第四章 2200年愛の国家破綻〜復活までの二つの道のり

§4-1・資金とエネルギーが枯渇した、枯れ果てた地球の2200年の秋〜1つめの破綻の経過

§4-1-1・絶望と貧困に喘いだ2199年を生き延びた世界の辿った運命(その1)

 前章では、敗戦後の日本の復興について主に金融面にストレスを置いて述べてきた。

 そして、この日本のやり方は『大変過酷ではあるが、有効』ということも判った。莫大な犠牲を強いるものではあるが、実は一般的な方法だ。いかなる時代・どの国にも適用できる。国民の凄まじい反対は受けるだろうが・・・。

 そこで、この事例を宇宙戦艦ヤマトの世界観で演繹してみる。それは「実現したに違いない」かなり可能性の高い歴史だ。


  ※     ※     ※


 まずは我々の論では前提が存在していた。『エネルギーと金融は特別』という考え方だ。

 そして人類にはBBY-01ヤマトがあり、この艦には『次元波動超弦跳躍機関』つまり波動エンジンがついていた。イスカンダルの技術だ。およそ17万光年彼方にある星に質量7万トンの艦を一年程度で往復させる出力を持つ。これは使える。エネルギーはあるのだ。なら逆に言えば、2199年時の地球もしくは各国政府は金融が激しく毀損きそんしているだけに過ぎない。これが唯一の問題といえた。


 そしてこの次元波動超弦跳躍機関を、残された地球で活用できるか否かで、2200年の地球の姿は全く異なっていたはずだ。

 我々は第一章で二つの全く異なる地球の姿を考察してみた。一つはオリジナルの宇宙戦艦ヤマトの世界に近い『波動エンジンを複製出来なかった絶望的な地球』。もう一つは、描かれることはなかったが、より可能性の高い『波動エンジンを(おそらく勝手に違法で)コピーし、エネルギー資源を確保した地球』の姿だ。

 前者は絶望と貧困に喘ぐ希望の見えない世界、後者は貧富の格差が絶望的に開いた『死なない程度に、中途半端に呼吸いきをしている』世界だった。共通しているのは、莫大な戦時国債という債務を抱えている事だった。


 しかしBBY-01ヤマト帰還後、ガミラスという脅威が無くなった事で(さしあたり)戦争終結という状況になった筈だ。足掛け五年以上におよんだ戦時体制から、平時もしくは復興体制へと移行するべき時が来たということだった。軍艦や兵器製造または地下都市のライフラインへの投資から、地上に出て本格的な文明の復興を試みねばならないということだった。

 それは新たな資源開発や環境整備の必要性を惹起じゃっきさせた。だが、その復興のための全産業を支えるために必要な資金力が絶望的に不足、もしくは債務超過しているという厳しい状態だった。


 そこでまずここでは、「次元波動超弦跳躍機関がBBY-01ヤマト以外には製造できなかった」という世界で考えてみる。これはオリジナルの世界観に限りなく近い。現象に関しては拙文『第5話・2199年、人類はエネルギー不足により絶滅の危機に見舞われた・・・』の続きにあたる世界だ。こちらの世界の展開は簡単だ。ほぼ1945年以後の日本と同じだ。他に方法がないからだ。


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 2200年9月6日(土)、ヤマト地球に帰還。無事、地球は元の蒼い星に戻った。さしあたりガミラスもいなくなった。のんきで平和になった人類だが、それでも心配事はさしあたり二つあった。一つは遊星爆弾でボッコボコになっているので、今後、大規模な地殻変動が起きるだろうということ。もう一つはガミラス戦役の時に使った国家債務の二点だ。


 幸いなこともある。BBY-01ヤマトのもう一つの使い方だ。我々はエネルギーと金融の二つの両輪が人類の経済活動に必須ということを知っている。そのうちのエネルギーに関しては無尽蔵の次元波動超弦跳躍機関が使えた。ヤマトのケツに突っ込んであるやつをだ。

 実際、アレを一年ほど行って帰って試験運用した。時空跳躍ワープが出来、次元波動爆縮放射機はどうほうが撃て、人工重力を生み出すだけでなく事実上無限のエネルギーを時空間から取り出せる「エネルギーがモリモリ湧き出る魔法の泉」みたいなものだった。余力は腐るほどあった。


 人類の未熟な生産技術で作られたにも関らず存外タフで、一年の酷使の間、コレといった故障もなかった傑作だ。コンパクトでありながら信頼性が極端に高いことは、むしろイスカンダルの技術力の圧倒的優越性と、このエンジンが信じられないほど基礎設計が優れていた事を意味する。80年台の日本製のテレビや車のような高い信頼性だ。っていうか、まあ、ぶっちゃけ日本製だ。品質の高さは信頼していいと思う。

 おまけに運用に際しては、殆どタダだ。おまけにイスカンダルのねえさんが使用許諾云々・・・みたいな小煩こうるさい事も言ってきてはいないようだった。実にいいことづくめだ。

