨幣乗数は「預金D」による効果なので、これを基準として分子・分母ともに「/D」してやれば預金に対するパーセンテージで表示できるようになる(^^) その方程式はこちら…( •̀ᄇ• ́)ﻭ✧


貨幣乗数m =(C/D+D/D)÷(C/D+R/D) =(C/D+1)÷(C/D+R/D)


式だけ見ると「難しそ…(:_;)」と感じる。しかし単純に考えれば良いと思う。

マネーストックMとは、ぶっちゃけ「日本人の全金融資産」であり、「民間の総通貨供給量=民間の手持ちガネの量」と「預金」の合算だ。

 全資産が110円だった時に預金が10円なら、手持ちガネは100円で、現金/預金比率は0.1ということになる。よって「C/D」とは、マネーストック(全金融資産)の内の「現金(手持ちガネ)/預金比率」ということだ。他方、「R/D」は法定準備率となり民間金融機関が中央銀行に預けている法定準備預金の割合となる。


例えば現金/預金比率が10%、法定準備率も10%だった場合の貨幣乗数mは、

m=(0.1+1)/(0.1+0.1)=5.5倍 …になるので、この時に日銀が10兆円撒けばマネーストックMは55兆円に膨れ上がる。


おや?? ということは…( ・᷄д・᷅ )?

…( ゚д゚)ハッ!


仮に現金/預金比率が1%、法定準備率が10%だったら…

m=(0.01+1)/(0.01+0.1)=9.181818倍

…になる。日銀が10兆円まけば92兆円近くに膨れ上がる。



逆に現金/預金比率が10%で、法定準備率が1%の場合は…

m=(0.1+1)/(0.1+0.01)=10倍

…になり、日銀が10兆円撒けばマネーストックMは100兆円になる。


…ヮ(゚д゚)ォ!


(^^)つ「法定準備比率や現金/預金比率(企業や家計が持つ預金に対する現金の比率)が上昇すると貨幣乗数は低下する」



 前々回の信用創造の理屈で、民間金融機関に、より潤沢な預金があれば、その分貸出しに回って「カネがカネを生む」乗数効果が発揮できるということで、逆に日銀が法定準備率を下げれば、民間金融機関にカネが戻るのでより潤沢な預金が出来、その分貸出しに回って…ということだった。貨幣乗数は金融の効果…預金や貸出しによってどれだけカネを生み出せたかという信用創造のパワーを確認するカネの流れだ。


ところがこれが安倍政権下では6倍→2倍と激減していた。これがアベノミクス失速の主因だったのだ。


なぜだ…(?_?)



  ※     ※     ※

  

  

○預貸ギャップという悪夢…┌(_Д_┌ )┐


 アベノミクス期、日銀の大規模金融緩和によって大量のカネが民間市場に流れ続けた。しかし貨幣乗数が6→2倍と減っているという事は、少なくとも「預金D」が、この増加比率分は増えてなかった事を意味する。そこで各種データを拾って検討してみる。基本は日銀配布の資料および厚労省・財務省のHPのデータと、OECDのデータ「https://stats.oecd.org/Index.aspx?QueryId=51648」だが、此処をベースとした各種金融研究機関等のグラフ複数本を調べての結論を筆者の文責で提示する。また2020年は新コロ対策で主要先進各国が経済対策の一環として大規模な給付金支給により家計が爆増するという極めて特殊な状況なため、新コロ以前の年限を対象とした。


まず各国対比での預金率の推移を見てみた。

数字は大体で小数点以下四捨五入(よって雑)


米国 9%(1990年)→4%(2005年)→7%(2018年)

ドイツ 13%(1990)→10%(2005)→10%(2018)

日本 15%(1990)→4%(2005年)→-0.3%(2014年)→5%(2018年)


…と、本邦は約30年で15%→5%にまで預金率は低下した。2014年の激烈な低下はむしろアベノミクス開始に呼応した急激な金融緩和の影響のように思う(翌年から急激に預金率は回復するので)。これだけ見れば確かに「預金D」が減った…と言えそうなデータである。ただし各国で「預金D」の科目が違うし、インフレ率も違えば、日本のように金融緩和をダラダラと続けまくった国と米国のように経済成長し続けた国では状況が違うのでこのデータだけではなんとも言えない。言えるのは「年を追うごとに相対的な預金比率が減っていった」ということだけだ…_φ(・_・


