第一章 ガミラス戦役と人類が辿ったであろう二つの可能性について

§1-1・2199年、人類の決断


 2190年台、人類は別の宇宙文明帝国との交戦状態に入った。敵の星間帝国は圧倒的であり、技術力の差から人類は土断場まで追い詰められてしまった。

 ほぼ全ての戦闘で敗北し、太陽系の制空権はおろか地球本星に隕石ボコボコ落とされるようにまでになると、人々は地下に作った都市に逃れ、なおも絶望的な抵抗を試みた。


 本土爆撃に晒され、ひっそりと大きな防空壕の中で息を潜めつつ、勝ち目の無い戦闘を続けるしかない人類。だれもが、

「もうオワリかな・・・( ˘ω˘;)?」

という悲嘆にくれた絶望の中、突然、女神が現れる。見た目は超美人。実年齢は17歳+αとちょい高め。歳をとると、人は誰でも他人に優しくなれるもの。美貌と知性だけでなく、大変親切で優しい彼女は、ミジメな人類の有りよう憐憫れんびんの情でも感じたのかもしれない。


「フルボッコになった地球を、昔のような青く奇麗な星に戻せる装置を持っているので差し上げます。取りに来てくださいな」・・・と救済の手を差し伸べてくれた。

 大変、ありがたい申し出だった。


 勿論、「それ、本当なの?」と、我が耳を疑う者も多かったことだろう。

 タチの悪い冗談orドッキリ、もしくは「地球を助ける機械があるので指定の銀行口座に所定の金額を振り込んでください」みたいな「オレオレかあちゃん女神だけど」みたいな詐欺の可能性もあったが、よくよく調べてみると、どうも違うようだった。

 なにしろ命がけで実の妹を、こんな辺鄙な地球くんだりまで送ってよこしてくれたのだ。彼女は本気だった。

 本当に感謝すべきことだった。


 だから彼女が“地球元通りマシン”の設計図ではなく、なぜか次元波動エンジンの組み立て図の方を送ってくれるという、何か少し違うような気がする解決策を提示したとしても文句を言える立場ではなかった。

 向こうは善意ボランティアでやってくれている。感謝すべきことだった。しかも基本的にはタダなのだから。


 結局、他に有力な選択肢のなかった人類は、彼女の提案に乗っかることにした。およそ17万光年離れた場所に、取りに行くことにしたのだ。戦艦ヤマトの宅急便で、だ・・・。



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 この当時、人類は人類で、幾つかの独自救済プランを考えていたようである。

 おおまかに言えば二つのトレンドがあり、あくまでも宇宙人と戦うべきという「徹底抗戦派」と、選ばれた人類を載せた宇宙船をつくり、敵宇宙人の魔の手が届かぬ宇宙の彼方へと逃れ、人類文明の絶滅だけは避けようという「逃避行組」の二つだ。

 此所に、イスカンダルからの「地球再生」という魅力ある「第三の選択」が提示されたことになる。


 この第三の選択肢を拾うことにした人類は、その任務遂行が可能な船舶の建造に着手した。

 選ばれたのは「逃避行」のために作られた艦の発展改良型“BBY-01ヤマト”という艦だった。その名の通り、旧帝国海軍大和型戦艦一号艦によく似ていた。


 寸法は333mと、旧帝国海軍の戦艦大和の初期設定値に近い。帝国海軍の大和に関しては、所要の30ノット超えのために必要な罐数を揃えた場合、300m超になると算定したものの、当時の大日本帝国にはそのためのドックがなく、また予算と建艦技術との兼ね合い等もあり、より保守的な設計案が採用されたために263mに縮んだとされ、ずんぐりむっくりした舟形になっていた。このヘンのところは1970-80年台の『世界の艦船』に詳しい。


 この書籍に関しては、大和を始めとして所見に関する見解の違いからミリオタや専門家複数人による論戦が勃発し、さながら第二次坊ノ岬沖海戦と揶揄されるほどの激しい口喧嘩くうちゅうせんが繰り広げられた。筆者などもコドモの時、呆れながらも楽しく拝読させて貰っていたものだった。


