§5-4-12・2150年代末、日本は通貨危機を迎える(その2) 〜愚かな政府は、いかなる強靭な国家をも破滅させる

○2150年代末からの破局への道程 〜右翼・左翼・軍事独裁政権下の『バラマキ型支出』を行う政府は国家を必ず破滅させる


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 2150年代中〜末期、日本は極めて愚かな政権選択をする。

 長期のデフレ下で庶民生活が苦しくなっていた時、与党の無策に愛想をつかした日本人は、左翼メディアの煽動ファシズムに騙されて左翼労組主導の左派政権を誕生させてしまった。もともと自民党にお灸をすえる程度の意味合いに過ぎない選挙であり、左翼ごときに何かを期待したわけでもなかったので、後は官僚に任せておけばよかったものの、バカはバカなりに何かやりたいことでもあったらしい。何がしたかったのか誰にも永久に判らなかったが・・・


 この愚かな政権には致命的欠点が二つもあり、明確で実践可能な経済政策を何一つ持っていないことと、反自民という選挙結果を『自らが選ばれた』勝利だと勘違いしたということだった。特に前者は致命的だった。

 このためミクロ的(アダム・スミスの『国富論』を祖とする需要と供給に関する一般化)でもなければ、ケインジアン(財政政策・金融政策による有効需要の管理)でもなく、マネタリスト(通貨の役割をより一般化する←我々の立場)的でもないばかりか共産主義でもないという、実に頭が空っぽでテキトーな、自分たち一人ひとり(正確には党内派閥の数だけ)勝手気儘かってきままに、思いつきに限りなく近い『自由放任』の舵取りを始めた。


 外交においては、左派系支持母体からの圧力と、(やっぱりこんな連中に政府を任せるんでなかったという)反左翼な国民への慰撫いぶとの間で揺れまくって親米・反米、善隣友好・国益第一主義とコロコロと変節しては世界中を悩ませたし、太陽系内惑星諸国の新興国からは「なら、なにしにこんな所まで来たんだろ?」と宇宙の人達に『宇宙人ユキオ扱い』されてもいた。まさか「日本ほどの歴史と伝統ある秩序だった知性ある国家が、偏差値35のバカどもを選ぶほどのFランクの国民」などとは考えもしなかったからである。


 ただ、まだ外交だけならよかった。責任の半分は向こうに押し付けることもできたからである。諸外国にとっては本当に酷い迷惑ではあったが。

 問題は内政においてもそうだったから、これが致命傷になった。


 愚かなマスコミが扇動して選ばせた素人政権は、己が勝手に信じる実現不可能な社会主義的福祉国家像なる虚像を実現すべく、福祉バラマキ型政策を取り続けた。

 しかしこの『バラマキ型』という大衆迎合主義的な政策は、常に国家を破滅へと導くことは歴史が証明している。1933年からしばらくの間のナチスがそうだったし、20-21世紀に中南米で多数存在していた右派的・左派的軍事独裁政府がそうだ。『右の最果ては左(←両極端は相合わす、の意味)』。まさに破綻国家は、その構造が似ている。そもそもナチスとて、正式名称が【国家『社会主義』ドイツ『労働者』党】なのだから、所詮は左翼と似たようなバカだろう。

 実際、ナチスでさえ1938年会計時には既にデフォルトに陥っていたほどだ。阿呆な程に国防費を使い倒したこととスペイン介入が原因だった。カネ突っ込んで作りまくった戦車の殆どがT-34に歯が立たないものばかりであったにも関らず、だ。


 野方図のほうずなバラマキ型支出・・・これが大失敗の政策だ。否、政策とさえ呼べない。特に稼ぐ力を失っているデフレの時に財政出動させるのならば、「どうやって出費の穴埋をするのか?」を実行可能なプランとして提示し、ちゃんと実行して結果を出さねばならない。大抵は増税になるのだが・・・。

 だが増税する状況になる事自体が間違いで、しかも増税で経済力が回復したことなど殆ど無い。唯一の例外が戦後直後の1945-50年代の『預金税』の時くらいだ。バラマキ型の政策自体を辞めさせねばならないのだ。たとえ相手が戦車に乗った軍国主義者であっても、だ。


