§2-6・なぜ日本は強いのか? 黒字体質その2・有望な第一次所得収支
日本の強さは貿易収支で黒字を出せる強い産業力があるということを述べた。大災害が原因で、数年に渡って赤字になることもあるが、それでも年月を重ねれば黒字化に持っていけるだけの基礎体力を備えている。貿易収支で黒字が出ていることは産業力の強さの証拠でもある。ものづくりに関してはいまだに健在なのだ。
だがしかし、いまや貿易収支は「最重要ではない」。というのも、いま対外収支で黒字をもたらしているものは別の項目、「第一次所得収支」だからだ。
第一次所得収支は対外金融債権・債務から生じる利子配当金などの収支状況で、なによりこの黒字がとても大きい。主に証券投資収益と直接投資収益だ。
証券投資収益は海外からの株式債券の配当金や利払いで、直接投資収益は海外での投資により得られる所得だ。
特に直接投資収益の伸びが顕著だ。1990年代以降、グローバル化の進展に伴って日本企業の海外移転や対外投資活動の強化の結果として現れてきたものだ。これがやたらとデカい。
2016年時で約18兆円もある。貿易黒字の四倍以上だ。しかもこれは2015年度に比べて円高になっての数字だ(2015年は約20兆円の黒字。つまり2兆円ほど大きかった。当時はいまより円が安かった)。
実はいま、日本の黒字のかなりがこの第一次所得収支だ。貿易収支が赤字になった時でも、この第一次所得が常に黒字だったために経常収支が黒字になる・・・というのが近年の傾向だ。
前述のように東日本大震災の悪影響で生産力が減衰し、貿易収支が赤字になっていた時、この赤字分を補って黒字を出していたのがこの第一次所得収支だった。
しかも海外から早急に大規模に撤退するということも考えられないため、これからドンドンと蓄積し、黒字も累積していく可能性が高い。今まで頑張って海外に投資してきた分がリターンバックし始めてきたのだ。これからの伸びが期待できる。円安になれば儲けも相対的にデカくなる。
意外と大切なのは知的財産権に関わる黒字だ。技術移転に対する著作権料みたいなもので、主に自動車関連技術だ。知財収支自体は2015年の財務省統計では毎年2.5兆程度の黒字に過ぎないが、それでもアメリカに次いで世界第二位で、日米でほぼ八割を占める。また今後も増加が望める。
そもそも2.5兆円程度・・・と言ったが、2016年の貿易黒字は4兆円だ。
この対比50%以上の額をゲット出来ているのだ。しかも「座ったまま」で、だ。そしてこれらの資産は海外に置いてきた「財産」であり円安になれば資産価値は更に増える。
さらに最近では海外旅行客の激増もある。旅行収支は訪日客の増加を背景に約1兆2800億円の黒字が出ている。旅行収支に関しては、円安による海外旅行客の増加が主な要因なので、円安が続く限りこれからもますます増加する期待が持てる。
なによりこの二つの勘定科目が含まれる「サービス収支」は(これだけの黒字が出ていても)まだ1兆円近く赤字なのだ。ということは、知財収入と外国人訪日客が増えればサービス収支の赤字を消すことが出来るようになる。
そしてトータルとして2016年の経常収支は約20兆円のプラスだった。
この国際収支の黒字分は日本国の家計簿±ゼロに「プラスの収支」として計上出来る。つまり日本国は黒字になった。
先程も言ったとおり、黒字分が出ている間は国債という借金をしても、まずはなんとかなるのではないか? という安心感を持てる。
しかし、黒字が出ているという事以上にさらに重要な事がある。経常収支の構造に変化が出てきているのだ。おそらく「良い方向に」だ。
1996-2016年の経常収支の傾向を調べてみると、以下の傾向が読み取れた。
・経常収支は主に「貿易収支」「第一次所得収支」「第二次所得収支(対外無償資金協力など)」「サービス収支」。そして経常収支は常に黒字。
・黒字は「第一次所得収支」と「貿易収支」、赤字は「サービス収支」と「第二次所得収支」。
・第一次所得収支は伸び続けている。常に黒字で過去30年で二倍に伸び、今後とも累積効果によって増加する。
・貿易収支は減少傾向にあるものの、基本的には黒字。
・貿易収支が赤字だった時期(2011-2015年間)でも、第一次所得収支が埋め合わせることで、経常収支は黒字を維持した。
・サービス収支には知財収入と旅行収支が含まれていて今後の伸びが期待できる。つまりサービス収支の赤字は減少し、黒字化さえ可能。
・・・このことから言えるのは、「何があっても赤字にならないor極めてなりにくい」ということと、赤字を出しているサービス収支の赤字幅が激減するだろうということだ。
これはつまり「赤字になる要素が、さしあたり無い」ということでもある。
これが円高にブレたがる理由の一つだろう。黒字が出ていることと、今後、より黒字が出続ける傾向にある・・・というのでは、円が弱くなりようがない。つまり国力の低下する理由がさしあたり無いのだから。
そして対外的に黒字が出ている間は、国債の発行に関しても「なんとかなるのでは?」と思えるのならば、この状態は「とてもなんとかなる」と思えるはずだ。これが日本国債が結局は市中で買い取られ、また長期国債の金利が低い理由の一つになっているのだ。つまり「日本国は信頼されている」ということだ。真面目に働くことの意義深さだ。
さらに日本には、他にも収支には現れない財産がいくつもあるのだ。
シアワセなことに・・・。
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