§6-6・対GDP200%の国家債務を背負ったガミラス帝国の起死回生の一手とは?(その5) 〜現代的な国家は国家破綻する必要などない ∠(`・ω・´)

○持っている全てのツールと条件を最大限に活かす方法を考えてみた・・・


 まず対象として選ばれたのは対GDP比100%もの国債を抱えている帝国中央銀行の国債だった。額がデカいのと、国債の最大の保有者であったこと。そして『中央銀行』という特殊な存在であったからだ。


 政府と中央銀行は、ある意味、同じようなものだ。違いは一点だけ。中央銀行は『紙幣』という特殊な債権(手形のようなもの)を発行・管理・維持し、通貨の価値を守るのが仕事だ。そこで政府と中央銀行の双方が『通貨の価値を守る』という意思を共有してるのなら、これは『同じ組織の一員』とさえ言えるではないか? この考え方は統合政府と呼ばれている。


 ただし中央銀行が政府の支配下にあるわけではない。同等の存在だ。これは夫婦に例えられる。「真の夫婦の愛とは、互いの顔を見つめ合うことではない。ともに同じ方向を向いていることだ」・・・この考え方だ。政府と中央銀行が『国民資産を守る』という同じ方向を向いていることが大前提だ。


 これはガミラスでも同じだった。帝国政府の中で、デスラー家に従わない者がいると言った。反対貴族などだが、もう一つ特別な『不服従者』がこの帝国中央銀行だった。帝国中央銀行はガミラスの歴代政府が、どんなにマヌケで役たたずでも帝国を必死に守ってきた。たった一点、『紙幣を通して帝国臣民の価値を守り抜く』・・・これを愚直なまでに遂行してきたのだ。事実、帝国中央銀行総裁および官僚は、帝国貴族出身者とエリート官僚のみであり、それも代々受け継がれてきた。これが帝国中央銀行をして『帝国のなかの大帝国』と言わしめる程の、超然とした存在感の理由だった。真の救国の忠臣なのだ。


 これではデスラー家とて、帝国中央銀行を敵に回すことは出来ない。帝国中央銀行の貢献を熟知し、感謝もしているからだ。政府と中央銀行の関係は『敵であり味方』だ。そしてデスラー政府と帝国中央銀行は祖国ガミラスを守る『盾と戟』そのものだった。今回のたくらみも政府と中央銀行の意思疎通の元で行われたものだし・・・。


  ※     ※     ※


 次に大切なことは「債務を無かったことにする」という、帝国全臣民の同意が必要だった。というのも、国債という政府の債務は本来、政府を選んだ国民が発行した債務ということに等しいからだ。だから「国債の一部を無かったことにする」のなら、全国民(臣民)の同意のもとでなされなければならない。特に国債は政府の債務である一方、保有者にとっては債権という財産だった。この財産の一部を放棄するということは帳簿の上からは『国民の富を一部抹消する』ということ・・・つまり「国民(臣民)の富の一部を削らせてくれ」ということ以外の何者でもないからだ。その相手が帝国中央銀行でも同じだ。政府以外の全ての国債保有者は「国民資産」に合算される性質のものだからだ。


 逆に言えば、国債という国家の債務は、国民の同意があれば無かったことに出来るということだった。


 ここで大事なことは、国債の保有者のほぼ全てが自国民ということだった。ガミラス帝国の場合、債権者の95%近くが帝国臣民だった。なので合意形成が大変やりやすい。これがもし外国籍保有者が多いということになれば、債務不履行にかんして激しくゴネてくる可能性が高いからだ。テロンでいえば、アルゼンチンやギリシアが延々と債務問題を引きずっているのも、彼らの債務の殆どが外債で外国人保有者がゴネていたからだ。逆に、国債が自国内で消費されていることの圧倒的なメリットがコレだ。


 しかも最大保有者は帝国中央銀行だし、大口顧客も帝国市中銀行であることが多かった。結局のところ、債務破棄は誰がどのくらいの割合で、どれだけの負担を負っているかに掛かっているので、国内の大国債購入者たちが・・・

「OK〜(≧∇≦)b」といえば、それで良いということになる。これが国債保有者のほとんどが自国民であることの決定的なメリットだった。


 ガミラス帝国を一企業として例えるなら、デスラー家は経営者で、債権団筆頭が帝国中央銀行という銀行だった。そして、帝国中央銀行分を全額免債ということなのだから、理屈からいえば帝国中央銀行が「OK〜 (≧∇≦)b」といえば、それで良いだけのことではあった。

