§1-4・もう一つの2199、その1「愛の違法コピー」

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 では次に「次元波動エンジン」を量産することが出来た場合を考えてみる。


 こちらのパターンは、かなり意外な展開に発展することが考えられる。エネルギー不足を独力で解決した人類が、その後の飛躍的な進展を可能とする萌芽ほうがの時期に相当する「苦難と変革の元年」となるだろう年だ。

 ただし、経済的・社会的・倫理的にかなりの問題が発生する。バラ色とは言えない。むしろ玉虫色な決着だ。


 この後の地球防衛軍が傲慢ごうまんで尊大で独善的な組織だというのなら、きっとその契機はこのような展開があったからだろう、と思えそうな流れだ。その始まりから道徳性の欠落があった。


 しかも正直、あまり「人類救世主伝説」っぽくはないストーリー展開にもなってしまった。ヤマトの意味合いが薄くなってしまうということだ。


 だが2200年以後の人類の繁栄を考えると、実はこちらのほうがより可能性が高いのでは? とさえ思えてくる。これはそんな極端な展開だ・・・



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 2199年、人類は最後の希望を託してBBY-01ヤマトをイスカンダルへと送り出す。

 後には焼けただれた地球と、その地下に瀕死の状態で生き残る人類が残された。


 ヤマトが出立した後、すぐに様々な議論が戦わされることになった。

 まず第一に「ヤマトが失敗したらどうなるか?」だった。


 旅程の果てにあるイスカンダルという惑星が何処にあるのかさえ定かではない、という致命的な航海を強いられ、しかも人類滅亡の危機が約一年程度と切迫している以上、ヤマトを送り出してそのまま「後はヤマト任せ」というのは、あまりにも無策過ぎた。


 またヤマトが、それまでのあらゆる地球艦に比べて圧倒的に強力であったとしても、ことごとく地球防衛軍を壊滅させてきたガミラス帝国艦隊に対抗できるかは未知数だった。

 ヤマト一艦に過度な期待をかけるべきではない、という冷徹な判断があったとしても、それは当然のことだった。



 次に重要なのは「ガミラス帝国との、次の戦いにどう備えるか?」だった。


 BBY-01ヤマトの目的はあくまでも“地球環境回復装置”の確保であって、ならばガミラスとの戦闘は可能な限り避けるべきだった。また冥王星に展開する敵前線基地からの攻撃が今後も続くことが予想された。これに対処する戦力の整備が急務でもあった。

 BBY-01ヤマトが帰還した時に、既に冥王星前線基地からの攻撃で人類が絶滅していたという事態を避けねばならないからだ。


 対外的な対処の他にも、重要な問題が山積していた。

 地下で生き延びている人々の生活をどうするか? という極めて重要な問題がそれだ。むしろ、こちらがメインテーマとなるべき議題だった。


 ざっと挙げただけでも、地下居住区の補修・整備。戦傷・負傷者への医療介護問題。戦死兵士とその家族に対する軍人恩給の未払いは国家への信頼感を揺らがせる大問題だ。避けねばならない。勿論、社会的弱者への生活保護支給も必要だ。

 水・食料といった生活必需品の確保とインフラの保全など、どれもが文明を維持する上で重要なことであり、また何かが欠ければ人々の生活に重大な支障が出ることが予想された。


 資金需要は逼迫し、いくらでも必要とされた。そのため各種戦時国債が乱発されることになった。これにより悪性のインフレに悩まされ、市民生活に甚大な影響が出ていた。

 異星人による地球侵略・・・そんな超異常事態を前に、大抵の人が忍耐を重ねてきたが、それもそろそろ限界に達しようとしていた。我慢以外の全て・・・人員、予算、資源、資金の全てが不足していたのだ。


 ところが、ひとつだけ無尽蔵にありそうなものがあった。エネルギーである。

 そう。「次元波動エンジン」が作れたのだ。これを活用すれば、さしあたりエネルギー問題は解決できそうだった。



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 人類は過去の歴史から一つの教訓を学んでいた。

「中央銀行が統制力を弱めた時、もしくは悪性のインフレ・デフレ状態に陥った時にエネルギー危機が発生すると、致命的なスタグフレーションが進行する」ということだった。特に1973年のオイルショックがその好例とされていた。


 2199年現在、戦時統制経済下では悪性のインフレが進行していた。この状態でエネルギー枯渇という事態におちいれば、もはや文明を維持することさえ不可能な状況になりかねなかった。エネルギー問題の解決は必須で、「次元波動エンジン」の活用はその切り札と考えられた。


 無限のエネルギーを持つ「次元波動エンジン」だったが、ある致命的な構造上の欠陥があった。「波動コア」と呼ばれる基幹パーツが必要で、これはブラックボックス化されていた。実際、これを届けるためにイスカンダルから使者いもうとがやってきたくらいだった。どうしても渡したくない技術だったようである。



 しかし、人類はコレの解析に既に成功していた。おそらく極秘裏に・・・。



 後はライセンス上の問題だけであった。

 イスカンダルからは事前に次元波動エンジンの制作に関して許諾がおりていた。これを「次元波動超弦跳躍機関」としてBBY-01ヤマトに組み込んだ。

 しかし波動コアに関しての契約書類が作成されていたという事は確認されていない。手続上の不備だったかもしれないが、それでも「許諾がおりた」と考えるにはやや不安があった。

