§2-5・なぜ日本は強いのか? 黒字体質その1・恒常的な貿易黒字

 では、いま述べた「100人のガミラス村」の話しを、2010年代後半の日本で言い直してみる。するとこうなる。


 日本国(この場合は政府というのが実は正しいが)の財政は莫大な赤字を抱えている。主に国債だ。2020年度でおよそ900兆円近くに達する計算だ。


 この時、政府がさらに建設国債などの債券を発行し公共事業を行ったとする。

 政府は市場に国債を売却して資金を得て、これを公共投資に注いだ。すると企業が儲かった。儲けは一旦銀行に貯まる。給与の形で労働者に払われると一部は銀行に貯金され、残りは市場で消費される。


 この場合、政府は赤字、労働者は黒字。ただし総額は同じ。国債分が市場の労働対価にバケたからだ。そして国債を購入した各市中金融機関(個々の銀行の話ではない)の総体はトータルで差し引きゼロだ。


 国債購入で赤字になったが、企業や労働者の貯金、また彼等の消費した分が各金融期間・保険・債券に流れた結果だ。

 民間と政府の帳簿は帳尻が合い、日本国の家計簿は総体±ゼロになる。政府の赤字は民間の黒字。そして貸し借りはゼロ。

 なので日本国は赤字ではない、という考え方だ。いや、赤字だとしてもそれは「国富」に相当する。この赤字がなければ、今の繁栄は無かったということだ。


 しかしこれには利払いがついて回る。この支払いが出来なかったら一発で国はデフォルトを宣言される。なんとかしてこれの分だけでも支払わねばならない・・・。

 幸いな事に日本は国際貿易では黒字が出ている。この分は「+α」はいずれ税収入というカタチで国家に回収される。それは国債の利払いへの支払い、もしくは国債の信用度の増強には使えるはずだ。そこで、この黒字の中身を見てみる。



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 財務省貿易統計によると2016年は輸出総額約70兆円、輸入総額66兆円でトータル4兆円の黒字だ。日本の場合、年に大体7-10兆円の黒字が出るのが普通だ。


 ただし東日本大震災とその甚大な影響のあった2011年〜2015年の四年の間は赤字で、この間に合算▲38兆円近く赤字を出した。額が大変大きい。如何に東日本大震災の規模が巨大だったかを如実に物語る。ちなみに阪神・淡路大震災のあった1995年は約10兆円の黒字だった。7,000人近く亡くなった災害時でさえ国力の減少がなかったにも関らず、である。

 これは日本の構造でもあり、東京は日本の中心。東海〜名阪神地域は海外輸出のベルト地帯。関西以西は対アジア輸出の拠点。東北地方は日本国内の台所(国内向け生産エリア)と考えられそうな生産・物流の特色があるので、我々の台所が叩かれたと考えるとわかりやすい。東日本大震災は極めて範囲の大きい、しかも我々の生活の全域に渡って悪影響の出る、途方もない損害だったのだ。


 そう考えると、最新の統計である2016年でさえ、まだこの大震災からの復興途上と考えるべきだろう。儲けが少ないからだ。

 それでも黒字復調傾向が出てきたということだ。なので、次に大災害がなければ貿易黒字国の基調が続くと思われる。


 内容についてだが、まず日本の輸入に関して。

 これは中国からの輸入が多い。日本からの現地企業などが中国の低賃金労働に支えられた低価格製品を中心に爆輸入しているためだ。近年は中国企業の製品も増え始めている。

 またアメリカからは農産物や医薬品等の高度製品の輸入などが多く、IC分野では台湾からの輸入が多い。石油は中東(特にサウジアラビア)が多く、鉄鉱石などではオーストラリアがダントツで多い。特にオーストラリアには年に数兆円づつの赤字を計上している。


 日本が輸入している国はこれら中華人民共和国・アメリカ・オーストラリアが定番で、台湾と韓国が続く。ただし、EUを一国と考えるとアメリカとほぼ同じ。この連中で大体、総額の半分くらいだ。

