§1-7・ガミラス人の優しさ 〜通商破壊作戦の重要性

 2200年、つまり22世紀の終わりまでに人類が辿った道のりは、極めて両極端な内容だった。

 一つの選択肢は「死を待つしかない絶望の星」、もう一つの選択肢は「苦難と焦慮の道」だった。


 この違いを生み出したのは、産業や文明を支えるエネルギー資源を確保できたか出来なかったかの違いであった。

 戦禍によってエネルギー資源が乏しくなった国は、敗色濃厚と考えるべきだ。

 他方、エネルギーの確保が出来た場合、継戦能力の維持が可能になる。これは実際の戦争でも全く同じことが言える。

 

 第二次大戦中の日本がそうだ。英国との比較がわかりやすい。

 この両国は島国で海外に植民地を持ち、自国内の資源の乏しさから独自の海洋交通路を持っていた。つまり海洋国家だった。産業も比較的発展していたことから、この経済力を支えるために相当量の資源を海洋交通路によって確保する必要があった。


 1940年時の両国の国力を(ここでは一例としてアメリカでよく使われる1990年ドル基準の実質GDPを購買力平価で換算した値を使う。よって実数とは違う)比較すると、日本がおよそ2018億ドル、英国が3166億ドルだった(出典「世界経済の成長史1820-1992」)。

 大体、日本の対英六割というラインだ。こう考えるとワシントン海軍軍縮条約の主要艦艇保有数比率も、あながち間違いではなかったといえるかもしれない。ちなみに同年の米国は9310億ドルで、日本の四倍以上だ。


 さしあたりアメリカとは比較にならないが、少なくとも第二次大戦直前の「平和」なときでさえ、1990年当時のGDPドル購買力平価換算で2000億ドル分の経済活動を支えるエネルギーが必要だった。この時の日本の発電量は約350億キロワット時とされていた(同時期のアメリカのおよそ1/6程度)。


 日本は石炭に関してはかなりの量の埋蔵量があったものの、石油産出量は皆無で戦前にはもうすでに、南洋諸島からの輸入に頼っていた。

 戦時になり、石油以外にも鉄鉱石、ゴム、銅、亜鉛、ニッケルなどの資源を南方諸島からの船舶輸送に頼っていたが、これが昭和17-18年以後、アメリカ潜水艦隊の通商破壊作戦によって壊滅した。


 一万トン以上の大型船はほぼ50隻あったが、一隻を除いで全て沈められた。年に総輸送量600万トンが必要な状況だったのに、わずか一年でこの2/3以下に激減してしまう。

 同時に、造船力の乏しさから必要な輸送船の増産が全く不可能で、失った商船を埋め合わせることも出来なかった。

 これは単純に「輸送線の破滅」を意味した。つまり「エネルギー資源が枯渇する」状況に至ったのだ。勿論、他の資源もそうだが、産業を支えるエネルギー資源が絶たれたのだ。それも「戦時」という、エネルギーはおろか、ありとあらゆるものが平時より遥かに必要とされる時に、だ。


 その後どうなったか? 筆者の母親は戦前生まれで、当時の話しを直に聞くことが出来る環境にいる。老婆曰く「昭和19年から急に生活が苦しくなった」と。まさにそうだろう。

 帝国海軍の戦艦群が慢性的な石油不足から出撃制限をかけられ、燃料不足で航空隊操縦手の訓練もままならない程に追い込まれていった時期、銃後の祖国ではそもそも戦争など出来るはずのない程のエネルギー不足と、エネルギー不足による全産業の衰退が起こっていたのだ。



 一方、英国の方はどうだったかというと、ドイツ第三帝国海軍の潜水艦による無制限通商作戦に晒され、海上輸送路が大打撃を受けたものの、米国という強力過ぎる味方を手に入れ、潜水艦隊根絶のための徹底した対策によりシーレーンの確保に成功していた。


