§5-1-10・そして米中貿易紛争の2019年。人類はこの時、既に破滅の種が撒かれていた(その1)…(눈‸눈)

これまで§5-1の五話を使って、各国のエポックメーキングな出来事から21世紀初頭にかけての大まかな国家体制もしくはカネと債務の流れを見てみました。


日本は1970年台から始まった国債バブルとその崩壊により多額の債務を抱えたものの、これは政府債務であり、逃げ切れる可能性がありそうなこと。逆に韓国は外債という厄介な債務(≒街金からの借金みたいなもの)と脆弱な政府のためにデフォったという稀な実例となったこと。そして中国は独裁体制を維持したために、異様でいびつな社会経済体質へと移行した事を述べました。三者三様でした。


しかし2018年以後、この三ヶ国には試練が訪れました。トランプ大統領による反グローバル化政策による経済失速です。


この悪影響について四話数を使って述べねばなりません。なぜならこの時に既に、日本を除くほとんどの国で多額の官民債務を抱えこむような事態に陥っていたからです。これはとりも直さず、2000年代に多額の債務を抱えながら必死に逃げ延びた日本の状況を遥かに超えるほど一気に主要国財政を悪化させた原因の一つになったからです(もう一つはリーマンショックと、その後の金融緩和による多額の政府・金融機関の累積債務問題)。

これを紐解いていきます…m(_ _)m



 ※     ※     ※

 

 

このコラムは、元々は2018年の初頭あたりより俎上そじょうし始めた内容でした。当時はまだ世界はトランプラリーと呼ばれるほどの好景気に湧いていて、「世界は天井知らずで好景気が永遠に続くヽ(^o^)丿」とさえ思われたほど楽観的な時代で、日経平均株価も2018年末には26,000-27,000円台に乗る…とさえ言われたほどでした。


トランプ大統領の政策は大変分かりやすく、減税と規制緩和による好景気創出という単純で速効性のあるもので、事実、オバマ前大統領の環境保護重視や皆保険制度の導入などの「資本主義の暴走を食い止めようとするかのような」各種規制強化策を真向から否定するような政策でもありました。


てか、トランプ大統領はただ単に「反オバマが主要政策」という所が無いわけでもありませんでしたが(爆死)


状況の激変は2018年6月くらいより始まった米中貿易戦争という、米国による物品関税保護政策によって発生します。もともとトランプ大統領は『貿易赤字を異常に気にする』人物でした。そして米国は確かに貿易総額(=経常収支)において大赤字を出していました。しかし、これが『珍妙な勘違い』であることを我々はすでに知っています。


貿易黒字は単に『生産の方が国内消費よりも大きいので、海外に輸出した』程度に過ぎない事や、なにより『経済成長している国は、国内で生産するだけでは足りないので海外から物品を輸入している』のだから、『経済成長している国の貿易赤字はそれほど重要ではない』ということ等です。


勿論、貿易収支も黒字ならよいのでしょうが、米国はこの時期、3%にも及ぶ成長率を達成していました(2017年は2.2%。2018年は2.9%成長)。このために貿易収支は(激しい経済成長によって米国内の製造業だけでは需要を満たせなかったので)常に対外貿易赤字になっていたのであり、逆に対外投資によって莫大な黒字を稼いでいたのです。


この効果は時に『バラッサ・サミュエルソン効果』とも呼ばれます。分かりやすく言えば…


物品の流れ 途上国→先進国 (製造コストが安いから)

カネの流れ 先進国→途上国 (カネ沢山もってるから)


…になりやすいという話で、発展途上国は先進国に製品を輸出して豊かになる。逆に、先進国は途上国が製品輸出のために必要としている工場設備や技術・人材育成などの各種ノウハウ+資金を提供するという、『物品⇔投資』という相互間の『カネの流れ』が他国籍間で出来上がっていて、その中核に米国があったのです。


米国の貿易赤字は『成長のための原資』であり『海外から輸入する必要があったから赤字になっていた』だけのことで、極端な話、米国経済が失速すれば急激に赤字額など減少するであろう一方で、米国からの投資によって世界中が潤い(←特に資金需要が逼迫する反面、国内金融力の乏しい発展途上国や、中国のような資金需要の大きい国など)、同時に莫大なリターン収入を米国にもたらしていたのです。


では内訳を詳しく見てみましょう…m(_ _)m


貿易黒字(赤字)というのは『経常収支』の項目の一部に過ぎません。

そして『経常収支』は、『貿易収支』『一次所得』『二次所得(対外援助)』『サービス収支』の四つがあります。

よって、物の流れの『貿易収支』だけでなく、対外投資とそのリターン収入である『一次所得』や『サービス収支』などの項目も計算にいれてトータルバランスで見るべきです。見てみましょう。


|・`ω・)ちら…


見ると、2018年の米国は、令和元年の外務省資料によれば、投資のリターン収入である『一次所得』+知的財産や映画娯楽などを含めた『サービス収支』の合算でおよそ5,000億ドル(大体50-55兆円くらい)の莫大な黒字が出てました。


これは韓国の国家予算を遥かに超えるだけでなく、日本の租税収入(国債発行額などを除いた税収入)に肉薄するくらいの莫大な収益です。そしてこの額は米国の連邦予算のおよそ10-15%にも及ぶ金額です(←米国の連邦予算は約480-500兆円。日本は100兆円、中国が170兆円程度)。


