§1-5・もう一つの2199、その2「大規模艦隊建艦計画〜we want eight and we won't wait」

 様々な計画が立てられた。まずは現在ある艦隊の再整備だった。

 これには異様な方法が採られた。つまり既存の宇宙艦艇のグレードアップ・・・具体的には既成艦に次元波動エンジンを積み、攻防システムを刷新さっしんする、という方法だった。


 この手法は決して効率のよいものではない。新しい装備には、それに相応しい筐体きょうたいの方がよい。しかし差し迫った脅威(だと考えていたと思われるガミラスの脅威)に対し、すぐにでも対抗できる戦力の確保は最優先項目だった。

 新造艦を一から設計する時間的余裕はなく、また既存艦の改良に目処めどが立ったことや隻数が必要だったこと、たとえ“間に合わせ的”でも戦力になれば十分という判断があったものと思われる。


 似たような事例として、ダンケルク撤退戦時のイギリスが挙げられる。

 英国は膨大な装備を失った後、本土上陸を企画していた第三帝国陸軍に対抗するために、性能的には歯が立たないと判っている装備(特に設計思想から間違えていた各種戦車)の増産を余儀なくされた。徒手空拳としゅくうけんよりは遥かにマシだったからだ。


 しかし2199年当時の人類は、1942年の英国とは状況が違った。センチュリオンは欧州大戦には間に合わなかったが、ガミラス艦隊を撃退できる艦艇は、すぐに手に入りそうだった。


 次元波動エンジンは出力重量比を論じることさえバカらしい程の極端な高効率・高性能なエンジンだった。しかも手先が器用で細かいことにやたらとこだわり、しかもカワイイ大好きの日本人の手によって、おっそろしい程可愛くコンパクトにまとまった。全長80メートル程度の磯風型突撃宇宙駆逐艦のケツの穴に余裕で突っ込めるほどコンパクトに、だ。


 これにより旧来の既成艦は戦艦・巡洋艦・駆逐艦のほぼ全てに対して、エンジンの換装と攻撃兵器の全面改装が可能になった。外観に全くなんの変更もないほどに、だ。喜んだのはプラモを作っているスポンサーのバンダイだけではない。既存の生産設備を出来るだけ活用でき、また短期間に数を揃えることも出来た事は、国力を落とした国連宇宙軍にとって朗報以外の何者でもなかった。



 と同時に新造艦の建造計画も立案された。

 既存艦のアップグレード(“改”計画)は、あくまでも窮余の策であり、新規新造戦艦の数が揃うまでのストップギャップに過ぎないことは明らかだった。

 実際、新規戦艦にはBBY-01ヤマトで実証された次元波動爆縮放射機を装備することを前提にしていた。次元波動爆縮放射機はさすがに旧来艦には装備できなかったようで、改設計の限界を思い知ったはずである。


 そこでこの新造艦には、直近の問題としてはBBY-01ヤマトによるイスカンダル遠征作戦(どうやらイズモ計画というらしい)失敗時の代艦任務、他惑星への避難・移住計画時における別星系探査もしくは移民船団の護衛任務・・・と多岐に渡る要望に応えることの出来る艦であることが求められ、地球が国力を十分に回復した後の主力艦となるべき量産性も求められた。

 もしかしたら長駆ガミラスへの逆侵攻さえ企図されていたかもしれない。


 そのため超長距離恒星間航行に十分耐えうる構造と、敵勢力の独力排除を可能とするための強武装、深宇宙探査や威力偵察・船団護衛等の各種任務への柔軟な対応能力とともに、新規装備の搭載・将来発展への改良余地が残された新世代マルチパーパス艦として設計されることになった。


 当然、技術的なノウハウの蓄積や新規開発に伴う様々な問題が発生することが予想されたため、現在進行系のガミラス戦役や人類生存計画に貢献することを前提にはするものの、戦後を見据えた上でのより中長期的な視点に立ち、攻撃力・防御力・機動力など全ての面で満足のいく「既存技術のブレイクスルー」を目論んだ、大変野心的な艦とされた。

 こうしてBBY-01ヤマト以上の高性能恒星間航行宇宙戦闘艦の建造がスタートした。



 しかし結果はハッキリと明暗の別れるものになった。

 既存艦のアップグレード計画は、思いの外スンナリ行ったようである。

 数年後に地球とガミラスとが劇的な和解と平和条約の締結を経て、軍事同盟の締結に至った時、ガミラス救援のための地球派遣艦隊の中核を担っていたのは、このアップグレード艦だった。


