§8-1-2・グローバル化の失敗 〜なぜグローバル化すると先進国庶民層は貧困層へと転げ落ちるのか?…を一言で説明する! ←働いて貧乏になるとは何たる理不尽!?(激怒

○白色彗星帝国前史 〜国家独裁から個人独裁リバタリズム


もともとのゼムリア人(白色彗星帝国の、ガトランティス人の前の主人)も独裁専制国家であったらしい。これを市民が打倒し、その後で民主主義的な国家を作り上げた。このプロセスのため、彼らは「重税」は抑圧権力の象徴と考え、忌避した。可能な限り国家による個人の支配を弱め、国家権力そのものさえ嫌悪する程になっていた。

そのため、まるで19世紀中頃までの米国のような『弱い政府』の状況を良しとした。19世紀までの欧州での階級社会・経済格差から逃れようと貧民層が大挙、新大陸アメリカへ移民していったが、この時の貧民のような考え方を皆が持っていたのだ。個人の『自由と平等』が最も尊いとされていたし、この自己実現欲求を叶えるためにのみ政府は存在するべきと定義された。


反面、それ以前に白色彗星帝国は周辺宇宙に支配領域を持ち、異文明と交易もしていた先進帝国だったから産業技術も金融力もかなりの水準にあった。この技術と資本が専制独裁政府から解放されて市民に行き渡ったため、社会の活性化が図られて爆発的に国富が増大した。この後の展開も南北戦争後のアメリカに起こった産業革命に似ていた。


階級的拘束から解放され、誰もが高度な情報をより自由に駆使して、より自由に活動することが出来るようになった。事実、農民や都市労働者といった大学にも行っていないような下層階級出身者が、自己研鑽と支援者とチャンスを得て大成功するということが頻繁に起こった。それはまるでスタンダード石油のロックフェラーや鉄鋼王と呼ばれたカーネギーのような、一代で他を圧倒するような成功者が次々と現れた時代に似ていたし、また彼ら新興勢力に積極的に投資する金融機関・ベンチャーファンドなども次々と現れ、社会全般の底上げがかなった時代だった。勤労は道徳的な善であり、カネを稼ぐということは善行の結果の当然の報酬と捉えられた。そのためカネを稼ぐことも善とされ、よって富貴になることは真面目で美徳とされた。

結果、新興富裕層を頂点に中間層、下層階級からなる社会ピラミッドが構築されたが、中下層階級の人間もまたチャンスを得れば上昇できるという機運と可能性に満ちた時代でもあった。


これは社会階級制度が原因で富の分配が不平等かつ硬直的だった問題が、市民革命によって解消されたことによる。国家システムの再構築リストラだ。革命によって各階級間を分け隔てていた隔壁を取り除いたら、富と技術という流動性の高い資産が国民全体に薄く広がったようなものであった。このことからいくつかの事が経験則として言えた。


・貧富の格差が固定化された(階級)社会の場合、富の流動性が下がり、経済成長の停滞と阻害要因となりやすい。

・固定化された社会における富の蓄積量はそれほど多くなく、再分配された際、広く薄まる。そのため後の成長マージンが生じる。また富の一部は投資の形で偏在し、これが成長インフレの原動力の一つとなる。

・社会変革の後の劇的な成長インフレ発生期においては、莫大な富を産出する者が貧者および中間層の所得増加を牽引する『トリクルダウン効果』らしいものが、一時的には認められた。


しかし、これも数世代で終わった。国家リストラのマージンを使い切ったからだ。

時代が下ると、旧体制アンシャン・レジームの代わりに高学歴保有者の富裕層が、かつての王侯貴族と同じ上層階級に君臨し、中間層・下層階級の多数派がその下に隷属するようになった。旧体制では生まれながらの身分によって区分けされていたものが、今度は富の大小によって区分されるようになったのだった。しかも「富貴は自分の努力と才能によって得た結果」と考えられたために身分制度以上に論拠と迫力を持っていた。中間層は努力が足りず、下層階級は努力と才能が足りないだけだ…と切り捨てられた。