 現物は一個しかなく、すでにBBY-01ヤマトに積載した以上、複製は違法コピーになる可能性があった。


 この時、地球人はまだ「違法コピーイクナイ」だったと思われる。

 地球再生マシンはイスカンダルにあり、彼女のご機嫌を損ねるような行為は避けるべきと判断されたからだ。そもそも契約も満足に守れない者を助ける必要はない・・・そう切り捨てられてしまったら、人類は破滅する。

「信頼」、特に国際間における国家の信用は重要だ。またガミラスの違法な侵略に対する法的・道義的正当性を主張するためにも、自分たちが違法行為・脱法行為に手を染めるべきではない。



 そこに一つの知らせが飛び込んできた。

 BBY-01ヤマトが単独で冥王星の敵前線基地を抹殺したという、驚くべき内容だった。

 それまでの国連軍艦隊が束になって掛かっても不可能だったことを、ヤマト一艦でアッサリとやってのけたのだ。



 次元波動エンジンを積んだ「新世代宇宙艦」の圧倒的な威力の精華であり、悪の象徴でもあったガミラス冥王星前線基地が消滅したことは、人類に覆いかぶさっていた軍事的プレッシャーを劇的に軽減させた。


 ヤマトの勝利によって、もう遊星爆弾が落ちてくることはなくなった。

 人々にとっては溜飲りゅういんを下げる痛快な出来事であっただけでなく未来への歓喜と希望、なにより生きる勇気を与えた偉大な勝利だった。


 ただし同時に、間違えた判断と決定を下す蹉跌さてつともなった。人々はこう考えてしまった。

「ヤマト一艦で敵基地を撃破できたなら、多数の新世代艦艇をそろえればガミラスの再侵攻を阻止できるはずだ」と・・・。


 次元波動エンジンは「無敵艦隊の湧き出る魔法の壺」だった。


 星間帝国ガミラスとマトモに戦える艦隊戦力の基幹技術であるばかりでなく、一つの大陸をも瞬時に消滅させることの出来る兵器への転用が可能で、その破壊力は進化発展する余地を十分に残しており、ゆくゆくは艦隊一つ・星一つ・恒星系一つを消滅させることのできる決戦兵器として成長させることも出来そうだった。


 また時空跳躍ワープが可能になった時点で、破滅しつつある地球を放棄し、他の可住惑星の探索と移住をも可能とした。

 無論、発電所としての機能も兼ね備え、それは今後人類が必要とするエネルギーのほぼ全てを永久にまかなうことが出来るくらいであった。

 人工重力を生み出す力があったことも魅力的だった。次元波動エンジンを発電システムに応用することにより、空気も水も恒星の光も届かない凍てついた星を、1G環境下の地球のようにテラフォーミングすることも夢ではなくなった。


 次元波動エンジンのもたらした恩恵はかくごとく凄まじく、原子力・核融合発電を越えるエポックメイキングであるのは勿論のこと、人類史において産業革命時の蒸気機関と同くらいの巨大なインパクトを残す出来事だったのだ。

 この技術はまさに天啓てんけいであり、イスカンダルの先進文明の精髄であったのだ。そして圧倒的劣勢を跳ね返し、生存へのチャンスを呼び起こしただけでなく、無限の可能性を人類にもたらした。


 人類初の異星文明との接触〜交戦の出来事を「ガミラス戦役」というならば、この戦役において本当に重要なことは人類がタナボタで「次元波動エンジン」という優れた技術を手に入れたこと、それによる爆発的な技術革新の方だったのである。

 歴史の試験で、この項目が出ないなどという事は絶対にないし、さしあたり、ガミラスの報復に対する自衛力を確保するために、次元波動エンジン搭載艦の大量生産は必須と考えられた。


 そして目の前の状況に目がくらんだ地球人は罪悪感にさいなまれながらも、あるタブーを犯すことを決定した。


 波動コアのライセンス破り・・・であった。


 グレーゾーンであることを理由に波動コアを勝手に複製することにしたのだ。状況が逼迫ひっぱくしていたこともあったし、戦後、落ち着いてからライセンスと違約金の支払い等に応じればよい、という楽観論もあったろう。


 窒息しかけた地下の洞穴ほらあなのなかで、酸素ボンベが落っこちてきた時、開封しない者はいない。技術はあるのにライセンス許諾がないという、たった「書類かみきれ一枚の問題」で逍遙しょうようとして死に臨むような潔い生き物であったなら、そもそもイスカンダルに艦など送らない。


 最悪、揉めたらイスカンダルとさえ一戦交えても良い・・・くらいの、常軌を逸した恩知らずな考えを持っていたかもしれない。実際、2200年以後のイスカンダル星に対する地球人側の冷遇を考えれば、あながち「有り得ない」とも言えないほどだ。本来なら、彼女の老後は全人類が血税使って面倒を見るのが当然なくらいなのに、だ。


 逆に言えば緊迫した、追い詰められた状況であったのだ。溺れる者は藁をも掴む。だが今回は、わらしべ長者ほどの手間もいらない。魔法の壺をひっくり返せば、すぐに無敵艦隊が湯水のように湧き出てくるはずなのだから。


 この時すでに内憂外患のガミラス帝国には地球再侵攻などという能力を、とっくのとうに喪失していたことなど知る由もなかった当時の地球人は、ガミラスに対する有力な防衛戦力の構築という大義の下、際限のない軍備拡張計画を推し進めることになった。




【 この項目、あと二回続く 】

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