 そこで、国民が困窮時に政権についた大衆迎合主義的にんきとり政権が採りたがるバラマキ型支出の問題点を、此処で一度ブラッシュアップする。


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 デフレ下において、企業の『稼ぐ力』は減衰していた。こういう時には第二次安倍政権が採った通貨膨張策リフレが有効だ。万能薬でも特効薬でもないが、処方箋として出すべき、世界の常備薬であった。しかしこうした企業力のアップ・国内市場の増強策は『勝てるものから豊かになる』という、貧富の格差を生みやすい。そのため、まず・・・


通貨膨張策リフレ→国力増進→税収入自然増という余力創造→所得の再分配(福祉政策)


・・・という手順をとるのが良いとされているが、左翼(この場合、右派でもいいし、自民族中心主義でもなんでも構わない。大衆迎合主義政権ポピュリストと定義しておく)は、なぜか大抵は白痴で、所得の再分配を先に考えたがる。特に左派政権は支持母体が共産主義的下層労働者階級であることが多いから、とりあえず現金カネがほしいのかもしれない。実に資本主義的なことだ。ラクしないで働けよ、とは言っておくが・・・


 そのためか、彼らの考え方は通常とは逆で『所得の再分配→国内市場の創造→景気回復』と考えたがるのだ。しかしこれが成功した試しは『歴史上絶無』だ。一度もないし今後もない。左派政権が(そして右派・軍人政権・共産主義者などのならずものが)成功するワケが未来永劫に絶対に無い理由の全てがコレだ。


 成功しない理由は簡単だ。カネは『カタマリ』ではなく『水の流れ』のようなものだ。カネという『紙切れ』『金属のカタマリ』ではなく、『通貨』という『現象』面があることを忘れている。そこで貧乏人にカネが入った場合を考えてみる。


 所得の再分配後、みんなで使う→国内市場の活性化→企業業績の上昇

→賃金の上昇→インフレ→カネの価値が減る→カネ、使わ(or使え)なくなる

→国内景気失速→失業・デフレ→再び貧乏


・・・となる。これは水の流れる勢いが徐々に死んでいくと思えば良い。流れが死ねば、元の量しかないことに気づく。増えてないのだから当然だし、インフレ分だけ減っているくらいだ。


 これに対しリフレ派は始めから流れるカネの総量を増やしにかかる。上からどばっと注がれた水だと思えばいい。だから勢いが失くなれば再び注げばいいだけの話になってくる。最初から限りなく『ズル』に近い事をしているだけのことだ。あふれる水を作り出し、この水の幾分かを弱った貧乏人に『経口補水液』として使うだけのことだからだ。


 そもそも貧乏人にカネを与えたいなら『始めからカネ、増やせばいいじゃん』だけの話。

 そして通貨膨張策リフレはカネの総量が増える政策だ。だから常に正しい。なら、あとは正しいリフレの経済成長政策をやれば良い・・・ただそれだけの話しだった。逆の手順など、あるわけない。


 もしも左翼政権が大胆なリフレ策を採り、まず企業を減税し金融資本家を豊かにする。そしてカネ持ちを金持ちにした後で累進課税によって所得を再分配出来るというのならば、多分、それが一番正しい。ブタを太らせてからサバくのが利口な食肉業者だろうから。しかしニワトリだったらもっと良い。殺せば一度で終わりだが、活かしておけば毎日タマゴを産んでくれよう。金の卵なら、なお結構なはずだ。

 ただし何故かこの唯一正解の手順を取る政治家が、この世界で一度たりともいたことがないだけの話だ。2150年間の間、一度も、だ・・・


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 2150年の日本にもいなかった。『所得再分配の順序』を理解していない素人集団という愚かな政権下で、国内企業の生産力が弱っている時、国力増強策もなくバラマキ政策を採ったために急激に財政が悪化した。


 そもそも社会福祉や弱者救済には原資が必要で、そのためには産業刺激策か増税かのどちらかが必要だったが、前者は支持母体の左翼からの反発で、後者は反感を強める右傾化した国民への配慮から頓挫した。その割にベーシックインカムのようなカネをばらまく典型的な左派政権が採用するポピュリズム的政策を取りまくった。「福祉は二番じゃダメなんです」とばかりに、だった。他に目ぼしい政策もないのだから、やるしかなかったのだろうか?


