§7-7・なぜテロン人はガミラス人と手を組んだのか(その6) 〜ガミラス帝国植民地の一部譲渡と、譲渡植民星を担保にした金融制度の確立について

 2201年。政治経済文化科学技術の各分野において、テロンとガミラスの交渉が始まった。それぞれが長く困難な交渉になったが、ここではまず経済条項に関していくつか述べる。


 当初から広範な経済協力協定が画策された。

 経済体制に関しては自由主義的テロンと帝国主義的ガミラスでは不一致な点も多かったが、ベースとなる金融経済に関する(特に数学的な)概念は、共に共有・理解できる程の知性は持ち合わせていたので、通貨と国債、インフレ・デフレの諸問題と多国籍貿易に関する一般理論についてはかなりの程度、すり合わせが出来た。しかもテロン人の金融経済技術と知識・経験はガミラスと比較しても、そうそう劣るものでもなかったし、デリバティブなどの金融派生商品や保険・債権業務に関してはテロンの側の方が進んでいることさえあった。つまり対等の関係が構築できそうな感じがした。


 戦時賠償の話も出た。カネが欲しかったからタカるという事で、テロン側から「遊星爆弾による民間地域への爆撃はテロである」という理屈だったが、ガミラス人は軍民の違いに関する考え方が無く、また先制攻撃はテロン側からという反撃論文も提出された。これは拙文の第44話に詳述を譲るにして、結局のところ、交渉は全くのすれ違いに終わった。テロンの負けだ。


 地球側は自国の困窮に苦悩しており、ガミラスもこれは判っていた。さりとて、そもそもがケチなガミラス人には『ヒモ付き援助』以外には対テロン援助はしたくないというのが当然の考え方であり、しかも利子が高かった。要するに「ガミラスに地球発行の外債を購入してもらい、そのカネで地球が経済復興したら良い。でも金利は高いよ。債務不履行の時の担保をくれ」・・・みたいな話しでしかなかった。債務に関してはガミラスから100年賦でも良いという申し出があったものの、借りたい金額が地球側にとっては膨大で、しかもガミラスの求める担保になるモノも太陽系にはなかった・・・(T_T)


 ただし交渉を重ねる間に、ガミラスも地球側に対する一定の理解と援助の必要性を感じていることは伝えてきた。いよいよ本音が出てきたということだった。


 そもそも地球にガミラスがちょっかいを出し始めたのも本格的に銀河系へと進出したいからであり、噂によればガミラス人と同祖の人種が異星人に虐げられているという未確認情報もあり、だとしたら今後、今後、体制を立て直して民族の救済は考えねばならないということだった。

 地球を足がかりとしたいために門戸開放と開国を要求してきたのであり、結果、戦争になっただけのことだったのだ。なので元々、地球を必要以上に弱らせることもしたくなかったほどだったようである。行き違いから戦争になった・・・ということが真実だったということだ。

 さりとて、いまの地球側には見返りや将来保証は何もないほどの悲惨な状態でもあった。

 そこでガミラスから驚くべき提案がなされた。


ガミ公「植民地、いくつか持ってけよ。んで、それを担保に資本力の増強を図ってみたら、どお?」


・・・という、驚愕の内容だった。


 ガミラスは政治・経済の混乱から帝国規模の縮小と整理が必要と判断していた。

 特に近年のアベルト治世下において急激に領土の拡張があったが、『経済的・軍事的に不要』と判断される物件も多かった。特に銀河系方面での植民地等はガミラス帝国からは非常に遠く、帝国と銀河の中間点にあった一大根拠地バランは、BBY-01ヤマトが完全に焼き払ってしまったから、ますます銀河に行くのは不便でカネと時間が掛かった。それでいて銀河系に残してきた植民地は地球人ほどの科学技術力さえ無い発展途上国ばかりだった。コイツらは大抵は戦わずして降伏したり、むしろガミラス帝国下に進んで帰順する国もあったほどだ。ガミラスにたかろうという意思、満々なクソ野郎さえいた。


 ガミラスとしては将来性&銀河系深部への中継拠点を期待しての保護国化もしくは植民地化ということだったが、『タダほど高いものはない』という酷い不良物件のオンパレードだった。たとえば、かの地の為政者がガミラス派遣官僚の目を盗んで私腹を肥やすという程度のひどい統治機構だったり、帝国への税の献納以外はガミラスも放置するしかないほどの戦略的・経済的に無価値な星だったり、麻薬や覚醒剤とギャングが横行する滅茶苦茶な星や、内戦だらけで統治能力そのものが無く、治安維持活動を担うガミラスの人的・経済的負担ばかりがデカくなるという困った星もあった。もっと悲惨な『住民が、街中に野糞垂れ流し』みたいなほぼ未開文明のような星もあり、こんな所を植民地化しちまったおかげでインフラ投資に莫大な散財するハメになってしまったこともあった。


 ヒト型でない、むしろビーメラ星人のような昆虫型文明の方が、同じケツの穴からでも『甘い汁が出てくるだけナンボかマシ』という程の、悲惨な為体ていたらくも珍しくはなかった。大体、ガミラスにとって天然資源など自分たちの好きなだけ採掘できるわけだから、通商によって利益を上げるというのがなければ、ほったらかしの方が遥かにマシな糞ったればかりだったのだ。


 こんな『ヤル気も技術もない』植民星はガミラスにとってもお荷物で、実際、手に余った。管理は現地人に任せっきりになったし、上がってくる税収は僅かだった。勿論、大マゼラン星雲全域を経済活動領域とするガミラス帝国の圧倒的な経済規模からしたら『微々たるもの』という意味ではあるのだが・・・。


