§2-9・日本国債を対外的にみるとどうなるか? 〜 安定資産
○日本国債を対外的に見るとどうなるか?
いままで長い時間を割いてきたように、「国債」はただの借金ではない。紙切れを「紙幣」に替える道具であり、経済成長を促す有力なツールとして使うことが出来る。
確かに借金ではあるが、国力の増強のためのドーピング剤のようなモノと考えるべきということだった。国家は(国債の使いようによっては)体力を回復させることも出来る。同時に購入者にとっては「資産」でもある。換金性があり、いつでも自由に売買出来る。
勿論、ドーピング剤としての負の側面もある。劇薬過ぎて際限なきインフレという悪性腫瘍を育ててしまうことがある。こうなったら死亡する危険さえある。
そこまで行かなくても「債務」であることには代わりはないので、利払いには追い回されるし、結局、政府がある一定期間来たら買い取らねばならない。国民の税金で、だ。
なるほど、国債は売買される流動性の高い資金であるから、国の信頼が消え失せれば、イキナリ返済しなければならない借金に化ける。
しかしその国を信頼し続けることが出来るのであれば、民間人が国債の償還日(前)にもう一度(売り払っても再び新規の国債を)買い直すということもよくある。こうなると、ほぼ永久債に近くなる。結局、民間人が買い直すという形で国債を持ち続けることになるので、政府が買い戻す必要がなくなるからだ。むしろ「日本国」という企業の「株券」に似てくる。ただし永久債は劣後債なので、ヘタすると本当に紙切れになるので、いまの日本では大々的に使う事もないだろう・・・。
これは、日本国債を購入しようかどうしようか迷っている外国人投資家からしてもそうだ。日本が潰れないという事を根拠にするか、皆で「日本は安心だー」と叫び倒して、ウソも100回言えば真実になる・・・みたいに、他の国の国債よりも安心資産だということにして、現在のところ購入しておこうと考えるかもしれない。
そう考えると、利払いが少なくても「まあいいや」と思えてくる。別の使いみちがあるからだ。
つまり、中国のような「国がめちゃくちゃな介入をしてくる、全く信用おけない市場だが、バクチ性が高くて儲けた時にはデカい」みたいな厄介な市場にカネを突っ込む時、リスクヘッジとして日本国債を使うことはあり得るからだ。
中国で焦がしたら、日本国債を売り飛ばして手元の現金を作る。このカネで自分のトコの顧客への返済金に当てる。投資ファンドはほぼ毎日のように自分の顧客に支払いがあるからだ。
時が経って中国リスクが解消したら、また中国に乗り込んでいったり、他の国の市場に突撃すればいい。乱高下を上手く使ってボロ儲けを狙うのだ。ただし、殆ど動かない日本国債を安全資産として買っといて、イザという時にも備えておく。こういう時には暴落しない日本国債はありがたい。
※ ※ ※
ただ、そうは言っても「国債=債券」だ。つまり「借金」なのは変わりない。しかも金額はデカい。
だから海外投資家が日本国債を購入する時、やはりデフォルトの危険を考えるし、為替差損のリスクもある。日本国債を取得しても円安のときに円資産を売却すれば損になるし、そもそも円安が含み損だ。これは彼等にしてみればマズい。
外国人投資家は個人や企業から年金や保険金などの現金を預かり、運用資金をこの支払いに当てているのだから、利益が上がらないということは致命的な失敗とみなされる。リスクを取ってでも儲けたいが、それは利益が莫大であれば・・・の条件付だ。そして外国人にとっては一ドル120円よりも、一ドル80円の方が絶対に良いのだ。
しかし円高は、日本にとってはデフォルトにつながるリスク要因になる。日本国は貿易黒字を出している。だから円安の方が海外には「より安く」製品を輸出できる。また一次所得収支のような「海外からのキックバック」も円安の方が実入りが増える。ということは円高になると、これらの黒字要因が圧縮され、それはゆくゆくは国債の利払いへの不安に繋がるからだ。
日本人投資家はこの逆で、海外国債の購入時に為替差損のリスクが生じる。ならば日本国に差し迫ったデフォルト危機がなさそうであれば、とりあえずは日本の国債を買って、僅かばかりでも利子もらっとこうと考える。いつでも換金できるので、いまは国にカネを貸しておこうということだ。
この市場余力が大きいことが日本の強さでもある。国債の九割以上が国内投資家なのだから(ただしかなりの部分を半官半民の公益財団だったり日銀が占めていたりという歪みもあるのだが)。
この国債の保有者が九割というのも、円と国債の安定に寄与している。国内市場が小さくて国債がさばけない場合、外国人投資家に頼るしかなくなる。しかし彼等が別の国、たとえば米国で利上げが実施され、米国内での運用の方が利益が大きいと考えるようになれば国債は売られてしまう。売り飛ばして得た現金をドルに戻して、米国内にツッコむためだ。
日本やアメリカのように自国内の金融市場が強い場合、上述の理由から自国債を積極的に購入する。逆に韓国などのように自国の金融市場が小さい国の場合、いま述べた理由から本質的に財源が不安定化する。
またこれとは別に海外から外貨で借金をしなくてはならない場合、借金を返すのは難儀なことだ。たとえば返済のために当該国(=外国)の通貨を購入すると、その国の通貨は値上がりする。次回の購入や返済時にはこの為替上昇分を加味した負担をしなければならない。よって返済がかさめばかさむほど負担は大きくなる。
また基軸通貨のドルで決済する場合には、為替差損の分も考慮しなくてはならない。デリバティブなどの金融商品を使ってリスクヘッジを試みるだろうが、借入金額が大きければこの負担も大きくなる。またCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の負担も無視は出来ない。