 フランス・ロリアンを始めとしたドイツ潜水艦隊基地周辺の防諜から始まり、無線通信の傍受と解析、リサーチオペレーティングという新たな戦略情報の解析手法の確立、航空機の活用と護送船団方式による船団防御、ヘッジホッグなどの各種対潜装備の充実とアクティブソナー・レーダー等の技術革新に加え、犠牲を顧みない大規模かつ長期に渡るドイツ国内の産業地域・民間人居住区への絨毯爆撃によりドイツ国内の生産力を確実に消耗させるという、「敵国の徹底殲滅」だけが自国の海上輸送路を確保する唯一の対策・・・という国家総力戦の本質を淡々と遂行しきった。


 ヤマトの世界でいうのなら、波動砲を積んだ巨大戦艦よりも次元潜航艇の量産のほうが、地球防衛のためには遥かに役に立つのではないか? ということだ。少なくとも、海上自衛隊はよく判っている。護衛艦隊が第一義的に対潜水艦艦隊である理由の全てがコレだからだ。

 ちなみに太平洋戦争中の帝国海軍艦船の非撃沈率を総トン数で計算すると、およそ50%が潜水艦によるものだった。空襲よりも遥かに高い損害率だ。同時に米国潜水艦隊の海軍艦艇内での総トン数比率は5-7%とされているから、潜水艦は実に効率の良い兵器といえる。少なくとも戦艦よりはマシで、そのためにコストパフォーマンスの悪い戦艦は海上から消えた。

 戦艦は戦場で航空機によって破れたのではない。コスパの問題から予算獲得戦争で汎用駆逐艦や潜水艦に破れたのだ。


 しかし、それでさえも単なる「戦略」に過ぎない。「正しい戦略」は敵勢力のエネルギー資源の撃滅だ。これが敵国産業全ての壊滅に通じる。

 また平時においても、石油などのエネルギー資源の経済封鎖が、国家にとって死活問題になるほど重要だということが分かる。


 これまでの戦争論では、このエネルギーと産業の視点がまだ軽視されているようで、やや不安を感じるのだ。

 最前線で戦う兵士や兵器に関心を払うべきは当然にしても、戦争は武力的外交手段という政治手法の一つに過ぎず、国家自体のもつ根源的な力〜経済力の衰退こそが明暗を分ける決定要因なのだから。


 その最も重要なファクターがエネルギーということだった。全産業の母であり、文明を支える力の源だ。それは2199年時でも、いつでも変わらない。そのためエネルギー資源の確保の可否で、置かれた状況が激変する。

 実際に2199年時に地球に起こったであろう事は、この二つのフラグの間の何処かにあったはずた。


 逆に問う。偉大にして強力なガミラス帝国が、なぜに蛮族たる地球人ごときに帝都バレラスを踏み荒らされるような無様な失態を演じたのか?


 理由はいろいろとあるが、さしあたり一つの理由としては「地球人のエネルギー資源を根絶しなかった」ことだ。太陽を消滅させれば、人類はかなり早い時期に死滅した。次元波動エンジンの量産化前ならば、だ。

 ということは、ガミラス帝国は実は人類を滅亡させるつもりはなかったと考えるべきかもしれない。


 たとえば、銀河系の中に「同じガルマン人が共産主義者どもの奴隷みたくなってるんで、仲間助けたいんだけど、さしあたり策源地とっかかりがないのよ。だから地球人、開国しないか?」と相談しに来ていた可能性があるということだ。


 何もない星を開拓するのは、ガミラスとてカネがかかる。一方、地球人ならそれなりの経済活動をしていた。彼らを活用すればいい。

 港の一部を貸してくれて、挙げ句、補給などをさせてくれれば安上がりで済む。発展途上国の地球人との交易にどれほどのメリットがあるのかは判らないが、さしあたり、そんな風に考えたのかもしれない。


