§5-2-6・アベノミクス失速の理由を貨幣乗数とフィッシャーの方程式から読み解く【ここ重要!】

○アベノミクス腰倒れの原因は、撒いたカネが消費にも投資にも回らなかったから…(´тωт`)。゚


  ※     ※     ※


 ではなぜインフレにならなかったのだろうか?

 実のところ、みんなの意見は「よく判らない」らしい。しかしこのコラムを読みに来ている人たちは知性が高いので「分かりません(^^)」は許されない。そこでまずはこのコラムの原点である「国家(経済)は通貨的現象」という基本に立ち返って考えてみたい。


 インフレ・デフレの関係は「カネとモノ」とのアンバランスによって発生する。「カネ100=100モノ」の状態を均衡点とした時、


 インフレ←カネの量が多すぎ(orモノの量が少なすぎ)

 デフレ←モノの量が多すぎ(orカネの量が少なすぎ)

 

…の関係にある。パン一個が100円だったものが、一個200円となった物価高というインフレは「一個のパンに(今までの倍の)ニッケル玉二個が必要になった(:_;)」ということだから「必要なカネの量が倍に増えた」。なのでインフレはカネという「スープ」を水(←国債)で薄めたような「水増し」の状態と言える。


 ここで日本の場合、インフレが発生しなかったというのなら「カネが足りない」か「物不足が発生しなかったか?」のどちらかだ。しかし安倍政権下ではトータル400兆円もの金融緩和でカネを放出した(ブルームバーグ等の試算による)のだから、カネが足りないとは言えない。ということは物不足が発生しなかったとまずは考えてみる。

 

 たしかに日本の場合、周辺諸国は中国を含めても「トータルで日本がどこかが強い」。他の周辺諸国と比較すると、経済力か市場専有技術力、国内消費市場、資本力(金融力)、もしくは民間債務が相対的に許容できる程度と少ない(=国民純資産が大きい)のどれかもしくは複数で優れている。よって円高になりやすい。そのため「輸入物品は安く、逆に日本からは高付加価値製品の輸出や資本の直接投資がしやすい」環境にある。バラッサ・サミュエルソン効果といわれる現象だ(とはいえ、あまりアテにならない理屈とも言われている事を補足する…m(_ _)m。


 これだと物不足→物価高…になった時、より容易に安い値段で海外〜特にアジア諸国から補填ができるため物価高になりにくい。此処にTPPのような関税撤廃の政治圧力が加われば、ますます物不足による物価高インフレは発生しにくい。 

 日本のように「カネとモノ」の両方が充実してる国は「なんでも買える」ので「インフレが発生しにくい」のだ。


 これとは別に特に物価上昇圧力になりやすい特別なモノが二つある。食品と原油価格だ。

 食料品に関しては季節変動幅が大きく、また他国から大量に輸入できることもあり、天候不順などの要因があっても通年では安定している。また原油価格は主要な物価上昇圧力要因なのだが、原油価格上昇などの悪影響はおよそ半年後からジリジリと物価に影響してくるため、先物や年度計画の変更などによってこの上昇分をある程度は吸収できる体質を日本産業界が持っているだけでなく、今の時代、原油が何年にも渡って高値止まりという事もなく、また日本は省エネルギー化や天然ガス・石炭など複数のエネルギー資産へのアロケーションを行っているために、原油価格の上昇を和らげる事が可能だ。つまり全産業的な物価上昇圧力にはなりにくいということだ。

 

 よって深刻かつ大規模な物不足によるインフレ発生は、今の所、なかなか考えにくい…(´・ω・`)

 まあ、物価が安定していることは我々庶民にとっては大助かりではあるのだが(^_^;)

 

 

むぅ…(๑¯ω¯๑)?



 そこで今度は逆にカネのことだけ考えてみる…m(_ _)m

 カネに関しては、アベノミクスの効果によって企業業績は上向いた。多額のカネが生み出されたのだ。

 この生み出された余りカネに関しては、海外に多額の資産が流れていったと繰り返し述べた。そのためカネは国内には滞留しにくく、こちらもまたインフレ要因にはなりくかった(国内のカネの総量がドルなどに換金されて「抜けていった」ので)。しかも対外投資分の多くが海外に残置されたままで国内に戻ってこなかったら、「国内(≒通貨・円の支配領域)でのカネあまり」によるインフレも期待できない。カネの量が多すぎる事によるインフレも起きにくいのだ。


むぅ…(๑¯ω¯๑)?


