③クロウサギとハブとマングース、ときどき猫
クロウサギ
それは、奄美大島に生息する黒いウサギのことで、国の特別天然記念物とされており、絶滅が危惧された動物である。
縁あって奄美大島に訪れたわたしは、現地の方にお話を伺うことができた。
奄美大島は鹿児島県に属しているが、位置的には沖縄にほど近い。
そのため、生態系も少し似たところがあり、夜にはハブに注意しなければならないという。ハブはご存知の通り猛毒を持ち、人間に被害をもたらす危険性のある動物だ。
ハブに手があったら、猛毒は持たなかったかもしれないな。ふとそんなふうに思う。
だってそうだろう。
ヘビは手がなければ足もない。ヘビにとっての敵はわたしたちで、そのわたしたちが近寄って来たら戦うしかないではないか。噛むことしか戦うことが出来ないのだ。
そのようなハブ対策のために、島ではハブを捕食するマングースを30頭放ったそうだ。
ところが、だ。それから数年後、マングースの数は一万にも増えたという。そしてそのマングースが、奄美大島特有の動物、クロウサギを食べてしまう事態が起こってしまった。
ハブの数を減らすために導入されたマングースだが、増え過ぎたことが原因で今度は人間から捕獲される立場に回ったという。
人間の働きのおかげで、今ではマングースの数は随分減ったと聞いた。
だが、今回の話題はそこではない。
そのマングースは、誰が島に放そうと提案した?
その昔、クロウサギは奄美大島のあちこちにいたそうだ。その地でのみ生息していたため、希少動物であったことには違いないが、それでも島には多く存在したという。
マングースの被害があってから、少しずつ回復しつつあるクロウサギの数だが、そこに待ったをかける動物が他にも現れた。
猫だ。
野生の。元飼い猫、と言った方がいいかもしれない。
猫は外敵から農作物や牛などを守るために放し飼いにしている家が多かったという。さらに、猫を部屋に閉じ込めることは可哀想だという考えもまだあった時代、猫を野放しにする家庭もあった。
そんな猫たちが今、クロウサギに被害を与えている。
野生の猫の便を調べたところ、その三割がクロウサギだったそうだ。
マングースの被害だけでなく、野良猫にもクロウサギは狙われている。
そんな野良猫を駆除しようと、島の人が立ち上がったとき、全国から猫を殺すことに対して非難が殺到したそうだ。
島の状況を何も知らない人は、猫が可哀想だと声を上げた。
わたしたちだって殺したくなんかないんですよ。
猫の捕獲活動を行っていた方が、そう話してくれた。
その猫を放したのは、誰なんでしょうね。
わたしたち、人間ですよね。
マングースだってそう。彼らに罪はない。
ハブは?
そういえばハブは可哀想だと言われませんでしたね。
一応先住民ですよ? あのヘビたちは。
ハブを邪魔だと言ったのは?
それを駆除しようと言ったのは?
ぜーんぶ、わたしたち人間。
でも、違う。だから人間は悪いとか、そんな綺麗ごとはちょっと置いておいて。
わたしたちも生活したいですよね。
奄美大島は、本当に綺麗な島だ。
加計呂麻島という島にも行ったことがある。
奄美大島に住む人は、加計呂麻にはまだ自然が残っている、と言っていた。
透き通った海と、シーズンだったのにそこまで人がいない、穴場といってもいいくらいの観光地。
皆さんに見ていただきたい、けれど、多くの人が来れば自然が壊れてしまう危険性も高い。
以前、奄美大島に中国からの観光船、およそ数千人も乗せた船が観光ルートとして奄美大島に上陸する、という案が出たそうだ。
当然、そんな大勢が来てどうにかできるキャパを島は持ち合わせていない。
そこで山を切り開き、観光施設をつくるという案が現実のすぐそこまで差し迫っていた。
決定を下したのは、島の人ではない。
現状を何も知らない、都会の人間だ。
奄美大島は観光地に向いている。
そして奄美に住む人々も、観光に来てもらうことを望んでいる。
だからといって、いきなり数千人の人間が来たらどうなるのか。
極端すぎないか。
現地の状況を知らずに話を進めるのはあまりに危険だと思わないか。
何も知らない人間が、猫を駆除することを非難できるのか。
動物も自然もお金も娯楽も、もちろん人間も、全部大事。
そのなかで上手くバランスを取っていく必要がある。
それを出来るのが、今は人間というだけ。
もちろんこれは奄美大島という本島から外れた島だけの話ではない。
すべてに言えることだ。
疑問を抱き、現状を自分の目で見て話を聞いて、自分の頭で考えるまで、何かを批判する権利はあなたにない。
フィールドワークって、批判力を養うと思うんだ。
女子大生から見る現代社会の考察 148 @honoka_
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