§5-4-13・2150年代末、日本は通貨危機を迎える(その3) 〜日銀ETFと投機筋による円浴びせ売り〜1992年の英国の寒い春の日のように・・・←これはあり得る可能性

○2150年代の破局 〜 日本の破綻は、国債の発行量が多いことによるのではなく、金融投機的な攻撃によってもたらされる通貨危機の可能性の方が高いという内容


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 経済破綻の不安が急激に高まっていた日本だったが、とにかく資産は有り余るほどあった。また政策上のツールも豊富であったため、『日本は絶対破綻しない』と皆が漠然と考えていた矢先だった。破局のきっかけが突如、持ち上がった。

 日銀のETFでの大損失だった。


 ETFとは金融取引所で売買される投信のことで、日本では特に日銀が東証株価指数や日経平均株価などの指数に連動して運用していた。

 大規模に始めたのは2010年代の安倍政権下からというのが定説で、もともとは弱っていた金融機関を買い支える目的から始まったとされる。しかしその後、日銀が莫大な量の購入を始め、日経平均株価を下支えする要因となると共に、株式市場の健全化を奪っていると当時から批判もされていた。


 特に日本では日経平均株価が高い政権は、国民からの支持率が高い傾向が強いため、日銀が安倍政権を下支えするのに金融ツールを使ってるという批判や、当時、年に6兆円もの資産購入(主に株式)を続けたために、日銀が事実上の筆頭株主という企業が出てくるなどの問題もあった。功罪のあるやり方と考えられていたが、幸運なことに2030年代からの地球規模での宇宙開発ブームが起こったために、この時にはウヤムヤになってしまった。やがてETFに頼らない経済成長の時期を迎えていたが、2120年以後のデフレ期に、再び株価を下支えするために導入されていたものだった。


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 日銀ETFの重要な問題点は『国債は国民にとって資産だが、株式は会社が傾いたら紙くず』ということだった。国債は『国民(市場)←→政府』との関係にカネを増強するドーピングの役割を担う。しかし日銀ETFは企業にとってのドーピングにはなるが、それだけだ。そして結果として市場を支えたとしても、市場が暴落すれば投下資本を失うだけだ。建設国債のように橋や道路や津波用の防波堤などとして残るものがない。株式には国民に対する効用がまったくないのだ。

 なにより出口戦略を取り始めた時、株式市場をドーピングするのに日銀のカネが使われていたとしたら、すぐに市場は資金不足になり株価は下落するだろう。自力がついていない『株式市場バブル』なのだから、当然だ。そして、これだけでも日銀は莫大な資産を失うのだ。


 一方、国債は良くも悪くも、政府と中央銀行が管理できる『こなれたツール』だ。仮に国債が暴落し資産価値を失くしたとしても、最悪、国民の税金で負債分を補えばよい。しかも『近々に足りない分(利払いだったり、ある日時の償還分だったり等)』だけで済む。

 中長期的には財政均衡型緊縮策を採用し、同時にその後の国家の経済成長戦略を描いて実施することで政府への信頼が増し、財政規律が取れるようになった段階で投資循環が再び巡って危機を脱するはずだった。最悪、破綻したなら自国通貨が暴落し、国民生活の犠牲の上に債務が帳消しになる。その際には国際的な支援がなされるのも普通で、つまり『債務破綻はイヤだが、逃げ道もある』ということだった。当然、株式市場にはこんな機能は無い。


 しかも日銀ETFによって購入した株式は、必ずしも市場関係者にとっては『買い』とは思われないものも多かった。日銀は、ユニクロだのファミマだのコナミだの東京ドームだのをまとめてグループ会社にでもしたいのだろうか? そもそも小島秀夫のいないコナミなんかに莫大な公的資金を突っ込む事には姉ヶ崎寧々とて反対するだろう。

 つまり日銀は、株価の上下に合わせて機械的に購入しているのではないかと疑われるほどザツなものだったのだ。よって相場を下支えするのが目的だとしても、株式で利益を得るという考え方に乏しかった。これでは大損する可能性があった。なにより、ある特定の会社の損得のために、結果として国税を突っ込むなどというバカげた選択肢など許されていいわけがなかった。


 それでも株式市場が活況なら問題はなかった。莫大な含み益が出たからだ。特に世界経済との連動性が高い東証は、世界の景気が良ければよいほど好成績を挙げた。よって大成功とみなされた時期もあった。ただし全て『時価総額』に過ぎない。状況によって大きく変動するリスクが内在する。

 ではもし、この逆の状況になったら?


