§1-3・2199年、人類はエネルギー不足により絶滅の危機に見舞われた・・・
※ ※ ※
まず「次元波動エンジン」をヤマト以外に製造することが出来なかった場合を考えてみる。
この展開は、オリジナル版の展開に似たような展開になる。つまり、オリジナル版は「人類にはもはや余力がない」という絶望的な状況を表現していたのであって、その原因は「エネルギー不足」によるところが大きいということだった。
文明を支えるのはエネルギー、というごく常識的な結論の再確認となるストーリーだ。
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2199年、人類は最後の希望を託してBBY-01ヤマトをイスカンダルへと送り出す。
後には焼けただれた地球と、その地下に瀕死の状態で生き残る人類が残された。
彼等はただヤマトの帰還を待ちわびるしかなかった。しかし、それでもやらねばならないことはあった。地下都市に生きる人々の生活手段の確保が必要だからだ。
ざっと挙げただけでも、地下居住区の補修・整備。戦傷・負傷者への医療介護問題。社会的弱者への生活保護。水・食料といった生活必需品の確保とインフラの保全など、どれもが文明を維持する上で重要なことであり、また何かが欠ければ人々の生活に重大な支障が出ることが予想された。
失策は暴動や騒乱といった混乱を招き、それは弱りきった地球文明が内側から瓦解する危険を
同時に国連組織や各国家の政治的な崩壊に繋がりかねず、最悪、ガミラスに屈するという結果になりかねない。
無論、ガミラスはそれを狙っていたのであり、だからこそ太陽を破壊して絶滅させるという行為ではなく、ジワジワと人類を弱らせる“無差別爆撃”という戦略を採っていた。
しかしガミラスに降伏することは良くて二級市民、最悪奴隷ということであり、人権意識の確立した22世紀の人類には到底受け入れられるものでもなかった。
実際には、戦争に対する疲労と絶望により「たとえ奴隷化を強要されるものであっても降伏を受け入れるべき」という「植民地容認派」が少なからずいたものと思われる。
ただし国連を主導するのが18-20世紀に宗主国だった国々であることから、植民地主義の問題と弊害についてよく理解しており、降伏という選択肢を最後まで取らなかったようだ。さしあたり、最悪の決断はBBY-01ヤマトの結果を見てから判断してもよい、とは考えたはずだ。
とはいえ戦力が
ヤマトが帰還する時まで人類は持ちこたえられるのか? ・・・そんな
BBY-01ヤマトが単独でガミラス冥王星前線基地を完全掃討した、という知らせが飛び込んできたのだ。
この勝利により、もはや遊星爆弾が落ちてくることはなくなった。人類を抑圧してきた象徴でもあるガミラス冥王星前線基地が消滅したことは、軍事的プレッシャーを劇的に軽減させた。
それ以上に重要だったのは、人類が始めてガミラスに対する有力な戦力を保持し得たということだった。
結局のところ、BBY-01ヤマトのような新世代宇宙戦艦を量産してガミラスに対抗するのでなければ、根本的な人類の生存の可能性はない。それには地球本星の復活による文明の再興と「次元波動エンジン」の二つが必要だった。
残念なことに、そのどちらも今すぐ出来ることではなかった。なら、いまは出来ることをやるだけだ。
人々はガミラスの新たな宇宙軍が再侵攻してこない事を祈りつつ、現在出来る最善の事に手を付け始めた。
食料・水など生活必需品の増産。破壊されたインフラの再整備。激増する負傷者・病人に対する医療体制の確保。足りない資源を確保するためには太陽系に再び乗り出す必要があり、そのための船舶の量産も必要となった。火星への再移住も検討された。
そのために必要なものの全てが、まったく足りなかった。人員・機材、そして資金が、である・・・。
そこで各国政府は戦時国債・建設国債・復興債を乱発することにした。他に方法がなかったからで、毎日のように「国債を買おう! 人類を救おう!」という公共広告機構のCMが流れまくった。
民間銀行や金融投資ファンドなどに高額の利子(と、状況に寄っては元本保証)をエサに、戦時国債を引き受けてもらうことも日常茶飯時だった。各国の国策金融財団が引き受けることもあった。それでも資金需要には足りず、国によってはインフレや国家破産の危機に見舞われた。
これを救済するために国連で基金が作られ、一時的にではあるが、国家債務を国連が引き受けることとし、また僅かでも余力のある国々がこれを支援するための枠組みが作られた。
これは後に各国間のナショナリズムと人種・宗教の違いを乗り越えた「地球連邦政府」樹立のための機運を盛り上げただけでなく、地球連邦政府を支える強力な「地球連邦中央銀行」と連邦財務局エリート官僚層の構築を後押しした。これは将来への「良い側面」だった。
しかし
余力のない国家は死にかけ、それらの国々の債務保証を請け負わされた国でも悪影響が顕著になっていった。
辛うじて経済活動の出来た国々も「不渡りを出す能無しの連帯保証人」となったことで、事実上、債務の肩代わりを強要され疲弊するようになってしまったからだ。
結果、全ての国で物価の異常高騰や労働者への賃金未払などが続発し、社会不安を引き起こした。それまでに長く続いていた戦時統制経済の悪影響もあり、適切な物価変動メカニズムも働かず闇経済活動が横行していた。
政府の介入の所為で金融市場の流動性が失われ、国債の乱発のせいで通貨の信用度が限りなくゼロに近づいてしまったからだ。
結果、激しいインフレに襲われ、世界恐慌に発展する。これが貧富の格差を更に拡大させた。
