§5-4-6・2090年代前半から2100年前半の日本の歩み 〜内惑星大恐慌という世紀末大恐慌の時代

○2090年代前半から2100年前半 〜内惑星大恐慌という世紀末大恐慌の時代


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 2090年代、太陽系内惑星まで活動領域を広げた人類は、始めて停滞の時期を迎えた。環境破壊の悪影響も多分にあったが、むしろこの時代になり、中共やEUなどが事実上のデフォルトを起こすようになっていたからだった。主に2060年代後半から連続して発生したバブルと崩壊の繰り返しの結果、超長期的な累積債務、そして宇宙開発バブルの破滅によるところが大きかった。


 これ以前の時代、世界各国は2000年代初頭のアメリカ発のバブル、特にリーマン・ショックに端を発する莫大な負債を抱えていた。当時の額でおよそ1.5京円。特に金利10%を超える高金利債務も多かったが、これらは2070年代までには宇宙開発に伴う経済成長と可処分所得の増加、それに伴うインフレによって、世界恐慌も無しに自然消滅させることが出来ていた。ここに関しては、2070年代までの日本とほぼ同じ状況だった。


 この『債務ゼロ』の状態は、各国に莫大で健全な投資力の回復をもたらした。誰もが新たな投資チャンスを狙っていた時、折悪く発生した人類生存環境の悪化や資源不足から、各国が協調する形で行った金融財政緩和策による地球宇宙同時進行型開発ラッシュを支える原資となった。

 問題は、健全性の高い融資に留まらず、荒い利益を求めて満足な担保金も準備出来ないのに高金利貸出債務を請け負ったり、2008年のサブ・プライムローンのような『怪しげ』な金融商品が続々と投入されたことだった。

 この結果、2010年代と全く同じことが2090年代に内惑星規模で発生した。実に愚かなリピーターたちだった。


 最初にコケたのは、世界的にも一・二を争うほど強大で凶暴だった中共であった。しかも木端微塵になった。

 21世紀初頭から中国は、莫大な高金利負債に悩まされた。独裁国家特有の脆弱さから、無理にでも人民に豊かさを提供しなければ即、革命騒ぎという状況で、その経済成長のツケとして国内外に途方もない債務を作り出し、その尻拭いに追い回された100年だった。尻に火がついた状態は『一帯一路』なる周辺諸国への投資と中国企業による他国開発へと向かい、これを2030年代以降は宇宙でもやり始めた。


 現在ではハッキリ判っていることだが、この対外膨張政策は第一義的に中国国内の景気刺激対策のためであり、中国の対外国防上の理由など、実は二の次だった。おまけに民主的な手続きが無かったために満足なチェック機能も麻痺していた。これでは破滅しないわけはなかった。

 中国は地球内外で大規模な暴動・騒乱と混乱の10年が続き、世界帝国から脱落した。実際、この時に幾つかの宇宙植民地・・・特に月や火星などの中華人民共和国領が独立するほどだった。それどころか長く続いた共産党一等独裁制度までもが崩壊した。緩やかな大統領制を採用し、実権は旧共産党が解党し組織改編して作られた中華自由民主党という、圧倒的な巨大万年与党が率いる議会制へと移行した。


 この大混乱を受ける形で、全太陽系で債務不安が起こり、財政力のない地球・宇宙植民地の発展途上国(地域)がアッサリとデフォルトを繰り返した。放漫で不明瞭な投資を続けていたのはロシアやインド、中東・中南米諸国も同じで、特に中東の石油に依存していた国々は完全崩壊の瀬戸際に立たされた。


 東南アジアも政策資金を外資つまり外国債に頼っていたため、やはりデフォルトの危機に陥った。韓国は破滅した。政府の歳入を外債に頼るこれら発展途上国型国家では激しいインフレと国内騒乱、そして貧富の格差の増大(特に貧困層の増大)という共通の病魔に襲われることになる。無論、アルゼンチンとベネズエラは今回もまた金利を50%以上に上げたり、桁外れのハイパーインフレに悩まされることになった。こちらもいつもの日常だ・・・。


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 これは不動産バブルの典型的な展開だった。まず第一に大規模破綻が起きる。数年後、弱小国が連鎖破綻する。これが数年経って収まると、思わぬところが大規模破綻する・・・。この通りになった。最後はEUだった。


 もともとユーロという統一通貨は、ヨーロッパ全体の統一通貨として機能していなかった。そのため2060年から連続したバブル崩壊に対し、債務解消のための強い政策・強い金融管理統制力を発揮できなかった。債務に関しては情報開示も不十分で、『隠れ借金』を莫大にかかえてしまった。これは寄り合い所帯特有の、意思の弱さと無責任さの現れで、この100年、彼らは殆ど進化していなかったのだ。

