§7-10・なぜテロン人はガミラス人と手を組んだのか(その9) 〜超大国ガミラス帝国の国債を大量購入することのメリットとデメリットを考える

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 2200年以降のガミラス帝国との対等な関係に基づく通商関係を築いた人類だったが、より重要なのは『国債の真の価値』についてだった。金融や産業と同じく重要な『政治』に関してもエポックメイキングな出来事を迎える。

 ガミラス帝国国債を大量保有したことにより、ガミラス帝国にとっても『配慮すべき友人』にのし上がったことだった。


 まるで日清戦争によって大量の英国国債を保有した大日本帝国に対し、大英帝国が配慮した時のような状況になったのだ。

 特にこの時期、ガミラスはデスラー家指導層を喪失していた混乱期であり、政治・経済分野において衰えを見せていた時期だった。この時期に『カネ、大量にぶっこんでくれる』テロン人は、実にありがたい存在にバケていた。


 通常、信認されない政府の国債は無価値だ。特に戦争によって巨大化・強大化した国家の場合、敗北は即、威信の低下を招く。無敵チート戦艦に帝都バレラスを踏み荒らされたとあっては帝国のメンツ丸つぶれだ。実際、帝国内で反乱や独立運動が盛んになったことだろう。このような帝国では経済的悪影響も非常に大きい。分かりやすく言えば、ガミラスマルクの価値がダダ下がりになるのだ。これを、今度は踏み荒らしたテロン人が救済する形になったのだ。


 そして帝国財政にしっかりとテロン人の資産が組み込まれた段階で、野蛮人は貴族になる。

 特にテロンは自国の経済・軍事状況から帝国国債を放出する可能性は低かった。なにより信頼度に欠ける新規発行の地球連邦統一通貨のバックボーンとしてガミラス帝国国債が絶対に必要だったから、買い増しすることはあっても減らすことは難しい。これはガミラス帝国財務省もお見通しのことだった。それをわかった上でのテロン懐柔策が進められた。彼らは既に友人なのだから。これが国債の大量保有者の強みだった。ガミラス帝国は地球連邦政府に対してだけは『特別の配慮』をする必要があったのだ。


 そのためテロン人はガミラス本星人とほぼ同じ権利と資格をもつ『名誉ガミラス人』となった。

 まさに戦後の日本人のようだった。20世紀後半、白人至上主義国家であったオーストラリアや南アフリカにおいて、政経軍事力において他の有色人種から突出していた日本だけが『名誉白人』の称号を得たのと同じような状態になった。

 帝国長期国債の大量保有・・・この理由によって優秀人種・ガミラス人をして野蛮テロン人に異常ともいえる優遇策を採り始めるのである。


 典型的なのが軍事関係で、地球連邦軍主要宇宙艦艇には補助動力としてガミラス帝国製のケルビンインパルスエンジンが採用されていた。テロン人は、実績があるエンジンをライセンス契約で生産(もしくは輸入)することが出来たのである。このエンジンは次元波動爆縮放射機のエネルギーチャンバーとしては使えないようだが、主要大型艦艇にはおしなべて装備されているから信頼性・基本性能ともに高いと思われる。ただし価格はそれ相応であっておかしくないし、ライセンス料は大抵は輸入の3-8割増の負担を強いるから、決して安くはないと思われる。しかし、それでも『ライセンスに応じる』という帝国の許諾がなければ、そもそも不可能なことだ。


 なにしろテロン人は違法複製リバースエンジニアリングに関しては超一流のペテン師だ。波動コアから森雪(←ユリーシアの違法コピー)と多種多彩な違法コピー製品を作り出し、より磨きをかけて高性能化してしまうのだから、気をつけないとケルビンインパルスエンジンも勝手にバラされてコピーされてしまう。しかも「そんなの口約束にすぎん by芹沢虎徹」みたいな事言われたらシャレにならない。冷静に考えてみれば、よくこんなテロン人なんかにエンジン売り飛ばしたと思う。この件に関してだけでも地球を隕石で火だるまにする理由になるくらいだ。それを我慢して帝国最重要機密であろうワープエンジンの供給にGOサインを出したのだから、国債の大量保有者の面目躍如たるものがある。

 まあ、ガミラスの側がしっかりした契約書と弁護士を揃えれば良いだけの話しではあるが・・・。


 勿論、このような生産・契約上のリスクを背負ってもガミラス帝国としては地球側の武力強化を図りたいという思惑があったと考えるべきだろう。脆弱化した帝国の銀河方面での梃子入てこいれの一環と考えれば理解は出来る。かつて第二次大戦後の日本のように、ソ連・中共という強大な共産主義国家の成立への『自由主義陣営の東側の盾』として使う必要はあったようにだ。