CDSは、資産内容に不安のある国や企業・銀行などが、資金調達時に倒産や債務不履行に備えての掛け捨ての保証金を要求されることだ。担保金みたいなものだと思えば良い。これが上昇すると借り入れが大変苦しくなる。借りる金額や返す額が10円、100円ではないのだし、そもそも外国人に借りなければ明日・明後日の見込みも立たないような自転車操業の状態なのに、そんな高額の利払負担に耐えられるのか? という疑問も出てくる。
一方で、国内の借金であれば、これらリスクはひとまず考えなくていい。自国通貨で、要求された一定額を返済するだけで済む。よって国内消費量が大きいことは国家財政にとってより良いことと言える。
そして国内消費量が大きいということ、つまり国内市場をデカくするためには国債を使って国富を増やすという方法を取れば良い。強い金融機関を育てて、結果、市場が強ければ国債の消化率は高まる。国債は無駄な出費ではないのだ。
※ ※ ※
○市場金利が上がると国債は値下がりする。
国債が値上がりすると市場金利は下がる。
ここで一つ大切なことがある。それは国債市場金利と国債価格が逆連動するということだ。
例えば、元本が10,000円で利回りが1%、償還期限が10年という国債を売り飛ばそうという時、金利が仮に2%に上がっていたとする。この場合、新規に発行された新発10年物国債は利払いが倍の200円となる。
一方で自分が売り飛ばしたい国債はこの半分の利払い100円しかない。
この条件では新発国債を買う方が得になるので、わざわざ自分の古い国債を買ってくれる人は誰もいない。そこで自分の国債の価格自体を下げて、売れるようにするしかないのだ。このため「金利が上がると国債の価格は下がる」になる。
逆に、金利が下がっていた場合には新発債を購入しても利払いがかえって少ないので、自分が売りたい国債への需要が高まっている。なので自分の国債の価格を高く設定しても売れるのだ。「金利が低い場合には、国債の価格が上がる」だ。
普通、国債の市場は新しく発行された新発債市場と、いま市場に流通している国債の売買取引を行う流通市場があり、それぞれが適切に取引できるように整備されている。これも「国債の利率が償還日まで変わらない」という特徴と、「利回りは債券価格の上下に連動して変動する」という、二つの相異なる動きに対応してのことだ。
また国債が下がるということは、その国の信頼性が揺らいでいるということでもある。
というのも、ある国が経済リスクなどを背負って将来性に大変不安が出てきた時、その国の国債を持っていてもメリットがない。なので、国債を早く売り飛ばしたい。売り飛ばすと国債の価格が下落する。市場に濫れるからだ。それは上述の理由から市場金利の上昇に繋がる。逆に言えば、金利を上げなければ、その国の国債など買う気にならない。
一方、国債は通貨と等価交換されていた。ということは国債が下がれば通貨の価値も下落する。これは為替において自国通貨安の要因になる。
実際、不安定な国のお金を持っていても価値がない。そして、お金の価値が下がるということはインフレでもある。だからますます通貨の価値は下がり、国債の価値が下がり、各種金利は上昇し、その国の価値が下がる。
こうなった時、政府が外債を負担していると、その利払いのための資金がショートする危険性が高くなる。為替市場で自国通貨安になったために、利払いの負担がその分だけ急激にデカくなるためと、金利が上昇するために負担が増加するためだ(現物市場だけでなく、先物市場などでのリスクヘッジ売りも出る)。
外債を買う側の投資ファンドも、売る側の国家の方もこのリスクを勘案しなくてはならない。為替損益に加えて、だ。
もう一言言うと、「インフレによる経済成長で、国債の利払分(=現金での支払い)が可能な限りは国家は破産しないはず」ならば、世界各国は何か都合が悪くなると 〜 たとえば景気悪化で政権が揺らいだりすると、財政状況を無視してでも金融緩和でインフレ政策を採用する可能性が出てくる。
そうすると、国債の価値がヘタをすれば下落する可能性が出てくるということだ。これは国内外の債券ホルダーたちに平等ではあっても、為替差損の影響で、海外投資家はより損をする可能性が出てくる。なので、自然と自国債への需要のほうが高まるとも言える。
勿論、海外でインフレが進行していたり、もしくはもっと望ましい「景気が良過ぎるので、市場の過熱感を抑えるために金利を上げて引き締める」というような場合、経済の底堅さ+金利の高さによって、その国に投資したほうがよい、と外債購入に突っ走ることもある。
つまり、アメリカの場合だ。
これは米国ファンドにとってみれば、発展途上国の高い金利で利ざやを稼いだ後、自国の米国において景気減速のために金利を上昇させるという状態になったならば、一気に発展途上国からカネを引き上げて自国のアメリカに投資した方がよいという判断になる。自分の国なのだから、少なくとも為替差損の事は気にならなくなる(勿論、資金を日本やEUなどの銀行・債券で調達した場合は話しは別だが・・・)。しかも世界で最も安全な資産である米ドルでやり取りできるのだ。
この悪影響の例が1990年代後半に起こったアジア通貨危機だった。原因の全てではないが、一つではある。
またクリントン政権時での景気拡大によって起こった事例の一つであり、同様のことは今後も起こりうる。
結論として、強い国に生まれていれば、国内債の方が少しだけ安全ということかもしれない。
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