§5-1-7・ではなぜ中国は経済成長したのか?(前編) ←日本をパクった、アタマの良い国だから

 金融を健全化すれば、経済は自律的に成長軌道に乗せられる


 この実例が戦後の日本の歩みであり、経済的に荒廃しきった2200年からの地球連邦政府の歩んだ道だった。

 金融を悪化させる根源的な原因は国家債務、つまり『国債』だ。と同時に国債は人類文明を前へと推し進める起動力でもあった。国債は国富を増大させる強力な政策手段であって、いまさら国債ナシの文明はありえない。なので『良い国債』と『悪い国債』の話しを韓国の事例を引いて述べた。国富を増大させる国債は『良い国債』、逆に歳入を外債に頼るのは『悪い国債』だった。韓国のことだ。とはいえ『悪い国債』は発展途上国では一般によく見られることだ・・・。


 しかし結局のところ、全ての国で累積債務が蓄積するだろうことは避けられず、良くも悪くも国債は借金に過ぎないことも事実だ。

 そして『国家債務は必ず国民の犠牲を伴う』。増税とインフレ、金融資本への公的資金投入という国民の犠牲によって金融を健全化しなければならない時が、全ての国でいずれ訪れるということだった。


 なら1945年の日本や2200年の地球連邦政府のように国家制度それ自体が激変しまう…というような大波乱を経験することなく、国体を護持したまま、より穏やかな金融健全化が図られた事例はないものか? 国家が革命や内戦・敗戦を経験すること無しに、金融を健全化して経済を自律的に成長軌道に乗せた事例はないものだろうか? もしあれば、それは2020年の日本にとって役立つ資料になるはずだ。

 ある。その実例が1990年代中盤の中華人民共和国だ。

 

  ※     ※     ※


 中共は常に一つの国をリスペクトしている。日本だ。日本は中国にとって熱心な研究対象であり、実に見事に日本のことをよくパクっている。ただし悪いことではない。世界的に大ヒット作である日本をパクることは、必然、似たような大ヒットの可能性が十分見込めるからだ。侵略され、不様に逃げ回るしか無かったにも関らず、かつての仇敵から学ぶことの出来る冷徹な知性は、腐敗し侵略的政策を取り続ける現在の中共の唯一の美徳でもあり、いまなお繁栄し続け、生き残っている根源的な理由でもある。その実例が経済政策だった。


 中共の2000年代の10年間の経済成長はまさに奇跡だった。年率10%の成長を10年続け、世界第二位の経済大国になった。

 まるで1950-60年代の日本のようだ。当然、これは偶然ではない。

 中共が『日本と同じことをやった』からの、当然の結果だった。「中国の経済成長の理由」はなにか? とはよく言われることだが、我々は答えを知っている。ある程度の産業力・市場があれば、金融を健全化すれば自律的に成長軌道に乗せられる・・・中共は、これをやっただけに過ぎない。日本を手本にして、だ。これからそのプロセスを説明する。

 

 ただし、あらかじめ言っておかねばならない事がある。まず第一に中共は日本とは政治体制が全く違うということだ。このため彼らのことを理解しにくい。また閉鎖的な独裁国家であるために真実にアクセスしにくい。都合の悪い事実を隠匿するだけでなく、捏造もする。

 ワケ判らん連中がフイて回っているというのでは、正直、精密な検証が難しい。さらに厄介な事に、中共と地方政府は『数値および現実の解釈に対して極めてずさんでいい加減』であるということだ。「デタラメでウソつき」と言っただけでなく「物凄くテキトー」でもあるのだ。思考様式が全然違い、タダでさえ分かりにくいのに、中共の言っている事・提出したデータは全然役に立たないと来ている。

 熱狂的で攻撃的・即断即決をモットーとするが、熱しやすくて冷めやすい。しかも細かい丁寧な仕事はカラッきし苦手・・・という、実に困った彼等の文化的特性が顕著にあらわれているのだ。


 そこで現象面に着目し、中共のデータではなく日本やアメリカなどの他国との貿易で『より信頼できるデータ』を元に類推をしてみる。

 つまり『1990年代半ばに経済破綻した中国は、金融を健全化したので21世紀になって爆発的な経済成長が出来た』のだ・・・という演繹法を用いて現実を解釈してみるつもりだ。判っている真実から現象面をトレースし、シンプルで唯一の結論が導き出そうというのである。それが謎だらけの中共の経済発展を矛盾なく説明できるはずだからだ。

