第20話ある日の‘ふうじい’と‘スーメル’さんの話
「スーメルさん、おはよう。今日もさわやかな朝ですな。今朝の香りはいかがかね?」
「おはようございます、ふうじいさん。日差しもたっぷりでいい天気ですね。
今朝、目覚めて起きようとした私の鼻に、一枚の湿った葉っぱが舞ってきたんです。
匂いを嗅いでみると、潮の香りがほんの少しついていました。
島は海に囲まれているので、あたりまえなのでしょうけれど、その潮の香りにはミルクの匂いもチョッピリ混じっていたのです。」
「そうかね。それであんたは海に向かっているんだね。」
「はい。海にわずかなミルクが広がった、どこか懐かしい思いを石鹸にしようと、海岸沿いにそよぐ草花を摘みに行くのです。でき上がったらふうじいさんにも差し上げますね。
ヒゲを整える時のシャボンに、この石鹸を少し削って入れてください。きっと子供のころの懐かしい思いが泡となって弾けますよ。
そうしたら、忘れていたささやかな幸せが一瞬訪れるかも。ず~と昔のことでしょうけれどね。」
わしとスーメルさんのある朝の会話じゃ。
あれから2週間ほどして、あの時話していた石鹸が届いた。
さっそくお湯に石鹸を少し混ぜ、泡立てたシャボンをヒゲにつけてみた。
かすかに香る匂いがわしを遠い子供のころに誘った。
懐かしさに思わず首を激しく回すと、頭のフクロウが吹っ飛んでしもうた。
久しぶりに思い出したフクロウの自分に、わしの顔は穏やかに微笑んでおった。
つくりべの島 YÖPA @takamoon
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