 見た目はガミラスに袋だたきにされていた脆弱な旧式艦のまま。しかし中身は現代戦に十分に対応できる程、攻防機動力は改善されていた。値段の割にはよく戦うコストパフォーマンスに優れた艦だった。これらの艦は今後とも長く使われる可能性がある傑作艦艇群だ。


 一方で新世代艦の建造は失敗続きだったというしかない。

 次元波動エンジンがまだ新しい技術であり、熟成に時間がかかることは明らかだったが、ムリを承知でより強力な攻撃力・防御力と、より大遠距離への移動能力が追求されたために、常にどこかしらに欠点を抱える欠陥艦の粗製濫造になってしまった。BBY-01ヤマトの次元波動エンジンをライセンス生産することは出来ても、発展改良型とするための知識と経験が全く不足していたのだ。

 一例を挙げれば、45型恒星間航行超弩級艦がそうだった。


 高揚する人類全体の雰囲気の中で、対ガミラス戦役での決定打となるべき新世代の技術を満載した革新的装甲打撃艦の必要性が叫ばれた。

 同時に世界各国共通の戦闘艦として共同開発することで費用負担を抑えるとともに運用の統合を図り、来るべき人類統合政府とその尖兵となるべき地球防衛軍の基幹戦力たるべき事も目標とされた。


 再侵攻を企てるガミラス帝国艦隊を冥王星展開軍の数倍と算定し、これを長駆撃滅するためには地球防衛軍の試算では八隻の次元波動爆縮放射器搭載型新型戦艦が必要で、「八隻欲しい、いま直ぐ欲しい(we want eight and we won't wait)」の耳障みみざわりの良いスローガンの元、予算を度外視した「戦うだけの艦」が作られることになった。


 これらはネームシップの“デアリング”を始め、“ドーントレス”、“ダイヤモンド”とDで始まるネーミングから(旧)D0級艦とも呼ばれた新造艦だったが、発電システムの容量不足から頻繁に艦内の停電が発生するという事態を招いていた。ワープ後に行動不能になったり、次元波動爆縮放射機の不発もしくは機能不全はよくあることだった。


 後にこれは大問題となり、国連宇宙軍査問委員会において設計部は「当初要求された条件よりはるかに過酷な状況での運用を強いられた」と主張する一方、軍務局は「45型は太陽系から他星系、次元断層から銀河中心部まであらゆる環境で安定的に運航し続けている」と苦しい弁明に終始しつつも「完全な機能を持たせるには数倍の費用がかかるだろう」という、対ガミラス戦に投入するなど夢のまた夢のような、悪夢のような税金の無駄使いを強いられていた。


 この問題が一応の解決を見るのはガミラスとの平和条約締結後、ガミラスのエンジン技術を取り入れた改良発展型の“量産型武装運用システムD1”の完成を待たねばならなかった。数年後の事だった。この艦はBBY-01ヤマトの量産型汎用艦とされた。


 しかしこの“ドレッドノート”、“ダンカン”、“デューク・オブ・ヨーク”を始めとした(新)D級前衛航宙艦でさえ、次元波動爆縮放射機のシステムが「2つの薬室からそれぞれ右旋波・左旋波の波動エネルギーを直列射出し、スプリッターで左右の旋波に一旦分離した後、放出する(wikiペディア引用)」という煩雑はんざつさが残った程で、より洗練された二連装次元波動爆縮放射機の搭載は、発展改良型の前衛武装宇宙艦(A級)の誕生を待たねばならないほどだった。


 まさに戦後を見据えた多種多様なプロトタイプ艦の艦艇群・・・ようするに、どうしようもないガラクタ艦隊が粗製濫造される結果になってしまった。


 とはいえこの時、ガミラスへの脅威が現実感をもって受け止められていた非常時であり、かくの如きムダな出費も「将来への備え」として黙認されてしまった。「何事にも失敗はつきもの」であるし、特に黎明期には多くの可能性を追求することのほうがより大切とも考えられた。よって国防計画は人類の最優先として処理された。財務省の悲鳴は聞こえないフリをして、だった・・・




【 この項目、あと一回続く 】

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