「貧しい国というのは全員が貧しいのではない。富貴と貧者との格差が絶望的に開いた状態の国家の事をいう」という、古くからの真実がいま、人類社会全体を覆い尽くそうとしていた。
ガミラスという共通の敵がいなくなったことで、人類はまたも「眼前の敵」への敵意と憎悪をむき出しにし、仲間割れを始めようとしているかのような
極めて刹那的で絶望的な、ただ緩慢に死を待つしか無いような閉塞した騒乱状態の中、夢のような奇跡が舞い降りてきた。
BBY-01ヤマトが前人未踏の恒星間航行を経て、イスカンダルから帰還したのだ。
偉大な彼等は困難を乗り越え、当初の予定通り地球再生システムを持って帰ってきた。これで地球は、もとの美しい生活空間に戻った。人々は地下から出てきて、再び地上で経済活動を営むことが出来るようになったのだ。
さらに彼等は単独でガミラス帝国本星との決戦を行い、これに生き残り、帝国の政治体制に楔を打ち込んできたことも判った。ヤマトの諸君の話しによれば、現在のガミラス帝国は穏健派が政権の座に付いているという。つまり、政治的な話し合いによる和平の可能性がある、ということだった。
戦争の終結は、人々の何よりの悲願でもあった。新たに組織された地球連邦政府外交部の最初の仕事はガミラスとの和平交渉になった。遣ガミラス使節団の移動には多分、BBY-01ヤマトが当てられたことだろう。彼等は旅程を知り尽くしているし、ガミラスの事も判っているのだから・・・。
他にもしなければならないことがあった。ガミラス本星のお隣さんのイスカンダルにも、もう一度行かねばならない。
ヤマトの艦長が不平等条約を結んでしまったことで、いろいろと問題が生じることもハッキリしたからだ。
さしあたり波動砲は使いたい。なので、これを使えるように条約改正にむけた努力を払わねばならない。また軍備増強もしたいので波動コアのライセンス生産に関する新規契約も締結したい。
一方で地球再生システムの使用に関して費用はかかるのか? この製品のライセンス生産は可能か? 波動エンジンの使用に関してどこまでがイスカンダルの技術で、どこからが地球人のオリジナルになるのかの明確な線引きもしたいし、波動エンジンの生産に際して権利問題が発生するのかも確かめたい。
あとでイキナリ「ライセンス違反」という裁判沙汰になるのは避けたいからだ。莫大な違反金を採られるのは目に見えている。
それでもイスカンダルとは平和条約は維持したいし、善隣友好関係をこのまま発展させたい。イスカンダルの為政者・スターシアは我らの恩人なのだ。粗略に扱うことは出来ない。粗略に扱えば、地球連邦政府の信用にも関わる。
正義と民主主義を標榜する我ら地球人には、ガミラス帝国に対してのみならず、その植民地の各民族に対する信用と対面があるのだ。
なので諸事、出来るだけ上手くまとめたい。難しい仕事になるだろう。多分、ガミラスとの交渉よりも、だ。
しかもおかしな話しも漏れ伝わっていて、スターシアにはヤマトの乗組員の親族男性との間に“健全だが密接すぎる秘密の関係”があり、しかもご息女がいるらしいという驚愕の内容だった。
「人類史上」最も偉大で高貴な女王との恋愛関係は、祝福すべき事であるだけでなく頭痛のタネにもなる。たとえば不倫とか離婚とかということになれば、国際問題に発展しかねないデリケートな大事となる。
より重要な事は、彼女はガミラス帝国人からは信仰の対象となっているということだった。状況一つ間違えば、第二次ガミラス戦役の引き金になりかねない。その段階まで問題が
全ての内容が国家最重要機密扱いになるのは当然だし、関係者には厳重な箝口令が敷かれている。このヘンの問題についても極秘裏にだが早急に、
幾つかの重要な案件を残しつつも、人類には再び平和が訪れた。幸せになったはずだった。つかの間、そんな気分に浮かれていた。
しかし真の地獄が、ヤマト帰還の熱狂が冷めた時から覚醒した。
これまでのガミラス戦役で積み重なったあらゆる債務・・・戦時国債を始めとした天文学的な規模の累積債務問題が人類の足枷として顕在化し始めた。ハイパーインフレと貧富の格差の増大、特に貧困層の激増と、一向に回復することのない経済状況という絶望的な危機に直面する。
また復活した地球再建のための新規国債の増額、なにより地球本国を守るための超弩級宇宙戦艦の増産を中心とした再軍備計画の予算の捻出など、復興のための予算のメドも全く立たないままだった。
地球は青く美しい輝きを取り戻した。
しかし、このままでは地球全土が緑の木々に覆われるばかりの星で終わりそうな予感しかしなかった。
なぜなら大抵の貧しい地球人は、地上の土地を買うことや高層マンションに住む経済的余力など皆目検討もつかなかったからである。日光の当たらない地下に貧者が溢れた。一方、大自然の星は、人類以外の生き残った生物の天国になりつつあった。
唯一残された方法は、地球の土地をガミラス人に高値で売り飛ばすということくらいだった。何のための防衛戦争だったのか、その意味さえ失われそうだった。
実際そうしたかどうかは、寡聞にして知らない。しかし、戦時国債を大量に引き受けた民間銀行や金融投資グループがガミラス相手に土地売ったり、地球資産や太陽系内の資源を売却したという話しはインターネットの匿名板ではよく流れている・・・。
2200年、人類は金融恐慌というガミラスよりも遥かに手強い敵と戦わねばならなくなったのだった・・・
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