§2-10・あと、日本国債務の消し方を伝授する ・・・筆者がではなく外国人が、だが(前編)

 このように、日本の場合の問題点は実に単純で、国債を始めとした「債券」の発行量がGDPに対して二倍という大きさ「だけ」が問題であるということに気づいたと思う。

 貿易と収支において黒字、そしてこれからも黒字を出し続けられそうであり、サービス収支のように真っ赤っかだったものも赤字幅が縮小できる。円安傾向であればこの傾向は更に強化され、海外には「日本がダメになっても」大丈夫と思えるような資産が残っていた。

 莫大な債券ではあるが、次々と「載せ替え」していければ「返済する必要のない」債務であることも判ったし、借金のほぼ90%が「身内」からのものだ。


 さらにここで付け加えるならば、国債に関して言えば民間銀行などは実は50%くらいしか保有していない。残りの40%が日銀が持っている。この日銀が持ち続けることには様々な意見がある。

 日銀が国債を持っているということは、日銀が市場介入などをする時の資金となる。つまり「実弾」だ。また日銀が国債を大量に保有しているということは、国債の利払いの40%が日銀に行く、ということでもある。


 それは日本国民は日銀に対して毎年、だいたい10兆円前後の利払いをしているということでもある。つまり中央銀行にカネを貢いているようなものなのだ。別の言い方をすると、国債を発行するということで政府は「第二の税金」を手に入れ、国民のカネで中央銀行はより豊かな財源を確保し、より強力な金融政策実施を可能とする、ということだ。


 もう少し言えば、日銀分の国債を「全額チャラ」にしたとすれば、対GDP比で100%前後にまで債務が圧縮する。これはごく普通の国の比率だ。しかも、大抵の国は日本とは違い会計科目が実に甘い。日本の科目勘定で再計算すれば、EUの大抵の国は日本と同じ対GDP比200%くらいにはなるし、韓国が250%、中国に至っては算定不能なくらいの規模になる。

 日本人はせっせと借金を返しているのは政府と国家(=中央銀行)に対してということだった。よってこの絡繰からくり自体を「隠れ税金」と呼ぶ専門家もいるほどだ。


 無論、中央銀行がこれだけ持っていることに懸念を示す人も多い。市場原理が働かなくなるためだ。「流動性の罠」と呼ばれる現象で、中央銀行が莫大な量の国債を購入し、その結果として市場に莫大な量の通貨が流通するようになったとする。つまり、莫大な金融緩和だ。このため名目金利がダダ下がりしてしまい、限界いっぱいまで下がってしまうと「利子もらえないから、もう国債買わない」という状態に陥る。これではいくら金融緩和を続けても、吐き出された通貨はただ単に個人や金融機関の中に漫然ととどまったままになってしまって使われなくなる。


 この状態はすなわち、金融政策の崩壊ということを意味する。打つ手が無くなってしまったということだった。この状態には、かつて日本は陥ったことがある。1990年代のバブル崩壊後のことであり、いくら金融緩和をしても景気が一向に上向かず、超低金利状態に陥ってしまった。この段階で景気回復のための金融政策の全ての手は尽きた。流動性の罠だ。この時に必要だったのがインフレ・ターゲットと呼ばれる積極的な物価上昇策だったとされ、いまアベノミクスがやっていることでもある(きわめて不十分ではあるが)。


 ただし、これに関して筆者は「銀行・債券業務から負債を取り除いてやらなければ、どんな金融政策も無効」と考えているので、デフレ下でありながら流動性の罠に陥ったのは当然だと思っている。インフレターゲット政策が必要だったのではなく、金融関係の債務整理の方が必要だったと考えていたからだ。ただし、もう少しでスタグフレーションが起きるのではないか? とさえ思えたほどヤバい状態だった(と筆者は思っている)のは事実だ。


 ちなみに2016年時における大きな問題「アベノミクスの結果、企業は儲かってるのに個人所得が伸びないのはナゼか?」の理由の一つにこの流動性の罠をあげる人もいる。金融緩和の効果が薄いからだ。確かにそうかもしれない。実際、ゼロ金利政策という「裏技」を使っているほどだ。

 しかし、筆者の意見は違う。

 筆者は「安倍政権の金融緩和施策を裏切って、日銀や財務省がコッソリと金融引き締めを行っているから」という考えだ。安倍政権が日本経済を加速させるためにアクセルを踏んでいるのに、助手席の日銀・財務省の現場担当者が勝手にブレーキを踏んでいるからだと言っている。


 本来、安倍政権の金融緩和策はもっと効果があった。消費増税は確かに大ブレーキにはなったし、やらないほうが良い。たとえ財政が不健全になっても、だ。しかし、消費増税から何年も立つのに、いまだに国内の個人消費が伸び悩んでいるのはなぜか?

 増税のせいではなく、インフレ政策で設定している2%の物価上昇率(それも実際には1%程度)以上の賃金の上昇がないためだ。この浮揚力の欠如は、市場に資金が「流れていない」・・・つまり「資金供給量不足」だからだと考えている。


 金融実務担当者は現場を知り尽くしているために、「アベノミスクでは国家が破滅する」と考えてしまって現場単位で金融縮小策を勝手に取っているために、常に日本の政策がチグハグで中途半端なものになっていると筆者は考えている。本来は、増やす時には覚悟を決めてもっとドバッと通貨供給量を増やさなければダメなのだ。

 筆者が思うに、典型的なのは償還五年くらいの中期国債の取扱いで、ここで国債の買い入れ量を調整(すなわち縮小)していると考えている。短期・長期に関しては、動かすと市場が敏感に反応するので、そのあいだくらいの中期国債を使ってゆっくりとコントロールしているような気がしてならない。


 これだとイールドカーブと呼ばれる、短期国債から長期国債までの利率の変化をグラフ化した指標でも、見えにくいし分かりにくい。グラフの真ん中くらいが少し急な「Γ」型になるだけだからだ。つまり「分かりにくい」ので財政担当者たちはやっているのだろう、と踏んでいる。


 しかも日本の国債は、他の国に比べて保有期間が短い。平均5-6年程度だ。普通の国は七年から十年くらいだ。なので、日本のこの「谷間」を使って通貨供給量をコントロールしている・・・つまり絞り込んでいるために、金融緩和の効果が激減していると考えているのだ。


 ただし、長期国債の買入額の減少は既にいまでもやっていて、これは当然、テーパリングと呼ばれる金融引き締め策だ。大々的にやらないのは、大きな声で聞こえるようにやると市場が混乱するからだ。でも、実はやってる。

 このためにアベノミクスは常に不完全な結果にしかならず、その本来の成果である「国民の財布が豊かになる」が実行できないのだ。とはいえ、財務官僚にそこまでの勇気がないのもうなづける。


 なぜなら、アベノミクスは「計画倒産」に限りなく近い方法だからだ。インフレ政策は究極、通貨の価値が下落するということだ。そして国債も下落する。国債が下落するということは額面割れを起こすということだ。なら、激しいインフレになれば国債の価値は暴落する。つまり・・・


 国債の価値が暴落するということは「債務も激減する」ということだ。

 債務が、あっという間に「消えてなくなる」ということなのだ。


 国債はタダの債務ではないという話しから、この結論まで来た。そこでこの章の最後に破滅の仕方について考えてみる。

 国債だけが問題というのなら、国債を消せばいいだけの話しなのだから・・・。



             【 後編に続く 】

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