「ハトでもなければタカでもない。世間に媚び売る風見鶏」・・・タマゴを産まない愚かな人気取にんきとりは、政策に関しては一貫性が全くなかったが、無駄金使うことに関しては素人政治家らしく徹底していた。

 しかし支えるだけの財源など無かった。増税は国民や企業から強い反感があって不可能だった。デフレで弱っていた企業は左派を嫌っていたから言うことを聞かなかったし、官僚も早々に政権を見放していた。そもそも支持母体の労組が反対するほどだった。

 そのために、やるべきでない国債発行をやりまくってしまうのだった。教育国債・福祉国債・医療年金国債・・・。育児休暇がとれないと誰かが騒げはそれに飛びつき、福祉の充実をと左翼メディアが騒げは、慌ててそうした。愚かなことに・・・


 これら国債発行は安倍政権時のような『国力増進』のための国債発行とは意味が違った。企業力・GDPの増強には全く結びつかない『悪い債務』だった。

 GDPの増加がない・国富の増進がない場合の国債の増発は『財政破綻』に直結する。極めて危険な債務だ。この形の国債総額の増加は、国内で消費しているからOKという性質のものではない。国債増発の裏打ちとなる『税収入UP』か『GDPのUP分』が無いからだ。

 バラマキ型の国債増発は、債務の分だけ負担が増える一方のダメな債務だ。これは『戦時国債』と同じ結果をもたらす。なぜならバラマキ型支出は、何も生み出さずに使った分だけ消えていくと言う意味において戦争と同じ類いのムダ使いだからだ。


 逆に成長している時・成長目的の国債増発は、増発分の利払いの上昇率が経済成長率を大幅に上回り、かつ、日本国の全資産の総額を超えるものでなければ、理論上、心配がない。

 こういう時の国債の増発は『国力増進のためのドーピング剤』としての役割を担う。結果から遡って、別の言い方をすれば『日本経済が成長していくにつれ、必要な資金が不足したので国債増発の形で市場に資金を供給した』とも言えるのだ。これは電子と陽電子の関係に似ている。陽電子衝撃砲ショックカノンでおなじみの『時間を過去に遡る電子=陽電子』みたいなものであり、国債も通貨も公開市場操作によって等価交換したのだから、時間との関係で国富の増大に寄与した『同じ性質』のものだったのだ。

 なので『成長のUP分』が(結果として)ない国債増発は財政を破綻させる。


 勿論、反論もあるだろう。たとえば2000-2010年代に「日本は経済成長が無かったにも関らず、国債を増発したではないか?」と言われそうである。たしかにそうだ。実際には少しづつだがGDPは上昇していたのだが、『無かった』と言ってもいいくらいだ。でもなぜ当時は財政破綻しなかったのか?


 理由は簡単で『国債増発分の富は海外投資へ向かっていた』からである。円高のせいで輸出企業が海外へ拠点を移していくしかなかったが、この結果、日本国内の富が海外に流れていったのだ。この富を生産するのに国債が使われた。なによりこれは『捨てた資産』ではない。後に『一次所得』という莫大な利益の源泉になったことを忘れるべきではない。富を生む金の卵に化けたのだ。この『一次所得分』の富が『国債増発分で生産された分を含んでいる』だった。

 海外に多数ある日本の財産〜数百兆円分あるが、この分だけ成長していく原資として、国債が使われたのである。日本の労働者は低賃金労働に悩まされたのは事実だ。日本で生産した富が海外に流れたのだから。しかしちゃんと戻ってくる財産でもある、ということだった。よって『成長していた』のである。結果、日本は対外純資産世界一の国になったのだ・・・。


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 だが今回は違うのだ。国富の増加がない一方で、国債という『政府の債務』ばかりが増えていった。このため日本(この場合は政府)に対する信頼感が揺らぎ始めた。国内外で不安が高まったのだ。「成長がないのに、そんなに国債増やして大丈夫か?」と。「もう国債の利払い、出来なくなるぞ」と。騒ぎ始めたのはIMFやムーディズ、スタンダード&プアーズだけではない。一般人や個人投資家が超光速通信ネットで騒ぎ始める。

 朝日や毎日と言った『反自民党』偏向報道専門左翼メディアは、自分たちが国民をFAKEして選ばせた左翼政権を擁護したいとでも考えているのか、政権批判をすることもなく『報道しない自由』を駆使したが、庶民は黙っていなかった。明日の生活がかかっていたからだ。超光速通信ネットには、毎日のように「日本は大丈夫か?」「パヨク死ね」「溶かした」の類いの書き込みが爆増し、国家への不安が光の速さを越えて広まった。


