§5-4-2・2020年から2050年の終わりまでの日本の歩み 〜無人探査を中心とした資源と領域確保の、新たなる大航海時代の幕開け

○2020年から2050年の終わりまでの人類の歩み 〜無人探査を中心とした資源と領域確保の時代


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 2020年から2050年までの間、日本、そして世界を揺り動かす厄介な、しかしピンチをチャンスへと昇華させる人類史が起こった。それは後に成長インフレをもたらすような、劇的な世界情勢の変化だった。

 三つほどあった。


 一つ目は『地球環境の悪化』だった。1990年代ごろから顕在化した環境破壊の悪影響は、特に地球温暖化という形で人類に覆いかぶさった。寒暖を繰り返しながらも一貫して平均気温は上昇し、住環境の焦熱化・酷暑を招いた。しかも、ただ熱いだけならまだしも、農業の生産パターンの大変化や不作、極地方の温暖化による海面上昇、暴風雨や大洪水などの天候不順に頻繁に見舞われるようになった。

 しかも状況は悪化する一方で、現在の大気と海の環境を作り出している深層海流と大気大循環のパターンが変化し、いずれは大規模な気温上昇もしくは寒冷化などによって地球の1/4以上の地域で生存不能になるという予測が、平然となされるようになっていった。

 地球環境保全のための技術革新が必要で、産業として確立させる必要があるほどだったし、最悪、『地球から逃げ出す』くらいの大胆なソリューションさえ必要となるほどだった・・・。


 二つ目は、中共・ロシア・インド等の『新興勢力』が台頭してきて、それまでの西側自由主義陣営が構築してきた1945年体制に公然と反抗するようになったことだ。彼らは多分に自国中心主義的だったので、従来の西側自由主義陣営の中にスンナリ組み込まれることを拒絶した。どうせ「後から来た、分け前の少ない新参者」に過ぎないことは知っていたし、政治政体に民主主機が少ないことも理由にあった。彼等が国力をつけてきた事、またその自信に裏打ちされた『正当な立場』を主張すべきというナショナリズムもあったろう。いや、ただ単に独善的だっただけかもしれないが・・・


 厄介なことに、この時代、世界はテロ戦争とグローバリズム化による資本独占の弊害という『テロと所得格差』の問題に悩まされた時期でもあった。対外不信と自国中心主義・保護主義・愛国主義的な傾向は世界各国に共通に見られ、皆が自国中心主義に徐々に舵を切るようになっていった。各国がまるで1930年代のブロック化経済にも似たような『悪い状況』に進んでいったのだ。


 三つ目は資源の枯渇という大問題だった。

 20世紀前半まで、産業消費は主に欧米や日本といった帝国主義的宗主国(後の先進国)が独占する状態にあった。つまり『消費量が相対的に少ない』状態にあったのだが、その後、全世界的な産業振興により旧来の植民地・発展途上国においても高度な産業消費文明が勃興ぼっこうするようになった。

 21世紀になると全世界のGDPの約半分が発展途上国におけるものになっていたし、人口においても70億人を突破していた。また産業の高度化は希土類レアメタルを始めとした、あらゆる資源の大量消費を必要としていた。この事は、地球資源の大規模搾取を意味していた。

 この結果、22世紀までに鉄やアルミ以外のかなりの資源が枯渇することが予想されるようになった。それは人類文明の失速を意味するだけでなく、産業の崩壊や資源獲得を巡っての戦争の危機さえ招きかねない、憂慮すべき事態でもあった・・・


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 この三つの事案は、まるで1400年代のヨーロッパのような状態に似ていた。つまり大航海時代直前期に似ていたのだ。

 今度は太陽系が相手だった。太陽系内には他の生物はいない。それでいて資源は腐るほどあった。強欲な人類は、今度は『侵略』という一切の罪悪感もなしに、天の高みへと汚い手を伸ばし始めたのは当然のことだった。空気や重力がなくても、カネになるものがあれば、それで良かったのだ・・・


 何が契機だったかは判然としていない。ただし21世紀前半には人類は、主に国家利権のために太陽系に進出し始めた。最初に大胆に進出し始めたのは共産党率いる中華人民共和国だった。


 この国は当時、極めて横暴な積極外交を展開していた。周辺諸国と主に海洋進出を巡って領土争いを繰り広げ、それまでの自由で公正な貿易秩序に違反するような国内法を次々に施行したり、民間企業・金融市場のルールをことごとく踏みにじるかのような露骨な政府介入を続けて、世界各国を辟易へきえきさせていた。

 特に資源と産業技術を独占しようと、他国の持つ知的財産権を簒奪さんだつするような国内法を作ったことから世界各国から反発を受け、しかも莫大な経常黒字を出していたことから、当時の覇権国アメリカと敵対するようになった。


 1990年代のロシアのように、いずれは経済の進展にあわせて(不十分でも)民主化し、自分たちと同じ資本主義・自由主義陣営に鞍替えするだろうと日本や欧米は期待していたが、結果は逆であった。本当に残念な結果だった。

 中共の独裁的な社会体制は欧米先進国には受け入れがたいものはあったし、自ら『中国一国覇権主義』を強調するほど愚かであったために、侵略的な外交と相まって、世界中から警戒されるようになった。地球での居場所がなくなりつつあったのだ。目は必然、宇宙に向いた。


 彼らは大量に資源を必要とする高度産業国家でもあったし、将来の太陽系における主権確保と資源簒奪のために、かなり早い時期から宇宙技術を国策として蓄えていた。2030年代の始め頃になると、突如、月面における自国領土の権利主張を始めた。