 それにしても奇妙なのは米国の五人世帯の平均貯蓄額は白人で270万程度、黒人だと10万円程度(←こういう人種間データの信憑性は担保できない事をお詫びしておく)、そして世帯平均だとわずかに12-18万円程度(1$=105円時換算)と言われてる国と比較しても日本の方が貯蓄率が低い=カネ持ってないというのは、あまり実感がわかない(無論、米国のデータの方が間違ってる可能性はあるが…)。そこで日本の家計推移を調べてみた。割合ではなく実額を見るのだ。これは国民が抱えている現金および換金性資産のことで、皆さんもよく参考にしていると思われるガベージニュースさんの日米資産推移の情報を見てみた。


日本の家計金融資産総額

約1400兆円(2000年ごろ)→1500兆円(2013年)→1950兆円(2020年)


…増えているのである(゚д゚)!?


 アベノミクスが始まるまでの2013年くらいまで13年以上に渡ってほぼ資産増加の伸びはなかった(とはいえ100兆円伸びた)。その後、アベノミクスによりわずか7年で450兆円ほど一気に積み増した。デフレ期の半分の年月で四倍以上の資産規模の拡大があったのだから、如何に金融緩和の効果が大きいかが分かる。


 しかも日本の場合、特に顕著(てか異常)なのは現金保有率が約55%と非常に高いことだ(19年度で約1,100兆円)。米国の13%、EU域内の34%に比べると突出している。日本と欧米との資産構成の違いは債権証券保有率の違いで、日本が10%程度なのに対し米国で40%、EU域内でも20%と彼らが配当金を当てにしていることがうかがえる。


「資産投資に回さないから日本人はバカ(# ゚Д゚)!!」…という声も出そうだが、必ずしもそうではなく、例えば2020年の新コロ時、日本は企業が特に多額の現金資産を保有していたため、これを切り崩して実業を守り、出来る限り失業を減らそうとしたというのは事実で、他国に比べて失業率の著しい増加がなかった理由はここにある(もう一つは米国に次ぐ世界第二位の各種企業・個人支援金で約35-40兆円)。米国などがトランプラリーの好景気で旺盛な資金需要が発生し、借り入れや社債を繰り返した挙句、この借金まみれの時に新コロの直撃をうけ、FRBが1,000兆円近くの国債等の買い入れで米国ごと救済せざるを得なくなったのとは対称的だ。なにより「最悪の時、唯一役に立つのは現ナマ」というのは今も昔も変わらない。日本の過剰な現金保有率が新コロという危機を救った事を忘れてはならず、それは災害の多い国に生きる人たちの知恵であることも否定出来ないだろう。


判ったことは「やっぱ現金カネは相当ありそうだ」ということだった。

現ナマまみれや…(゚д゚)!?


 しかし、ここで謎が生じる…(눈‸눈)??

 カネは一貫して増え続け、多くが現金げんなまだった。なのに貨幣乗数は低下した。これはオカシイ?? というのも、カネは銀行に預ける(取引・給与振込などで預けた段階で信用創造は発生する)し、ならば「預金D」が増えてなければならないはずだからだ。「預金D」は貸付け金の元ガネのことであり、金融機関の資産科目の一部だ。そこで銀行内でのカネの流れを調べてみる。全国銀行の預金貸出金および資産状況を調べるのだ(一般社団法人全国銀行協会およびニッセイ基礎研究所・大和総研など複数の資料で)。

 

 貨幣乗数は貸出による信用創造の効果を主とする。「持ってるカネを貸してナンボ」ということだ。ならば銀行の経営指標の一つ「預貸率よたいりつ」をまず見てみる。これは「貸出金÷預金(譲渡性預金含む)×100(%)」で算出される「預金残高に対する貸出残高」の比率のことだ。この割合が低い事は、貸出したカネより預金の方が相対的に多かったということだ。60円貸し出した時、預金が100円あったなら預貸率は60%だ。そこで商工リサーチをベースとした主要国内銀行の預貸率を見てみると、


67-8%(2015年)→65%(18Q1)→66%(19Q1)


…とむしろジリジリと低下しているくらいなのである(゚д゚)!?

つまり常に預金の方が多いという事だ。しかしこの数字は調査対象の国内銀行の数と質によって若干の変動がでる。そこで精度よりも大まかなトレンドを調べてみる。この預貸比率をもっと長期で見てみると、


80-90%(1980年代)→90-100%超(バブル期)→【激烈低下】→65-67%(バブル崩壊〜2004年)→【横ばい】→65-68%(2019)


…大体、こんな流れだった(数値に±数%)。特に1990年〜2004年くらいまでの急激な低下は主にバブル崩壊に伴う銀行の貸し渋りが原因であり、これをアベノミクス(2013年以後)まで引きずっていた為に貸出しが伸びなかったと解釈できる。しかしアベノミクス以後は景気が拡大するはずだったのだから、貸出しが伸びるはずだった。しかし現実は「デフレ期の頃から全く改善しなかった」。


何があったん…(눈‸눈)??