 ただし地球連邦政府(=地球人)もまたガミラスに特別の配慮をする必要があった。

 もともと債務返済と復興資金の元ガネがガミラス帝国国債なのだ。これを完全に引き抜くことは、しばらくの間は出来ないことだった。前述のように、地球連邦統一通貨(新通貨)の原資が無くなるからである。またガミラス帝国が『地球人保有の国債の一時使用停止』という政策を取れば、地球は経済的に破滅する。当然、戦争ということにもなりかねないが、国力は常にガミラスの方が上だ。『GDPで劣るものが、勝るものに国家総力戦で勝った試しはない』のだから、地球もガミラスの顔色を伺わねばならないことに変わりはない。なによりガミラスとの経済・技術・軍事協力を推し進めることの方が国益に叶うだけでなく、地球人の中にも『やはり強かったガミラス人』に対する単純な憧れや自らの劣等感のようなものもあり、「二度と負けない」ためにも進んでガミラスの先進文明を取り込もうとする積極的な機運も高かった。


 より重要なことは、地球連邦政府を支え、地球の復興と経済繁栄のもといがガミラス帝国長期国債だったということだった。

 なのでもし万が一にもガミラス帝国が破滅するようなことになれば、ガミラス国債が紙切れになるだけでなく、地球連邦統一通貨が紙切れになることを意味した。地球連邦政府経済圏の破局を迎えるのだ。


 これが、地球国内の反対派を押さえ込んで成立した『地球連邦政府と大ガミラス帝星との間の相互協力及び安全保障条約』の真の意味合いだった。後に極めて緊密な関係へと成長する地球=ガミラス帝国の軍事同盟の始まりだ。


 実際、第8ガミラス浮遊大陸基地奪還作戦では多数の新生地球連邦艦隊が勇戦していることからも判るように、ガミラス戦役後すぐに両者の軍事的同盟関係は緊密なものだったのだ。特にこの地域紛争に際しては、当時の地球側最新鋭艦アンドロメダの投入がなされていた。これは地球側が如何にガミラス帝国防衛に関して留意しているかの証左でもあるし、もしかしたらガミラスの側からも強力な戦力投入の要請があり、それに応えたのかもしれない。無論、地球側の軍事的示威デモンストレーションの意味合いもあったろうが、地球側がガミラス防衛戦闘に関しては地球本国を守るのと同等の必然性を見ていたのだ。これもまた、ガミラス帝国国債を燃やしてしまわないための必須の措置だった。

 ということは、ガミラス帝国国債を利用して地球の復興を目論んだ段階で、地球はガミラスと運命を共にするしかなくなったということだった。ガミラスの国力に頼って自国の通貨供給の安定を図るという現代的な金融体制を採用しているのだから、これは当然の結果だった。


 実のところ、これこそが戦後日本や中国といった超大国が、究極、アメリカに勝てなかった理由でもあったのだ。

 2018年、米国と中国は貿易戦争を始めていた。米国が中国からの輸入製品に対して高関税をかけまくるという手段に出た時、対米黒字を出していた中国はどうしたか?


習近平くまプー「・・・(;`ハ´)アイヤ」

 苦悩するだけだった。


 中国は米国債を官民合わせて300兆円分保有していた。米国国債の大量保有者だったのだ。投資家と言ってもいい。カネを『貸してる側』の勝利者のはずだった。しかし『売り払って米国国債とドルの価値を下落させる。焦土作戦を採る!』・・・ことは、結局出来なかった。


 なぜならば、中国人民元の裏打ちとなっている米ドルの価値を下げることは、人民元の価値を下げることにほかならないからだ。債務で苦しんでいる中国にとって自国通貨の価値が暴落することは輸入物品全ての価格の暴騰=悪性インフレの原因となるだけでなく、外国からの借金の利払い・償還費用の暴騰をも招く。自国経済の破滅を意味した。わずかばかりの輸出力の増強と引き換えにするには、あまりにも損が大きすぎ、結果、独裁体制の崩壊さえ招きかねない事態を招く。こんなこと、出来る相談ではない。これが世界第二位の超経済大国・中国をして対米報復に出られない理由なのだ。本来ならば『カネを貸してる資産家』のはずだったのに、だ。


 同じことは日本にも言えた。日本もまた官民合わせて300兆円分くらいの米国国債(=ドル)を保有していた。

 これは円のバックボーンでもあった。もしこれを売り払ったとすれば米ドルの価値が暴落する。その時のことを考えてみる。現在、1ドル=100円だったとする。これが暴落して米ドルの価値が半分にまで下がったとすると、日本が抱えていた米ドル資産も当然、半分になる。

 これまで日本は日銀として100兆円ほどのドルを持ち、これをベースとして日本円の通貨供給量を管理してきた。この価値が半分になるということでもあった。だとすると、1,200-兆円も抱えている国債という『債務』の金利負担・償還費用負担への不安が急速に強まってくるからだ。昔はよかった。


日本さん「だってまだ債務の1/10くらいの担保金持ってるもん(^^)」・・・そう言えた。

 国債の償還がいきなり全額くることはなく、利払いさえできていればよかった。それも『その日の支払い分だけ』で済んだ。なので1/10もの担保金があれば『まだ全然余裕〜(^^)』と思えた。しかし1/20しかなくなると、俄然、不安が増してくる。