 ならもう一度…m(_ _)m

 通貨の供給に関する方程式と物価に関する方程式から考えてみる。インフレは通貨の供給量と物価の関係のはずだ。ならば「貨幣乗数」という通貨の供給量に関する公式と、物価に関して記述のある「フィッシャーの方程式」の二点を合わせて考えてみる。

 

 まずはカネの話だ。「貨幣乗数(信用乗数)」は日銀が民間金融機関に供給したカネの量が、どれだけ仕事をしたかを表すパラメータだ。


・貨幣乗数m =マネーストックM ÷ マネタリーベースH


…で表される。「貨幣乗数=民間のカネ ÷ 中央銀行が抱え込んでるカネ」の比率…みたいなものだ。んで、語弊を恐れずざっくり言うと、預金したカネが貸付にまわると何倍にも膨れ上がる「カネがカネを生む」効率性の事だ。カネはカネだけでカネを生み出すこともできるのだ。それも元ガネの何倍も、だ。


あら、ビックリ…(゚д゚)!あらやだ凄い


 貨幣乗数(信用乗数)は日本の各種金融関係から日本経済全体に対して供給されている通貨の総量(=マネーストック)と、日銀が直接供給したカネの量(マネタリーベースorハイパワードマネー)との比で表される変数だ。日銀は民間企業に直接カネは撒けない仕組みなので、一旦、民間市中銀行に撒き、市中銀行が個人や企業に撒く事になっている。


 んで、マネーストックMは民間の総通貨供給量Cと預金Dの合計なので「M=C+D」とされる。


 この時、なぜ「民間が持ってるカネの総量「C」と預金「D」を分けてるの?…だが、これがミソで預金「D」という金融機関のカネが「信用創造(←次回に説明)」によって何倍もの富を生み出したり、ついてる金利分まで儲けが出せるからなのだ。

 


 他方、マネタリーベースHは民間の総通貨供給量Cと中央銀行にある民間金融機関の(預金)準備金Rの合計なので「H=C+R」となる。


 この「準備金(=法定準備預金)」とは、民間の金融機関が強制的にある一定の割合で中央銀行に「預金」させられるカネだ。

  民間銀行などは中銀にカネを預けていて、中銀への預金なので民間市場とは切り離された場所に置かれる。よってReserveと呼ばれ、市場とは別の場所にあることから入出金によって「バブル抑制or市場に資金供給」の効果が期待でき、事実そうしている。


 また現在の日本のような「マイナス金利」と言った場合、この預金準備金「R」の金利がマイナスということだ。民間銀行としては「預けて損する」という事になるので、「だったらその分バンバン企業にカネを貸し出して、もっともっと儲けをだしたらええやん(by日銀)」という「損した分、企業投資にまわせ(  ̄ー ̄)y-~~」というリフレ政策の一つだ。とはいえ日本における現在の主な役割は、日銀による短期国債の金利の管理に使われるのがメインだ。閑話休題…m(_ _)m

 

 よって「貨幣乗数m」は、

 

・貨幣乗数m=M/H=(C+D)/(C+R)となる。


 結局、中央銀行がカネの出し入れをすることで国富をコントロール(特に増強)することができるという意味となる。ということは、日銀が公開市場操作で買いオペを実施し、市場にある国債などを購入すると、購入金額分のカネが民間金融機関などにドッと流れ出る。するとこのカネは預金「D」に流れ(←金融決済に銀行を使うので)、増えたカネが貸し出しに回されるとますますカネを生み出す「信用創造」の効果によってますます国富が増強される…ということだ。日銀がカネをブン撒くという事は、「分母の数を削って分子の数が増えた」という事で、またこの方程式をいじってみると、

 

・マネーストックM=貨幣乗数m✕マネタリーベースH


…となるので「貨幣乗数mが低下すれば、民間全体の通貨供給量Mも低下する」とも言える。景気が悪くなる、ということだ (^_^;)

 よって貨幣乗数(信用乗数)とは、中央銀行の金融操作の効率性、ひいては金融政策の効用を意味している。カネがカネを生む効率性のことだった。

 

 そして今度は物価に関してのフィッシャーの(変形)方程式はこちら。


・MV=PY …となる。


 M=通貨供給量

 V=通貨の流通速度

 P=物価

 Y=実質のGDP


 ちな、流通速度とは「カネの回転率」なので数字が大きいと「景気が良い」という意味だ。ある期間において、一万円札なら一万円札1枚が何人のお財布の中をくぐったか?…という程度で、景気が良いならクルクルとカネが回る…みたいな感じ。モノを買う効率性と言ってもいい。なので通貨量が一定ならば、この数字が大きければ物価高騰を意味する。式でいうなら「通貨の流通速度V=名目GDP / M2」で表される。M2とは「民間の保有する現金+預金(定期預金含む)+譲渡性預金CD」という「民間人のカネの総額」のことだ。日本ではこれがマネーストック統計になるし、明目GDPとはPYということだった。

 

 そこでこの二つの式「m=M/H」と「MV=PY」に共通する通貨供給量Mでまとめると、


 「HmV=PY」となる。

 

