BREAKER!-異次元の異能力者たち-
望月 慧
#1 日常と非日常
2020年、東京オリンピックの閉幕と共に世界は異常な時代を迎えた。
世界各地に墜落した隕石によって。
当初、天文台の見解により被害は最小、とされており実際墜落した場所は平地ばかりであり、計300カ所近くでで大規模災害・死者多数という報告は一切確認されなかった。
しかし。
後日、物質を確認した科学者達は騒然とする。
隕石に含まれる未知の物質に。
隕石は、人類の科学では解析不可能な粒子を発しており世界中の科学者達が解明のため研究を重ねたが、遂に解き明かされる事はなかった。
しかし、未知の物質というだけでウイルスを持っているわけではない、脅威はないと科学者は説明した。
それは大変な見当違いとなる。
時を同じくして、世界中で現代科学で証明する事のできない異常現象が人間の手によって起こるようになっていた。
ある人間は帯電し。
また別の人間は発火現象を意図的に起こせるように。
物理法則の無視、エトセトラエトセトラ。
また、出来事が起きた現場・起こした当人からは未知の物質が検出された。
そして科学者達は決定付けた。
「紛れもなく新物質の作用である」
「人類は新たな能力を獲得した」
と。
そんな世界の、ちっぽけなお話。
とある少年は、日常に飽きていた。
BREAKER!-異次元の異能力者たち-
#1 日常と異常
2035年の日本。
12月の中学校。
6時間目の授業の中盤のお話。
「(先生また同じ話ししてんな…この間も聞いたよそれ…)」
少年は退屈していた。
授業の話がつまらないのはもちろんだが、それ以上に、代わり映えのしない日々が浪費されていく毎日に。
「えー、現代は異能科学時代、機械にできない事も条件が揃えば私達の手で解決できるようになりまして」
「(だから何だって話でしょ…大体にして俺の生まれた頃からずっとこんな感じだって聞くし、いい加減昔と比較するのやめてくれよ面白くもない)」
人間に楽をさせる為に機械工業が発達し、機械主役になろうとした、AI全盛を迎えようとした旧世代に変わり、現代では「人間の活動を助長する為だけに」機械工業が発達している。能力の変換方法とか、活用法とかに目が向けられるようになり、世間が様変わりした、という事を教員は言いたいのであるが。
この少年、中学一年生。
異能力が当たり前に活用される時代に生まれ。
そのまま育ち。
現在を生きている。
「(前の時間の体育は初歩的な異能の活用について、よっぽどのバカじゃない限りできるし、今は前聞いた話の復習)」
「(このくらい、忘れるわけがない)」
「(こんな当たり前の事を毎日やってて何が楽しいんだよ)」
「(本当につまらない)」
「…本当に」
少年は、誰にも聞き取れないように、ささやき声で呟いた。
若干光沢を帯びた黒い髪の毛、深く染まる茶色の瞳。幼さの残る顔立ちと背丈からは想像もつかない程に彼は達観していた。
どうやら、独り言は惜しくも前の席の生徒に聞かれていたようで。
優しい目をした短髪の少年は、気になって物思いに耽る少年に話しかけた。
「どうしたんだよ、タケル」
「わ、悪い。何でもないよ。」
タケルと呼ばれた少年は、ふと作り笑いをしてしまった。
そんなやり取りをしていた所、教員は前の席の机の横に移動していた。
手のひらで机を叩き、後ろを向いている生徒に対して注意を促させる。
「藤森、前を向け。あと教科書p62、タイトルから読みなさい。」
「あっ、すいません。えっと、日本からみた異能力、異能力は…」
先程まで後ろを向いていた藤森と呼ばれた少年は、文章を読み始める。
「(いちいちわざとらしいんだよな竹井…見た目に反して)」
痩せ細った体格と、薄い目。健康不良すら感じさせる容姿。威厳のなさは折り紙つきだなんて事ばかり言われる竹井というこの教師。