 実入りが『思ったよりずっと少ない』ということも問題だったが、それ以上に出費のほうが大きすぎるのが問題だった。帝国植民地だったから何かがあったら軍事力・経済力の行使で保護しなくてはならないし、その政治的・軍事的介入に必要なカネが大きな負担となった。現地人同士が内戦始めたりするバカ共だっただけでなく、一部の連中が別の帝国領に紛れ込み、そこで無関係な住民相手に犯罪や無差別テロを始めたりもしていた。しかも進出し始めた銀河方面がことごとくこんな感じだった。遠いし臭いし汚いし、行ったところで面白くもなんとも無い片田舎の戦地・・・では、正直、ガミラス人を送り出すのも厄介だったし、そもそも兵士が嫌がった。ヤル気なんぞゼロだ。


 地球攻略の冥王星前線基地に配備されていた兵士が帝国二級市民国家とガミロイドと呼ばれる人造兵士によってなされたのは、そんな理由からなのである。

 大体において、テロン人に対する基礎資料のなかでさえ『まず銀河の辺境に住みついた、取るに足らない、汚らしい、貧弱な種族である。人間の一種族のようでもあるが、その話す言葉については、人間の言葉との類似が認められるということしか知られていない』(ヨルダネス)と書かれていたほどだった。


 他の銀河系人種に関しては、もはや差別意識丸出しで『彼らは或いは戦闘において少しも優勢でないと見えても、彼らの凄まじい顔付きがとてつもない恐怖を引き起こし、相手を恐ろしさのあまり逃げ出させた』とか、『見た目が恐ろしかったのである。それは、いわば形を成していない塊のようなものであり、顔ではない。そこにあるのは、眼というより点のような穴である』とか『この者たちは、確かに人間の形をしてはいるが、野獣の獰猛さをもって生きている』・・・みたいな、「何かイヤなことでもあったんですか(・.・;)?」とガミラス人に尋ねたくなるほどボロクソに書かれていた。


 事実、銀河系は大マゼラン星雲に比べれば総じて暗黒大陸もしくは発展途上地域であり、もっと言えば地球は『かなりマシ』に見えたので、こじ開けようと躍起になっていたくらいだったのだ。偏差値が少しだけ高そうな工業高校にみえたのだ。地球人こちらは使い物になる。だったらこの際、


ガミ公「オマエらテロン人にやるわ(  ̄ー ̄)y-~~」


とアッサリ委任統治領化を提案した。真実に関するかなりの情報をかくしたままで・・・。


 割譲ということで地球側は喜んだが、ガミラスの公文書では『当該地域の放棄』と表記されていた植民星だったから、その植民星の文明水準は『推して知るべし』という程、ひどい物だった。実際、これが後に地球で大問題を生じさせる元凶となる。移民・難民と貧困の問題だった。人類がパニックになるのはもう少し先の話だが、とはいえ、この時はそんな事とも露知らずの地球人は、喜び勇んでガミラスの求めに応じた。まさに『BBY-01ヤマトが勝ったので、割譲させた』みたいな、とんでもないトンマぶりだったようである ←ばーか(^m^)


 ただし、この『不動産を担保にした金融制度の再構築』というやり方は、テロンの歴史でも実例があった。第一次大戦後のドイツがそうだ。理由は全く不明だが、なぜかドイツは狂ったようにマルクを刷り始め、結果、1兆倍というハデなインフレが発生した。特段、そんなことする必要もなかったのに、だ。このインフレにより債務が激減した後、不動産を担保にしたレンテンマルクを発行することでドイツのインフレは一応、終熄した。カネの担保を土地にもとめて成功した事例があったのだ。しかも状況も似ていた。

 なら、これと似たような事をすればよい。新植民地の経済力を担保に地球と新領域全体への通貨供給を可能とすればよいのだヽ(^o^)丿


 旨いやり方のように思えた。

 所詮、テロンの経済規模はガミラス帝国の壮大さに比べれば微々たるもの。これらの『ゴミ植民地』でさえテロンには十分なほどだった。ガミラスとしても厄介者を処分出来た。なにより地球が頑張って復興してくれれば、彼らと同盟関係を結んで銀河覇権を目指せば良いだけのこと。テロンをスプリングボードとして使えた。またさしあたり戦争になるにしても、敵対勢力はまずは地球に押し寄せるだろう。『生きた盾』として使える(^m^)

 強力な異星人文明との戦闘に備えるためには、ガミラスにとってもテロンの軍事力強化が必要だろう。ガミラスもそれなりの軍事力の援助をせねばならないが、そのためにはカネが必要だし、地球領域で敵対勢力を食い止められればガミラスにとっては『遠い戦争』で終わる。しかもテロンに経済力があれば、援助額も少なくてすむ。おまけにガミラス帝国駐留軍経費をテロンに持たせれば、『タダで軍隊動かせる』のだ。盾をカネ貰って磨いてやれば、あとは盾が勝手に頑張った挙げ句、カネまで貢いてくれるのだから、こりゃなんとも結構なことだ(^m^)


 バラン星を焼き払ったのだから、その代わりくらいしてもらわねば困る。

 おまけにアホのテロン人はWIN-WINの関係と勘違いしてるしね(^m^)


  ※     ※     ※


 両者の思惑は一致した。そのため双方の実務担当は淡々とこの話をまとめにかかった。やり方はまさに大日本帝国の金融制度確立のために行ったことと同じやり方だった。

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