 この方程式の意味は、物価および実質GDPが上昇するか否かは日銀がどのくらいカネを供給し、そのカネが民間の消費市場でどのくらい流通してモノが買われたか? そしてどのくらい預金→貸出されてカネがカネを生み出したか?…の複合的要因による、という事を意味している。


 そしてH(マネタリーベース)は「日銀が供給したカネ」だったはずた。なので、この式の意味は「もし通貨の流通速度(カネの回転率)と貨幣乗数(カネ増加の効率)が一定ならば、中銀がカネをバラまけば物価は上がるだろうし実質GDPも増える」を意味している。つまり、これは我々の今まで見てきた理屈と同じ事を公式で表したに過ぎない。


 ※     ※     ※


 いま気になっているのは、日銀が民間に多額のカネを撒いたはずなのに、物価Pも実質GDPのYも上がっていないという疑問だった。そこで安倍政権時の発足時から2019年くらいまでの時期の貨幣乗数「m」と通貨の流通速度「V」、そしてマネタリーベース「H」…すなわち式の左側の「HmV」を調べてみる。


 通貨の供給量は異次元緩和で爆増した(数百兆円規模)。しかし三井住友アセットマネージメント(元はBloombergの資料)の調査などによると貨幣乗数「m」で1/3(6倍→2倍)に、流通速度「V」は0.05ポイント(0.6→0.54くらい)にそれぞれ減少していたのである(爆死)


こりゃ、アカンがな…┌(_Д_┌ )┐

カネは400兆円もバラ撒いたのに、二つのパラメーターの方が死んでいたのである(潰滅)


このため「HmV」の相対的な効果が激減していたのである…(:_;)

これがアベノミクス失速の主因だったのだ…(白目


政府が国債を増発し、日銀がこれを市場操作で回収してカネをバラ撒いた。しかし誰もモノを買わないばかりか、みんなの預金も思ったほど貸出に回らなかった(:_;)…というダブルパンチのせいで、「インフレ成長が発生していない」という我々の景気実感をそのまま証明したような話だった。逆に言えば大規模な金融緩和だけが景気を下支えしていたに過ぎない。これは前話数の内容とも符号する。もし仮に前話数のインフレ率2%が達成されていたならば、安倍政権の間に単純計算で100〜130兆円程度の国債が消滅していたはずだが、実際には累積国債残高は増えていく一方だった。債務増加の理由が「インフレが発生しなかったので、増やした分の国債が消滅しなかった」からなのだ。


 これはまた別の極めて深刻な事を意味していた。

「カネを増やすだけではダメ」だったのである…(゚д゚)!?

 

 「国債(=カネ)を大量に刷ってばらまけば景気が良くなる(^^)」…という、よく聞く俗説を真向から否定する衝撃の事実だった。景気回復のために国債を増発すればよい…という話はMMT派を始め、右左の阿呆どもがやたらと騒ぎたがる。しかしアベノミクス不発の現実から考えて、国債を増発してカネを増やしただけでは「景気はよくならない」と考えるしかないのだ。これは…

 

「国債増発は救世主にならない悪手…( ̄ー ̄)ノ" ゜ ポイッ」


…という恐るべき事実の好例でもあり、MMT派はじめ財政拡張派の単純な「国債を増やせガー」的な事をやっても「国の借金が増えるだけ」→日本国が破綻する可能性が高まる…というリスク要因でしかなかったのだ(衝撃)。



  ※     ※     ※


 アベノミクス失速の原因は「カネがカネの仕事をしなかった」からである。消費にも投資にも回らず、どこかで動かずに眠っているか海外に逃げ出したか…くらいにしか考えられない。このため物価もGDPの上昇も起こり得なかったのだ。しかも「国債撒いても景気浮揚しない。景気浮揚しなければ国債も減らない」では、手も足も出ない。もはやお手上げだ(:_;)


なぜだ?…(# ゚Д゚)?!

なぜ日本だけだめなのか (๑꒪ㅁ꒪๑)??


 企業は収益爆増だったのに、個人消費は伸びなかった。個人が貧乏だからだろうか?

 ここで普通だと所得の上昇率を調べる…が正解なのだろうが、筆者は物価高インフレ可処分所得てどりの増加を誘引すると考えているので、そもそも物価上昇がない環境では、個人所得の上昇率を調べる意味がないと考えている(←歴史的に見て常にインフレが先だった…という事)。なので逆に物価上昇を招かなかった理由を考えてみる。そこで同時期に、確実な経済成長と物価上昇があった米国トランプ政権との違いを調べてみた。すると決定的な違いが2つあった。「減税」と「債権の金利」である。

 

 そこでまず次ページで「信用創造」の概略の説明をし、その後で「減税」と「金利」の二点の効果・影響を探ってみる…m(_ _)m

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