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 2150年代で問題になったのは、このマイナス面の方だった。デフレ期に市場を下支えしようと多額の資産を投入したが、同時期に頻発した世界的な金融恐慌・世界不況のために日本の株式・債券などが軒並み下がってしまった。このため日銀が莫大な含み損を抱える・・・という事になってしまったのだ。

 否、そもそもETFには出口戦略なと存在しないのではないか? という疑念も当初からあった。


 株式市場が活況の時、株式を売却することは『それなりに許容できる』事だった。ただし日銀が莫大な発行株式をおさえていたから、放出される企業としてはエラい災難だ。株価は下がる。勿論、景気が良いなら他の誰かが買い直してくれるだろうし、日銀も株価上昇時に売却出来れば利益を得られた。しかし不景気の時、こんなことすれば企業はヘタすれば潰れる。株式を売却した日銀とて大損するのだ。そして、株式市場の相場全体を下へと押し下げる。


 しかも日銀が市場を気にして株を持ち続けても、損が膨らむだけでしかない。なにしろ自分で釣り上げた高値設定で毎年機械的に買い込んでいたのであれば、下がればそれだけで大損する。同じことは株だけでなく債券・証券・投信市場でも言えることだ。


 所詮、ETFは『市場が自律的な成長力を回復させるための劇薬』に過ぎない。使いすぎていいものではないし、出口は『好景気のときぐらい』しかない。しかもこのドーピングの副作用のおかげで市場が活況を呈していただけのことならば、ヤメたら急激にしぼむ可能性がある。まるで『某おすもうさん』のように、現役時代はエラい強かったのに、親方になったら急にしぼんで痩せましたね(^ω^)? ・・・みたいな感じになるのがオチだ。大抵、こういう人物は早死もするものだ。では日本の市場はどうだったか?


 この一連の日銀への不満、市場への不安から日経や先物の指標は上げ下げを繰り返しながら、大きく下落していった。

 更に問題となったのは、やはり海外における景気後退・債務問題だった。世界が持続的に成長出来なかったために、海外への輸出が縮小しただけでなく、海外株式や債券・不動産などの海外での投資案件が莫大な含み損を抱えてしまったことだった。全世界の景気停滞期にぶちあたったために『時価総額』が劇的にしぼんでしまった。


 一時期、日本は負債が対GDP200%に対し、国内純資産が+300%(2018年度で約1,800-兆円)・対外資産総額が+200%(2018年度で大体1,000-兆円。うち対外純資産は+60%程の同年約330兆円)、他に政府資産が+100%以上(同年670兆円)、これとは別に公的資産(空港、港、発電所など含む)が+180-200%(同年で1,000-1,200兆円。計算科目によって統計にバラツキあり)ほどあったとされ、ここに毎年のGDP分が上乗せ出来た(ちなみに2018年度の国民総資産は約1京500兆円、負債が7200兆円。よって国民総資産は+3,300-兆円)。だがそれも世界的な好景気の時の話だ。


 2150年代は世界的な不景気と重なっていた。このため、国内外で株式や債券、不動産など、およそ日本国債以外の全てで大損を出す状況に陥った。そして国内外の不景気のために日本国内に資金が還流してこなくなってしまった。そのため財政が急激に悪化し、国民生活が貧しくなっていった。


 加えて問題となったのが、日本国民一人ひとりの所得の低さだった。多くが低賃金労働に喘ぐようになっていたために、国内市場が縮小していたのだ。それまではかろうじて海外への投資とリターンで生き残っていたが、海外が死にかけている状況では、これも望めなかった。国は豊かだったが国民は貧しかった。


 このギャップは企業家が労働者に正当な対価を払わないという問題から生じたもので、昔からよくある重大な資本主義的根源問題だったが、是正のための政策を采らなかった事は深刻で、結果として国内企業の業績悪化を招いたために、更に株式市場などが下落していった。