それでも中間層が多数存在していた時代はまだ良かった。問題なのはそれが国内外の問題から徐々に崩れていったことだった。たとえるなら米国における1980年代以降の展開に似ていた。




○なぜ現代社会は貧富の格差が激烈になったのか 〜金融資産を持てたか持てなかったの差について


米国ピュー・リサーチセンターの資料によれば、1981年の米国中間層の割合は59%であったものが、2015年には50%に減少していた。減少率は実に15%に達する。

一方、低所得層の割合は17%(1981年)→20%(2015年)に、高所得層は3%(1981年)→9%(2015年)へとそれぞれ上昇していた。


米国の中間所得層は、高所得・高中所得・中間層・中低所得・低所得層の五段階に分類され、世帯と人種地域などの構成を鑑みて適宜修正された偏差値から産出されたものであるが、一般的に言われているのは中間層は年収450万円〜1,200万円の所得層を指す。ちなみに全米国平均はおよそ650万円程度とされている。


より問題なのは中間所得層の人数的縮小ではなく、金銭的縮小の方だ。

中間所得層が米国全収入の中でどのくらいの割合を占めていたかを調べてみると、62%(1970年)→43%(2014年)に激減している。逆に高額所得層は29%(1970年)→49%(2014年)と劇的に増加した。また低所得層は10%(1970年)→9%(2014年)とほぼ変わらなかった。

これが意味するところは『中間所得層の所得が急激に減少し、富裕層の所得は爆増した』だった。


中間所得層は減少の一歩を辿り、貧困層に転げ落ちる者が出てきた。その一方で確かに富裕層も増えたのだが、その人的増加を遥かに超える割合で富裕層の所得増加があったということだった。そして全米の富の半分が、僅か10%程度の富裕層に集中しているという非常にいびつな所得構造になっているのだ。


ただし、このデータは少し補足しておかねばならない。ピュー・リサーチと所得割合の比較年数が微妙にずれている事に気づいたと思うのが、これは米国国勢調査局が2014年に統計手法を変更したためにこの年の前後での単純な比較ができなくなったことに起因する(ホウドウキョク・Sep 13, 2017時資料)。なので二つの時期と調査方法のズレた資料から一般論として言えるだけを導くと、アッパークラス10%が米国富(およそ1.5京円程度とされているが)の約半分を保有しているということだ。所得でみると、富裕層1/10人口=中下層階級9/10人口ということだ。


  ※     ※     ※


ではこの1980年代以後、米国経済で何が起こったかを見てみる。この『なぜ〜ヤマトで』の中で、米国は1980年代〜2015年頃までの間、成長インフレが実に年平均2.5-2.6%もあった。その結果、GDPが550%もの成長があったということは繰り返し述べてきた。そしてそのうち30-35%が金融関係が占めているとされていることも述べた。つまり投資ファンドや証券債権を扱う金融セクターだ。この金融セクターによる投資がベンチャー企業を始めとして各種米国産業に振り向けられ、GAFAを始めとした特に情報産業での世界市場の独占を可能にした。その一方で過剰投融資が2000年のドットコムバブルや2008年のリーマンショックのような大規模バブルを招いた。要するに『金融セクターが急激に成長した』ことが米国繁栄の理由なのだ。

そしてこの金融セクターの恩恵を受けたのが富裕層だった。


各層の資産を調べてみると、富裕層の最大の資産は金融資産(証券債権投信等)であり、2013年度では金融資産26%、次が不動産の21%だった。他方、中低所得層では最大の資産は不動産であり総資産の44%、低所得層でも48%だった。さらに金融資産と不動産の資産価値を調べてみると、2010年1月~2016年6月の間に株価は約70%上昇する一方で不動産価格は20%の上昇に留まっている(出典:中本悟・どうする格差大国アメリカ~なぜ「中間層」はこんなに衰退したのか・現代ビジネスweb版)。


