§5-1-9・国債は良い召使ではあるが、悪い主人でもある 〜§5-1の日中韓の財務状況を俯瞰して

§5-1の内容を軽くまとめつつ、2019年くらいの日本と国債との関係について、かるくまとめてみようと思う。


○なぜ1000兆円近くもの債務を抱えるようになったのか? ←バブル崩壊時の損失分に相当と考えてみる


 まず日本の国債及び地方債等の公的機関の債務残高がおよそ1,200兆円(そのうち国債はおよそ850-900兆円程度)にまで膨れ上がったが、この理由はなぜだろうか? 筆者は『80年代の不動産バブルの損失分』と考えるべきだと思っている。

 つまり、1980年代の不動産バブルの損失分がそのまま国債の発行量に相当する・・・と考えればよいということだ。


 実際、債務の発行量は1990年あたりから急激に増えている。1990年時の国債残高は172兆円。これが2005年時には約670兆円、2013年には860兆円に、そして2017年頃にはトータルで1200兆円を越えた。バブル崩壊時、当時、よく言われていたのは直近におけるバブル崩壊に伴う損失は対GDP比で約140%、その後の算定によれば負債総額はさらに増えて、実数で1,400-兆円相当が飛んだと見積もられるようになった。こう考えると、この金額を国債に上乗せすると、なんとなく似たような数字になることが判る。


 ということは、不動産バブルの崩壊に伴う国家の損失を、結果として国債・公債・地方債という形で回収してきた過去30年といえるのではないか?

 バブル崩壊に伴う激しい経済損失、要するに国家の経済力の損失分を国債という形で補填してきたと考えればよいのだ。

 もしくは不動産バブルのような民業での高金利負担を、低金利の国家の債務に付け替えた・・・と考えてもいい。これが日本国民にとって『より管理しやすく、負担が少ない』のであれば、まずはOKだと楽観的に捉えてもよいのではなかろうか?


 本当の問題は財務省の採用したバブル対策の方だ。金融恐慌に陥った場合、本来ならデフレ直後にきわめて大規模な金融緩和によって信用創造を行うべきだったが、90年代の財務省は緊縮策を取り続けたため、かえって長期のデフレと債務発行量の増大を招いてしまった。ケチったために更に負債がダラダラとデカくなってしまったワケだ。実際、激しいデフレが長く続いた。モノの価値が下がり続けたのだ。結果として債務は減らず(←通貨の価値が下がるのはインフレ。そして通貨=国債)、国力は低下し続けた。


 別の言い方をすれば、結局のところ、バブルが弾けたら、その分の損失は回り回って国家(=国民)にツケが回ってくるということに他ならない。

 なら、速やかに国家経済を成長軌道に乗せ、成長インフレによってその損失分を解消するしか無いのだ。どうせ債務というツケが回ってくるのなら、ケチこいて大損する愚は避けるべきだったのだ!



○国債あれこれ・・・


 さらに国債の発行量の爆増が即、国家破綻になるわけでもないし、国債の発行量の多さが国家破綻に直結する訳でもないことも述べた。

 2001年にデフォルトしたアルゼンチンの公的債務累積残高は、当時の彼の国のGDP比でわずかに55%しか無かった。それでもアルゼンチンは破綻した。

 これは強力な中央銀行と信頼出来る政府がないことが理由で、そのために安定した国内金融市場が構築されていないから・・・と考えるべきだ。この別例として1990-2000年代の中国の例を挙げた。第49-50話相当の内容だ。


 つまり、国家が破綻するか否かは第一義的に通貨供給システムと金融市場に左右されるという内容だった。しかも国債は購入者にとっては資産なのだ。例えば銀行間で資金を融通しあう時、その担保金として日本国債を使う。お金と同じ価値があり、しかも僅かでも利子が付き、きんのような貴金属のように価値が乱高下するような不安定な資産でもなく、安定している。仮に国債が暴落した時には、日本円を始めとして全ての通貨・資産が暴落するのだ。なら円よりも国債の方が利子が付くだけマシというものだ。


 この意味からも、国債は保有資産として『絶対に必要』なツールだ。安定した国家においては、最も安定した資産は国債だ。なので市場から全て無くして良いものではない。常に一定量は市場に流通させるべき性質の財だ。つまり全額返済するなど馬鹿らしい選択肢で、ありえない。


 国債が本当に債務不履行になり、国民が犠牲を強要される状況となった場合はどうか?

