§4-1-2・絶望と貧困に喘いだ2199年を生き延びた世界の辿った運命(その2)・預金税と通貨切り下げ。地球統一通貨の導入とインフレと・・・

 地球の各国政府は戦争で死にかけていた自国民に途轍もない『預金税』をかけた。

 つまり銀行を差し押え、そこから勝手に国民のカネをぶったくった。累進課税制度で貧乏人でも最低25%。金持ちなら最大で90%以上の税金(状況によってはもっと遥かに沢山の税金)が、各国の議会・国会などの承認なしで突然、施行された。餓死しそうな各国国民は大混乱と極端な貧困に陥った。富裕層は貧乏になり、中産階級は大打撃をうけ、多くが貧民階層に転げ落ちた。


 さらに此処でテクニカルな手を使うことにした。『自国通貨の切り下げ』だ。

 そもそも預金封鎖で銀行から引き出せるカネはほぼ無くなった。仮に引きおろせたとしても、2199年当時とは比較にならないほど『安値』の通貨になっていた・・・ということだった。おそらくこうする。


 自国通貨〜円とかドルとかポンドとかルーブルとか、もしくはユーロ(ここはフランでもマルクでもOK)といった各国通貨を、新しく地球連邦政府(各国の上位機関。EUを参考に、EU議会よりも遥かに強力な中央集権的政治組織)が責任をもって発行する『地球統一通貨』に置き換えることにした。


 この時、もともとの自国通貨の価値よりも桁外れに低い交換レートに設定した。驚異的に自国通貨の価値を切り下げたのだ。

 たとえば、2199年時の平価として「1地球統一通貨=一円」が正しかったとする。これを「1地球統一通貨=旧貨で一万円」程度にする・・・とかだ。こうなると円の価値が1/10000に下がる。債務を額面通り返すなら、負担は1/10000になる・・・という計算だ。


 これはよくやる手の一つだ。『こなれた詐欺ツール』と言ってもいい。2200年のある日、突然、一円=1/10000円の新円に切り替えますということになった場合、たとえば手元に一万円ほどあったとしても、もう一円の価値しかなくなるという意味だ。そこに吉野家牛丼320円という価格設定のままだったらどうなるか? 牛丼はもう食べません・・・の話しではすまなくなるのは当然だ。普通、逆上する。しかし、どうすることも出来ない。予め外国通貨にでも交換していなければ、だ。そして2200年にはそれが不可能だった。この時の人類はいまだ地球人だけの世界に閉じこもっていたからだ。

 現実問題として、自国通貨引き下げによって暴動や政権転覆が起こることもある。なので、よほどのことがない限り、使わない。

 ただしこの手段を取れば、戦時国債の返済額を劇的に減らせるのだ。


 たとえば私達の子孫がガミラス戦時『愛国国債』を300万円分購入していたとする。2195年10月の新発5年もので、金利は20%というかなりジャンクくさいものとする。既にそのくらい日本の国力は落ちていたと仮定する。ヤマト帰還直後、この償還期限が来たとする。するとコレの償還と利払いに対して『地球統一通貨』が適応されたとする。しかし、帰ってくるのは『300共通通貨』分〜たとえばニッケル玉三枚・・・というような劇的に悲惨な状況になってしまうということだった。年利20%の金利の場合、三年でほぼ元手が倍にはなるが、所詮、増えてもニッケル玉四枚程度だろう。余りは切り捨てられるのが常だ。対ガミラス戦争時、真の敗北者は庶民だ。

 同じ結果は法人・銀行に対しても働く。つまり国家による返済が劇的に軽くなるということだから、やらないワケがなかった。


 と同時に別の効果も見逃せない。インフレだ。

 ガミラス戦後の地球では激しい物不足に陥っていた。何もないのだ。せいぜい地下都市にある物品だけだろう。農工業全産業で深刻な物不足・生産力不足があり、同時に驚異的な増税と国債負担のための各国通貨の乱発の悪影響で、途方もないインフレが進行しているのは間違いない。