 それでも日本は国内市場が強い『内需の国』であって、対外貿易のGDPに占める割合は輸出入を含めても20%程度と、世界でも最も低い国の一つとされていたから、国内市場の六割を支える個人消費に直結する『可処分所得の増加策』を行わなかったことは政策担当者として失格だった。


 まだこの時は「それでも日本は大丈夫」という楽観論も残っていた。金持ちや企業を中心に多額の資産があったから、最悪、増税で・・・という甘い考えはあったようだ。

 しかし株式市場などの金融市場全域に渡っての巨額の損失+海外での全面的な含み損(投資分を回収できないほどの)という状況下で、国家の富それ自体が激減してしまった。ここに国内市場の収縮から赤字基調となりつつあった日本国の将来への不安が、日本人の心理に重くのしかかった。特に日銀が途方もない含み損を出していたことから、日本の銀行・債券・保険業などの金融システム全般への不安が広がったのは、痛かった。

 こうなると企業マインドも萎縮し、不景気に拍車が掛かった。投資は縮小し、企業業績も沈滞していった。当然、労働賃金は抑圧され、国内市場も冷え込んだ。デフレ基調が進展してしまったのだ。最悪なことに・・・


 これに対し、左派政権は失業保険給付金の増額や子育て支援、教育費無料への支援事業などで相変わらず政府予算をムダに吐き出していった。国力増強・経済成長UPの政策ではなく、こんなモノに無駄使いを続けたのだ・・・

 政府臨時予算が組まれたが、増税も出来ず、税収入期待も全くなかったので、難癖つけては国債発行を続けたから、ますます国内外の不信を買い、この段階に来て、ついに国債の発行量の多さまで問題になり始めた。近い将来、財政破綻デフォルトを起こす危険性が真剣に取り沙汰されるようになった。政府の無能さを補完する日銀の信頼までが揺らいでいた・・・。


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 この時、突然、パニックが始まった。

 大恐慌は結局、後になっても『結局理由が判らず、突然』始まる・・・この定石通りの展開となった。日本のこの後の展開も尋常ではなくなった。


 きっかけは些細なものだった。日銀ETFの購入企業が海外投資で大損を出した・・・という、ある意味、何気なにげないいつもの日常風景のはずだった。株価が下がることも、もはや特に珍しくもなかった。しかし、この時は違った。今までの不安が一気に噴出するかのように一方的に下げ続けた。


 ここでついに海外勢が投機的な日本売りを始めるに至った。将来性への不安を担保に、日本円を売り、下がったら買い戻すという『空売り』のターゲットとなった。最初は東証などの日本株の全面売りだった。東証は暴落し、日本は経済恐慌に陥った。株と先物が激しい投機攻撃に晒され、あっという間に紙くずになった。

 そしてこの段階になり、今度は国債の発行残高の多さがクローズアップされた。そのため、当初は株式下落→円高となっていたものが、株価の全面下落と様々な悪い指標が出てくるに従って『円安』つまり国債売りが出始め、円は急激に安くなった。まるで1992年の英国ポンド危機のようだった。


 あの時はポンドが『欧州為替相場メカニズム(ERM)』という固定相場制に加盟した時の欧州金利の高さとポンドの低さとのギャップを狙われたものだったが、2150年代の日本は日銀が大損を抱えた事による円の信頼の低下(への、ファンド側の期待)と、日本経済自体が復活するまでの時間的なギャップとを狙っての攻撃だった。

 株式・先物全面安で荒稼ぎした後で、今度は国債・通貨安で悪どく稼ごうとするファンドと、その攻撃に右往左往するだけの政府と国民という図式になってしまったのだ。


 驚くべきことにこの暴落には有効な手が打てず、ある意味、下がるに任せるになってしまった。

 冷静に考えれば、株式市場の大暴落から始まるという意味では、ごく普通に何処にでもある大規模経済恐慌の図式であったが、中央銀行が莫大な含み損を抱えているという脆弱性のため、「素早くマトモな金融政策が打ち出せないだろう」&「日銀に対する信頼が低下しているので、対デフォルト策も効果が弱いはずだ」と、投資ファンド等に見透かされてしまったことが最大の敗北原因であった。この結果、彼らの思惑通り、無能な政府と脆弱な日銀は、なんら素早い対策を打つことができなくなってしまったのだった。