 そこで、この時期の金融機関の資産内容を見てみる。すると銀行の資産科目「企業・政府向け貸出」「(住宅)ローン貸出」「(国債地方)債権購入」「預金」「対外投資」「証券(株式など)」の中で、アベノミクス以後の時期に「預金」だけが2倍近く増加していったのである。

 

…(゚д゚)!?


 アベノミクスによって国民資産そのものが爆増した(約450兆円くらい)。そのかなりの部分が国内金融機関にあり、そのため金融機関の総資産も爆増した。しかも多くが現金だったために金融機関の預金が倍増したのだ。他方、主な貸出科目である「企業・政府向け貸出」+「住宅ローンなどの貸出」の伸びは鈍かった。このため、むしろ預貸率はジリジリと低下していったのだった。特に米中貿易問題など経営環境が悪化し、設備投資などへの不安から預貸率が最も落ち込んだ2018年には280兆円もの預金が貸出にも回されずに金融機関内に残置されていたほどだったのである。預金増加分ほど貸出に回らない「預貸ギャップ」が発生していたのだ。これがアベノミクス期に預貸率がジリジリと下がっていった理由でもある。


 

  ※     ※     ※

  

  

 これが結論だった…m(_ _)m

 貨幣乗数は信用創造によってカネがカネを生み出す国富増強のカギだった。しかしアベノミクス期、貨幣乗数はむしろ1/3に低下した。確かにカネは金融緩和による効果で爆増し、特に企業などは儲けを出した。その結果、金融機関の預金額そのものは増えていた。



しかし日本では「カネは腐る程あったのに、貸し出されてなかった」のである(白目


し、死んだ…死んでたんや…((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

貨幣乗数が死んでいたんや…((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

信用創造が死んでいたんや…((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル



 これがアベノミクス期に乗数効果が劇的に減少した理由だった。信用創造によってカネがカネを生む貨幣乗数は「貸し出されて」始めてパワーを発揮する。しかし金融機関が貸出し先を見つけることが出来ずに金融機関内で多額のカネが死蔵されていたのである(衰弱死)。と同時に爆発的な富を生み出し、雇用を生み出し、インフレ成長を生み出すことが出来ずにアベノミクスそのものがスカってしまった主因なのである。

 

貨幣乗数とフィッシャーの方程式を合わせた国富に関する方程式

HmV=PY

 

H マネタリーベース(日銀が撒いたカネの総量)

m 貨幣乗数

V (カネの)流通速度

P 物価

Y 実質GDP


…において、物価上昇とGDPの伸びという「国富」の増強を阻んだのは正にこの貨幣乗数の劇的な失速が原因だったのである。いくら400兆円近く日銀がカネをまいても(H)、貨幣乗数(m)が6倍→2倍と1/3も落ち込めば、そりゃPYは劇的に失速するだろう。その理由も「貸出不足」=銀行で無駄にカネが積み上がっていく一方だった事が理由なのである。



  ※     ※     ※


…(눈‸눈)??

…ではなぜ「貸出」が伸び悩んだのだろうか??


 そこで再度、貸出が伸び悩まず、しかも景気が良かった米国を調べてみた。すると日本と決定的な違いがあった。「長期・短期金利」である。


 長期金利は金融機関の安定資産となる長期国債の金利を表し、短期金利は金融機関同士のカネの貸借や民間への貸出金利の基本となる。そして金融機関の主な仕事はカネを貸して利益を得ることだ。利益とは「金利収入」だ。なので金利がしっかりと存在していることは金融機関にとって死活的に重要なことだった。

 

 よって米国は長短金利ともFRBが2%以上を維持し、ときに3%に達することがあった。逆に日本は今世紀に入ってから長期では超低金利〜特に10年もの国債は事実上のゼロ%に、短期金利(昔の政策金利)に至ってはもはやマイナス金利が普通になってしまうほど「悲惨な」状況だ。これでは金利収入は全く望めない。この問題が「流動性のワナ」である。

 

 日本の長短金利の低さがアベノミクスを木端微塵に砕いていた可能性があったのだ…(゚д゚)!?

 そこでこの点から更に追求してみる…m(_ _)m

 

 

 

    【 この話数、次に続く 】

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