 これに激しく刺激された欧米各国やロシア・インドなどの『宇宙開発先進国』もまた、自国権益の保護と資源確保のために『我先に後に続け』とばかりに月面や太陽系内に進出していくことになった。1966年の『宇宙憲章』によって、太陽系内の探査と利用の自由・領有の禁止・宇宙平和利用の原則・国家への責任集中原則などが定められていたが、不備の目立つこの条約の抜け穴をついて、資源の確保と(時に宇宙空間の領有が)なし崩し的に行われるようになっていったのだった。


 同時期、地球環境の悪化はますます酷い状況になっていた。

 夏は日本やヨーロッパ各国でも日中は40度超え、中国・アメリカ・オーストラリアの内陸では50度に達するほどで、デスバレーさえヌルいサウナ程度と感じられるほどの状況の悪化に、まさに尻に火がついたような切迫感が出てきた。これは二つの流れに収束する。


 一つは『異常気象下での生活環境の改善』で、後の宇宙移民に際してのテラ・フォーミング技術の基盤となったり、ガミラス戦時の地下都市移住の基礎研究にも活用された。もう一つは『積極的な宇宙移民』で、地球を捨ててどこか別の領域での生存を試みるというものであり、言うまでもなく後の火星移民などのバックボーンとなる技術思想だった。こうした状況と技術の進展が、後の宇宙進出の基礎となる時代を作った。


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 ちなみに日本はこのメジャープレーヤーの第二グループに相当する立ち位置だった。

 自国一国だけでは太陽系進出は不可能と早々に判断し、アメリカや欧米と組んで月面や小惑星帯への進出を目論んだ。特に日本はイオンロケットを始めとして世界最先端の技術を持っていたし、太陽系探査に関しても長く安定した実績が高く評価されていたから、中国やロシアと対立する欧米にとっても歓迎された。


 日本にとってもメリットはあった。自国の技術的優位性から欧米への一定の発言権はもっていたし、また予算不足をカバーすることも出来、多国籍共同調査・開発の果実を比較的低コストで手に入れることが出来たからだ。韓国や中国からの嫉妬にも似た干渉と警戒をかわす事も出来たし、なにより米国など『身内』からの警戒心を解くことが出来たことは大きかった。日本が太陽系内に領土・資源を確保する際に欧米各国の支援を取り付けることも可能になった。日本にとっても太陽系進出が徐々に『経済的に見合う』ようになっていく黎明期を迎えていたのだ。


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 ではこの時期の日本経済を見てみる。

 2020年代、経済的には膨大な債務を抱え、財政規律維持つまり国家破綻を避けるために緊縮財政と増税が実施されていた。これは日本に再びデフレをもたらした。そのため苦しい割には債務も減らなかった。愚かな財務省が主導する、中途半端な財政政策の悪影響だった。


 金融緩和なら大規模に、緊縮財政なら大規模な歳出削減と大幅増税によって、短期で結果を求めるのが正解であるにも関らず、ここでも『打つ手の全てが少なすぎるが緩すぎ』て、しかも常に遅すぎた。よって、日本は財政政策が常に後手後手に回る醜態を繰り返していた。


 ところが2030年代より始まった、この降って湧いたような宇宙開発騒ぎのおかげで状況が好転し始めた。新たな経済成長の柱が見えてきたからだ。宇宙開発事業に伴う産業技術力の確立と、積極的な投資ブームがそれだ。


 世界各国の宇宙開発の進展に伴い、それに必要な産業が次々と育ちはじめたのは日本も同じだった。当初から技術的優位と世界各国にネットワークを持っていた日本は、欧米などは勿論のこと中国やロシア・インドなどにも積極的に投資・輸出した。そもそも中共やロシア・インドとは利害対立することはあっても『敵』ではない。特に中国とは政経分離・政冷経熱の関係だったから、2000年代にそうしたように、日本は中国に対して基幹技術を含めて膨大な輸出や投資で潤った。


 こうして宇宙開発ブームとそれに伴う金融資本の選択と集中は、日本に持続的な経済成長をもたらした。

 産業は潤い始め、税収入の自然増が起こり始めた。国債発行にあまり頼らずに済むようにもなったし、景気の持続的かつ自律的な成長が国民生活に恩恵を与えた。所得は向上し、貿易収支・一次所得・サービス所得の全てにおいて黒字を達成するのが当たり前になっていた。緩やかではあるが成長インフレの軌道に乗ったのだ。

 そのため国債は徐々に減っていき、政府もプライマリーバランスを守れるようになっていく。だいたい2050年代の頃の話しだ。


 特に銀行・証券・債券・保険分野の全てにおいて宇宙進出産業への投資とリターンに沸き始めてきたことは大きい。特に銀行業は、2020年代から始まった地方銀行の本格的な整理統合により、三菱UFJ・三井住友・みずほ・ゆうちょの四大メガバンクに続く巨大金融機関が続々と成立しており、銀行業の規制緩和をうけて多国籍業務を始めたことから、日本は金融国家への軸足を強めていく。

 円資本の海外流出は国内産業の弱体化を招いたが、人口減もあり雇用に大きな影響を与えることもなく、むしろ円安と投資のリターンの大幅増(←一次所得に相当)の恩恵の方が遥かに大きかった。

 

 この時代、東南海大地震や富士山の爆発などの悲劇も経験したが、それでも総じて世界経済の成長に支えられつつ、日本も債務削減と国力増進に邁進できた再生の時代となった・・・


            【 この項目、続く 】

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