§2-7・なぜ日本は強いのか? 黒字体質その3・やたらと現ナマ持ってる国

 いままでの内容は対外取引での黒字の話しだ。しかし日本は、日本国内外に多数の資産を持っている。

 まずは海外の不動産や資産を押えていたり、海外企業を買収した数字だ。


 2016年度で対外純資産は350兆円もプラスだ。この中には海外への直接投資が150兆円プラス、證券・債券投資が120兆円プラス。

 他に主にドルベースでの外貨準備高が140兆円以上もあり、国家の外貨準備高としては世界一だ。これらの科目以外の一部にマイナスがあるものの、それを差し引いても「本邦対外資産負債残高」は350兆円のプラス収支であり、当然世界一だ(ちなみに世界最大の対外純債務国はアメリカで、約950兆円のマイナス)。

 無論、一次所得収支の黒字の源泉にもなる大切な資産だ。このまま国際化は進む一方だろうから、この対外純資産も増え続けると考えられる。それが日本の稼ぎ頭である一次所得収支の経年増加の期待を抱かせる


 金融取引が大きなウエイトを占める現代においてはこの一次所得収支が非常に重要な指数となる。日本はこれが黒字だというのが強みなのだ。


 拙文・第47話-第48話の『なぜ韓国は必ず破滅するのか?』で記すことになるのだが、何かがあると韓国は「国家が破産する・デフォルト起こす」と騒ぐ理由の一つが、この第一次所得収支が圧倒的に赤字だからなのだ。


 韓国の場合、このデータだけでも国内外の資産よりも、海外からの資産流入の方が1.5-2倍ほども多い。つまり、海外の投資家からの借り入れがデカいということだ。それは「引き抜かれれば、即国家運営が出来なくなる」ということを意味する。財政運営のカネが足りなくなるからだ。また利払いの支払金額が外国通貨建てなので、高い(ウォン高ならラクになるが・・・)。

 極端な話し、貿易黒字などいくら出ていても殆ど意味がない。貿易黒字は税収入によってのみ国庫に納付される科目だが、一次所得収支のプラスマイナスは国家の財政に直結するからだ。日本はこの韓国の逆パターンで、イギリス・アメリカに似たタイプなのだ。


 この「本邦対外資産負債残高」という項目は、是非とも知らねばならない極めて重要な国家の指数だ。ある国を見る時に、この科目に相当する財務指標を見つけ出し、赤字なのか黒字なのか? 何が負債で何が所得なのかを調べることから始めるべきだ。貿易収支は後でもいいくらいだ。なにしろ英国・米国は大赤字なのだが、くたばる様子は全くない >貿易収支。


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 まだある。こちらは数字には現れない強さだ。

 たとえば金融保険分野の着実な成長がそれだ。バブル崩壊後、銀行は官民挙げて大規模な構造改革を行った。不良債権を持つ銀行を淘汰し、不正会計を改め市場へのアクセス開示を進め、民間銀行の整理統合によって健全で巨大な三大メガバンクへと収斂していった。財務体質の健全化によって余力が出来た。これが国内投資、もしくは国際金融取引時の資金調達のバックボーンとなり、また日本企業の国際化に伴って一緒にくっついて海外に出ていったのだ。


 三大メガバンクは規模こそ世界10大銀行には入らないものの(とはいえリーマンショック以前には入っていた)、収益の健全性では抜群だ。90年代のバブル崩壊以後、金融機関の身を削る改革断行の成果が20年経ってようやく現れ、金融・保険分野でも収益が望めるようになった。またゆうちょも民営化され、この規模がデカい。三メガ+ゆうちょの四本の金融の柱があるということだ。


 特にリーマンショック以後に莫大な負債を抱えた欧米銀行や、簿外債務がどのくらいあるのかさえ不明瞭な中華人民共和国内の銀行に比べれば、かなり堅実で手堅い。その意味では「失われた20年」など、無かった。彼女は日本を20年かけて成人させてくれた「苦労」という名の良母なのだ。この海外業務分はあるし、なにより「金融が強い」ということが大事なのだ。


 ちなみに2016年度銀行世界ランクは、世界一が中国工商銀行(約350-360兆円)、二位が中国建設銀行(約300-320兆円)、三位が中国農業銀行(約290-310兆円)だ。