それを気にしいるのかもしれないが、一々注意や立ち振る舞いが大きくてウザったらしい、というのがタケルの認識である。
もっとも、彼自身どうでもいい問題であるので気にしていない。そこまで酷くない成績を取る彼は、教師から篤く信頼を置かれるわけでもなければ、目を掛けてもらうような生活態度でもないと考え、関わろうとしていない。する気がない。
将来の為に勉強を頑張りたい、なんて動機もないから、媚びなんて売る気にならない、と冷めた考えも持ち合わせていて。
それでも彼は欲していた。
「(どうにかして変わらないもんかな、こんなどうでもいい退屈な毎日が)」
彼、いや一橋タケルという少年は
代わり映えない日常の中で何かを見つけ、その為に生きていけるような、言わば非日常を。
結局最後までタケルの授業への集中はそこそこで、主に今日の夕飯とか、今日休みになった変わりに明日に繰り越された明日の部活動の内容とか、別の事を考えているうちに授業は終了した。
「では今日はここまです。帰りの会はちゃんと行うので、まだ帰らないように。」
竹井は淡々と授業を締める。
生徒全員にとっての定型文。
特に反応もせずクラス全体が放課後に向けて各々準備を始める中、いつもと違う一言が竹井から発せられる。
「あと、転校してきて明日から一緒に生活する子が挨拶しておきたい、という事で今来てます。手を止めて前を向くように。」
転校生が来る。
教室は静まり返る。好奇・無関心・歓迎、一人一人多様な感情感情を抱えながら。
「では多田くん、入って来て。」
「はいっス」
多田、と呼ばれた少年は軽い口調で返事をすると、軽々しい足取りで、緊張している様子を一切見せず教室に入った。歓迎していない人に対してはそれこそ、軽く逆撫でもするかのように。
服装は厚手のジャケットに長ズボンという、防寒対策はされているものの学校に似つかわしくないラフな格好。首からは髑髏をあしらったネックレスをぶら下げていて、髪は無造作にセットされている。
顔は整っており、大きなサイズで、ツリ目。全体的に格好いい、と分類できる。
そして彼は、場にそぐわない雰囲気を纏ったまま、調子を崩さず、特に気を引き締めるわけでもなく緩いままで話しはじめた。
「どーもはじめまして、俺は多田碧って言いまーす!!
ちょいと仕事の事情で引っ越して来ました!
変な時期からではあるけど、仲良くして下さい!よろしくお願いしまーす!!」
ぱち、ぱちぱちぱちぱち。
取り敢えず、という感じで拍手するもの。
イケメンだ、と噂する女生徒。
なんだこいつ、と一層怪訝になった生徒。
面白いなこいつ、とひそひそ話す生徒。
彼の軽薄な自己紹介は様々な印象を生まれさせた。
言うなれば、若干非日常的な。
そして、一橋タケルはというと。
「(やべえ奴だろこいつ…)」
と感じていた。
「(人当たりこそ良さそうだけど、見た目はチャラいし…まぁ、自己主張が激しい。正直あまり関わりたくないタイプだな…)」
という算段が立ってしまっていた。いくら日常に飽きていようと、ここまで道を踏み外して、学校に迷惑かけてまで刺激を得たいとは思わない。
有り得ないと、一蹴しようと考えるに至った。
が。
最後に一言、多田碧は体の前で手を合わせながら付け加えるのであった。
「あと、異能がらみの事件とか、困った事ある人いたらー、俺まで教えて下さい!!」
「(………何が言いたいんだよ)」
より、疑問と、人としての不信感をタケルは募らせるのであった。
帰りの会を終え、タケルは学校でやる事もなければ、放課後特に用事も無かった為家路についていた。
「なんだったんだよあの変なヤツ…お陰様で頭から離れないじゃんか……」
授業中はもっぱら関係ない事を考える余裕があったのに関わらず、インパクトの大きな事があるとそればかり考えてしまうタチ。影響されやすいタイプな彼は、理解不能、としている多田碧に対し考察を重ねてしまっていた。