 戦後日本のような強力な国家主導の超緊縮政策が採られたとしても300倍もの物価高に悩まされた。統治機能が弱っている各国政府〜とくに発展途上国では一兆倍などのインフレに陥っていたとしても不思議ではない。生活苦は絶望的なレベルにまで低下した。酷い話だ。とはいえ、あえて良いことを挙げれば、この劇的なインフレで国家債務は激減するということだ。拙文・第10話〜12話で述べたように『通貨=国債=債務』だからだ。


 この激烈なインフレと、価値を意図的に目減りさせた『地球統一通貨』の導入で、国家債務は劇的に減少する。数年を経ずしてほぼ無くなったことだろう。無論、地球人の凄まじい犠牲の上に、ではあるが。


 しかし国家債務が無くなったとしても危機は残る。私人に対しては『借金帳けし』という強引な手を使えたが、企業に対してはそうはいかなかった。特に銀行は債務が劇的に圧縮されたと言っても、本来貸し付けていたカネに関しても強引に圧縮されてしまった。つまり『元手がない』という状況に変わりはないのだ。


 そこで公的資金を注入した。銀行からまず債務を取り除くために、特殊法人を設立する。ここに債務を集め、同時に銀行・金融業者の整理統合を行った。弱い銀行や不良銀行は抹殺された。国民から強奪した税金を惜しみなく金融業の立て直しのため『だけ』にブッコミ、結果として、強力で健全な少数のメガ銀行に収斂された。


 似たようなことが1990-2000年代の日本にも起きていた。不動産バブルの後、日本には三大メガバンクに収斂していった。この三つの銀行は世界的な大銀行に成長した。なによりリーマンショックのような不良債権を殆ど抱え込むことがなかった(とはいえ利益を挙げるためにカードローン事業に手を出し、挙げ句、焦げ付かせているので必ずしも優秀とまでは言えないのだが・・・)。それでも世界的に見れば、最大規模でなくても強靱で健全だった。これら三行に加え『ゆうちょ』があった日本は、この後長く世界史の中に残る優良国家として存続した。実際、2199年にイスカンダルに行ったのは彼等だった。何故か?

 銀行業が他の国に比べて相対的に健全なままで、何度か訪れた国債による国家破産を乗り切り、その都度、金融国家としての体裁を整えていった強靭な国家だったからだ。ガミラス戦時においても、日本にはまだ余力があった。BBY-01ヤマトを建造して送り出すほど余力があったのだ。


 この金融業に対する税金を使った公的資金注入により、各国銀行業は復活した。その余力は地球復興のための原資となった。農業・工業の復興とそれを支えるサービス産業への投資。産業資源を確保するために太陽系に再び乗り出すための宇宙船の建造。これは別に次元波動超弦跳躍機関を積んでなくてもいい。もっと安いボロ艦でいいのだ。なにより安く資源を地球に運搬できればそれでいい。なんならマスドライバーのようなものでもいいのだ。とにかく安く、確実に資源を手に入れるべきだ。なにしろ、この小さな太陽系だけで当時の人類には無尽蔵に思えるほどの資源埋蔵量があるのだから。


 金融業に対しての公的資金を投入する責任者は地球連邦政府だったかもしれないし、各国政府だったかもしれない。

 どちらにしても、まず各国政府で債務を個別に返済する方向で検討する。しかしダメならば地球連邦政府が債務保証をする。この過程で各国政府から地球連邦政府へと実質的な権力移行が進んでいくのだ。なにしろ財源を抑え込まれてしまっては各国政府も手も足も出ない。いや、むしろ逆だ。地球連邦という組織が出来上がった時には、この金融問題をテコに強力な地球連邦政府と強力な連邦発券銀行の二つを整備し、地球という統一国家政体の構築を図るという道筋は決定的なことだった・・・



         【 この項目、あと二回続く 】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る