§4-1-3・絶望と貧困に喘いだ2199年を生き延びた世界の辿った運命(その3)・債券の株式化と小規模国家破産というテクニカルな選択肢

【 債務消滅の嫌な拡散波動砲きりふだ・債券の株式化 】


 そしてこの時、おそらくは1945年当時の日本よりも更に進んだテクニカルなやり方を採るだろう。『債務の株式化』だ。


 先程、金融業から債務を引き抜き特殊法人が受け持つと言った。この債券を株式化するのだ。こうすることで債務は帳簿上、ゼロになる。なぜなら『株式』という財産に化けたからだ。しかも市場に流せる。有価証券としてだ。債券を引き受けた特殊法人が今後、この『株式』などを元手に各種産業に投資を行うことも出来る。特殊法人という『汚い金貸し屋』の成立だ。


 実はこれがある意味『切り札』となる。つまり同じ手が、2018年時の日本で使えるのだ。日本はこの時、対GDP比200%の国債を持っていた。しかし日本は他に『隠れ借金はない』状態だ。他の国が帳簿から外したり、こっそり銀行に付け回したりしているような『あとから無限大に芋づる式に出てくる厄介な負債』はない。特に複利式で数年で返済元本が倍になったり、返済利率が20%を超えるようなジャンク債もない。仮にあっても総量は少ないし、もし実在していれば、既に露顕ろけんしてニュースなどで大騒ぎになっているはずだ。

 挙げ句、国債の四割は日銀と政府系金融機関が持っている。ならたとえば、これを株式化するのだ。


 やり方も同じだ。特殊法人を設立し、国債をここが引き受ける。

 この場合、政府系金融機関の国債を引き抜いてもいいし、市中銀行の国債を引き抜いてもいい。状況次第だ。日本国が信頼を無くし、国債が暴落しているのなら市中銀行が含み損を抱えることになる。これは産業にとってはマズいことなので、民間銀行から国債を引き抜いたら良い。同価値で過剰分を『買い取る』のだ。そうでなければ政府系金融機関が抱える国債でやってみるのがいい。


 とはいえ、まずは国家債務の不安が日本の不安の源泉なので、中央銀行や政府系金融機関から国債を特殊法人に引き抜き、その分を株式化したとする。およそ400-450兆円の巨大特殊金融機関の成立だ。ここには運用原資がある。元は国債で、これにもともとの金利がついている。その利払いには国民の税金が当てられる。これを原資とする。黙っていても年数兆円は入ってくる計算だ。しかも絶対に、だ。実際にはひと桁上だろう。この資金を元手に世界市場に対して投資を行い、リターンを得る。かつての国債だったものは、いまでは株式だ。なので株式市場で売買できる。運用利益と実績があればよい株券に化ける・・・という理屈だ。


 他の利得もある。日本国から国債を引き抜いたのだから金利負債が激減する。利払負担が激減するのだ。なによりこれが大きい。

 当然、決済上は債務が無くなったので『自己資本比率』が上がる。日本の場合には対GDP比負債が激減する。これも大きい。またそのことによって日本国の信用度が上がる。負債額が目減りしたからだ。良い事だらけだ。

 実際、この債務の株式化は『デットエクイティスワップ(Debt Equity Swap)』と呼ばれて、いまでもよく使われる。ただし負債を株式化しなければならないような会社の将来性を、本当に信頼すべきかについては「やっぱり不安だよねぇ」・・・と感じてしまうのも事実だ。


 しかし日本のように、産業技術の基盤があり、ある程度の国内投資が出来ていて『売却出来なくても、カネの回収が可能』な、例えば高速道路や港湾施設事業、林業や半官半民の投資ファンド等が潤沢に残っているのならば、「将来性はある」と判断される可能性は高いだろうし、なれば債務減少による投資効果が見込めるという判断が、これまた市場でなされる可能性が高い。これにより円の暴落は食い止められ、結果、反転して生活も安定していくだろう。


  ※     ※     ※


 よくネットなどで論議されているように「潤沢な資産がある国家は債務を無限大に増やしても大丈夫なのか否か?」の回答がここにある。


→無限大の債務など出来るわけがなく、そんなことをすれば莫大な債務を抱えただけで国民が死滅する。1945年の日本や2200年の地球のように、だ。ただし潤沢な資産がある場合、その信用が担保となり、破局を迎える遥か以前に債券・通貨の信用が回復できる。つまり『安定する』。そして信用のある国家は無限大に債務を増やす前に『プチデフォルト』によってダメージコントロールが可能・・・たぶん、こうなるだろう。