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 以前からよく『国債の95%くらいが日本国内で消費されている』から、国債の暴落はないと言われていたが、これは『国債の暴落』に関する事に過ぎない。これで想定されるのは『多額の国債の利払い・償還不能→軽度のデフォルト→円安→経済不安からくる株式先物債券市場暴落』への対処法であって、今回のような『先物株式市場全面丸焼け→円安(国債も暴落。金利の高騰)』は、まさに想定の逆だったのである。まるで電撃戦を食らって、あっという間に消えてなくなった1940年のフランスのようなカッコ悪さだった。

 なにより国債購入者の外国人割合が数%だったとしてしても、市場を動かすには十分過ぎるほど機能することを、当時の日本人は知らなかった。ファンドがあらかじめ多額の円を購入している必要さえ無かった。売ったり買ったり(=空売り)を繰り返して、底値を狙って下げ続ければよいだけであった。ちなみにだが、2018年度における対外負債残高(外国人が日本国内で取得した株や債券の時価総額)は約690兆円もある。これが全部引き抜かれたとしたら、日本はGDP分以上を丸々失うということになる。想像を絶する大損害となるだろう・・・


 この時、歯止めを失なわせる理由の一つとなっていたのが東証の構成で、市場参加者の約六割が外国人ということだった。酷い弱点となったのだ。金額にして実に300兆円を優に超える。此処は日本の『数少ない弱点』の一つだ。


 株式市場から外国人投資家(巨大な投資ファンド)が多額の資本を引き抜けば、日本経済への大打撃となる。それが通貨安を招く要因となり、此処を狙われたのである。ある意味、ガイジン投資家の『マッチポンプ』に近かったが、そもそもは日本の株式市場の脆弱性が問題であった。本来なら、日本人参加者が増えるべきであったのだが、株式配当に対する重税や複雑な規制が裏目に出て、国内市場参加者が一向に増えなかったのである。そして、この株式市場に日銀がETFの形で介入し、多額の損失を抱えたことから、日銀の発行する通貨『円』それ自体を狙うチャンスが出てきた・・・というワケだったのである。


 大規模投資ファンド系による投機攻撃はインターネット上の攻撃パターンに似ている。『どこか脆弱な場所を見つけ、そこに怒涛の飽和攻撃を加える』というパターンだ。そして今回の株式・債券・通貨全面敗北は『日銀の脆弱性』を的確についてきた攻撃だったのである。ガイジン投資家は最初から「莫大な日銀ETF介入は、日本国債と違って明確な出口戦略などない」と判っていたからである。クレディ・スイスはさぞ儲けたことだろう・・・。しかし金融庁がどれほど査察に入ろうと何をしようと、そもそもこれは日本政府が悪い。アメリカのように株式取得利益は基本、無税というような特例措置を采らねば日本人は株には投資できなかったからである。

 しかし、FXや仮想通貨のような『もっと遥かに困難な領域』には日本人はかなり突っ込んでいる。つまり投資意欲が無いわけではなかったのだ。日本人の持ってるカネを、国内市場に誘引できないのは政府の失策であり怠慢だ。


 日本の政治家、みんな(・A・)イクナイ!!

 みんなマネタリストになれ〜 (∩^o^)⊃━☆゜.*。゜★・。・。☆・゜・。・゜


 逆の言い方をすれば、『国債の95%が国内消費』だけではダメだったのである。株式・債券・先物・信託等でも国内消費率を高める必要があり、そのために適切な金融規制緩和と銀行・債券・信託・ファンド系資本の整理統合、国民への利益配当を通じての市場参加の機会上昇を、一貫した政策として行うべきだった。それは言うまでもなく、日本の金融国家化・・・アメリカやイギリスのような産業国家からの更なる飛躍が必要だったのである。『モノづくり国家日本』はカネを軽んじる傾向があった。今回は卑しんでいたカネからの無制限全面報復でもあった・・・。


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 世界的な景気後退期に諸問題が噴出した2150年代の終わり、ついに日本は敗北した・・・。

 想定外の全面敗北だった・・・

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