「大体にして異能に関して困っている事って…あんな得体の知れない奴に相談しに行くのがいると思うか?…いや自分の事分かってたらそもそも無謀な事言わないか……」
考えを深めようとするが、碧の性格について理解を深められる訳もなく、不快感を増させていってるだけのようだが。タケルはそれでも頭を使う事を止めようとしなかった。
「あー分かんねえなアイツ。やっぱり考えない方がマシなのか?…いやでも誰かの役に立ちたいいい奴かも知れないし…それに異能絡みと言えば最近うちの中学生が狙われている事件もあるっつうしなあ…あいつ自身がそれを知ってるってのもあるかも…」
はたから見れば怖いであろう、長ったらしい独り言をタケルは呟きながら歩いていた。やたら考察が長く、ろくに前も見ずに帰り道の途中にある狭い路地へと入った。
いつもは人気のない暗い道。今日は珍しく人が向こうから歩いてきた為、気配を感じたタケルは一旦顔を上げた。
「(珍しく人が歩いてんな…)って……あれ?藤森?どうしたんだよ、家こっちだっけ……」
向こうから歩いてきたのは、教室でタケルの一個前の席に座っている藤森。
授業中の話しかけ方からも察するに、誰にも分け隔てなく接するいい人、なのだが。
「おーい、藤森!あれ気づいてねえのかな…」
足取りが怪しい。左右に揺れているようで、前に歩いている筈なのに、一向にこちらに向かってこない。
タケルは急ぎ足で藤森に近づいて行く。
「どうしたんだよ!おーい!」
近付く程に相貌ははっきりしていく。
(こいつ…目は前向いてんのに……俺を捉えてないみたいな…ぼーっとしてる様な…)
ふらついた足取り。定まらない目。例えるならば、泥酔状態の酔っ払いの様な。
しかしどこか、殺気立っている様にも。
タケルが藤森の数センチ前にたち、相手の肩に手を当て声をかけよう、と思った瞬間だった。
「ふじもっ……‼︎」
目にも留まらぬ速さで、彼の左手からナイフが投擲された。
藤森の手から、タケルの顔を掠めるように。
虚ろな目はそのままに、先程の動きとは変わって確実に、的確な挙動をして。
「(……‼︎)」
タケルは心臓が止まりそうだ、と感じた。生まれて初めてな、死と隣り合わせの恐怖。
藤森は、学校でのいつもの彼では無かった。
不確かながら、明らかな殺意を持った兵器と化していた。
「(逃げなきゃ……逃げなきゃ‼︎)」
「(……殺される‼︎‼︎)」
生き残る為に走り出そうとタケルは後ろを向く体制を取ろうとした。
しかし。
藤森は地面を蹴り上げ一瞬でタケルとの間合いを詰め、ナイフを右手に握った状態でタケルの心臓を突こうとしていた。
僅かコンマ数秒の出来事。
タケルの中で過去の出来事がフラッシュしていく瞬間すら与えられなかった。
「(ははっ…もう終わりかよ……特にこれといってやれた事も無いのに….…)」
死を覚悟したその時だった。
タケルたちが立っていた地面が突如、二人の間から隆起した。
「!?」
「……」
突然の出来事に二人とも後ろに体制を崩す。
そのまま隆起した地面は下から牢の様に格子状に変形し、藤森を囲んでいく。
「…‼︎」
彼は脱出を試みようと地面を蹴り上げ高速移動をしようとするが、格子は完成し前に思い切り激突するだけであった。
そのまま頭部を強打した藤森は、操り人形の糸が切れたかの様に動かなくなった。
「…………」
尻餅をついたまま、タケルは動かなくなっていた。
目まぐるしく起こった出来事に、脳の処理が追いつかなくなっていたのだった。
そしてもう一人、この場に立っている少年がいた。
「はーーー……あっっっぶねえ!!!!!」
深くため息をつく彼。
タケルが気付くと、そこには。
先程の転校生、多田碧が居た。
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