 もし政府に財源の担保がないのなら『増税』という国民財産を担保にするしかない。しかし連帯保証人である国民の支持が低く、増税すれば政権を明け渡すしか無いと考えてしまった政府に、そんな勇気は無かった。なら国債増発をやめればよい・・・単純な結論だったが、左派政権は福祉削減を嫌がる支持母体の左翼からの支持を失うのを恐れて、こちらも出来なかった。つまり何も出来なかったのだ。

 この『正しいことを断行できない』弱さのため、ますます漠然とした不安が広まっていった。特に政権の支持基盤が弱く、政党内がバラバラならば、一つの政策をまとめることさえ難しいだろう。こういう政府の失策による『人為的な不安定』こそが国家の破綻を招くのだ。


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 日本国は破綻するか?

 しない。


・日米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられないから

・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国

・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている

・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高


 日銀は2002年5月にこんな内容の要旨を発表した。外国の投資格付け会社が日本の格付けを下げた時にだった。『外国格付け会社宛意見書要旨』がそれだ。


 これは別の言い方をすれば『国際金融のトリレンマ』という問題でもある。『資本移動の自由』『固定相場制』『独立した金融政策』の三つが成立することは実現不可能という事実だ。そこで日本は固定相場制を捨てて、残り二つの政策を実現していた。米国などもそうだ。


 一方、EUはユーロという共通通貨を導入したために、構成各国の金融政策の独自性が失われ(←実際は各国中銀がEU中銀を構成しているために、徹底したEU統一の通貨政策は取りにくいというリスクを内在している)たし、中共は中途半端な通貨バスケット制に移行し『資本移動の自由』と『独立した金融政策』の両立を試みているが、通貨バスケット制は広義の固定相場制とも言えるので、いずれ破綻は免れない。EUや中共が日米に比べて危機を内在させている脆弱性と判断できる理由だ。特に金融危機(高金利債務などの)にあっては、より顕著な結果となるだろう。しかしそれは2000年代のことだ。2150年代はどうか?



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 ではもう一度。大衆迎合主義バラマキ政策を採用しても、本当に日本国は破綻しないか?

 する。


 インフレ・デフレや財政破綻は全て通貨的現象だ。なので通貨供給の原則から外れる政策的行動を采れば、いずれ破綻する。

 管理通貨制度では実物資産がない代わりに、当該国の総資産+成長率等を担保に通貨の価値を担保する。つまり国家への『信頼』が通貨の価値の裏打ちとなるため、国家運営を担う政府への信頼が揺らぐことは、通貨の信頼(=価値)が揺らぐことになる。よって通貨の信頼の源泉たる『信頼できる政府』が存在していなければ、国家の状態がどれほど良くても『突然、破綻する』。


 破綻する理由は複数あり得る。歳入に外債の割合が高い時・経済成長が全くないor衰退している場合など国力そのものに起因することも多いが、国富の増加に繋がらない大衆迎合主義的バラマキ政策の結果、政府の負債の増額を招き、現在と将来を破滅させるというシナリオも十分に検討すべきだ。そしてこれは国の貧富に関らない問題であるということも大事だ。人為的な災厄だからだ。

 そして政府が政策的に失態を犯す場合、左翼的政府でも右翼的政府でも軍国主義でも民主主義でも破滅する。またそうした事例は枚挙暇がない。


 これが唯一にして、有り得べき日本の破綻の姿だ。そして、こういう国は結構多い。過去に実例があるのだから、日本では起きないとは言えないのだ。


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 この場合、正解は一刻も早く政府を打倒するのが正解だったろうが、「結果を確認してから」という当然の民主的プロセスのために、信用不安を与える政府をそのまま残してしまった。結果、財政に対する内外の不安に対し、政府も国民も対処出来なくなってしまった。日銀が最後の歯止めとなっているだけの現在の日本において、何か一つ『きっかけ』が出てくれば、それが連鎖的に破滅を引き起こす可能性があった。

 愚かな政府による失策+日本国の抱える脆弱性・・・これが破滅への道程となる。


 日本には、そのきっかけがあった。最後の歯止めたる日銀のETFでの損失がそれだった・・・。


            【 この項目、続く 】

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