 なら、これを人類再生に使うべきだ。


 当然、ヤマトは第二の人生を『地球発電所』として送った。彼女は地球復興に貢献しただろう。それはまるで1929年12月16日から一ヶ月の間、水力発電所が機能不全に陥ったアメリカのタコマに電力を供給した合衆国海軍空母CV-02レキシントンのように、だ。エネルギー問題はさしあたり完全解決した。


 ただし本当の問題は莫大なガミラス戦役の債務負担だった。この負担が地球各国の復興の重しになっていた。民業を圧迫し、国家財政を逼迫させていた。そこで過去の経験を活かすことにした。膨大な債務を独力で減らした国の中で、細かいデータが残っている国がないかを調べてみた。唯一、信頼できそうなデータが残っていた。1945-50年代の日本だ。日本は2190年代でもそれなりに有力な国家だった。考えてみればイスカンダルに行って帰ってきたのは連中だったのだから・・・。なので世界は、偉大な先人たる日本の知恵を借りることにした。日本マニアの外国人たちは大喜びしたであろうし、日本にいる愚かな左翼どもは、日本が賞賛されると、いつものように劣等感と敗北感にさいなまれつつ見えなかったフリをしたことであろう・・・。




【 各国債務の返済方法と地球連邦統一政府への道 】


 各国政府はまず現状を確認することから始めた。ガミラス戦役を遂行する上で莫大な債務を背負ってしまった。

 まずは私人。民間人には各種戦時公債を発行していた。これは各国国民が地球を守るために、なけなしのカネを国に突っ込んだ証書だ。負ければ紙切れ。しかし、その時にはガミラスの植民地or奴隷になっているか、最悪、絶滅していただろう。なので、地球人という民族への最後のご奉公程度の意味合いで購入した人もいたのではなかろうか?


 次に法人。民間企業には戦争協力に当たっての多額の出費があった。戦闘艦の建造や地下都市の整備事業、移転や疎開の費用、太陽系内に進出していた頃の資源開発事業の打ち切りなどもあったろう。農業への補助金から医療等の国民負担なども肩代わりしていた可能性が高い。国が求める多くの対戦争協力事業に自腹を切る(つまり銀行などから融資を受ける)こともあったはずだ。そしてガミラス戦の中で事業継続が出来なくなっていた案件が沢山があったはずだ。不渡りだ。

 また銀行や保険・金融投資家等は民間企業や国家への投資を行っていた。これらが焦げ付く可能性が高かった。

 合わせて、各国政府がこれらの民間企業・銀行に対しての担保補償のようなものを行っていた可能性もある。ということは結局、その国の国民の税負担となる。


 私人・法人含めて莫大な債務を抱えていた。まともな方法では返しきれる金額ではなかった。他の前提条件としては、全ての債務は地球人が100%負担した。これは当たり前だった。他の宇宙人が地球の戦時公債を買ってくれる筈はないのだから。


 ただしエネルギー源はヤマトが使えた。世界各国に電源網が張り巡らされた。基本、タダのはずだった。

 とはいえ、この時のエネルギーの支払い条件については揉めた可能性がある。次元波動超弦跳躍機関は一度、火を入れれば後は勝手に別宇宙・別次元から量子エネルギーを取り出してくれる『魔法の井戸』だ。なので運転費用は極端に安い。一方、このエンジンを日本人一人で作ったと考えるのは難しい。なので次元波動超弦跳躍機関を作るに当たって協力した地球の各企業がパテントやら支払い料金やらをヤマトの管理国(=たぶん日本)に、送りつけてくることはありえただろう。もともと第二次大戦の戦艦大和の巨大な主砲の水圧旋回板でさえ、海のないスイス製なのだ。純粋に自国技術だけで製品を作れる時代など数百年以上も前に終わってる。またメンテナンス費用の負担や運用に要する人員への給与の問題などもある。

「もともとイスカンダルの技術のくせに、カネとるつもりか!?」という意見と、「作ったのは人間で、管理するのも人間。連中には家族もあるし飯も喰う」というだけでなく、将来の次元波動超弦跳躍機関の使用に際しての人間同士・企業間での権利関係の問題も絡んでくるだろう。既にガミラスという人類共通の敵はいない。今度は人間同士での戦いが始まるだけだ。まあ、いつものことだ・・・。


 大混乱する地球。経済破綻は目の前で、しかも人類史上最悪のレベルだ。地球環境は綺麗に元通りになったが、美しい大自然が戻っただけでメシが食えるようになったわけでもない。美しい国立公園の中に、貧乏人の群れが大挙放置されたのに等しい。実に厳しい。

 そこで各国政府は1945年の日本の知恵を借りることにした。こういう流れになった。

 

1.預金税をかける。膨大な債務を自国民の税金で賄うことにした。

2.そのために預金封鎖を行った。現金を持ち逃げ出来ないようにするためだ。

3.自国通貨の切り下げを行った。これにより返済金額は数万〜数百万分の一に減少できた

4.激しいインフレに襲われた。通貨=国債=債務であり、インフレは通貨の価値を減衰させる。よって返済金額は激減した

5.収奪した税金を主に金融機関に公的資金として注入した。各国民が野垂れ死のうが何をしようが、構わないとされた・・・


 まさにこれだった。



         【 この項目、あと三回続く 】

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