§8-2・負の所得税…国民の貧困を解決しうるシンプルな累進課税制度について

§8-2-1・負の所得税その1 〜累進課税制度の有用性について(前編)。21世紀アメリカの救いのない格差社会の現状をジニ係数から読み解いてみる(T_T)

ではここから白色彗星帝国のゼムリア人たちが採用した究極の税制『負の所得税』について考えてみるが、負の所得税のシステムそれ自体を論じる前に、この背景を一度、整理したい。


負の所得税は、所得貧富の格差を是正することを目的に採用された。富の偏在による経済的損失・社会不安を解消するのが目的だった。と同時に、「納得行かない納税のせいで、僕たちのやる気、削がれた」…というモチベーションの低下を避けることが必要だった。


なにしろ国家は個人の集まりであり、個人が豊かにならなければ国家が豊かになることなどないのだ。できるだけ創造性が高く、できるだけ富を生み出す個人の集まりであるべきなのであって、やる気を喪失した『死んだ個人』の集まりで出来た国など、タダの墓場でしかないからだ。


では、どうやって富の不平等の解消と、個人のやる気とを両立させたのだろうか? 負の所得税とは…?ಠ_ಠ;


…とその前に、まずは『税金を収奪する』累進課税の意義について考えてみる。ここでは特に累進課税制度がうまく働いていない国家の場合、どのくらい所得に格差が出るのかを20-21世紀のテロン人から見てみることにする。それは『上手く働いていない』というだけで、こんなにも悲惨な結果になるのか? と驚愕するほど悲惨な内容だった…(;•̀ω•́)?!

ヒドいよ、ホント(爆



  ※     ※     ※



○貧富の格差指標・ジニ係数について


ある一国における富の分配の不平等さを示す指標の一つにジニ係数というのがある。これは貧乏人から超金持ちまでを統計処理して、偏り分布を調べるといういわば『貧乏偏差値』みたいなものである。0.00を「富の分配が完全に平等で私有財産が存在しない世界」、1.00を「たった一人の独裁者が国民の資産・人格など全ての富を私有する絶対専制国家」と規定し、全ての国が0.00-1.00の間の値をとる…程度のものだ。


0.1程度の国は「奇跡」、0.2の前半は「優秀」、0.2の後半は「はなまる。でももっと頑張りましょう」、0.3は「(・A・)イクナイ!! 」、0.4は社会が不安定化するほど「悪い」であって、0.5以上は暴動や社会騒乱が普通に起きる…とされている。


問題点もいくつかあって、最たるものが「他国との単純比較は出来ない」という事だ。日本とアメリカでは格差の規模が全然違いすぎる。母集団の所得量が違いすぎるためだ。また日本は福祉国家制度を採用している。日本は所得の再分配を通じて不平等を是正しようとしている一方で、アメリカは医療保険制度など立ち遅れが目立つ。そのためアメリカのような国ではジニ係数は悪化する。両国を単純比較することは出来ないし、無意味だ。


強引に例えるなら、早慶上智と日大との大学間の偏差値の比較ではなく、早稲田大学内での法学部・政治経済学部と人間科学部・社会科学部との比較のようなもの…と思えばよいのかもしれない。あくまでも、一国内での比較ということだ。日本における貧困層は、北朝鮮やイエメンの貧困層とは絶対的な貧困のレベルが違いすぎる。ただし数字が悪い場合には、(生活水準の高い・低いに関らず)貧富の格差が存在しているという目安にはなる。そして経年で調べれば、その国が昔と比べて貧困が悪化してるか改善してるかを知ることは出来る。


このジニ係数でアメリカを見てみる。

日本の厚生労働省のデータによると1980年には約0.3だったものが、1990年には0.35に跳ね上がる。そして2015年までの四半世紀の間、一度も下がること無く0.35-0.4の間を行き来した挙げ句、2018年にはついに0.4を突破しているとされている(推計。データの提示に数年かかるらしく、2018年の数字は推測)。

では、これがどのくらい『悪い』ことなのか、OECDや米国国勢調査局などの専門機関およびそれらより資料をスピンオフしたNYTなどの各種メディア、それに日本政策投資銀行や国立社会保障・人口問題研究所などの日本の資料なども交えながら、悪い数字ばかりを抜粋して並べてみる。