 閑話休題。

 さて、旧艦大和はバイタルパートを罐と機関・主砲の砲弾備蓄部など極めて重要な部分に絞り込んだ集中防御方式を採用し、他所の防御は弱装甲と、よく計画された水密区画設計により忍ぶとされたが、その防御力は当時としては卓越したものであって、戦前は想像もしていなかった激烈な経空攻撃によく耐えた事は特筆に値する。


 BBY-01ヤマトに関してもこの旧艦の特徴をかなり備えていたようである。

 実際、ガミラス帝国艦艇との度重なる交戦に勝利もしくは生き延びたことを考えれば、ヤマト以前の艦艇(たとえば村雨型宇宙巡洋艦)が数発の被弾により轟沈させられていたのとは雲泥の差があった。


 ただしヤマトは堅艦ではあったものの、やや総花的そうばなてきな設計と言えなくもない。

 48cm(別説では46cm)の強力な三連装主砲三器の他に副砲を持ち、多数の対空機銃の他に戦闘爆撃機も多数格納するという、かなりムリをした構造になっていた。

 予算の許す範囲内で、あらゆる事態に対処するつもりだったようで、まさに「靴ベラを使って押し込んだ」ほどの多種多様な武装で身を固めていた。


 これらも波動エンジンが予想外にコンパクトに収まったからと推測はできる。艦後部に小ぢんまりとした強力で信頼性の高い波動エンジンを置くことが出来たおかげで、艦内スペースに幾許いくばくかの余裕が生まれ、わずか333mという小さな艦形でも重武装・重防御構造が可能になったのだろうと推察出来る。

 

 また元々、選ばれた人類を遥か彼方の別の星へと移住させるための設計が幸いし、これほどの小型艦であっても、乗組員の約一年におよぶ長期間の航行に際してもして問題を生じさせなかったようである。実際、ヤマトホテルと呼ばれるほど快適だったらしく、不平不満の描写もあまりない。


 本来ならば、強力な主砲(これには次元波動爆縮放射機も含むが)と艦載機多数のみの構成で作られた、純然たる単一巨砲積載の重防御航空戦艦の方が戦闘任務には適任だったはずで、移民船の改設計艦よりも、よりガミラスとの戦闘にふさわしい戦艦が存在していてしかるべきだった。


 事実、この艦形は後に前衛武装宇宙艦アンドロメダ級の艦載機運用型「AAA-3アポロノーム」「AAA-5アンタレス」として結実していることからも明らかだ。


 特に気になる事もある。BBY-01ヤマトは正式名称に「恒星間航行用超弩級宇宙戦艦」とあり、“超弩級”すなわち“Super Dreadnought”という名がついているのは何故か? ということだ。


 これはBBY-01ヤマト以前にドレッドノートと呼ばれる艦が存在しており、その艦がイスカンダルへの任務に期待あてられるハズであったのだが、就航前に撃沈もしくは建艦に失敗した等の何かの理由があって、急遽ヤマトに振り替えられたという可能性を暗に示しているようにも見える。


 その意味では、BBY-01ヤマトは戦う艦というよりは堅牢・重武装の超長距離移動用武装移民船と言うべきで、本来の素地の良さと設計の秀逸さからその任に耐えたと考えるべきかもしれない。

 およそ1000人(一説によると144人)のクルーを載せて、満足に航路さえ判らない、むしろ無謀とも言えるイスカンダルへの旅路には、従来の戦艦よりもより汎用性の高い“火を噴くノアの方舟”の方が功奏こうそうだった・・・というのも、あくまでも結果論に過ぎないのだ。


 ただし人類に残された時間は少なかった。

 出来ることは何でもやるべきという切羽詰まった状況の中、多少の不備や混乱はやむを得ない。

 最適ではなくても最善であればよい。最良の結果を願いつつ、我らのBBY-01ヤマトは旅立った。強大な敵帝国艦隊だらけの宇宙へ・・・とだ。

 彼等の恐怖と苦労には想像を絶するものがあったことだろう。本当に感謝するしかない。



  ※     ※     ※



 では、この後、残された人類はどういう行動を取っただろうか?

 考えられる可能性は二つある。非常に両極端な展開であって、天と地ほども差が出来てしまうのだが、それでも「国家債務によって瀕死の状態に至る」事だけは共通している。


 キーコンセプトは「次元波動エンジン」の存在だった。


 この活用如何かつよういかんで決定的な差となってあらわれる。次回からはこの点から考察してみる。

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