 そのためには、なぜ彼等が破滅したのかのプロセスを丹念に調べる必要がある。知れば知るほど異常だということに気づくはずだ・・・。


  ※     ※     ※


○統制のとれない中共中央政府と未成熟な中央銀行が準備した破滅 〜1980年代から1990年代半ばまでの道


 1990年代前半の中国は、文化大革命の失敗からの国力回復期の端緒に当たる。改革開放路線と銘打ち、資本主義的社会主義という感じの政策を取っていた。この偏った独裁国家なりの資本主義には問題が続出した。

 この時の中国は、まだ国力が脆弱で貧しい国だった。当然、人民元の価値が低く、国策による低価格製品の輸出による富の蓄積に励んでいた原始的な『資本蓄積』期にあたる。だが、驚くべきことに中央政府および中央銀行が機能していなかった。文革の悪影響のせいで国家制度の整備が未成熟だったからだ。

 日本や先進国が装備していた強力で有能な中央銀行が未発達であることは、改革開放政策10年を経て、中共に致命的な欠点をもたらした。


 1980-90年代前半までの中国は巨大で、一律で貧乏だった。全員が一気に豊かに成るということは望めなかった。そこで『まず豊かになれる者から豊かに成る』という、改革開放という『各地方政府の責任で』経済繁栄を行うべしという政策が採られた。これが過度に地方分権を進める結果を招いた。

 特に海外輸出の拠点たりえる沿海諸省と内陸部での経済格差は大きく広がったが、地方分権政策のために、日本でいうところの地方交付税交付金のような中央政府による地方救済策・『政府間財政調整力』が機能を喪失していた。中央の統制力が意図的に弱体化させられていたようである。文革の反省だろうか?


 より重要な問題は、『儲けを分配するのは地方政府の裁量に任された』ということだった。各地方の税収入はある一定程度、国庫に収めたら、後は自由にしてよい・・・という事だった。たしかに強力な中央銀行が無く、強大な中央金融政策がなかったから仕方ないとは言うものの、この『統制の取れない成長』こそが中共の破滅をもたらした。


 各省は産業振興によって税収が増えたが、この資金を銀行が蓄えるのではなく、各省の地方政府が独自の裁量で配分するようになった。銀行制度も銀行も未発達だったし、貧しかった中国ではまだ民間企業の育成も未発達だった。いきおい国営企業が生産力の殆ど(当時の資料で約70%)を担った。国営企業に投下される資本の殆どが地方政府から直接投入された。このため地方政府と国営企業との激しい癒着が進んだ。産業・地方政府の不平等・腐敗の増進で、これが誰もが知るところだが、より重大なのが民業の圧迫と『マクロコントロールの喪失』、なにより地方政府の莫大な債務の蓄積の三点だった。

 不正腐敗の地方政府と国営企業との結託は産業界の独占・寡占をもたらし、貧富の格差と競合する民業の育成を阻み、人民の富の蓄積の失敗を招いた。社会に不正義と不平等が蔓延しはじめた。これは我々もよく知るところだ。


 しかし、より重要な事がマクロコントロールの喪失の方だった。

 地方政府が税収入という財源をおさえていたために国庫への収入が減り、政府歳入が思うように伸びなくなった。中共の中央政府規模も縮小し、財政事情が悪化していった。財政運営能力の欠如から中共の中央政府のコントロール力が弱くなると、ますます地方政府の実質権限が強くなっていった。やがてワガママ勝手に税や経費を徴収し始めたために『予算外の臨時予算』がやたらと増え、この結果、増税と地方債務の激増を招いた。引き受け手はこれまた地方政府の肝いり(←不正仲間の企業)の特殊債券銀行だったり、癒着の著しい地方銀行(←闇金のこと)に会計不明瞭な隠れ債務が爆増したのだ。これを統制すべき強力な中央銀行や強大な中央財務政策局は無かった。

 


○中央銀行不在のいびつな経済実態


 この中央政府のコントロール不能な経済発展は、異常な状態を常態化させた。

 典型的なのはこの時期のインフレ率だった。


 税収入が増えると、地方政府が公共投資にそのまま流し込んでしまうために『好景気=激しいインフレ』となった。当時の実質経済成長率とインフレ率とを比べてみると、経済成長すると一年程度のタイム・ラグを経て急激にインフレが進んだことが判る。急激なインフレの所為で資本が不足し経済成長が一旦止まるとインフレも収束するのだが、その結果、資本蓄積がなされ(←インフレが収束することで資本の毀損が押えられるので)て再び成長率が回復するとまた激烈なインフレ・・・を繰り返すようになった。

 三年〜五年の間隔で、実質成長率が5-15%の上下を繰り返すと、一年のタイムラグを経てインフレ率が5-25%の上下を繰り返すようになるが、これは強力な中央銀行が存在しておらず、中国全土での通貨供給量をコントロール出来ていないことを端的に示していた。