 特にイタリア・スペインなどのEU域内の経済的には脆弱な国々に、欧州中央銀行による『公共部門買い入れプログラム』〜つまり欧州中央銀行による各国債の購入〜によって梃入れを続けていたものの、資金的に行き詰まった。これが直接の契機となった。


 彼らは財政規律を強要する愚かで硬直したプログラムを各国政府に課していた。このためEU域内各国はむしろ『簿外債務』を増やし続ける方向に進んでしまった。しかし債務そのものが無くなるワケではなかった。よって当然、破滅する時を迎えた。

 ドイツ銀行とRBSが破産したことはEUの破局を実感させた。彼等は頑なに拒否したが、事実上のデフォルトに陥った。ユーロがついに紙くずとなり、EUおよびヨーロッパ各国の国債を持っていた者が破産した。いい迷惑だった。EU全体が崩壊の危機を迎え、太陽系内惑星諸国への影響力を喪失していった。


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 相対的に日米が残ることになった。特にアメリカは20-21世紀前半には世界最強国家として米国一国平和主義パックス・アメリカーナと呼ばれる一時代を築いたほどだったが、この直前の時期までに随分と国力を落していた。無論、世界最強国ではあり、宇宙開拓でもアメリカンドリームの再来を狙う程ではあったが、それでも圧倒的ではなかった。『養老院のアンクルSAM』と揶揄されるほど弱っていたが、今回こうしてタナボタで再び世界強国へとのし上がっていく。


 これが2190年代でもアメリカが世界有数の国家である源泉となり、ドルが復活した理由でもあった。100年の間、アメリカドルを最強のままに維持できたのだから、2090年代の経済大恐慌の恩恵を一番享受したのは、間違いなくアメリカだった。


 一方、日本もまたタナボタで世界的な強国の立場を維持できた。とはいえ混乱する太陽系の宗主国になる意思も能力もなかったために、ただ単に『他の強い連中が勝手にずっこけた』おかげで国際的な地位の低下も避けられたという恩恵程度のものであった。日本人は常に内向きだった。あまり外国や外国人には興味がないらしい。今回も、特に何もなくやり過ごした。


 唯一、太陽系内での経済大国であり続けた日本の場合、円高を招いたことは困ったことではあったが、同時に宇宙開発による資源安や再び始まったグローバル化・同盟化の流れの中で安い商品やサービスを手に入れることも出来るようになったから、低所得者を中心に実に恩恵の多い時代でもあった。世界経済に大ブレーキが掛かったデフレと緊縮策の時代だったから、貧乏人も増えた。なので円高はむしろご褒美とも思えた。

 つまり日本にとって太陽系初の大規模大恐慌の影響は、その程度だった・・・。


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 もしどこかの国でバブル・・・特に資産価値を暴落させる不動産バブルが元で経済恐慌が起こった場合、結局はその国の国民が税金やインフレや経済不況などの形で損失を被る。

 日本の場合、1980年のバブル崩壊の損失およそ1000兆円以上を、後の30年以上をかけて『国債』という形で国家が債務を負うことになった。それは『国民』に対し、インフレか増税もしくは失業や破産という、なんらかの形でこの国家債務のツケを支払わねばならない事を意味する。それが経済破綻の本質だ。同じことが他の国でも起こっただけのことだった。

 2090年代は欧米や中国の番、ただそれだけの事だった・・・


 幸いなことに宇宙開発は既に軌道に乗っていたから、経済恐慌を起こしても比較的速やかに(とは言っても10年ほど経ってから)立ち直れた。これは人類にとっても幸いだった。デフォルトのために各国とも、それまで抱えていた債務をチャラに出来たのだから。

 ただし貧富の格差は大きくなり、多くの貧者が街に溢れた。それは日本以外の各国においてはテロと人種暴動の頻発を招いた。また短期的にみれば旧来の政治制度の変革と債務の減少を意味し、中長期的にみれば、これらの国々の国際的な地位の相対的低下をもたらした。


 先進国が軒並み傾いたために発展途上国の自立が促され、また移民・難民は先進国が受け入れる経済力を失ったために、主に宇宙へと逃げ始める。これらは結果として、宇宙移民した人達の自立と独立を促すものとなった。

 世界にとっては大荒れの時代だった。とはいえ、全て日本には無関係ではあった。


 世界の主要国が累積債務を『デフォルト』という荒っぽい形で精算し、落ち着きを取り戻すのは2100年代の初めだった。

 世紀末と新世紀の訪れは、大抵、暗いか寒いのが人類の常だった。宇宙開発の21世紀もそうなった。やがて押し寄せる戦争の足音が聞こえてきた闇の10年となった・・・



             【 この項目、続く 】

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