第2話 手話と点字のサークル
第2話 手話と点字のサークル
「殺人事件!?」
僕は自分の耳を疑う。
何かの間違いだろうと、そうあってほしいと。
「はい…」
不安そうに、辛そうに、大学生らしい彼は頷く。
その表情が、紛れもなく事実を物語っていた。
「警察にはもう行ったの?こんなのに頼むよりも弁護士とかに頼んだ方が…」
優衣が本気で心配する。
いや、そりゃそうだ…というのは分かるのだが。
しかしどうしても僕には、事実を事実として受け止めることが出来なかった。
「警察には…まだ言ってません」
「なんで?…どうして?」
「えっと…そこを話すには少し長くなるのですが…」
「お願いします」
僕は、とりあえず、状況を飲み込むためにも、この誠くんの話を聞くことにした。
僕は、大学で手話・点字サークルに入っているんです。
人数もあまりいないし、部室は大学とは結構離れた場所にあって知名度もあまり広くないんですけど、
手話や点字を勉強して、盲目や難聴の人達のボランティアをしたり、文化祭では手話での発表会とかをしてるんです。
といっても、ほとんどお客さんはいないんですけどね…。
それでさっき、そんな離れた場所にある部室で…遺体が発見されたんです。
うちのサークルの…僕と同じ学年の女の子の遺体が…。
勿論すぐに警察を呼ぼうとしました!
でも、部長がそれを止めたんです。
「犯人は分かりきってるから…て」
はい。お察しの通りです。
部長は僕を指差したんです…。
それで、頭が真っ白になって逃げ出しちゃって、気付いたら目の前に探偵事務所の看板があって、藁でも掴む思いで駆け込んだんです。
「これが僕の知ってる全てです…。」
「なるほど…お辛いなか、お話頂きありがとうございました。」
僕は動揺を隠すために漫画で探偵が依頼人によく言っていた言葉を一言一句違わず喋ってみる。
しかし話を聞いたところによると…
「でもどうして部長さんは警察を呼ばなかったんだろう」
部屋の端の方で聞いていた優衣がいつの間にか僕の横に移動し、そう呟いた。
なんだかんだお前も乗り気だなと突っ込んでやりたいのは我慢しよう。
優衣はさらに続ける。
「だってさ、普通犯人が分かりきっていたとしても真っ先に警察を呼ぶものじゃない?」
「それは…僕もそう思います!でもあのときはみんな動揺してたから…」
優衣の問いに誠くんが食いつく。
しかし、確かに何故警察を呼ばなかったんだろう。
それにもう1つの問題は…
「誠くん、どうして君が部長に犯人だと疑われているんだい?」
僕は誠くんにゆっくりと尋ねる。
その部長さんがどうしてこの殺人どころか喧嘩も出来そうにない非力な少年を犯人だと断言したのか…そこが一番だ。
「分かりません…本当に、分からないんです…」
誠くんは俯いたまま…そう呟く。
「そっか…ひとまず誠くんを信じるとするなら、その部長さんが怪しいかもしれないね…」
優衣が手を顎に当てて考え出す。
だんだんとやる気の具合が上がってきてるようだ。
少なくとも、現実の事件だということで怖じ気づいている僕よりは。
「さて、じゃあひとまずサークル棟に言ってみようか」
優衣に負けてなんかいられない。
とりあえずは行動をしてみよう、そう僕は意気込んだ。
僕は、大嫌いな大学の活気づいた雰囲気が近づいてくるのを感じ身震いをする。
今日は休日だから、外で行うサークルの活動で活気づいているようだ。
あぁ、嫌だ嫌だ。
僕はそんなムードをなんとか感じないようにしようと誠くんに話を振ってみる。
「部室に着くまで、被害者について教えてくれないか?」
被害者の情報はやはり事件を推理するには不可欠だろう。
そこから殺された原因とかが分かる。
「…そうですね。被害者…の名前は甘里菜摘(あまさと なつみ)といいます。
僕と同学年で、友達でした」
彼は彼女を被害者と呼ぶのに抵抗があるのか被害者のところで口ごもった。
しかし…
「ふーん、本当にただの友達だったんだね?」
僕は生涯優衣以外の女子とまともに話したことがなかったため、いわゆる男女の友情はないと思っている人間だ。
例え彼が依頼人だとしても、これだけは聞いておきたい。
「菜摘には彼氏がいましたから、そういう目では見たことないですね…」
「彼氏?」
平然と誠くんは答えた。どうやら本当にただの友情だったということだろうか。
それにしても彼氏…か。
「その彼氏についても、教えてくれないか」
恋愛関係が事件に発展しやすい。
それが僕の探偵漫画を読んでの感想だった。
その主人公曰く、友情は理性、恋愛は本能だから、拗れて厄介なのは恋愛…とのことだ。
「菜摘の彼氏の名前は花巻光希(はなまき こうき)。
彼も僕と彼女と同じ手話・点字サークルの同期ではあるんですけど…まぁいわゆる幽霊部員ってやつで、最近なんてほとんど顔を出してないですね…。
ちなみに、僕と光希は中学時代の同級生なんですよ。
高校では離れちゃったんですけど、今は大学の学生寮で偶然一緒になって二人で住んでるんです。
凄い偶然だと思いませんか?」
嬉々として誠くんは光希くんのことを話す。
本当に仲のいい友達なんだろう。
と、そんなことを話している間に
「つきましたよ、探偵さん。ここが僕たちの部室です」
殺人現場についたようだ。
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