日本さん「あれ? もしかしてここまで少なくなると、万が一に一気に『カネ返して』と騒ぎ立てたらヤバくなるんじゃね? (;一ω一) ??」


・・・と思えてくる可能性がある。多額債務の顕在化だ。

 しかも通貨の裏打ちそれ自体が激減しているのだ。通貨の供給量を増やす事も出来ないだけでなく、円に対する信頼も激減してしまう。これが信用不安を引き起こし、大規模な取り付け騒ぎ等に発展するリスクがあるのだ。

 ということは、たとえば米国が戦争で大敗北するとか、米国経済が天変地異などで崩壊する・・・みたいな状況になったら、日本も共連れで即死することを意味している。『日本がアメリカを守らねばならない』ということでもあるのだ。ならばアメリカが、


トランプ「対米黒字、減らさねーと関税かけるぞ!(# ゚Д゚)!」


・・・と言い出した場合、もし黒字を減らさなければ高関税に苦しむことになるだろう。黒字が出なくなったら、日本の国債の利払いへの不安から日本国=日本国債=日本円が大暴落するリスクが出てくる。しかし黒字を出し続け、結果として米国経済が破綻でもしてしまったら上述のように日本円の価値が爆下がりというジレンマに陥るのだ。もはやニッチもサッチも逝かない(T_T)


 日本やドイツ、中国などが米国に対して黒字を出し続けている事自体は『悪』なのである。因果応報の結果を招く。ただ、現在においてこれが成立しているのは『アメリカは果てしなく経済成長している』からだ。

 逆にアメリカの経済成長が止まったり、米国が最強国から転げ落ちた段階で、日本は死を迎える。日本やドイツ・中国などの対米輸出が結果として、米国の経済成長力の原動力たる産業力の低下を招いているとしたら、実は巨人の肩の上に乗っている小人たちが、巨人の脚を削っている・・・という自殺行為に他ならない愚行とも言えるのだ。


 これこそが究極の『日本経済の破滅』・・・本当に取り返しの付かない、唯一無二の破滅の原因だ。日本国債の発行量が多い事が原因で日本が破滅するなどと考えるバカな外国人投資家はこの世に一人もいない。だから円は常に高い方向へとブレていく。逆に日米軍事同盟が、日本にとって絶対に必要である理由でもある。アメリカ・・・すなわち米ドルを守るしかないからだ。唯一の例外は、アメリカの代わりに日本が世界支配することだ。こうなれば円が世界の基軸通貨となる。ただし、そのための突出した軍事政治経済力が日本に存在するとは思えない。なら結局、日本はアメリカのケツについてまわる勢子せこに過ぎない。


 同じことが2202年の地球にも言えた。

 地球人は、自国の通貨の価値を守り、自国の経済繁栄の原資を守るために『ガミラス帝国を守る』しか無くなったのだ。カネに困ってすがった挙げ句、ガミラス帝国の『カネの奴隷』に成り下がったと言ってもいい。

 これはガミラス帝国が当初の目的 〜地球という文明を自らの帝国の中に取り込むという目的を果たしたことを意味していた。 


ガミラス「( ̄ー ̄)ニヤリ」

 最後の勝者はやはりガミラス帝国の方だった。


 カネを貸している方が、借りている方よりも強い・・・これはごく普通のことだった。しかし国債に関してだけは『違う』。国債の裏打ちとなる国力の強い方が『常に強い』のだ。GDPで勝る側が勝つ。ただそれだけだ。


 テロン人は愚かだった。弱ったガミラス帝国の国債の大量保有者となり、まさに『札束で青白い顔を叩く』ようなウハウハの勝利者気取りであったという。どうやらバカは馬鹿らしく『一等国ガミラスの財布のヒモを掴んだ!』みたいな風に考えていたらしい。なるほど。たしかにそれは事実だ。ガミラス帝国に対する大口顧客であり、成金貴族でもあった。他の劣等人種では考えられないような様々な特権や恩恵に浴する事も出来た。名誉白人だ。


 しかし『カネはヒモ付き』という恐るべき事実には気づいていなかったらしい。そしてGDPで劣るものが、GDPで勝るものに国家総力戦で勝った試しなど無い。まさに金融戦争でもそう言えた。この『カネの戦争』で人類は負けたのだ。次元波動爆縮放射機での勝利など、一体、何になるというのだろう?


 国債という金融ツールを使ってテロン人を絡め取ったのである。

 もう二度と、テロンのチート戦艦が波動砲をこっちに向かって射ち込んでくることもないだろう。やれやれ、一安心だ・・・


 これが現代的な意味での最強国家による世界統治のやり方なのだった。米国一国平和主義パックスアメリカーナという時代の正しい解釈は『世界が米ドルの奴隷に成り下がった』という意味に他ならない。2200年以後の地球は、パックス・ガミラーナと呼ばれる時代に他ならないということだった。もはや人類はガミラス帝国の『植民地』になったようなものだった。『名誉ガミラス人』という一級自由市民の権利と安っぽい称号とを引き換えに・・・

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