2018年の世界の金持ちベスト10のうち、7人はアメリカ人だ。

上から順番にJ.ベソス、ビル・ゲイツ、W.バフェット、ザッカーバーグの他に、金融エネルギー産業の多国籍コングロマトリット『コーク・インダストリー』創業家のチャールズとディビット兄弟、オラクルのラリー・エリソンで(他はフランスのヴィトングループ総帥のベルナール・アルノーが四位など)、この7人だけで約60兆円持っている。日本の2017年度の租税収入とほぼ同じ、米国の国防総額よりも大きい。


またこれは世界の富豪上位26人が独占する資産約150兆円の40%にあたる(なお、この超大富豪26人は全人類の約半数を占める貧困層38億人の総所得とほぼ同じ)だけでなく、ポーランドや台湾、トルコなどの2019年のGDPにほぼ匹敵する。7人が一千万人以上の国家が1年かけて産出するのと同じだけの資産を持っているということだ…(@_@;)!?


その一方で、収入が貧困ライン(1人1日収入1.9ドル)となる「深刻な貧困」状態に下層民約4,000万人(全人口の13%。8人に1人の割合)がいるとされ、しかもこの半数のおよそ1,850万人は日給一ドル程度と推定されている(米国国勢調査局2017年9月発表分)。また路上生活者もおよそ56万人ほどいて、これは人口比で1/3の日本と比べ、15-20倍とされる高い割合だ。一般には兵役経験者と軽度の知的障害のある人たちの割合が他国に比べて多い傾向にあるとされている。


ちなみに参考程度の内容として、別の資料を出す。オランダの銀行「ING」の調査によれば2016年末の時点で欧州諸国では10人のうち3人、米国では6人のうちの1人が貯金が一切ない状態にあるとの調査結果(cnn-29.01.2017)や、アメリカの黒人世帯の平均純資産は僅か8ドルで白人世帯の1/30,000(ニューズウィーク日本版12.12.2017)のような極端なデータもある。無論、これらは統計のとり方によってかなりの違いが出るため、筆者が調べた資料などとも異なる数字が一部出ているが、一応掲載する。ただしそれでも米国はかなり貧者が救われていない社会だということは判る。さらに論を進める。


前回、米国の一般論として上位10%が米国の富の約半分を保有している…つまり『富裕層10%=その他90%』だと述べたが、これを純資産(債務分を除く動産)に絞ってみると、さらに驚く。およそ米国純資産6,700-兆円(←日本はおよそ3,300-兆円なので、二倍の大きさ)の3/4を、実にこの上位10%が占めているのだ。そして超貧困層+貧困層+中間層の純資産は実はわずか1〜3%に過ぎない(米国連邦議会予算局2016年レポ。階層は『超金持ち→結構金持ち→中間層→貧困層→超貧困層』の五階級別)。


またこの超貧困層〜中間層90%の平均所得は600万円前後と前回述べたが、このうち全米人口の貧乏な人たち約半数ほどは、実は年収300万円前後に過ぎないのだ。つまり全米の半分は年収300万程度ということだ。

金持ちを外すと実のところアメリカは平均収入がかなり低い国なのだ。ということは、米国のかなりの部分が「借金をして生活している」という事に他ならない。なぜなら資産=純資産+債務だからだ。大抵は住宅ローンや自動車ローンなどだ。そのくせ米国一流企業のCEOの年収は労働者平均の340倍の所得があるのだ。圧倒的な賃金格差がある社会だ。


さらに経済的にも興味深い指数が出ていて(日本政策投資銀行17.03.2016)所得増加率が最も大きかった富裕層の2000年から2014年までの消費性向をみると、収入の上位層ほど支出にまわす割合が小さいということが判明した。これは『富裕層にカネが集まってもトリクルダウン効果など生まれない』というデータでもある。結果として、ただ溜め込んでいるだけに過ぎなかったとさえ言える。


  ※     ※     ※


この事実を見ても、経済成長すれば必ず所得の格差・貧富の格差が生じるという残念な結果が見えてきた。しかも貧富の格差を放置していても『良いことはない』のだ。なるほど「豊かな者を貧しくしても国は豊かにはならない」のは確かだが、「貧者を豊かにしなければ国は絶対に豊かにはならない」ことも判る。富の多くが超富裕層に集積してもトリクルダウン効果は現れず、逆に国民の半分が、所得でいえば世界平均水準程度でしか無く、巨大な消費市場をローン等の借金でまかなっているだけの超自転車操業集団に過ぎなかったのだから。ただし爆走中だが…←ツール・ド・アメリカ。