 とはいえ帝国も帝国中央銀行は企業や一民間銀行ではないので、国内大口国債購入者をまとめる必要があったことと、あとは帝国臣民も一人ひとりが債権者に当たるので、帝国議会の承認が必要でもあった。ただし帝国議会は事実上、デスラー家の言いなりではあったし、大口国債購入者もほとんどが帝国の国策系特殊法人や財団・半官半民の公益事業体と帝国内の民間金融機関だった。


 大口の外国人保有者もいるにはいたが、彼らの動きは読めなかった。というのも、帝国国債最大の購入異星文明勢力がボラー連邦という、赤をベースとした独裁国家だったからだ。

 ボラーはたしかに国家形態は社会主義だったが、カネに関しては並大抵の資本主義国家よりも遥かに資本主義しているような連中で、ガミラス帝国との貿易はトントンにしても、他の大抵の異星文明に対しては黒字を出す産業国家なのに多国籍貿易のルールは全然守らないし、他の異星文明の特許技術を開示(←つまりタダで盗む)しないとボラー国内で商売させてやらないとかフザけた事を言い出したり、周辺領域に対しては軍事的恫喝と違法占拠を繰り返し、他国に高利回りのカネ貸しして、向こうが「カネが返せない」と言い出したら借金のカタに星をまるごと99年租借するとか、国内の異民族を併合したり弾圧したり、あまつさえ自国民の不平不満をチンピラ雇って叩き潰したりとか、結構やりたい放題な厄介な国だったアル。おまけに貧富の格差がデカくてカネにあざとく、


ボラー連邦の有名女優さん「契約書は二枚書いといて。一枚は税務申告に使うから、思いっきり安く買いといてアルヨ」


・・・みたいな、「イヤだよ。そんなことしたらこっちが関税法違反で捕まっちまうじゃねーか?」的な、金持ちはとんでもない不正を平然としていたりするような、正直、困った国だった。しかもこっちがイヤそうな顔をしようものなら、すぐに逆ギレし、


ボラー連邦の飛び込み女子選手「カナダのデブ」


・・・みたいな無礼な物言いをすることもしばしばだった。

 このボラー連邦が帝国国債を大量に購入しているのは判っていた。しかしボラーは此処でも普通じゃなかった。通常、国債は長期国債の方が金利が高い。なので長期国債を購入するのが常だった。今回、帝国が抹消しようとしているのもこの(中)長期国債のことだったが、コレとは別に一年以内の短期ものも存在している。これは国庫短期証券という別会計で算定され、市場も長期とは違う別市場になっていたが、ボラー連邦は何故かこの割合が非常に多かった。これは普通ではない。正直「なぜ??」と帝国でも首を傾げることだったが・・・


(`ハ´ )「ボラー連邦にはボラー連邦の複雑な理由がアル」


・・・だった。どうやら彼らの内輪で権力争いとか利権争いとか、何か合理的でない理由からコール市場のような短期ものを大量に購入するということらしかった。普通、こういう時に「やってんじゃねーのかな?」みたいなのは、たとえば国債の長短金利差を使った金融デリバティブのようなテクだ。国債は『利子を生むカネ』なので、企業などの運用投資金として使える。そして大抵は短期債の金利は低く、長期債の金利は高い。なので短期の金利で借りて、長期の金利で運用する。この差額は現金で支払う・・・など様々な種類と方法があるデリバティブを駆使しているような気がするが、内情がさっぱりわからないので、詮索してもしょうがないことだった。ただ、普通に考えれば損切り覚悟で帝国国債を売却し、その後、底値を狙って再購入するだろうという程度だった。


 しかしボラーを含めて外国人購入者は圧倒的少数派であり、相対的には小口投資家に過ぎない。しかも彼らには直接関係もない処理方法だったのも事実だ。「外債を無かったことにする」と言っているわけでもなかったからだ。

 そもそもこれは帝国の国内問題として処理する案件であったし、完全合意形成も必要もなかった。ガミラスは独裁国家の分際で、こういうときだけ民主的な多数決で決めようというのである。

 よって注意深く監視し、考えうる展開についてシミュレーションするにとどめた。他に出来ることもなかったからである・・・


  ※     ※     ※


 他にも重要なことがあった。国債という『債務』を帳消にするということは、帝国中央銀行が国債という莫大な『資産』を失うということだった。つまり中央銀行が莫大な債務超過に陥るというリスクだった。


 ただし実際には、莫大な債務があるわけではなかった。普通の銀行とは違い、発券銀行は投資が目的ではないからだ。本来業務は『紙幣と通貨の価値を守ること』だ。このための全ての行為は正当化される、といってもいい。中銀にとって、国債は投機目的で購入したのではないし、なにより買いオペという操作を経て『ちゃんとカネを払って』購入したのだ。


 勿論、『自分のトコで刷ったカネ』だが・・・。←でもコレ凄く重要!!