 中東からは大量に原油などのエネルギー資源を輸入しているが、サウジとかアラブ首長国連邦というように一国づつに区分けすると、意外とランクは下の方になる。大体、10位前後だ。またタイ・インドネシア・マレーシアが10位に入り込んでくるようになった。低価格製品や資源関係の輸入が主で、中国から東南アジアに日本企業の軸足がシフトしていることの証拠だ。


 一方、黒字・つまり日本からの輸出の方は少し注意が必要だ。

 輸出相手国はアメリカ・中国・EUが占めていて、次に韓国・台湾と続くが、大体この5-6位くらいに「香港」が入ってくる。これが実はとても厄介なのだ。


 香港は日本に輸出する時には出てこない。一方、日本が輸出する時には出てくる地域だ。重要なことは「香港に輸出された日本製品がドコに行くのかは、実は判らない」ということだ。

 香港に入った日本製品は日本製品であることは判っても、輸出時には香港の商品になるからだ。結果、大陸中国に行くかもしれないし、他の国に行くかもしれない。


 つまり日本と中華人民共和国・香港は三角貿易に近く、対中貿易の実体が非常にわかりにくい。香港から大陸に流れた物品は、日本製であっても香港→中国貿易として処理されるからだ。



・日本への輸出  大陸中国 → 日本 (日本の赤字)


・日本からの輸出 大陸中国 ← 日本

          ↑(国内移動分不明?)

         香  港 ← 日本 (日本の黒字)



 なので、よく言われる「日本は中国からの輸入が多い」というのは間違いだ。それは「大陸からの輸入が多い」というだけで、香港を含めた対中貿易総体を反映していない。


 日本は中華人民共和国相手には赤字、香港には圧倒的黒字というのが普通だ。年度にもよるが単純に数字だけを合算すると、辛うじて日本の黒字という状況のようだ。しかし本当のところは判らない。香港からの日本製品の流通先を正確に掴むことなど出来ないからだ。そもそも香港人がソレ、やってないのだから。


 しかし香港は金融・通商に関しては進んでいて、ドル・ポンドベースでも交易が可能なために通商窓口としては使いやすい。特に決済時には大陸よりも遥かに安全であることから支払いの受取り窓口として利用されているからだ。

 日本から中国への支払いは、しっかり整備された日本国内法に基づくので我々からすれば心配はないが、大陸は正直、まだ未成熟で市場の中身の情報開示が進んでいるとは言えない。人民元の国際化も進んでいるものの、整備された香港を使うのがより便利で安全だ。



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 さて輸出製品についてだが、こちらは農産物を除く、ほぼ全般。アメリカにはいまだに自動車輸出が多い。ちなみに日本の2016年度の国内での自動車生産台数は約900万台。この内、輸出は35-40%前後とされている。


 国内生産台数は世界第三位だが、実は現地生産化が極めて進んでいて、海外で生産される日系自動車生産台数は実に約1,900万台。国内生産の二倍以上だ。合わせると生産量第一位の中国とほぼ同じ。アメリカや紛争地域でTOYOTAや日本車だらけな理由がよく分かるというものだ。

 

 アメリカ以外では一次産品を除く、ほぼ全ての製品が輸出されている。特に半導体関連やハイテクパーツ類の製品・部品、電気・鉄鋼・非鉄金属などさまざまで、特にアジア地域の産業インフラや現地国民の生活水準向上に伴う生産拡大に必要な製品の輸出が大きい。加えて、最近では農産物の輸出にも力を注ぎ始めている。ただし傾向としてはアジアへの輸出が大きい。この地域の経済成長が著しいことや、日本から地政学的・歴史的に近いことなどが理由だ。


 こう考えると、たしかに海外からの原材料及び農作物、一部工業製品の輸入はあるし、その額も大きいのだが、しかし海外への部品・製品輸出も堅調だ。これは日本の産業インフラが現在(いま)だに世界で十分通用するレベルであることを物語る。つまり「生産力が大きい」のだ。国力の強さの一因だ。


 だがしかし、いまやこれは「最重要ではない」。というのも、いま対外収支で黒字をもたらしているものは別の項目なのだ。

 次項では、貿易黒字を遥かに陵駕する別の黒字要因「第一次所得収支」について説明する。

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