第3話遅れた者

俺は急いで電話を切ったが遅かった。

 顔を上げると目の前には少女がいた。

「何であなたが…ここに…居るの…帰って!」と怒鳴られた。


 もちろんすぐに帰るつもりだが、その前に俺が今ここにいることに対して一応説明しようと思い今までの事について話しをしたが、逆に反感を買ったらしく

「人の家に勝手に入り、さらには言い訳をする。優しい人かと思っていたのにこんな最悪な人だと思ってなかった。」俺は何度も謝ったが許してもらえそうになかった。


 すると先程の明かりのある部屋から老人が出てきた。

 老婆のようだ「もう良いじゃないか」と少女に言った。

 少女は老婆のほうに近寄り

「動いちゃだめじゃない、安静にしてなきゃ」と言い老婆を先ほど寝ていた場所へ戻そうとする。


 すると老婆は振り返り

「あんた、この少女が見えるのかい」と言ってきた。

 まただ、あの時少女と出会ったときと同じような言い方。

 一応「はい、見えます」と答えた。


 少女は、自分のこと。

 おばあさんは、少女のことを幽霊とでも思っているのだろうか。


 おばあさんは何かを確信したかのように一度うなずき

「あんた、ちょっとこっちに来なさい」と言われた。

 先ほどの部屋へ戻り少女は老婆を布団に寝かす。


 老婆は少女に

「ありがとう、私はもう大丈夫だからお風呂にでも入ってなさいと」少女に言った。

 少女は

「ちょっと待っておばあちゃん。この男勝手に上がり込んできたのよ」というが、老婆が笑顔で

「大丈夫だから」というため、少女は

「分かった」少し嫌そうに答え部屋に出て行く。

 しかし、前に俺のほうを向いて

「早く出て行きなさいよ」とこれまた怒っていってき部屋を出て行った。


 老婆は少女の足音を聞き確かに風呂に行ったと思うと

「さて、」と本題を切り出した。


「君、名前は?」

「えっ、ああ草薙光です」

「光君、君にもあのこのことが見えるんだってね」

「はい」

「そうかい、そうかい」


 俺は今まで疑問に思っていたことを老婆に問う。


「あの、先ほどからの話を聞いていると、あの少女が他の人には見えないような話仕方をしていませんか」

「ああ、そうだともあの子は私たち二人以外には見えないんだよ」

 絶対にありえない嘘だと思っていた。

 そして、その答えは今も変わらない。


 すると、老婆から次の話を切り出された。

「私ももう年でね、最近は体も動かなくてあの子に助けてもらってばかり」

「一年前に病院にいった時にね癌が見つかったんだよ、一応薬を飲んでいるけどいつ死んでもおかしくないだってさ」

「それでねもし私が死んだら、あの子の事見てやってくれないかい」


 いきなりそんな事言われても理解できるはずがなかった。

 癌、死ぬ、少女のことを頼む一体自分の目の前で何が起こっているのかなかなか理解できない。

 もしかしたらこの老婆は俺をからかっているのかもしれないと考えたが、老婆の目があまりにも真剣だったため嘘のようには思えなかった。

 受けたくはなく、しかし断るのもこの老婆がかわいそうだと思ったので、

「少し考えさせて下さい」と言い、ひとまず家に帰ってからゆっくり考えたいと思った。


 老婆はその答えを聞き「分ったよ、今日は遅くまでごめんね。帰りは大丈夫かい」

「はい、昨日もこの山に来たので大体の場所は分ります」

「気をつけてね」

「さようなら」

 そう言って俺はこの部屋から出た。


 それでは帰るかと、家を出て背伸びをして時に家の横から明かりが見えた。

 不思議に思い、歩いていってみる。

 そこにはあの少女がいた。

 少女は薪を入れ火を焚いている。

 風呂を沸かしているようで、やはり相当古い家のようだ。

 少女は一瞬俺のほうも見たが、また火を見返し

「何か用ですか」とまだ起こった口調でそう言ってきた。


 俺は少女の近くに行き真横に座り

「火を見に来た」と特に理由があるわけではないのでそう言った。

「そんなに火が珍しいですか」とまた同じような口調で少女が言ってきた。

「ああ、珍しいよ火といえばコンロしか見ないし、それに最近は台所の火も電気になってきた」と少し大袈裟だが、話を続けるためそう言う。


 少しの沈黙、火のパチパチとした音、話はまた俺から切り出した。

「毎日風呂に入るときにはここで火を焚くのか」

「そうですよ。風呂だけでなく台所も火を焚くんですよ。デンキという物を使っているあなたにはわからないでしょうがね」


 確かに火を自分で起こす経験は今までの人生でコンロと火事になりかけた虫眼鏡の焦点(あれは本当に焦った。近くの紙に燃え移り、危うく学校まで燃えそうであったからである)ぐらいだろう。


 この後は、特に話があったわけではなく追加で聞く言葉が出てこなかったので

「それじゃあ、また。今日はもう帰るよ」

 といい立ち上がると

「もう来なくてもいいですよ」最後まで許してもらえる様子はなかった。


 山を降り、昨日とは違い今日はコンビニに先によって行く。

 しかし、晩飯は昨日と同じ内容、昨日と同じあくびをする店員、昨日と同じありがとうございましたを聞き家に帰った。


 家に帰り風呂に入る。

 風呂を沸かそうかとも思ったが、お湯を張る待っている時間が嫌だったので今日もシャワーで終わらせた。

 しかし、今日はタオルをしっかりと準備している。

 そんな自分を誉めてあげたい。


 次にご飯を食べる。

 そして、疲れたため布団を引き電気を消して横になる。


 すぐに眠ると思ったが眠れなかった。

 きっと今日学校に遅れたこともあったが、一番は少女のことだろう。

 俺の頭は既に学校のことではなく少女のことで頭がいっぱいになっていた。少女の機嫌をどう直すか、はたまた老婆からの頼みごとをどうするかでその日俺は外に浮かぶ月を見ながらそのようなことを月が沈み太陽の光が差し込んでくるまで考えていた...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

忘れられた者 星がきたろう @Hoshigakitarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る