 それはまるで幕末期に、クジラ漁や中国との貿易に際し、船舶の補給整備のために開国を迫ったアメリカの黒船と同じようなものだ。そして、2190年代の地球人は、この時の日本人と同じように、


(^ω^)「断るお!」


・・・とバッサリ切って捨てた可能性がある。

 理由は不明だが、銀河大戦に巻き込まれるのがイヤだったのかもしれないし、単純に宇宙人嫌いという人種差別的かつ排他的な考え方があったのかもしれない。尊皇攘夷論みたいなものがあったのかもしれないし、地球人独自の文明経済圏が未知の存在に荒らされるのがイヤだったのかもしれない。正直、よく判らないが・・・。


 無論、ガミラスの方にも言い分はあろう。実は彼等は2190年代よりも遥か以前に地球に来ていたのかもしれない。例えば、1947年のアメリカ・ロズウェル辺りに・・・。

 帝国二級市民の、背が小さくて細い目をした人種を地球使節団先発隊として派遣し、地球との相互友好条約を結ぶための基礎調査をコッソリやっていた時、パッタリ地球人と鉢合はちあわせしてしまい、

「チキュウノミナサン、コンニチワ」 ・・・と彼等は友好的に振る舞ったにもかかわらず、牧場主の白人のデブはショットガン片手に、


(*^-゚)b「銀色の服着たキツネ目のチビ、撃ったった!! Year!!」


・・・これでは、そもそも和平など出来ない。

 地球人という野蛮人の素朴な発想なのかもしれないが、自分たちよりも技術的に優れている者に対しての盲目的な恐怖心の結果、『追い払えばいなくなる』と単純に考えたのかもしれない。


 ただし、こじれた挙げ句、しぶしぶ戦争状態になったというのなら、ガミラスが人類絶滅を狙わなかった理由もよく分かるし、2200年代に和平条約を結んだ理由もなんとなく分かろうというもの。

 彼等も「進んでガミラス二級市民になってくれたら、戦費カネがかからずラッキー」だと考えていたからだ。


 ガミラスとしては地球を橋頭堡として、銀河系の中にグイグイ押し込んでいけるだろうし、ボラー連邦の反撃を受けるにしても、さしあたり戦場になるのは地球空域だろう。生きた盾として使えるし、そうなれば地球人が勝手に防衛戦始めてくれる。これなら帝国臣民の犠牲も減らせる。


 こんな中途半端なことを考えて、ガミラスが地球人のエネルギー資源の徹底根絶を企図せず、上から目線で「今日のところはコレで勘弁してやる!」みたいな態度を取り続けたからこそ、吉本やドリフのコントのように、最後のオチで火だるまになるのだ。


 そもそもデッカイ大砲が一年中、こっち向いて近づいてきていたのに「地球人やばんじんの相手してるヒマない」みたいな、優越主義とも無責任放置ともとれるような心の甘さがガミラスの命取りとなったのだ。

 数万隻の大艦隊を擁していたとしても、敵が総統執務室の中に入ってきたら拳銃一丁で歴史が変わる。戦力の絶対差など、意味がない。


 それにしてもガルマン・ガミラス人の、なんと優しいことか・・・



  ※     ※     ※



 エネルギー産業は国家の中でも特に重要な「絶対に必要な産業」なのだ。だから大抵の国では半官半民の公益事業体か、さもなければ国営で運営されている。国家にとっての心臓に当たる。僅かな時間でも停止すれば、それは死に直結する。


 では、この「国家の心臓」から送り出される「血液」は何であろうか?

 それが「カネ」なのだ。

 カネ、つまり通貨は国家にとって「経済」という「身体」を巡る血液のようなものだ。国家の体温をつかさどり、栄養を送り込む。にごったりとどこおったりすれば死に至る。

 

 国家にとってエネルギーが極めて重要ということを踏まえた上で、今度はこのカネの事・つまり「通貨」について説明したいと思う。



  ※     ※     ※

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