 実は日本国民にはまだ富がかなり残っている。預貯金などの個人資産だ。しかも現在の日本は税金が『安い』。他の先進諸国に比べて個人の負担する税額が、これでもまだかなり低いのだ。北欧などでは所得の40%以上が税金に持っていかれているほどだ(ただし、そういう高税率の国では相続税は無いのが普通だが)。なので国家危機の時には増税幅を大きく取れる。日本は個人からの税金収奪の余地が大きいのだ。特に一回コッキリの特別税なら、なおさらだ。無論、増税絶対反対だが・・・。


 またなにより民間企業は内部留保金を400兆円近くも持っている。そのうちの15-20%が現金に相当する流動資産だから、これを狙い打ちにした企業増税で対処することも可能だ。特に株主に還元するわけでもなく、労働者に配分するわけでもない企業内部留保金は(内部留保金に課税するのは二重課税で問題があるとしても)溜め込みすぎたのであれば、それは企業の社会的責任の問題だ。


 特に中小企業の内部留保金が多すぎるのが問題だ。日本共産党のような左翼勢力がいう「中小企業は被害者」という類いの妄想を排除し、日本国の99%以上を占める中小企業への増税は、国家経済逼迫の時には必須だ。年収2億前後の会社の社長だけがベンツに乗り、社員はボーナスも出ないでボロボロの配送車を乗り回しているのは大問題だ。労働者ばかりが苦しむという状態を続けてよいわけでは断じて無いし、株主に利益還元が出来ないのであれば企業は株主訴訟を受けるべきなのだから。


 こう考えると、日本はまだまだ経済的マージンが大きい。これが『資産を保有する国』の強みであり、イザという時の救国『特別財源』でもあるのだ。




○国債の発行量はデカいが、国内債であるというメリット


 さらに言えば、日本国債が全てが自国通貨である『円建て』であることと、その95%が国内消費という強みもある。

 悪いインフレを覚悟するならば、国債の利払いの原資がたりなくなった場合には、日銀が必要な量だけ円という通貨を発行することで対応が可能なのも、これまた事実なのだ(極力避けたほうがよいけど・・・)。


 また国内消費率が高いことは(理論的にではあるが)金利負担や元本保証のための支払い金額が為替の影響を受けずに済むので、大抵は『安くなる』。債務問題が発生した時、日本国債の価値は下がり、合わせて日本円も下落する。この結果、外債が多いと利払いや元本支払いのための為替損失分まで払わねばならなくなるから負担が大きくなるという事は、拙文・第47話〜第48話の韓国の事例で説明した。


 もう一つ言えば、日本国債を外国人が大量に購入していないので、もし日本国がデフォルトを行った時、『連鎖倒産』する国が出てくる可能性が極めて低いということだ。


 2018年夏のトルコ通貨危機の場合、本当に問題となるのはトルコ向けの国際与信残高(ここではトルコにカネ貸してる金額・・・程度でOK)であって、これを見ると、スペイン・フランスといった『経済的にはやや難』な国が1,000億ドル(10-12兆円)も貸しこんでいるのが気になる。

 これだとスペイン・フランスにも連鎖的に金融危機が波及する恐れがあり、さらにEUの財政上の困難を招く連鎖的なリスクにもなりかねない。債権者の連鎖倒産というリスクだ。

 日本の場合、こういう『他国に直接的な迷惑をかける』ような借金の仕方をしていない。クリーンなのだ。それは日本という国の速やかな信頼回復にも繋がる。債務問題を国内のみに押し込めることが出来そうだからだ。


  ※     ※     ※


 こう考えていくと、日本がデフォルトを起こすとすれば、積み上がった莫大な債務の利払い金が払えなくなるという場合か、さもなければ国債償還時に必要な資金を捻出出来ない、もしくは新発国債を誰も買い直ししてくれなくなった・・・程度の可能性しか無い。それも、ちょっとの金額・・・当座のわずかなゼニが足りなくなることによって生じるのであって(多分数百億から数千億程度。多くてもミサイル駆逐艦二・三隻分くらい)、国家債務相当分の1,000-兆円もがまるまる不足するなどということは絶対にありえない


 そもそも日本国債がデフォルトを起こすことは現実論として考えづらい。世界の主要通貨であり、事実上の基軸通貨の一つだ。また世界第三位のGDPの規模と世界最大の債権国であり、1,800兆を超える民間資産を国内に溜め込んでいるだけでなく、強靭な政府(←永久与党・自民&公明党政府)・官僚・金融機関と忍耐強い国民がいて、しかもドル・ユーロと無限スワップを結び、なおかつ景気後退を覚悟すれば国債発行額を押さえ込むことも出来るという日本の現状を考えると、全面崩壊するとは考えにくいし、世界が放置するとも思えない。


 日本からカネ借りてる連中は多いし、日本人が一気に対外投資を引き上げれば困る国も出てくる。なにより日本は、潰すにはあまりにも大きすぎ、万が一の時には、世界が救済するしかない国家の一つだ。なので救済しなくていい方法を日本政府が自分で考えてくれ・・・程度のことだろう。


 そこで、これを踏まえて、現在の日本が軽くデフォルト起こしたら? のシミュレーションをしてみようと思う。結論は冒頭で述べたように1990年代前半の英国のような展開になるだろうとは思うものの、それでは芸がないので、少し別の展開で考えてみようと思う。

 2199年にイスカンダルに派遣された長距離宇宙艦が、なぜ日本国籍のBBY-01ヤマトだったのか? という観点からだ。つまりこの時までに日本は国債を整理し、金融力を回復させていたので、あれほどの巨大戦艦を建造する余力があったのだ・・・とする視点からやってみようと思うのだ。。。m(_ _)m

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