 これが2020年の日本にも当てはまる。プチデフォルトを念頭に置いて行動することは、何度も使える手ではない『禁じ手』ではあっても、絶対禁忌タブーではないのだ。今回の2200年の地球および各国政府・地球連邦政府は『資産もなければ信用もなく(イスカンダル・スターシアの助けがなければ敗けていたから)、挙げ句、とてつもない債務を抱えている』破産国家なのだ。計画倒産プチ・デフォルトなど出来る状況ではなかったのでダメージコントロール不能の状態になっただけのことだ。こういう場合は1945-50年代の日本のやり方を取るしかなくなる。現在の日本の国家破産とは次元が違うのだ。


  ※     ※     ※


 たしかに国債の株式化は劇的すぎて日本の信頼を損なうかもしれないが、それで円が安くなればこれまた国債の価値が激減するので、結局、国家債務は減る。ただし国債購入者は悲鳴を挙げるだろうし、二度と日本国債など買わないという話しになってくると困るので、予め損切りしなくて済む程度の『適正価格』で彼等の国債を国が税金を使って購入する、という必要が出てくるだろう。まあ、結局、税金から支払われることには違いない。むしろ、国債を買っていない普通の日本国民ばかりが損をするような勘定になってくるのだが・・・。


 そのため、もし万が一に日本で実際に実行するとなれば、おそらくは特殊法人の社内処理で『もと国債』と『新規株券』というような別勘定になるかもしれない。というのは『もと国債』なら国民からの利払い(=税金)が期待できる。つまり税金による公的資金投入量が減らせる可能性が出てくるからだ。なので『もと国債』をかなり残しておいて、国債の利払い金を以て特殊法人の余力とし、別途、営業利益に応じて新規株式を発行して更なる資本力の増強を図る・・・とかだ。


 とはいえ、こんな『いい加減にしろ!!』的なやり方が良いのかと言われれば、なんとも言えない部分もある。しかし、総資本は純資本+負債であるのは貸借対照表バランスシートの基本だ。つまり国債という債務も『資本』なのだ。理屈から言ったら何の問題もない。

 勿論、これはリスクを納税者から投資家に移転する詐欺でもあることは忘れるべきでもない。とはいえ、投資家は元々詐欺師みたいなものだと割り切れば、それで良いのかもしれない。どちらにしてもこの特殊法人が行き詰まったら、所詮は国民の税金投入で救済するしかなくなるのだから、リスクの付け替え作業なだけだ。あとは運用益をバンバン上げてもらうこと、そのための良い人材の確保やAIプログラムの開発に尽力すべきだ。つまり経済成長をより重視すべきだ。

 

 ちなみに現在、実際にこれをやろうとしている企業がある。拙文『第29話・戦争は全く関係ない(その2)』で取り上げたドイツ銀行がそうだ。『coco債』と呼ばれる債券だ。

 coco債は「自分の都合の良い時に債券を株式化できる」という、全く以てヒトをナメた債券だ。こんなのに手をつけている事自体、「キミ、何隠してんの?」と疑われるような債券だ。まあ、250兆円以上の隠れ借金があれば、こんなのやりたがる十分な理由にはなるのだが・・・。


 しかし、これらの全ては『経済成長』という『明日のため』の手段だ。何度でも繰り返すが『デフレでは国家債務は絶対に失くならない。持続的な成長インフレだけが国家債務を消滅させる』・・・は基本だ。この宇宙の構成する基本法則の一つであって、エネルギー保存の法則などと同じカテゴリーの法則だ。


 インフレは『惡の華』であって、基本的には忌むべき『悪魔』だ。しかし、ヒトは悪魔一匹くらい飼いならせなければならない。なぜなら天国は、裸の男女がリンゴ喰ってるだけの貧しい世界だからだ。キミは、下着一つ作れない不器用な原始共産主義国に転生したいのか? 1970年代のソビエト・ロシアのように、ニシンの塩漬け一丁を買うために、他には何もないスーパーで四時間も五時間も並んで待つような国家の住民に成り下がりたいのか?? ・・・悪魔一匹飼いならし、プールと庭付きの豊かな豪邸の番犬にしてやるくらいの決意と野心がなくてどうする?


 無論、プチデフォルトになれば、ニシンの塩漬け一丁を買うために、他には何もないスーパーで四時間も五時間も並んで待つような状態になるかもしれない。しかし、その状態が長く続くことはない。持続的な経済成長により欠乏していた商品・サービスは徐々に充当されていく。戦後の日本のように、だ。この時、必要なのは『エネルギーと、健全な資本』の二つだった。いままで我々が長く論じてきたように、だ。

 よって国家破産とは、単純にこの二つを回復させるための方法論であるべきだったのだ。

 

 2200年の地球人もまた、そうした。その結果として、より独善的でより独裁的な地球連邦政府という組織が出来あがったとしてもおかしくない・・・ということなのだ。経済状態の変化・進化が、国家体制の変革を促す・・・過去の歴史によくあったことが、この年にも起こったという、ただそれだけのことだった。激しい増税の中で・・・だが。



         【 この項目、あと一回続く 】

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