たそがれの姫軍師 2
やがて時は流れて。
私はルゥの足跡をようやく掴む事ができました。
ある世界に彼が転生する事を魔力から知った私は、いてもたってもいられずに。世界を隔てる扉を開いてその世界に転生しました。
そして、その世界に満ち溢れている魔力に触れて知ってしまったのです。私達の一族が生まれた意味を、彼――ルーティス・アブサラストという『存在の意味』を、そして……彼の心からの願いを。
「そっか、そうだったんだ……」
それを知った私は。彼に二度と“聖剣”を握らせられないと理解しました。
振り返る私に『勇者』達の軍勢が立ちはだかります。全員、一様に『神の力』を扱える証である『女神の祝福』ーー翼ある太陽のアザーーを利き手に持っています。
「……ルゥ、貴方はこんな時……なんて言うのかな?」
天を仰ぎ、問いかける私。魔力は何も答えてはくれませんがルゥはーー私の知るあの人ならきっと、『彼等を救おうよ!』と言い出すはずです。
私はふふっと笑みをこぼしてしまいます。もしそうならルゥには、あの優しい彼にはもう、戦わせられませんね? と。
ルゥと私。お互いの生涯は同じ夢を重ね合う事はなくなりました。
ですから。
これから先は『私が彼の願う世界に追い付く為の戦い』なのです。
私は静かに全身に魔力を迸らせて。私に与えられた『神の力』を使うのに適切な姿になります。
私と神の力が一体化した刹那。
大地より『塩の柱』が高層ビルを突き崩すように林立し、絶対零度の吹雪が吹き荒びます。大地震が起こり大地の裂け目から灼熱の溶岩が火柱となって吹き上がり、
天地が畏怖するかのような中でも、溶けることなく林立する塩の柱。その一番高い柱の頂点に、私は佇んでいます。火の粉と吹雪が手を取り白魔と紅魔の舞を披露する中、その一番高い塩の柱は暴力的な波動の光の上昇気流に包まれていました。粉塵を巻き上げて立ち上る光が止んだ時、私は修道服に似た黒衣と赤い縁取りのケープを身に付けて、現れました。
白魔の暴風に紅い髪とケープをはためかせて、ひとしきり眼下の世界を俾睨すると。私は地面へと降り立ちます。大地に右足からついた時、ロングスカートと自慢の紅い髪が優しく浮かび、遅れて降ります。
マントを翻すように腕を振ると、その仕草に呼応して火柱が天へと向かい延びてゆく。
勇者達が私に向かって攻撃を仕掛けます。絶対の破壊力を秘めたエネルギー波が私に迫ります。
私はそれを片手でかき消すと。瞬きをする間も与えずに、右手に光球を創り出してエネルギー波を勇者達に叩きつけます。
闇を純白に染め抜く閃光と共に伸びる光の奔流が、名もない文明都市の三分の一ごと勇者達を消し去った。
「四方から来る冬、全てを閉ざす永遠の夜」
私は髪をなびかせて、呪文を唱えます。
「黄金の時代をたそがれに導く為に吹雪け常闇の氷雪達よ」
一歩を踏み出して、心を決めて。
(ルゥ。私は貴方の剣で盾。貴方が望む最強の魔法。今はまだ……傍にいれないけれど、待っていてね? 私の戦いが終わったらずっと一緒だから)
氷雪の嵐を従えて私は文明世界を崩壊させてゆきます。
願う先に、彼と同じ夢が、世界があると信じてーー。
オリジナル短編集 なつき @225993
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