 そもそもカネの流れだけ見れば『買いオペ』の段階で終わってる。現実問題として、市場にその分のカネは流れているし、中銀を政府の一部とみなせば、国債が政府に戻ってきただけとも考えられる。その段階で捨てたって良いわけだ。

 より重要なことは、万が一にカネに不足分が生じたと考えても・・・


「じゃ、足りない分、自分でカネ刷るわ。ほい、さいなら」


・・・になってしまうだけ、という事だった。これこそが管理通貨制度の強みであり、採用している理由なのだ。


 たとえばきんなどの現物を裏打ちとして通貨を発行する金本位制の場合、どっかから金を手に入れない限り、通貨の発行量を増やすことは出来ない。特に兌換紙幣という『きんと紙幣を額面に書かれている金額で交換しますよ』の場合、今回のように途轍もない『損失』が出た場合、対処できない。

 確かにいまでも金本位制を採っている国もある。しかしそれは『管理通貨制度において、通貨を発行するのに最低限必要な担保金として』ある程度の金を保有しているというだけのことだ。テロンで言えば、アメリカが似たようなものだろう(アメリカは金本位制はもう廃棄したけれど・・・)。


 第二次大戦後、米国に世界の1/2〜3/4の富が集積し、きんの地金を大量に保有するに至った。これを担保に米ドルは増発されていった。ブレトン・ウッズ体制とも呼ばれるシステムの原形だ。

 しかし、このあと1971年に、「もってる金じゃドルの発行量を支えきれないし、赤字出まくって金が外国流れちゃって困ってんで、もうブレトン・ウッズ体制やめるわ(^_^)/~」

・・・と言い出した後も、理屈だけ言えばアメリカはこのきんをベースとし、米国の現在と未来の経済力を担保に米ドルを刷りまくっている。

 こんな感じで、現代の金本位制は仮にあったとしても、この担保金分として地金のきんを使っているだけに過ぎない。なので量は、通貨供給量に比べて圧倒的に少ないのだ。


 反対に、その担保金をシッカリ残し、将来に対して『成長します=金持ちになりますよ!』のシッカリした政策と実施があれば、その分、通貨の発行ができるということだ。将来の富を前借りすると言ってもいい。逆に言えば「自分の国で発券銀行をもつ国は、インフレ酷くなってもカネが足りなくて破産するということはない」という理屈なのだ。かなり乱暴な理屈ではあるが・・・。


 もっというなら、たとえ損失として計上したとしても、その債務は現在と未来の『帝国』の債務となるという理屈だった。政府は(議会が存在しているのなら)国民に責任を持つ。一方、中央銀行は現在と未来の国家に責任を持つ。政府はヒトに対し、中銀は国というモノに対する責任執行組織と言えた。だから政府は『ヒトが選挙によって選ぶべき』性質のものなのだ。


・・・ガミラスはそうなっていないけどね。えへ (・ω<)。


 さて、中銀の損失は政府ではなく『帝国』という国家そのものに・・・ということは帝国臣民の生み出す富の損失ということだ。

 だからこそ、実際には国債の利子分の損失しか出ないとしても、帳簿上、莫大な債務が発生するという形になるのだ。これは良くない。会計上、適切に処理しなくてはならない問題だった。帝国に莫大な損が出たことにしたままでは、帝国中央銀行発行の紙幣の信用に問題が出るからだ。大抵は悪性のインフレだ。対処方法は通常、証券化だった。債務を証券に転換すれば、債務は帳簿から消える事になるからだ。


  ※     ※     ※


 ガミラスは、識者が使いたがる政府紙幣という手段を採用するのを諦めた。その代わり、帝国特有のアドバンテージを最大限に利用することにした。独自の金融政策の実施が可能で、管理通貨制度を採用している事。超低金利、マイナス金利政策・国債保有者割合の95%近くが自国民・対外経常黒字・莫大な帝国民間純資産・中銀が国債のGDP比100%も抱え込むという『歴史上初』の珍事などなど・・・。あとは、民間企業の債務は返済しないと銀行が潰れるが、政府発行の国債は政府に戻せればよく、中銀はカネを作る(刷る)ことが出来るという特殊性を利用することにしたのだ。あとは帳簿上の操作を確実に行い、債務が無いことにすれば良いだけだ。


 では、これらを踏まえて実際に彼らが採った方法を展望するm(_ _)m



        【 この項目、続く 】

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