反面、『貿易収支』だけを見てみるとマイナス約90兆円の赤字でした(爆)


内訳ですが、米国の2018年の総輸入額はおよそ250-260兆円です。世界第六位のフランスのGDPとほぼ同じ。毎年、フランス一個丸々輸入してる訳です。これに対し、米国の総輸出額は170-180兆円に過ぎません(←それでも世界第九位のブラジル、同第十位の韓国のGDPとほぼ同じ)。この差額分のマイナスが約90兆円出ているということです。

まあ、凄い額ですね。桁違い。絶句…( ゚ω゚ )アラヤダ


また米国による対外援助費用(ということは援助しているので常に赤字の)『二次所得』が約10兆円前後の赤字。この『貿易収支』と『二次所得』合わせると約100兆前後の赤字になります。


よって『貿易』+『一次』+『二次』+『サービス』の合算である経常収支自体は大体50兆円以上の赤字ということです。


その意味では確かに「世界中の貿易赤字を米国一人が背負っていた」とは言えます。

そして「あまりに額が大きすぎ、継続するはずがない」という意見も出てきそうです。トランプさんはそう考えたようでした。他にも「投資で潤う米国ではあるが、金融資産を保有できるのは一部の金持ちのみ」という米国の庶民の所得構造上の問題もあり、「中間層以下が結構貧乏」という状況に追い込まれていたのも事実です。


米国におけるグローバル化の恩恵は「投資による恩恵を受けられた資産家」がより多くを手にし、この余剰資金を持たない大多数の人たちは少ない恩恵しか受けられず、結果、所得の格差や貧困に直面することになりました。彼らの多くが「物を作ってカネを稼ぐ自分たち勤労所得者の賃金の向上を阻害している、安い外国製品に対する憎しみ」を内在させていて、「貿易赤字を出している外国が悪い」と言い張るトランプさんを支持しているのです。


  ※     ※     ※


この米国の所得格差と貧困問題は、また別章を設けて説明することにして、大統領の決断として


トランプさん「他の国が貿易で黒字を出しているのは許せん(# ゚Д゚)!」


…という、実に単純過ぎる結論に至ったようです。

その結果が2018年以後、一気に米国の政策として噴出します。前述の米国による世界各国に対する排他的な物品貿易関税政策です。


トランプさんはほぼ世界中の全ての国に喧嘩を売り始めました。資本と技術と市場をもつ世界最大の軍事大国である米国に逆らえる国はありません。よって諸外国は対応に苦慮することになりました。大まかに言うと三つのパターンに分かれました。韓国のように「早々に敗北した」国、日本のように「丸め込んだ国」、その他多くの「対決」を選んだ国々です。それぞれを軽く見てみましょう…m(_ _)m



韓国は国内市場が非常に小さく、対外貿易に依存する割合が非常に大きい『国力の脆弱な国』です。輸出総額は大体日本と同じ80兆円です。ただし最大の取引相手国は中国で、実は意外と米国との取引額は小さいのです。


米国の物品取引における韓国の割合は、輸出入ともに3%程度のものです。金額は韓国からの輸入が約8兆円、韓国への輸出が6兆円程度です。確かに韓国に2兆円程度の赤字を出していますがあまり大した額ではありません。順位からしても六番目前後の貿易取引量しかありません。韓国は実は対米に関しては「存在感の薄い国」だったのです。


しかしトランプさんはこれでも気に入らなかったらしく韓国には様々な圧力を加えて来ました。一例が2018年の米国向け鉄鋼輸出規制です。

韓国は早々に数量規制を呑むことで妥協しました。韓国は鉄鋼輸入制限の適用から除外してもらう代わりに、輸出数量を2015年からの三年間の平均輸出量(380万トン)の七割までとするという数量制限です。


この結果どうなったか?

韓国の鉄鋼製品輸出は数量上限に達して頭打ちとなり、韓国企業が打撃を受けただけでなく米国での市場を他の国に奪われるという結果になりました。踏んだり蹴ったりの結果で、慌てる韓国人はもらいが少ないと言えそうです。



日本の場合はこれとは少し違います。

安倍首相が鴻門の会の劉邦よろしく成金不動産屋にこれでもかと取り入ってゴマ摺ってきたおかげで日米物品協定では、日本側(というか対米交渉国の全てがキーポイントとしている)為替条項も自動車輸出数量制限も関税も回避し、農業分野においてもTPPの範囲内という、相手を考えればほぼ満足の行く交渉だったように思います。


そんな日本さんの米国貿易におけるレートですが、日本からの輸入は約16兆円(2018年の輸入総額の5.6%くらいで第四位。日本から見ると米国への輸出は中国に次いで二位)、逆に日本への輸出は9兆円(輸出総額の約4.5%でこちらも第四位。日本から見ると、中国に次いで第二位)。この差額の約6-7兆円が日本の物品貿易の黒字です。韓国の三倍ほど儲けていますが、安倍首相および日本政府と官僚のおかげで韓国のような一方的な敗北は免れています。『負けるが勝ち』ということです。



しかし世界の大抵の国は三番目の対米対決を選んでいるようです。その典型例たる中国を次に見てみることにします。


                 【 この項目続く 】



【補記】

ノベルアッププラス2019年11月25日初公開分を補正

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