これが意味するところは、勤労所得では絶対に確保できないほどの莫大な資産(の増加分)を金融資産からのキャピタルゲインとして得た者が富裕層を形成していた…という事実だった。


米国での金融業の隆盛に投資することの出来た者が、金融資産の形で自己資本の増強を図ることができたのである。これは米国の金融業の急激な成長の恩恵を受けた結果であり、また資本を持つ富裕層は金融業への更なる投資が可能だったために一方的に資産が増えまくったのだ。『カネがカネを生むシステム』の構造がこれだった。反面、労働による所得の増加は殆どなかったということだった。そのことが中下層階級に深刻なダメージを与えた。『グローバル化』・多国籍貿易の悪影響である。これをバラッサ・サミュエルソン効果から考えてみる。




○グローバル化の真の問題点について


バラッサ・サミュエルソン効果とは「貿易財における生産性が非貿易財よりも相対的に高い国は物価が高くなる(wikiペディア丸写し)」であるが、何を言ってるのかサッパリ分からないので別の言い方をする。「発展途上国の物品は安いので先進国に輸出されやすくなり、先進国はカネを持ってるので発展途上国に対しては投資の形を取りやすい」ということである。


何のことはない。日本で言えば中国などから安い物品を大量に購入し、(超高性能商品やパーツの輸出もあるが、相当な額の)投資を行い、中国内に沢山工場作ったりしている…という、ごく日常で見かける光景のことだ。グローバル化時代の典型的な風景と言える。


この効果によって米国は慢性的な貿易赤字を迎えることになった。もともと貿易赤字自体は決して悪いことではないことも述べまくった。『経常収支=所得−内需』に過ぎないので、貿易赤字とは赤字では『無い』。単に『国内で足りない分を補っている』に過ぎないのだ。これは特にアメリカのように過去40年以上経済成長し続けた国において言えることだ。

米国は年平均2.5%以上の激しい成長を続けていたので、さすがに国内では全ての物品を供給することが出来ず、足りない分を他国から輸入していたに過ぎないからだ。だからもしアメリカが本当に経済失速したならば貿易赤字はあっという間に失くなる。成長しなくなったらば、だ。


しかしこの『輸入物品を安く手に入れられる』というグローバル化の強烈なパンチを食らったのが中下層階級の『金融資産をもたない人たち』だった。

前述のように、彼らは主に働いて手に入れる『勤労所得』に頼っていた。此所に安い物品の大量輸入が起こったために、同じ分野の国内業者の競争力が劇的に低下したのだ。イノベーションに失敗し、低価格競争に破れた企業が増えた。これは労働者の賃金が上がらなくなったor会社倒産→解雇の形になったために、勤労所得に頼る中下層階級の所得の伸びが鈍化した。日本などでも2000年代から第二次安倍政権に至るまでの長い期間、普通に見られたことだった。


米国の場合、国家の経済自体は金融業の成長に引っ張られる形でグローバルに進行し続けたが、この莫大な量の不足分の輸入もあって激しいインフレにはならなかった。その証拠がフィリップス曲線に現れていた。

フィリップス曲線とは、縦軸にインフレ率(物価上昇率)・横軸に失業率をとったときに、両者の関係は右下がりのL字曲線になるという一般論だ。


これの意味するところはインフレが発生している時・・・つまり経済成長している時は失業率は低く、逆にデフレの時には失業率が高いという事で、大学の経済学部ではおなじみの図ではあるが、90年代のアメリカではこのフィリップス曲線がL字型ではなく、『逆L字型』になっていたのである。つまり失業率は低下したもののインフレ率(物価上昇率)もまた低下していったのである。


これは米国経済が金融力によって持続的に成長していった反面、『経常収支の赤字』という大量の物品輸入によって勤労所得の上昇が押えられた事を意味していた。製造業においては全世界的な価格競争があり、これは大抵、低価格競争になった。製造業の分野ではデフレが進行するのである。