 ただし、総資産は純資産と負債の合算であることと、金融取引の透明性と金融市場の自由がものすごく大事だということも付け加えておく。

 19080年代のバブル期の金融面の暗黒さ・あくどさを知っている筆者がアドバイスするなら、少なくともゆうちょの方に貯金したほうがいいだろうということだ・・・


 いままで述べてきたとおり、国債を発行し、これを民間が購入する。そして民間が保有する国債を中央銀行が「買い取る」ことで国富が増え、金融緩和がなされてインフレ政策が金融面からサポートされる・・・という話しをしてきた。

 ではここでいう「民間」とは何か? これがメガバンクや地方銀行・信託銀行、證券・債券を扱う証券会社、ゆうちょ、保険会社などだ。この金融市場が強ければ国債の購入額が大きくなる。つまり国富が増えやすいのだ。


 そして、銀行は金融市場の流れの結節点でもある。

 カネは銀行から市中に流れ出る。保険会社を例にとる。「保険会社は別格。なぜなら普通の企業は商品を売却して、しばらくしてからカネを得るが、保険会社だけは客の方からカネもってやってくる」と言ったのはオマハの賢人ことウォーレン・バフェットだ。

 では一市民からカネをゲットするのが保険会社だったり、同様に市民の年金やら持ち金やらのカネを集めて運用するのが證券投資会社だったりする場合、そもそも「一市民」がカネを溜め込んでいる場所はドコか? 大抵は銀行だ。


 また銀行にカネが(一時的でも)あれば、それは銀行自身が投資に回せる。銀行が保険・債券業務に関わることもあれば、カネを貸し出すこともあるだろう。結局、何をするにしてもカネは銀行を通り、ならば健全で強靱であることが大切なのだ。


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 さらに民間が莫大な資産を持っている。家計金融資産だ。こちらは実数が出ている。

 日銀統計2017年6月末で、民間が保有する金融資産の総額が約1,800兆円。当然、プラスだ。うち民間家計が保有する資産が約945兆円。これらは現金や普通預金などの流動性の高い資産だ。これに企業の株式、投信などが加わった総額だ。たしかに世界一ではない(世界一はアメリカで2016年時で約8,800兆円相当の家計金融資産を保有。ただし一部の投資ファンドおよび高所得者に富が極端に偏っている)。だが、同年の日本国債発行額が約880兆円と比較するのは意味がある。


 特に日本はGDP比での銀行の預貯金額が多い。たとえばアメリカは皆保険制度がないために、いざというときのために民間の保険に加入している。この支払いが大きいために預貯金割合が日本に比べて相対的に低いのだ。国民皆保険制度などの弱者保護のための制度が比較的よく整っている恩恵がここに出ている。


 また民間に米ドル相当の資産が150兆円以上あることも大変な強みだ。国の外貨準備高を合わせて300兆を優に越える。これらは一気に換金するとドルを始めとした通貨が暴落するし、日本の信頼性の問題が問われるから実行する事はないものの、いざというときには換金出来る。言うまでもなく米国は世界最強の国家で、ここより安全で安心できる投資先はない。


 他にも半官半民もしくは半国営の公団や財団などが多数ある。これも資産になる。たとえば高速道路がそうだ。


 高速道路には莫大なカネを投資して整備した。もし仮に日本国がデフォルトし、海外から資産の差し押さえが要求されたとする。その時、この高速道路の通行料金(つまり運営)で支払うという契約をしたとする。

 デフォルト起こしても、今日も明日も生きねばならない我ら日本人は、やっぱり日々の生活を営むしか無いだろう。なら、コンビニにも行くしAmazonも使う。ハーゲンダッツの工場は群馬にあるが、東京までは高速を使う。このときに必要な物品輸送に、トラックが高速道路を使う。その通行料金は、差し押さえた海外の連中に借金のカタとして持っていかれる。


 ならば、高速道路は「含み資産」だ。借金のカタに使えるからだ。

 これは「使いやすい便利な道路」だから通行料金を払ってでも使うのだ。この「使いやすい道路」は建設国債で作った。要するに、国のカネで財産を作ったということに他ならない。この整備に費用が掛かっても、結局地元の土建屋の利益になるはずだ。打ち捨てられた廃墟は資産価値がゼロなのは、この逆パターンだ。建設国債で作ったものは、活用されれば財産に成り得るのだ。価値があるかどうかは管財人が判断するにしても、だ・・・。

 実際、この例はギリシア危機後のギリシアの事例を参考にした。実話なのだ。



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