もっと言えば、いまのアメリカはかつての旧大陸の貴族制国家のように、一部の上流階級(富裕層)が『莫大なカネを滞留させている』効率性の悪い国家だったのである。


ならばこれを吐き出させ、『より多くの富を、できるだけ沢山の人にバラまいて、より多くの国富を生み出す』という考え方は決して不合理な話ではない。国内市場の強化=国力の増進という観点からも、旺盛な消費意欲を維持させるためには『カネの流れを活性化させることが必要』ということになる。カネを使いまくって貧乏だというのなら、貧乏人にカネを撒くことは市場の活性化には繋がるだろう…。


なにより民主国家は多数決により、より多くの人たちにより多くの資源権利の配分を行うべきとされている。この制度に従うなら、貧乏人が51%になった時点で『貧乏人のための政策』を採るのが正しいということになる。なら、2010年代後半のアメリカのように、全国民の半分が年間所得300万円程度の国の場合、本来は格差是正策が国策として採用されてしかるべきだった。まあ、白人とかアジア人は、ヒスパニックや黒人とか不法移民たちなんかに対しては「自分たちのカネ、びた一文くれてやりたくない」という、多分に人種差別的な思惑も見え隠れしてるのかもしれないが…(;•̀ω•́)


とはいえアメリカの真の病は政治的な問題の方だった。

共和党は伝統的に『小さな政府』派なので社会福祉や累進課税制度などの『政府の個人への介入』を嫌う傾向にある。なので伝統的な人たちや金持ち連中は共和党支持者も多い。しかし、さらに問題なのは共和党の対抗馬たる『リベラリスト(藁』と嘲笑されるセクトのふざけた矛盾だ。


都市中産階級以上のクラスと社会的成功者&マスコミ関係の人たちだが、彼らは主に民主党支持者だった。彼らはナショナリズムを否定し、地球環境保護や人種差別反対、世界の貧困撲滅に関心が高かった。それは大変結構なことだった。鯨やイルカにとっては特にそうだった。また米国内の世論を真っ二つにしていた『妊娠中絶』と『銃規制』に関しても進歩的で、女性の権利拡大と『白人の力の象徴たる銃』の規制に賛同する人たちだった。それはまるで、この21世紀でも制度的に『米国は白人男性に支配されている社会』が存在しているかのような幻想に囚われ、これを打破し自由を獲得することが全人類的な正義であるかのように勘違いしていたフシがあるほどバカだった。まあこれも、白人男性に生まれてこなければ、これまた結構な話だろう…


ところがだ、彼らは主に高所得層を形成していたにもかかわらず、累進課税制度には反対の立場だった。つまり『黒人や世界を救いたいが、自分の身銭は切りたくない』という、実に傲慢で尊大でケチなバカ共だった。要するにアメリカには累進課税制度を推進する政治セクトが実在しないのである(@_@;)


彼ら左翼はテレビやメディアで、当時、どうしょうもないほど独善的で一国主義・アメリカファーストと声高に叫んでいたD.トランプ大統領に派手に噛み付く事はあっても、貧困対策のために「自分の資産の75%以上を国に供出し、同じ国民として貧富を分かち合う」という考え方がとんと無い、自分ファーストな連中だったのだ。わがまま勝手という意味では左右の違いなどなかった。


人種間の平等・地域、国家間の平等は究極、所得の平等がなければ実現しない。

皆で助け合うのが共助ならば、富を持つものが貧しき者に分け与え、皆が共に豊かになるべきなのに、自分はビバリーヒルズの一等地あたりにデカいプール付きの家を構え、貧困地域とは隔絶した裕福な生活を送る一方、外国や地球の事にはやたらと目を向けるものの、国内の貧困層・黒人たちの生活向上には全く向き合おうとしない不誠実な人たちだったのである。メキシコとの国境に壁を作ることには反対でも、自分の住んでいる豊かな街の周りには塀を囲って貧乏人の犯罪者が紛れ込んでくるのはお断りなのだ…


自由と平等と貧富の格差を是正しようと言いながら、この『無責任な社会主義者』のような状況のために、米国では厳格で有意義な累進課税制度が作れなかったのである。民主・共和両党とも政治家の中に有能な社会民主主義者などいなかったからだ。その結果がアメリカの状況だったのだ。


  ※     ※     ※


では、比較的高度な累進課税制度が課せられている日本ではどうか?

これまた意外な結果が見えてくる…



            【 後編へと続く 】

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