日本などではこれに対処するために大胆なリストラと、成長分野への重点投資と開発で乗り切ろうとした。その結果、日本では携帯スマホ事業は壊滅したが、それらのパーツや半導体製造装置などの代替がなかなか効かない製品or高額製品で食っていくことになった。派手さはなくなったが、堅実さが残ったというわけだが、高度な技術を必要とするために高学歴か高額な投資を必要とし、庶民や中小企業がおいそれとは参入しにくくなった。つまり全国民的な規模では雇用環境は悪化した。


単純労働による産業では、もはや生産性の向上が望めなくなったために労働賃金が上がらなくなり、それが勤労所得に頼る中下層階級を徐々に弱らせていく原因となったのである(ちなみに経済成長のなかった日本においては失業率が最大6%という高率になり、就職氷河期・失業と手取りの減額および自殺者数増の、ごく普通のL字型をとっている)。

と同時に発展途上国との低価格競争に破れた場合、企業は倒産か海外移転を選択することとなり、国内労働者は失業の憂き目を見たのである。いわゆる産業の空洞化現象だったが、これもまた中下層階級の資産の減少を招いた。


この逆が金融資産を持つ層である。彼らは投資の形で米国(=先進国)や発展途上国に投資することが出来た。このリターン収入で膨れ上がり、さらに資金余力を再投資に回すことで益々富(=金融資産)を増やしていくという『カネがカネを生む』サイクルにハマることが出来たのだった。

よってグローバル化の貧困問題を一言で言うならば、


中下層階級 ←海外の低価格商品との競争により勤労所得が抑圧される

富裕層階級 ←国内外の金融市場の自由化・多国籍化により金融資産の爆増が望める


・・・判ってしまえば単純な事で、これだったのである。

経済成長している国がグローバル化すると何故、みんなが貧乏になるのか?

答えは、発展途上国から安い物品が大量に輸入されると勤労所得の上昇が抑え込まれる。この時、金融資産などの別の資産を保有していない者は所得の伸びが鈍化する。ここに持続的な経済成長が発生すると、可処分所得(=手取り)の増加分以上のインフレが発生した場合には、借金するか貧乏になるかしかないから・・・という答えが出てくる。そして国民全体が『投資』によって金融資産を増やすのでなければ、それが出来る層だけが富裕層を形成するようになる、ということでもあった。

米国における貧富の格差は、投資とリターン収入を得られるか否かに左右されていたのである。



  ※     ※     ※



これと同じことが、前期白色彗星帝国を運営していたゼムリア人の社会に起こった。

金融資産を持つ者だけが一方的に富を増やした。他方、中下層階級は金融資産を持てるだけの資本の蓄積が出来なかった。主に勤労所得の伸びが鈍化したからだった。白色彗星帝国は先進国であり、高度な技術と金融力を保有する強国だった。周辺小国は主に発展途上国であり、バラッサ・サミュエルソン効果がモロに出たのだ。

逆に帝国からは高度技術と投資が主な輸出品となった。たとえば情報産業。たとえば高度テクノロジー分野。そして株式・債権・保険・投信などの金融部門だった。よってこれらに従事し、成功した者は巨万の富を得ることが出来、さらにこの中の成功者は富貴となり富裕層を形成した。


白色彗星帝国は圧倒的な貧富の格差社会となった。貧富の格差により社会が混乱し始めた。中間層は没落し、貧困層は絶望した。デモやテロが頻発し、犯罪が激増した。自殺者も増えた。貧者の数が増え始めると、現在の資本主義への懐疑と反発が広まっていった。共産主義革命もしくは国家社会主義を平然と唱える者たちが出現し、彼らへの支持も集まっていった。このまま帝国は破滅へと向かうのか?


誰もが希望を失った絶望的で刹那的で大混乱した時代に、ゼムリア人たちは苦悩の中からある二つの解決方法を見出した。貧困の問題を解決する二枚の切り札・・・それが『負の所得税』と『教育バウチャー制度』だった。

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