 これは悪性のインフレそのものだ。中国全土の通貨供給量を中央銀行が政策的に決めるのではなく、各省の地方政府が個々バラバラに増やしていった結果、国家にとって必要かつ管理できる通貨供給量を上回る通貨量が市場に流れ(←各地方政府が自分たちの利益のためだけに税金を公的資金として投入したため)無制限で無秩序なインフレが周期的に多発するという自体に陥った。モトが共産主義国・社会主義国なので金融面での理論的脆弱性があったにしろ、これでは国家としてのていをなしていないというしかない。社会主義国だから仕方ないでは済まない。


 この結果、怪しげな利子を付ける高金利な闇金が蔓延っただけでなく、銀行には資本が蓄積出来ず、常に貸出過剰(←赤字)の脆弱な状態になっていた。これを補填するために中央銀行は当時の中国のGDPの25%にも相当する多額の資金を貸し付けていた。これこそまさに輪転機を回して、そのまま市場にばらまく最悪のインフレ誘発要因となった。結果、激烈なインフレとデフレを繰り返す異常な景気循環に陥った。これでは人民の金融資本の蓄積など出来るはずもない。挙げ句、投下資本の90%は地方政府の息の掛かった国営企業と地方銀行に流れた。汚職蔓延の原因となり、国家による通貨管理が全く不十分なまま残された原因でもあった。




○事実上のドルペッグ制と、高度成長期におけるデフレの進行という異常事態


 同時にこの時期・・・だいたい1993-95年度くらいになると、低価格製品の輸出新興政策が功奏し、中共は恒常的な黒字体質へと成長していた。富が海外から蓄積するようになり外貨準備高も増えていった。外貨準備高の増加は自国通貨の発行量の裏打ちとして使われることが多い。「自国通貨の発行量を増やしても、米ドルもこんなに増えているから大丈夫」という担保金の代わりとして使う。国債は『ある国家が永久に責任もって保証する債務』なのだから、米国債を持つことはアメリカが人民元を保障してくれることと同義だ。このため中国は事実上のドルペッグ制を取っていた。米ドルと人民元との連動性が極めて強い状態だと思えばいい。


 当時の経済的に弱かった人民元で(限りなく米ドルに連動する)ペッグ制を採用することは、上述の理由以外に米国への輸出による自国通貨の上昇を押え(←自国通貨安を誘引できる)、また米ドルとのリンケージという信頼から、海外からの投資が期待できるようになる。不安定な弱小国の通貨がドルペッグすれば、ドルを売って人民元を購入するだけで金利差分が手に入るだけでなく、ドルが下がらなければ人民元も下がらないのでリスクも少ない。さらに中国国内においてはドルでカネを借り、その後で人民元に換金すれば良い。これなら米ドルの金利分だけを支払えばよくなる。借りたのはドル建てだったからだ。これは激しいインフレで金利が5-25%以上の乱高下を繰り返す人民元で借りるよりも遥かに安定して設備投資に回せるからだ。良い事だらけのようだが、当然、ひどいリスクもある。

 アメリカの金融政策の影響をまともに受けるというリスクだ。自国の通貨発行量や金融政策がアメリカ頼み・運頼みになってしまうという危険だ。


 しかもこの時期、世界的に見ても奇妙なことに、高度成長を続けていたにも拘らず物価は下落するという珍妙な状態になっていた。この理由はいまだ不明だが、筆者が思う理由は二つある。一つは中国国内の物不足が一巡し、「一応、生活必需品はなんでもある」という生活水準に達したということだ。貧富の格差が大きすぎるので貧乏人は購入できず、高所得層にはこれ以上買い増すものがなくなったということだ。

 より重要な二点目は、中国国内市場の多様化に国営企業が対応できなかった事だと考えている。独善的で上から目線の国営企業には、豊かになり多様化した中国人民のニーズに敏感に応える感性が無く、新市場の開拓に失敗したのだ。これには傍証がある。この時期の前後から一気に海外輸入が増えている。当時の貿易統計を見ると、一次産品・二次産品といった生活者ニーズの外国製品が中国国内に流れ込んでいるのが判る。豊かになった中国人が、より良い生活の質を求めて海外物品に触手を伸ばし始めたということだった。不安定な経済状態の時に、自国通貨が海外へと流出するという事態に陥ったのだ。


 このアンバランスで不自然な状態が長く続くはずはなかった。特に独裁国家において自由主義的資本主義の良いとこ取りをしようなどと企んだところで上手くいくわけもない。いずれ必ず破綻する。この時の中国もまた、すぐに破綻するのだった・・・



           【 後編へ続く 】

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